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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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フライパンとバターを用意して!

「そうよ妹ちゃん。オバサン、土瓶蒸しって物を食べたことは無いから何となくだけど、きっとそんな感じだと思うの。だからそのままの感じを維持しつつ臨機応変に対処して頂戴」

「はい」

「それとこっちにカボスとお醤油も」

「はい」


 土下座から解放された弟子がクルクルと大車輪の大活躍だ。


 まあメイド道を爆走する弟子からすれば相手の指示を受けそれに応えることが楽しくて仕方がないのだろう。今だって笑顔で2人分の仕事をこなしている。時折猫の相手までしているから実質3人分だ。


 そう考えると読書をしている赤毛の魔女ほど手間のかからない存在は居ない。ところであれはさっきから何の本を読んでいるのだろうか? あんなに山積みにして……うん。絵本だ。幼児用の絵本だ。


 それで良いのか術式の魔女?


「弟子~。私にも冷たい麦茶」

「その辺の池の水でもどうぞ」

「……」


 あれ? とっても優しいメイドさんがとんでもない毒を吐いているぞ?


「妹ちゃ~ん。そっちの焼いてあるヤツをおかわり」

「はい」


 輝かんばかりの笑みを浮かべて弟子が鬼に焼いたマツタケを……ちょっと待って。この扱いの差はなに? 私ってばあれの師匠だよね?


「弟子。私の弟子」

「何でしょうか? 糞師匠」

「メイドが糞とかどうなの?」

「これは失礼。大便師匠」

「内容の差が全く無い!」


 どうした弟子よ? あの愛らしい弟子は何処に行った? さてはお前、偽者だな? 反抗的な“私”が送り込んで来た弟子の偽者だな?


「妹ちゃ~ん。そろそろ炊き込みご飯を持って来ちゃって」

「はい」

「それとそっちのサンマ、そうそう。その焼き魚持って来てって、猫ちゃんっ!」


 『焼き魚猫が気づいて咥え逃げ』お粗末っ!


「違うよね? 何で私に対してそんなに当たりが強いかな?」

「気のせいです。カス師匠」

「かぁすぅ~! 今カスって言ったよね?」

「言いましたが何か?」

「否定すらしないの~!」


 頬に手を当て魔女は絶叫した。


 あんなに可愛がっていた弟子がとうとう反抗期を迎えてしまった。

 どうすれば良い? 思い出せ自分。何のために長生きをして経験を積んできたと思っている? こんな時の対処法もバッチリだろう? 子育ての経験も弟子を育てた経験も両方あるんだ、大丈夫!


「最後は拳で言うことをきかせれば良いのよね?」

「オバサン、そんな鬼の所業はダメだと思うわ~」

「まさかの鬼から全否定っ!」


 頬に手を当てたままでブリッジの体勢になって魔女は驚き慄く。


 が、しばらくしたら全身を震わせて起き上がった。


「まあ弟子や子供が歯向かうなんていつものことだし」

「そうやって開き直っちゃうから失敗するんだとオバサンは思うわ~」

「煩いやいっ!」


 両手で掴んだ焼きサンマをハフハフと言いながら頬張る鬼を魔女は一喝した。


 そしてまたやって来た猫がサンマを咥えて逃げていく。どうやらサンマの味を覚えたらしい。ならば次は鮭でも焼いてみるか? 石狩鍋にしても良いんだぞ? まあ最初は奇をてらわず焼いてからだ。


「妹ちゃん! 魔女ちゃんが取り出した鮭を確保っ!」

「はい」

「あ~ん。オバサンそれを厚切りにして……良いの? そんなに太くして良いの? 綺麗にテカテカしててとっても美味しそうなんですけど~! もうオバサン、その太いので何度も楽しめちゃう~!」


 大興奮の鬼の指示で弟子が鮭フィレを厚めに切って金網に置く。

 そのまま置かないのは七輪でははみ出すからだ。


「魔女ちゃん。オバサン思うの」

「はいはい」


 そのうち言い出すと思っていたが案の定言い出した。

 だから魔女は指を鳴らして庭にバーベキューセットを設置した。


「その鮭はそのまま焼いて猫ちゃんに! オバサンにはその半身を焼いて持って来て!」

「はい」


 キラキラと額の汗を輝かせて弟子が生き生きと料理し運ぶ。


 それで良いのかメイドよ? メイドだから正解なのか? メイド怖い。


「まあここまで無視されると流石の私も心に来るわけだけど」


 呆れつつ縁側に座り直した魔女は団扇でパタパタと自分を扇ぐ。


 姉さまの目を介して録画している外の様子を巻き戻し確認すれば……あの馬鹿兄が余計なことを。

 そういう話は自分が居る時にして貰わないと困る。この馬鹿弟子を3人目認定するにはまだ早いのだ。


「記憶操作かしらね」

「オバサン、そういうのって良くないと思うの。それって結局問題の先送りだと思うし~」


 鮭の皮をパリパリに焼いたモノを口に運びながら鬼がそう言って来る。


 その皮はどうした? 猫の食べ残し? 皮の良さを知らないなんてあの猫は駄猫か?


 視線を向ければ皮が食べられることを知らなかったのであろう猫が驚愕していた。


 この世界の魚は基本全てにガッツリと鱗がある。一部川魚には無いが、あれは清流で釣れる系のレアな種類だ。ユニバンス王国で売られているのは鯉を大きくしたような物ばかりで、ガッツリ鱗が存在している。故に皮を食べると言う文化が無いのだ。


 さっきサンマを食べていたのに気づかないとは……同情的な目を猫に向けると、恐る恐る猫が鮭の皮を口に運んで、物凄く驚いている。そしてムシャムシャと食べだした。どうやら気に入ったらしい。


 それは良い。鮭なら比較的少ない魔力で作り出せるから調達する方としては楽だ。


「……御前」

「何かしら?」


 マツタケにサンマに鮭に栗ご飯と大忙しの鬼が視線を向けて来る。


 つか食べ過ぎじゃないですか?


「サーモンはどうします?」

「妹ちゃん! フライパンとバターを用意して! そして猫ちゃん! これから世界が一変するわよ!」

「はい」

「にゃん」


 そんなに猫を煽るな。あんなに尻尾をフリフリして……ん? あの猫、尻尾が生えていないか? ギミックじゃなくてちゃんとした尻尾が?


「御前? 猫の尻尾に何したの?」

「ちょっとブスッとしてから……抜き忘れていたわね。って食事中よ。魔女ちゃん」


 やったのは貴女であって魔女としては叱られる謂われはない。


 ところで何処に何をブスッと? つかそれで良いのかあの猫は?


 大人の階段を暴走しているっぽい猫は放っておくとして、魔女はとりあえず次から次へと秋の味覚を放出する。食材が尽きない時期だから困る。


「なぁすぅ~! 妹ちゃん! その大きくって太いのを! そうそれよそれ! その太いのをこれからオバサンは全力で味わい尽くしちゃうんだから~」

「はい」


 とりあえず全てが焼かれるらしい。だったら果実は?


「魔女ちゃん。果物はフライングよ!」


 また叱られた。でも出してしまったモモは……弟子が回収し綺麗に皮を剥かれ、切り分けられ、さらに盛られて読書中の赤毛の魔女に運ばれた。


 何気にあの魔女も栗ご飯とか食べていたのね。小さなおにぎりにして読書の合間につまんでいる。


「で、弟子」

「何ですか? 生ゴミ師匠」

「まあ大半腐っているから、あながち間違っていないけど」


 肉体も精神も性癖も含めると結構な腐敗状態だ。


「貴女がドラゴンスレイヤーになったら姉さまの仕事を奪うことになるんだけど、それでも良いの?」

「……」


 料理をしながら弟子が驚きの表情を浮かべている。


 その驚きは今の言葉に対しての驚きだよね? サーモンのバター焼きの味に対してじゃないよね? 個人的にはアサリのバター焼きとか好きなんだけど、焼く?


「貝は別腹~!」


 鬼の賛同を得られたからアサリから何からの貝を出しておく。


 ただ貝の季節って秋だっけ? まあ良い。


「兄さまはその力が特殊だからドラゴンスレイヤーには任じられない。でも貴女の場合は違う。その力で中型を倒せる貴女は間違いなくドラゴンスレイヤーにさせられる。そうすれば今までのように兄さまや姉さまに付いて一緒に何処かへとか無理よ。国に残って王都の防衛要員にさせられる。それでも良いなら自分がドラゴンスレイヤーになれる存在だと声高に言いなさい。私は止めない」


 組んだ膝に肘を置き頬杖をした魔女はアサリをバターで焼く弟子を見つめた。


「自分が強くなったことを兄さまに告げて褒めて貰いたい気持ちは分かる。でも強くなればそれ相応の義務が発生するのよ。それが国に所属すると言う意味なの。貴女の場合は今までのように自由に国外にってわけにはいかなくなる。そうなると私も困るから貴女の記憶を操作していたのだけど」


 でも鬼が睨んで来るから“そのことに関して”の記憶操作はもうしない。


「それでどうするの? チビ弟子?」

「……」


 鉄板に盛られたアサリが運ばれて来る。

 ちゃんと醤油の小瓶も一緒に持って来るあたり、この弟子は本当に出来る弟子だ。


「しばらく黙っておきなさい。これはそこの猫と魔女もそうよ。まあ貴女たちは気軽に外に出なければ問題無いけど……あとあの毒っ子にも言っておいてね。あれもたぶんドラゴンぐらいなら楽に殺せるはずだから」


 ただあの毒娘は色々と問題があるからあまり外に出したくない。

 ドラゴン以外も殺しかねない問題がある。


「で、弟子? 納得したってことで良いのかしら?」

「はい」


 また調理に戻ったメイドがため息交じりで返事を寄こす。そしてニコッと笑ってみせた。


「思うところはありますが、師匠の配慮に感謝を」

「うむ」


 あ~。アサリが美味しい~。


 口にしたバター焼きに舌鼓を打つ魔女はそれに気づいた。弟子の作り笑いをだ。


「それで人の屑師匠? 私に豊胸道具だと言って渡しあれが、」

「緊急脱出~!」


 魔女は全力で逃げ出した。




© 2024 甲斐八雲

 刻印さんも色々と考えているんです。

 ポーラがドラゴンスレイヤーになったらもう主人公たちと一緒の行動とか無理ですしね。

 そうしたら主人公たちの面白映像とかエロいのとか見れなくなるじゃないですかっ!

 だからダメです。全力で阻止ですw


 次回呪術のオチです。

 あれを作った時はまだここまでコンプラが煩くなかったんや…

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