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貧乳で満足して

「魔女ちゃん」

「今度は何ですか御前?」

「うん」


 青々と茂る芝生の上にはレジャーシートが敷かれている。

 鬼の趣味でとてもファンシーな絵柄のシートだ。可愛らしい動物の顔が並ぶ子供向けな物だ。


 柔らかく降り注ぐ日の光はとても暖かく、春服で過ごすには丁度良い気温となっている。


「春って良いわね~」

「そうですね」


 そう。2人は夏のレジャーから冬のかまくらをへて温泉を過ごし、遂に春を迎えた。

 秋を通り越したのは気のせいだ。あの季節は危険だから後回しにしているだけだ。他意はない。


「オバサン的には春が一番好きかも~」

「私的には夏と冬ですね」

「どうして?」

「祭りがあるので」


 うん。お台場の祭りは大切だ。あの年二回の祭りのために生きていた。


「オバサンはのんびりできるこの季節が良いかしら」

「秋は?」

「あれは最後って約束したでしょう?」

「ですね」


 事前の打ち合わせで秋は最後だ。そうなっている。


「ただ春は春で敵がいっぱいなのよね~」


 そう言って鬼は桜餅と緑茶を堪能している。もうバクバクと凄い勢いで消化していく。


 鬼は餅で食べられる運命だった気がするのだが、この鬼は餅に恨みでもあるのかバクバクと食べ続ける。きっとそうして餅で食われたご先祖を供養しているのかもしれない。


「そんな供養とかしないわよ? そもそもあれはウチの一族ではないし」

「そうなの?」

「だから鬼をひとまとめにしないで欲しいんだけど」


 確かにその通りだ。鬼だからって全てが横繋ぎとは限らない。


 きっとそれはオタクをひとまとめにするほどの暴挙なのだろう。実際そんなことをしたら戦争だ。それも聖戦にまで発展すること間違いなしだ。どちらかが居なくなるまで駆逐することになる。


「オバサンは純粋にお餅が好物なだけよ」

「……本音は?」

「搗きたてのお餅を捏ね捏ねするのが大好きなの。あの感触がたまらなく好きなのよ」

「食べるの関係ないですね」

「そうね」


 でも食べる。鬼は控えめな感じでバクバクと草餅を頬張る。


 桜餅はどうした? もう空か?


 本当にこの鬼は良く食べる。


「あまり食べすぎると姉さまが空腹で目を回すことになるわよ?」

「大丈夫よ。ノイエちゃんはこれぐらいで屈しない」

「まあ確かに」


 何気にあの姉は我慢をしてくれる姉だ。


 文句も言わずに……うん。ごめんなさい。勝手に大量に魔力を使っていてもあの姉は文句を言わずに供給してくれる。

 供給し過ぎて空腹になり、いい加減我慢が出来なくなると『お腹空いた』と言い出すのだ。


 つまり姉が空腹を訴える時は結構危ない状況でもある。


「ノイエちゃんなら『くっ殺せ』とか言ってくれるのかしら?」

「頼めば言うけどたぶん棒読みよ。何より御前がそのセリフを知ってる事実にビックリ」

「あら? 確か匠君の部屋にあった薄い本でそんなのが」

「兄さまって本当に王道好きね。そして息子のその手の本を盗み見ない」

「嫌よ。母親として子供の性欲が無事に発散されているのかを見守るのは仕事なのよ」

「……自家発電しているところを覗いたりしてないでしょうね?」

「魔女ちゃ~ん。お餅おかわり」


 バクッと残りの全ての草餅を一気食いして、鬼が露骨に話を誤魔化した。


 兄さま。大丈夫。今も昔も大して環境的なあれは変わっていないから。


 心の中で魔女はフォローを入れつつ、ため息交じりで和菓子を大量に取り出した。


「魔女ちゃん」

「何でしょう?」

「オバサンの昔からの疑問に答えてくれるかしら?」

「どうぞ」

「みたらし団子ってどうしてこんなに美味しいのかしら?」

「……」


 結構な難題だった。


「みたらしって卑怯だと思うの。だって甘くて美味しいのにしょう油がベースなのよ? この子の味覚的ジャンルはどっち基準なの? 甘い方? しょっぱい方?」

「たぶん甘い方で」

「そう考えたら罪な奴よね~」


 ただ、どうでも良い話だった。

 パクパクと鬼はみたらし団子を大量に消費して行く。


 鬼かっ! 鬼だ。


「魔女ちゃんは水ようかん?」

「ん。昔から好きなんです」


 食感といい甘さといい魔女は昔からこれが好きだった。

 冷蔵庫の中にこれがあれば喜んで食べていた。


「羊羹も好きなんですけどね」

「あっちは硬い感じがするわよね」

「ですね」


 だからプルプルとしている水ようかんの方が好きだ。


「つまりそれをたくさん食べたから、魔女ちゃんの胸も水ようかんに?」

「親父ギャグ禁止で」

「酷いわっ! ただオバサンはそのプルプルとした美味しそうな水ようかんをっ!」

「みたらしを食え」

「もうお団子が終わったわ」

「……」


 業務用のバケツサイズほどのバニラアイスを取り出して魔女はそれを相手に渡した。

 嬉々として残ったみたらしのタレをバニラアイスに垂らし、鬼はスプーンでそれを食べ始める。


「はぁ~。最高ね」

「ですね」


 食べるだけ食べ、そしてのんびりする。

 春のこの状況は本当に悪くない。


 連れてきた猫など身を丸くしてずっと寝ている。

 寝て体力を回復しているようにも見えるが、この陽気が眠気を誘うのは間違いない。


 そして一人離れた場所に立つ赤毛の魔女は、ずっと“それ”を見上げたままだ。


 日本人なら大半の者が好む花を、だ。


「私たちは花より団子ですけどね」

「オバサンは花より魔女ちゃんの水ようかんでも」

「黙ってバニラを食べてください」

「酷いわっ! 一度で良いからその魔女ちゃんの水ようかんを揉んで捏ねて舐めて挟まりたいだけなのにっ!」

「させる気は無いので他でどうぞ」

「なら巨乳の女の子を求めます」

「……」


 額に手を当て魔女は左目に居る自分の分身体を探し出した。


 誰か暇してる? 全員忙しい?

 またまた~。そんなこと言ってどうせ趣味的なことをして遊んでいるんでしょう? 違うの? ノルマがきつくて洒落にならない? こんな仕事を押し付けた奴は、見つけ次第殺す?

 またまた~。そんな冗談を。冗談じゃない?やる気満々だと?そっか~。うんなら仕方ないね。


 え? 私? 私も大忙しだよ。統括が機能停止しているから全体の指揮を取らないと……このノルマを出した奴を知っているか? 知るわけないでしょ?

 疑り深いなみんな~。あはは~。

 あっちょっとキャッチが入ったからごめんね。ほら私ってば本当に超大忙しだしね。


 で、もし誰か舞姫と遭遇したら右目に投げ込んでおいてくれるか?


 出来たらで良いから。全然急いでないから。宜しくね~。


「御前」

「何よ」

「……貧乳で満足して」


 巨乳の確保は難しいのだ。仕方ない。


「あれはあれで良いけど、オバサン的にはそろそろ大きいのも!」

「我が儘言うんじゃありません。貧乳だって遊べない人もこの世にはたくさん居るんです。貴女はそんな人たちの前で今吐いた言葉を言えるとでも?」

「っ!」


 空になったバニラアイスの容器を落とし、鬼は驚きの表情を見せた。


「魔女ちゃん。オバサン間違っていたわ」

「分かってくれれば良いんです」

「でもあの2人より大きいモノを揉みたいのよ!」

「どうやら分かってくれていないようだ」


 魔女はため息交じりに宙に手を動かし拘束魔法を鬼に飛ばす。


「きゃんっ!」


 飛んで行った魔法は確実に鬼を拘束した。


「魔女ちゃん? オバサン的にこの手のプレイは……魔女ちゃん?」

「……」


 何も言わず鬼の横に移動した魔女は拘束されレジャーシートの上に転がる鬼を見つめる。


 ただしその腕には、脇には、刹那の速度で確保して来た猫を抱えていた。


「魔女ちゃん? 猫ちゃんを抱えてどうしたのかしら?」


 何かを察したらしい鬼が怯えた表情を浮かべた。


「いいえ。ただこの猫は」


 魔女は視線を抱えている猫に向ける。

 寝ていた猫は目を覚ましたのか、微かに動きを見せている。好都合だ。


「寝起きだと母猫に凄く甘えるんです」

「……」

「ふみふみしながらどんどん幼児退行して……最後は母乳を求めるんです」

「まさか? 魔女ちゃん?」


 察したらしい鬼が顔を上げた。だが遅い。


「ほ~らねこ~。ご飯の時間だよ~」

「ちょっと魔女ちゃん? オバサンそう云ったプレイは、もごもごもご」


 拘束魔法で鬼の口を塞いで猫を相手の胸の前に置く。


 目覚めた猫は、寝ぼけた様子で目の前の鬼の胸を踏み踏みし始めた。


「もご~!」


 しばらく鬼の悲鳴が響いていたが、そのうち静かになった。


 魔女は静かになった環境でようやく桜の木に視線を向ける。

 そこではまだ赤毛の魔女が花を見上げたままだった。


 魅入られた様子でただ静かに。




© 2024 甲斐八雲

 鬼さんと刻印さんは次なるステージお花見です。

 まあこの2人の場合は花より団子ですけどねw


 ただ作者的には、桜とアイルローゼを組み合わせたかっただけとも言う。


 うん。この状況を浄化して~

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