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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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バケツプリンとか好きなのよね~

「オバサン、犯罪者じゃないのに……」

「にぃ……」


 お座敷に移動しても、鬼は猫のお尻を弄んでいた。

 完全に腰が砕けて猫は立って歩くこともできない。四足歩行などもっての外だ。おかげで移動は鬼が抱きかかえて……そして容赦なく弄ぶ。


 トロトロに蕩けた表情を浮かべた猫は、畳に頬を預け腰を持ち上げた状態で動かない。そんな元気もない様子だ。その向こう側で横になっている赤毛の魔女は、最初ここに運んだ時よりだいぶマシになっていた。


 ただ放置した時間が少し長かったせいか、お座敷来た時などは完全に事後の様相だったが。

 何の事後かは語らない。これ以上この魔女を精神的に追い詰めるとそれはそれで楽しいが、何かあった時に使い物にならなくなる。


 生かさず殺さず、玩具は大切に扱うことが重要なのだ。


「聞いているの? 魔女ちゃん!」

「色々と忙しいので」

「聞いてなかったのね!」


 プリプリと怒る鬼の服装は浴衣だ。

 湯上りもあって中々に似合っている。やはり黒髪と浴衣の組み合わせは最高だ。それも長い黒髪を片方に集めて胸元へ流す。うむ。眼福である。


「魔女ちゃん? 目つきに邪なモノを感じるんだけど?」

「精神的にヘロヘロなので、自分の目玉にご褒美を」

「いやん。オバサン、魔女ちゃんにご褒美にされちゃう」


 言って鬼は腰砕けの猫を抱えて顔の前に運ぶ。一応猫も浴衣を着ているが、実際は袖を通しただけだ。あとは何も着用していない。

 つまり帯をしていない猫の浴衣は開けており、中身が丸見えである。


「ツルツルなのよね」

「そうなのよね~」


 何故か鬼が嬉しそうに答えて来た。


 年齢を考えればこの猫もそこそこの年齢だ。ただ生まれ持ってと言うことはある。深く追求しないに限る。似合っていればそれで良いじゃないか。


「それで魔女ちゃん。まだ忙しいの?」

「ええ」


 机に上半身ごと頬を預け、魔女は深いため息を吐き出す。


 妨害もあるし、何より外の兄さまが面白すぎる。あんなにも天然に厄介ごとがやって来るのも素晴らしい。トラブルメーカーの才能が溢れていて実に見ていて面白い。


「匠君の方を見るのを止めて作業に専念したら?」

「却下」


 それは出来ない。何故なら自分は『自由』だ。場の流れを無視して趣味に走って生きるのが自分だ。故に頑張るし努力もする。好き勝手に生きるのだって本当に大変なのだ。


「そんなことを力説されても」


 困った様子で鬼は苦笑し、半裸姿の猫の浴衣を整える。


 横たわっている猫は良い感じで表情が緩んでいて本当に愛らしい。これが数多くの人を殺した殺人鬼とは想像もできない。それを言えば近くで寝ている赤毛の魔女もそうだ。


「この2人って本当に人をたくさん殺したの?」

「したわよ~」


 脳内で作業の進捗を確認しつつ魔女は鬼の問いに答える。


「上位3人の内2人がそこで寝てる」

「もう1人は?」

「宝塚」

「そうだったわね」


 鬼さん的に宝塚さんは……悪くは無いけどそこまで燃えない気がする。


 だってあの手の人って快楽に溺れないんだもん。やはり真面目な感じの女性が良い。乱れた時のギャップに興奮が止まらない。


「流石鬼ね。変態」

「違うから~!」


 涙を浮かべつつ鬼は否定する。

 だって自分は変態ではない。ちょっと特殊な趣味の人だから。


「変態って大半がそう言うのよね」

「全否定~」


 頭を抱えて鬼は畳へと倒れ込んだ。


「この子たちが人殺しになった原因ってあの子よね?」

「兄さまの天敵ね」

「そうそう」


 畳に体を預け鬼は天井を見つめる。


 魔女の趣味で作られたこの部屋は、完全な和室だ。20畳はありそうな広い宴会場なそんな作りをしている。

 外から見れば、まあその辺を語るのは野暮ってものだ。今は関係ないし。


「確か慕っている人を救おうとして禁呪を使ったんでしょう?」

「禁呪と言うか異世界召喚ね」

「ノイエちゃんの使う?」

「系統が違うけどそれ」

「ふ~ん」


 天井を見つめ鬼は何となく手を動かす。

 指先で猫を見つけ、引っ掛けて自分の方に引っ張る。近づいた相手を抱きかかえ胸に抱く。


「それって本当に彼女のミスなの?」

「……」


 魔女は何も答えない。


「オバサン的にそう思っただけだから深い理由は無いんだけど……でも魔女ちゃんの悪さには思えないし、そう考えると誰が誘導したって話になっちゃうんだけどね」


 あくまでこれは鬼の勘だ。ただの直感だ。他意はない。


「それに魔女ちゃんが全部知っているとは限らないしね」

「そうね」


 ようやく相手からの返事があった。


「全部知ってて企んでいたのなら『私は神だ~』とか言って、そろそろそんな残念なネタ晴らしをしている頃よ」

「あらあら……それで魔女ちゃんは神様なの?」

「なれるチャンスはあったわね」

「まあ凄い」


 抱えている猫の手を使い合いの手を打つ鬼に魔女は視線を移した。


「この世界に神様は居ない」

「魔女ちゃんたちが退治したのでしょう?」

「そうね。その通りよ」


 確か退治した。それは間違いない。


「ねえ御前?」

「何かしら?」

「御前から見て『神』って?」

「トイレで大変お世話になる存在かしら?」

「兄さまみたいな返事をしない」

「あらあらうふふ」


 鬼は笑いながら自分の子に猫を置いた。


 うん。やはり猫は良い。愛でるのならば猫は最強だ。


「鬼から見た神様は……自分勝手で厄介な存在かしら? 何せ何度退治しても消えやしない。八百万の神々と言えば聞こえはいいけど、あれって結局新旧交代の入れ替わり制だから」

「不人気のクルーは解雇するメイド喫茶的な?」

「そんな感じね。でも上位もうかうかしていられない。物理的に排除されるから」


 俗物的な言葉だが魔女の問いは間違っていない。


「ふ~ん。で、御前が退治したのは?」

「私はしてないわよ? ご先祖様が何度か滅しているとは伝え聞いているけど」


 何それ? 鬼、怖い?


 魔女は思考を少し緩やかにして鬼に目を向ける。

 猫のお腹を撫でて機嫌が良さそうだ。


「魔女ちゃん」

「はい?」

「魔女ちゃんが言うにはこの世界ってあっちの世界から見て、上とか下とかどっちでもいいか。あれよあれ。どっちが古いの?」

「……」


 魔女は苦笑する。その質問を想定していなかった。


「知ってどうするの?」

「ん~。ただの興味?」

「なら教えてあげない」

「けち~」

「何とでも言うが良い」


 クスクスと互いに笑い魔女は宙に手を走らせて模様を描く。

 すると机にこれでもかと料理が並んだ。


「夕飯はいかが?」

「あら~。オバサン、天ぷらが食べたいわ」

「はいはい」


 追加で天ぷらのフルセットを取り出し、魔女は大きく息を吐く。


「調子悪いの?」

「と言うか、酷使し過ぎているというのが正解かな」

「あら~。大変ね」


 猫を抱えて机まで来た鬼は、早速箸を持ち食事を始める。


 時折膝の上に乗せている猫の口に箸を運び餌付けも忘れない。

 流石は鬼だ。完璧な仕事をする。


「魔女ちゃんは食べないの?」

「ん~」


 言われると食べたくなる。


 また手を動かし……魔女は自分の近くに洗面器かと思うほどの大きさの器を出した。


「オバサン、洗面器茶わん蒸しなんて初めて見たわ」

「バケツプリンとか好きなのよね~」


 同じ味を延々と食べるのは嫌いではない魔女としてはこの手の料理は苦ではない。むしろドンと来いだ。


 大きめなスプーンを手に魔女はバクバクと食べ始める。


 そもそもこれら料理は全てノイエの魔力で作ったフェイクだ。体内に取り込んでも魔力にしかならない。違った意味で栄養を補給しているわけだから間違ってはいない。


「それで魔女ちゃん」

「何よ?」


 猫の口にイカの天ぷらを押し込む鬼が笑う。


「魔女ちゃんたちが退治した“神様”って本当に神様だったの?」

「……」


 苦笑して魔女はスプーンで茶碗蒸しの具を掬う。


「たぶんきっと神様のはずよ? あれも自分のことを『神』と言ってたし」

「そう。それってトイレ以外でも役に立つ感じのモノ?」

「どうだろう? 少なくともトイレの紙の方が良い感じで仕事はしてくれそうに見えたけど」

「そう」


 猫の口にイカゲソを突っ込み鬼がまた笑う。


「なら魔女ちゃんたちが退治したモノが“それ”なら良いわね」

「その言い方は感じ悪いわよ御前」

「そう?」


 クスクス笑う鬼に魔女は頬を膨らませた。


「せっかくこれからお刺身フルコースを出そうと思ったけれど中止ね」

「魔女ちゃん!」


 何故か猫を抱え鬼は正座していた。


「オバサンが全て悪かったわっ!」


 そして綺麗な土下座を見せる。


 迷いの無い……外の兄さまを彷彿とさせるそれは綺麗な土下座だった。




© 2024 甲斐八雲

 この物語のコンセプトは、主人公の周辺はお馬鹿な感じで。その周りではシリアスな感じで……って予定でした。


 うむ。鬼さんと魔女さんはおふざけが過ぎますな。

 内容? うむ。天ぷらとお刺身はどちらが先かってことでしょうw

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