じゅうりょくまほう~
ユニバンス王国・王都郊外ノイエ小隊待機所
ホワ~イ! 異世界人ピープル! 求む解説者!
……何故返事が無い? ウチの万能解説役、悪魔の人は何処に行ったっ! ポーラはっ!
「ご主人様が別荘の方へ」
真面目な返しをありがとう。だが今はそんな言葉など要らないのだよユリア君! 空気を読めっ!
「空気と言われましても」
真面目かっ! そんなちょっとこっちが屈んだら中身を見られそうなミニスカートを穿いて偉そうにっ! 恥ずかしくないのかっ!
「これはご主人様が」
知らん! そしてこれは罰である!
「えっ……ふにゃ~!」
全力で新人メイドのスカートを捲ってみたら……何故紐なのかね?
そこで『あちゃ~』って感じの表情を浮かべているルッテよ。説明を求む。
はい? フリーサイズの下着が変態の紐しか無かったと?
別に君のを穿かせれば……ごめん。全力でごめん。そうだよね。ユリアと君とじゃウエストが。
何故かルッテが膝から崩れ落ちて地面を叩き出した。
ユニバンスの女性は時折地面を殴る習性があるらしい。
「それは良い」
「良くないですっ!」
煩いよ。ウエストにお肉多めの副隊長さん。
「うわ~んっ!」
またルッテが地面を……大地って偉大だな。どんな攻撃だって受け止めるんだから。
気づけばまた兵士さんたちがトンボを手に地面を整地している。
ノイエが作り出した腐敗の染みは消せそう? もう少し時間があれば行ける?
ならば任せた。ルッテの方にももう少しドラゴンを退治して貰わないと……おいそこのブヨブヨ。働け。
「うわ~んっ!」
泣きながらルッテが全力で射撃を開始した。
飛んでいく矢は……まあ良い。仕事をしているのなら問題は無い。問題があるとすればオーガさんが続きを待っていて、ブンブン腕を振り回しているくらいか。
「それは良い。ノイエ」
「なに?」
ノイエはノワールを抱きしめアホ毛を揺らしていた。娘も慣れたもので『はいはい』と聞こえてきそうな表情で母親のアホ毛に手を伸ばしている。
それで良いのかノイエさん?
「何で先生の腐海が使えるのさ?」
「……」
全力で首を傾げない。『腐海ってナンデスカ?』という様子が手に取るように分かるぞ?
「今使った魔法」
「……」
何故また首を傾げる? 魔法は分かるよね? うお~い。再度の首傾げとかもはやホラーだぞ?
「使ってない」
説明すれば良いってことでもありません。たった今、ちょっと前にノイエさんは何をしましたか?
「ドラゴン退治」
よ~し言葉が通じた。大丈夫。ウチのお嫁さんは順を追って聞けば答えられる子だから。
「それでそのドラゴンはどうやって退治したの?」
「……気合?」
求む保護者! 現在のノイエの保護者は自他ともに認める存在は僕ですね!
「ちが~う!」
「む」
何故拗ねる?
「ノイエの気合はドラゴンを融かすことなの?」
「違う。融ける訳ない」
「……」
馬鹿なことを言わないでって感じの雰囲気がノイエから伝わって来るよ。
ごめん。ちょっと泣いても良いかな? 大丈夫。今日は暑いから目から汗が溢れるだけだよ。
「ノイエ」
「はい」
「ならどうしてドラゴンは消えたの?」
「……そんな気分?」
どんな気分かと?
ヘイヘイノイエさん。そんなノイエ言語で誤魔化そうとしても無駄だぜ?
「しつこい」
何とでも言え。
「夜は淡白なのに」
「ごふっ!」
ビックリするほどのボディーブローが僕の胴に突き刺さりました。
無理。オーバーキルです。死にます。
「誰がそんな言葉をノイエにっ!」
というか淡白なことは無い。ノイエが求める以上のことはしているはずだ! 夜な夜な死を覚悟して望んでいる僕が淡白とかあり得ないのだよ!
「マンネリ」
「テンプル~!」
殺人級な言葉のストレートパンチで僕の両膝はガクガクです。
「……なに?」
ノイエがノワールの口を耳元に。
ちょっと待て? 今の言葉は全てその娘が言わせているのか? あん?
僕の睨みに気づいたらしい愛娘が『違う違う』と言いたげに両手を振っている。
つまりノイエが自分の言葉で言っていると?
うんうんとノワールが頷く。
そっか~。というか僕の言葉を理解している時点でギルティです。娘よ!
「って誤魔化されるかノイエっ!」
「もっと頑張って欲しい」
「良し任せろ!」
明日以降、僕の本気を見せてやる。
「明日?」
本気を見せるには準備が必要なのです。
具体的には先生を呼び出してあの伝説の魔法を使ってもらう必要が。
「平気。使える」
「それ~!」
たった今、言質を取ったぞノイエさん!
「なに?」
「魔法を使えるってことでしょう?」
「……?」
だから何故に首を傾げる?
「僕を元気にする魔法が使えるんでしょう?」
「……?」
何故通じない? 魔法という単語を忘れましたか?
「知ってる」
「だからそれ」
「これ?」
突如ノイエが歌うように、は~いストップ。それも正解だけど、不正解です。それは異世界魔法ですから。
「むぅ」
拗ねた。
「アルグ様が意地悪する」
してないんだけどな。
「魔法ってこれ」
丁度こっちの様子を伺いつつ全力で逃げて行ったミシュが戻って来るのを発見した。
ターゲットはあれです。食らえ! 重力魔法!
「ぐべっ!」
たぶんイーリナが作った川の上辺りに顔から馬鹿が突っ込む形になったのは事故だ。他意はない。
「見た?」
「見た」
うんうんとノイエが頷いている。
「これが魔法です」
「知ってる」
おいお嫁さん? そろそろちょっと旦那さんが怒るよ?
「これ」
パチパチとノイエが瞬きをして……立ち上がりペッペッと口の中の土を吐き出していたミシュの頭が、その顔がまた地面に飛び込んだ。
本当に母なる大地はその深い懐で全てを抱きしめるな。
「これ」
「それだね~」
何故ノイエが重力魔法を使えるのかは謎だけどね。
それは良い。つまりノイエは魔法が使えると言うことだ。
あれ? ノイエは魔法が使えないって先生が言ってたよね?
確か魔法を使うのに必要な無意識に構築する魔法陣を構築できないとか何とか。
この世界の魔法使いは無意識に使用する魔法陣を自分の中で構築して魔法を発動するそうだ。そう先生に習った。つまり僕も重力魔法を使う時に……実はこれは腕に埋め込んだプレートのおかげだ。
ただ沢山使ってきたおかげで何となく分かる。多分使える気はするけど、でもプレートなしだと時間がかかりそうな気もする。
この辺の構築速度の遅い早いが天才と凡人の差とも言う。それは良い。今は良い。
ノイエは膨大な魔力を持っているのに魔法が使えないのは、この構築に関する才能が皆無なのがノイエだ。魔法陣が作れないノイエは魔法を使えない。
「ん~?」
でも今ノイエは魔法を使った。使ったよね?
ほい魔法使いの人たち。全員集合~。
僕の掛け声にミニスカの裾を必死に手で押さえたユリアと、まるで事後のような姿のイーリナが来た。
イーリナさん? その暴漢にあった後のような服装は何ですか? はい? ローブが暑い? 知るかっ!
「ウチのノイエが魔法を使ったんですが、何か分かりますか?」
「……」
その問いにユリアは首を左右に振る。この子は何だかんだで魔法の才能が有っても知識が少ないのかな?
今度からアイルローゼ式スパルタ学習決定だな。大丈夫。毎日気が狂うほどに魔法語を書き続けるだけだから。うん。毎日ね。頑張れ。
「ふむ。そう言うことか」
何か分かったのかね? 残念魔法使い?
「簡単だ」
嘘だろう? あの先生ですら解けなかった謎をこの残念なイーリナが解いたというのか? 明日は雨か? それとも槍か?
「その目が魔道具なのだろう?」
「はい?」
イーリナはこれが正解だと言いたげにノイエの方を指さしている。
その指は何処を向いていますか? 左目? はい?
「だからあの目が魔道具なのだろう?」
「……」
確かにノイエの両目は魔眼だ。魔眼って魔道具なの?
「瞬きをすることで使う魔法を選び使用する魔道具だと思うのだが……」
段々とイーリナの声に熱が帯びてきた。
「もしかして彼女の作品か? そうなのか? そうなのだな?」
ワキワキと両指を蠢かし、イーリナの目がギンギンに血走っている。
「大丈夫だ。ちょっと抉って確認を」
「じゅうりょくまほう~」
口調は優しげだが魔力量はMaxで放った僕の重力魔法にイーリナが軽く地面に沈んだ。
うむ。このまま上から土をかぶせて埋めてしまおう。
© 2024 甲斐八雲
何故かストックが全くたまらない。何故だろう?
そんなわけでノイエの魔眼の謎です。
ノイエの魔眼は…色々と語っているのであれですが、まあ厄介な存在です。うん厄介だな




