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ちょん切るか

(2/1回目)

「はっきり言ってわたくしが欲しかったのは王弟夫人の地位だけでしたので、色々とあった夫をどさくさに紛れて脅し……丁寧にお願いして後妻として貰いました。

 それから夫の手紙を持って王城に出向き陛下を脅し……懇切丁寧に話し合いをして後妻の地位を隠し、メイド長としてあの屋敷で働かせていただけるようにしたのです。

 実を申し上げますと、わたくしが"メイド"として王城に来た時点でアルグスタ様のご実家は、流石にイールアム様を襲撃しようとは致しませんでした。

 ええ。月の無い夜に出向いて徹底的に脅し……話し合いの場を持ったのが良かったのだと思います」


 脅すと言う単語がちょいちょい混ざる説明を、僕は何故か馬車の座席で正座して聞いている。

 良く分からないけど勝手に体が動いたんだ。隣に居るノイエも僕を真似して正座している。たぶん真似であって意味は理解していないと思う。


「確かに地位だけですと王弟夫人ですので何かあれば式典に出て欲しいとか言われるのですが……正直あのような場所は息苦しくて嫌いなのです。ですから出来るだけ地位を隠しております。

 わたくしの地位を知っているのは国王陛下を除けば数人と居ないでしょう。アルグスタ様を除く2人の王子も知らないはずです」


 いつも通りのメイド長的な語りだけど、その衣装がドレス姿だと怖い叔母さんにお説教されているような感じになって来る。


「おや? どうしてそんなに怯えているのですか? まさかわたくしのことを怖い叔母さんか何かと思っているとか?」

「そんなことございません。スィークさんはとても優しい叔母さんです」

「宜しい。ですが『オバサン』と呼ばれると殺意が込み上がって来るので、今まで通り『綺麗で優しいメイド長』とお呼びください」


 サラッと凄い無理を言ってないか?


「って一度も呼んでないしっ!」

「はて……呼んで無いのですか?」

「呼んでいたかと思います~」


 何この人? 正体バラしたら途端にこっちまで脅し始めたよ。

 相手に気圧され少し体のバランスを崩す。一瞬ノイエの方に倒れかけたけど、彼女は一定の距離をキープしてぶつからずに済んだ。


 と、メイド長様の目が細くなった。


「時にアルグスタ様」

「あ~。綺麗で優しいメイド長様? 呼び捨てで良いですよ」

「……2人の時や家族との語らいの時はそうしましょう。それと取って付けたようなおべっかはイラッとします。普通に『メイド長』で」

「自分で言えって言ったよね?」

「はて?」

「……何でも無いです」


 ずっと蛇に睨まれた蛙の気分なんですけど……意味は無いけど無性にタコ焼きが食べたくなったよ。ヤバい。緊張と恐怖の余り、思考が敵前逃亡モードになって来た。鎮まれ現実逃避。


「それはそうとアルグスタ。先ほどからご婦人との距離がありますが……結婚して間もないのにもうそんな状態ですか?」

「知ってるよね? 色々と話したから知ってるよね?」

「はて……まだ喧嘩の最中で?」


 向けて来る視線が『何やってるの……この屑が』って言う風に見えるのは僕の錯覚かな?

 凄いよこの人。デフォルトで脅迫して来るよ。


「一応仲直りはしたんです。でも完全解決するまで頭を撫でる以外の触れ合いを禁止されてまして」

「そうに御座いますか。ノイエ」

「……はい」

「どうしてそのようなことを?」

「……」


 ノイエのアホ毛がクルクル回る。

 たぶん罰の一環と思ったのか、咄嗟の言葉だったのか……ノイエは何も考えずに口にした方に賭けます。


「……何となく?」

「それで若い夫に禁欲生活を強いるとは素晴らしい。今度あの種馬国王にも10日間禁欲生活でもさせてみましょうか。そうすれば少しは性欲が治まるかもしれませんね」

「たぶん無理かと思います」

「……そうですねあの種馬は」


 視線を逸らすスィークさんが『ちょん切るか』とか物騒なことを言っている。

 切るんだったらゴールデンなボールの方にしてあげて。小便とか大変なことになるから。


「アルグ様。種馬って何?」

「……」


 うちの嫁がとんでもない質問を投げかけて来たんですけど? 僕にどう答えろと言うのですか?


「種馬ですか。良いですかノイエ。種馬とは……」


 スィークさんが生々しく色々な大人の世界を語り出す。

 最初理解していなかったノイエですら途中から何の話か分かったらしく、耳まで真っ赤にして聞いている。そう逃げずに聞いている。意外とノイエってこの手の話に興味とかあったんだ。


「ですから[ピー]で[ピー]をしながら[ピー]を[ピー]して[ピー]すればアルグスタも大喜びでしょう。分かりましたか?」

「……はい」


 分かっちゃうんだ。それを理解されると僕が毎晩干からびちゃうよ?

 でもやる気を見せるノイエはグッと手を握りチラチラと僕の方を見る訳です。

 本当に困ったお嫁さんだ。知識を得ても実行出来ないのに……どうする気なのかね?


「で、アルグスタ。まだノイエに伝えられないことを伝えていないのですね?」

「……はい」

「それを聞けないからノイエも欲求がたまり、最近仕事で些細な失敗を繰り返しているとか」

「そうなの?」

「……」


 ツーとノイエが僕から視線を逸らした。

 毎日の報告書には何も書かれていない所を見ると、フレアさんかルッテが気を利かせているな? 余計なことを。


「まあその問題も王妃様にお会いすれば解決するかもしれませんね」

「……本当?」

「ええ。勿論です」


 いや無理だから。絶対に言え無い奴だから。つか王妃様も知らないはずだから。


「まあそれは会ってからと言うことで、ノイエ。今日は貴女にお願いがあります」

「……はい」

「王妃様の前では仲良くしていて欲しいのです。手を握っているくらいで……出来ませんか?」


 一瞬悩んだ様子のノイエだが、恐る恐る僕の手を握って来た。


「ありがとうノイエ」


 柔らかく微笑むスィークさんの目はとても暖かで、本当の意味で叔母さんに見えた。




(c) 2018 甲斐八雲

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