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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 05

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赤ちゃんは大切

(2/1回目)

 僕が考えていた最終手段……実は結構簡単な方法だ。


『ノイエが直接許してしまえば良い』


 僕にどんな汚点があっても妻である彼女がそれを許し受け入れる……理想的な妻を演じることで外野からの雑音をシャットアウトできる。だがこれをしてしまうと僕の評価は大暴落だ。

 まあ僕としては周りの評価や視線なんてどうでも良い。ただノイエと仲良く暮らせればそれで大満足。いざとなればノイエと2人で田舎に引っ越してのんびり暮らすと宣言(きょうはく)すれば今度は周りが青ざめる。


 たぶん共和国が今回こんな馬鹿なことを仕掛けて来たのは、ノイエが僕の指示に従う存在だと勘違いしているのかもしれない。

 それは違う。ノイエは良い意味でも悪い意味でも"真っ白"なんだ。だから僕が『伝えた言葉を繰り返して』と命じ、言わせたい言葉を伝えるだけで迷うことなくそれを口にする。


 どんなにそれが自分の地位を貶める言葉だとしても、自分の意に反する言葉だとしても……ノイエは僕を信じて絶対に言ってくれる。

 それを知っていたから最終手段として残しておいたのに。




 ラーシェムさんの前に現れたノイエは何も言わずにただ相手を見る。

 流石に不意に現れた王国最強……大陸屈指の存在に、彼女は驚き怯えてよろける様に後退すると、椅子に蹴躓いて座る格好になった。


 でもたぶんノイエは彼女のことなど見ていない。

 ノイエが気にする存在はただ一つ……ワンワンと泣き続けている幼子だ。


「……泣いてる」


 静まり返っていた議場に抑揚のないノイエの声が響く。


「どうして?」

「……何がよっ!」


 恐怖を振り払うかのようにラーシェムさんが吠えた。

 見つけた怨敵でも睨むかのようにノイエに怖い顔を向けて。


「赤ちゃんが泣いてる。どうして?」

「勝手に泣かせておけば良いのよっ!」


 まるで要らない物でも振り払うかのようにラーシェムさんが大きく手を払う。

 それを見ていて僕はようやく気付いた。

 彼女は"母親"じゃない。メイドさんが抱えている幼子を産んだのは彼女かも知れないが、彼女自身がそれを受け入れていない。つまりは望まれずに産まれた子供だ。


「ダメ。赤ちゃんは大切。とても大切」


 しかしノイエは気付いていない。

 真っ直ぐで純粋だから全ての母親は"母親"だと信じているのだろう。


 ワンワンと泣き続ける存在が気になって仕方ないのかノイエがそちらに向け足を進める。と、怯えたメイドさんが身を竦ませ、その結果腕から幼子がこぼれ落ちる。


 心配などしない。その存在を前にしたノイエが捕まえない訳が無い。

 目にも止まらない速度で抱き止めて自分の腕の中を確認する。ワンワンと泣いている幼子を確認し、またラーシェムさんに向かい歩を進める。


「泣いてる」

「近寄らないでよっ!」

「どうして?」


 彼女の言葉にビクッと震えて足を止めたノイエは、訳が分からないのだろう……そのアホ毛をフルフルと困った様子で震わせている。


 ここからノイエに全部解決してと丸投げするには難がある。

 元々は僕が……前の僕が何かミスって生じた問題だ。だったら僕がまとめるしかない。


「ラーシェムさん」


 僕の問いかけに彼女がこちらを振り向く。


 その視線を受け止めながらチラッと辺りの様子を見渡す。

 王国側の3人は……これから何が起きるのかを楽しみにしている様子でこっちを見ていた。今からとんでもない仕返しをしてやるから待っていろ。


 共和国側は完全に他の観覧者同様に事態を飲み込めずにいる。

 まあ突然大陸屈指のドラゴンスレイヤーが姿を表せば気だって動転するだろう。


 さあ……今日最後の大暴走を始めるかな。


「僕には記憶が無い。でも今の貴女を見ててはっきりと言えることがある」

「な、何よっ!」

「貴女のような女性に手を出すほど、昔の僕は飢えて居ないはずだ」

「……」


 その顔を醜く歪めて彼女は睨みつけて来る。でも止めない。


「はっきり言って貴女を見ていて微塵も興味が湧かない。容姿などでは無く我が子を"物"のように扱うその態度にだ。重ねて言おう……貴女が欲していたのは王族や国王としての"僕"である。その子の父親を望んでの行為とは到底思えない」


 女性に対してここまで酷いことを言う日が来るなんてな……死んだお母さんごめんなさい。でもやっぱり許せないんだよね。この人は自分の子供にひと欠けらの愛情を注いでいるように見えない。今だってきっとお腹でも空かせて泣いているであろう我が子を完全に無視している。

 ノイエがらしくないほど辺りを見渡して助けを求めているのに。


「貴女が自分の子供の父親を求めて訴えを起こしたのであるならば、僕は共和国の企みを踏み潰しながらも受け入れる選択を選ぶことが出来た」

「ここに来て我が国に対し暴言を言うかっ!」


 共和国側の貴賓席で男性が立ち上がり抗議して来る。ある意味良い仕事に感謝だ。


「授かった子供を捨てるような酷い男。そんな風に僕をノイエの夫として相応しく無いとユニバンス国民に印象付ける。そしてノイエと別れるように波風を立たせ、王国内に不安を広げる。歴史的観点から見る共和国の常とう手段……ってこれを本人たちに言っても認める訳無いか。あはは」


 抗議してきた男性が顔を赤黒くして口をワナワナさせている。

 人間って怒り過ぎるとああなるんだ。




(c) 2018 甲斐八雲

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