ミシュ先輩の何が良いんですかね?
ユニバンス王国・西部街道
「色々とツッコミどころが多すぎる気がする」
「?」
僕の言葉にノイエが首を傾げた。
その様子が可愛いぞお嫁さん。見ている僕が増々惚れてしまう。
ノイエにはこのまま存分に甘えて貰おう。そうそう胸を押し付けて甘えてください。足を絡めて太ももを押し付けてください。満足です。
「にいさま」
「うむ。そろそろ現実に戻ろう」
ポーラの呼び声で現実に戻る。ノイエには継続して甘えて貰いながらも現実を直視する。
僕らの前にはガチガチに緊張したカップルが居る。ルッテとメッツェ君だ。
今回はこの2人がメッツェ君の実家であるエバーヘッケ家に挨拶へと向かうこととなったので、何故か僕が立ち会うこととなった。
理由は簡単だ。何気にルッテはこの国では最重要人物だからだ。
彼女が常に王都の傍に置かれているのはそれが理由であり、王都から出る場合は常にノイエか近衛団長たちと一緒である。
この国でもトップクラスに入る攻撃力と一緒に居れば大丈夫と言うのが陛下の判断らしい。
そもそもエバーヘッケ家との繋がりが強い馬鹿兄貴が行けば良いのに、あの馬鹿野郎は逃げやがった。厳密に言えば僕の大陸西部への移動に伴う事務仕事が大量に増えたため、近衛団長様は自分の机から離れられなくなったらしい。
元々ルッテの上司が僕なので最初から僕が行くことが既定路線ではあったがね。
「今からそんなに緊張してどうする?」
「だって、だって、だって!」
激しく胸を上下させながらルッテがおまけで腕を上下する。普通逆だな。
「母さんも父さんも『お腹が痛い』とか言って逃げたんですよ! 分かりますか!」
「まあ一人娘が貴族への嫁入りだ……気持ちは分かるかな?」
「ウチは貧乏な下級貴族なんですけどね」
メッツェ君が視線を横にして遠くを見つめる。
君の家が貧乏なのは知っている。と言うか稼ぎの全てを馬の安全と育成に注いでしまうので常に火の車なのが真実だ。見かねた馬鹿兄貴が定期的に馬を買っては、東部の裕福な貴族たちに転売していたので、ユニバンス東部は現在草競馬が大流行だとか。
東部はクロストパージュ家を筆頭に強い魔法使いと魔法戦士団が存在しているので、ドラゴン相手でも怯まないしね。
「案ずるな。今回はドラグナイト家の本気を見せてやる」
「だからって馬を全部買われるのもちょっと……」
僕の本気を断るとは失礼な。
ただ今回は新しい馬車用とポーラの乗馬用にと複数の馬を買う予定ではある。
「それにアルグスタ様が悪いんです」
「睨むな睨むな。上司だぞ?」
本当に失礼な巨乳だ。これほど優しい上司を何故睨むことが出来る?
今回彼女の両親が仮病を使ってでも逃げ出した最大の理由が僕“ら”らしい。
上級貴族な僕と国の英雄であるノイエ。その2人と一緒に馬車で移動と聞いたら……腹やら胃やらを押さえて家の床を転げ回ったとか。
一般の人から見ると僕たちってそんなに恐ろしい存在なのかな?
フレンドリーな貴族様を目指すべきか?
「アルグスタ様」
「何でしょう? おっぱいお化け」
「もう良いです。胸は諦めました」
ルッテも視線を横に流して遠くを見つめる。
胸は諦めたと言うことは身長はまだ諦めていないのか? このペースだと、バレーボール選手かバスケットボール選手を目指せるほどの領域に突入しそうだぞ?
「ご自分が王子様だってことを忘れてませんか?」
「元だけどね」
何度も言おう。僕は元王子であると。
「私たち一般の者には今も元も対して差は無いです。等しく王子様なんですけど?」
「それにしては何処ぞのおっぱいさんは、そんな上司に暴言を吐いていたよな?」
「……人って慣れる生き物なんですね」
遥か遠くを見つめて何を言っている? このパイのみ?
メッツェ君が全力で頭を下げているから許してやるがな。それが無かったらお前の胸など……とある同性愛者でも呼び出して罰としてくれようか?
問題はノイエの体は使わせたくないから却下だな。
「私だって最初はハーフレン様にちゃんと敬語とか使ってたんですよ……自分なりに」
「絶対に嘘だな」
「ははは。何とでも言ってください。でも気づいたら……敬語って相手を敬う言葉らしいじゃないですか? もうね。何をどうしたらアルグスタ様が敬えると?」
「失礼だな。少なくとも馬鹿兄貴よりかは敬えるだろう?」
僕の問いに、おっぱいに頭部が乗っかっている化け物が首を傾げた。
「どっちもどっちですね」
迷うことなく言い切ったよ。この馬鹿部下は。
「ポーラ」
「はい」
「ちょっとそこのおっぱいさんから、おっぱい的な何かを分けて貰えるように、おっぱいによるおっぱいの為のおっぱいだけの制裁でも加えておいて」
「わかりました」
適当なことを言ったらポーラさんは分かってくれた。
「……どうしてみんな……私の胸を叩くんですかね……」
悟りの境地に達しているらしいルッテは、ポーラの猫パンチに逆らわない。
前後左右にプルンプルンと胸を揺らし、されるがままだ。
その様子を見つめて顔を真っ赤にしているメッツェ君は本当に初々しい。
これで僕と齢があまり変わらないのだから笑えて来る。
「本当にミシュの弟なの?」
「……あん? 失礼なことを言う元上司の声が」
「ノイエ~。害虫」
「はい」
丸めた紙をノイエに手渡したら紙では出せない速度でそれを投げつけた。
手首の返しだけで投げた紙が音速を越えそうな勢いで飛んで行ったが、事前に察知していた害虫……ミシュとか言う変態は窓から顔を退かして回避した。
「覗くな変態。変態が移る」
「失礼な。変態は才能がある人にしか移らないのよ!」
「全否定できない言葉を言うなよ」
変態が力説すると、そんな気になってしまうだろう?
縄でグルグル巻きにされた蓑虫ミシュが、器用に開いた窓からその身を躍らせ馬車の中に入って来た。
「天井で曇り空を見ているのも飽きたんだけど?」
「知らん。そもそもお前の同行が計算外だ」
「あはは~」
蓑虫が馬車の床の上で笑いだす。
「私も行く気は無かったんだけどね……どっかの馬鹿な元上司が外堀を完全に埋めたしね」
「案ずるな。内堀も完璧だ」
「おかげでもう逃げようがないんだよね~」
器用に肩を竦めてみせる蓑虫が居る。
当たり前だろう? お前を結婚させることは叔母様から命じられた至上命令だ。最低でも結婚してから別れろ。そうすれば僕が原因ではない。全てお前の責任だ。勝手に叔母様に殺されるが良い。
何だ? 抵抗するのか? ノイエさ~ん。この馬鹿に厳しさと言う何かを……ポーラさん? 股間に氷は酷くないですか?
お兄様への暴言は死罪? 最近君の発言が過激すぎてちょっとお兄ちゃん心配です。何がそこまで君を追い詰める? コロネに先輩として正しい姿を見せたい?
ポーラ。正しいとか間違いとかはコロネが見て決めることだからね。君は普段通りの姿を見せれば良いんです。あんまりにも完璧すぎるとコロネが『そこまで出来ない』とか頭を抱えて萎縮しちゃうから。だからその『ユニバンスのメイドは~』って言葉を止めようか? お兄ちゃん今凄く良いことを言ったからね?
「ウチの伴侶が邪魔したようだな」
ポーラに脱メイド道を解いていると、御者席でコロネに馬の扱い方を指導していたマツバさん が……どうしてここの人たちって窓から出入りするんだろう? と言うか移動中の馬車を停めずに中に入って来るとか少し考えよう? 安全面とかさ?
スタッと馬車の床に立った彼は、『のひょ~! 硬いあれが私の熱い所を~! 溶ける~! 濡れる~!』などと騒いでいる変態を脇に抱え上げた。
「あまり騒ぐでない。我々は今回便乗させて貰っている身であろう?」
「へっ! 馬鹿な弟が緊張で吐きそうな顔をしていたから揶揄っただけよ」
「貴女がそう言うのであればそれで良いが」
呆れながらもマツバさんはそのまま器用に荷物を抱えて窓か外へと出て行った。
御者席の方から『たづな~! 引いても良いの~!』と結構マジな泣き声が響いていたから急いでね。
ちなみにミネルバさんはもう一台の荷馬車を運転している。
一応新婚二組分のご祝儀だから色々と大荷物になってしまってね。
「マツバさんってミシュ先輩の何が良いんですかね?」
紳士振りを披露した変態の兄ことマツバさんの様子にルッテが思わずそんなことを口にする。
気持ちは分かる。あの人は普通にしていると真面目に見える。それを言ったら妹のモミジさんもだけどね。
「本人が言うには、あの幼い姿がたまらないらしいよ」
「……変態ですね」
納得して頷かないのルッテさん。で、ポーラも身の危険を感じて武装し始めない。コロネが不安? ……誰かコロネの貞操を守れっ! 変態が隣に居るぞっ!
© 2022 甲斐八雲
馬鹿者たちが集団でエバーヘッケ家にお出かけです。
一応名目はルッテの結婚の挨拶ですが、実の両親は逃走。代理でドラグナイト夫妻が居るから平気か。平気なのか?
マツバさんがミシュに惚れこんでいるのは容姿だけじゃないんですけどね。その辺の理由は今回のエバーヘッケ家珍道中で語られることでしょう。
ちなみに魔窟であるエバーヘッケ家で唯一登場していない人物が居ます。だ~れだ?




