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あの女は私が殺す

「それでこんな観光みたいに王都を巡って……何がしたいの?」


 案の定砦の方は開店休業状態で、警備にあたっていた兵士たちが魔女の色気に前かがみになる様子を見て終えた。このことは大将軍の方にでも報告と言う名のクレームでも回してやろう。

 巨乳ごときに屈するとは恥ずかしい。男子たる者、大きさより形であると豪語できる猛者になれ。


 そして帰りの馬車の中でついその質問を口にした。


「本題は初日に片付いているので、残りは観光ですかね」

「ぶっちゃけてるな~」

「旅の恥は搔き捨てと申しますし……正直に言うと、跡継ぎ問題で騒がしい共和国に居たくないのが本音です」


 それは恥の掻き捨てじゃなくて……合ってるのか?


「跡継ぎ問題?」

「ええ。共和国の代表は市民からの投票で選ばれるのは?」

「知ってる」

「だから現代表が跡継ぎを指名すると言うことが出来ないのですよ」

「あ~。納得した」


 指名しても票を得られなければ代表にはなれないってことか。


「なら指名して投票の時に不正をすれば?」

「勿論しますが」

「するんかいっ!」


 選挙管理委員会は何をしているっ!

 国連の選挙管理委員の入国を拒否しちゃう感じか?

 そんな組織が無いからこっちの世界だと不正し放題か。あっても不正してるしね。


「当たり前です。ですがそれは相手もします。結果として投票数が国民の数よりも多くなる……昔発生したことのある問題です。だから不正は厳しく取り締まります」

「なるほどね」


 そうなると残る手段はそう多くない。

 簡単なのは相手候補を蹴落とす。これはスキャンダルとか脇の甘さだったりとかで、失敗を見つけ出して相手にマイナスイメージを植え付ける。


「現在共和国内では、人材の囲い込みと足の引っ張り合いって感じ?」

「それと暗殺注意かしらね」

「直接的に来るんだ」

「相手さえ消えれば文字通り」

「勝ったようなものか」


 嫌だ嫌だ。気楽な三男坊の自分が幸せなポジションなのだと理解した。

 最近武官な人たちからすっごく嫌われているけど。暗殺とか……無いよね?


「それでしばらくは外遊?」

「ええ。この後は属国となっている小国を周り……国境沿いを見て回る感じかしらね」

「本気で逃げ出したい訳だ」


 やれやれと魔女がため息を吐く。


「……世継ぎ問題なんて私から見ればどうでも良い話です。ただ有力候補者の二人は私とはあまり関係が良くないので、彼らが代表となったらどこかへ逃げ出すしかありません」


 それ込みで亡命したいとか何とか言ってたんだな。


「ならユニバンスに来る?」

「……事実、候補の一つではあります」


 あくまで候補の一つなのね。


「なら最大の候補地はやっぱり帝国?」

「候補の一つですね。ただあの国に行くと研究より戦場が多そうで」

「活きの良い奴隷がたくさん確保できますよ?」

「魅力がそれだけなのはちょっと……」


 集めた奴隷を何に使うのか聞かない方が良いよね?


 そっと彼女は窓の外に目を向ける。

 窓ガラスに映る魔女が僕を見ていた。


 目線をずらして彼女の目を見ないようにする。


「引っかかりませんね」

「うちのお嫁さんから対処法は聞いてますから」

「……こっちの細かい仕掛けはことごとく潰されるし、本当に貴方の伴侶は優秀でいらっしゃる」


 軽く肩を竦めてマリスアンは深々と息を吐いた。


 たぶん僕の左腕に抱き付いたままのノイエが何かしてるんだろうな。

 時折ピクンと反応して、鋭い視線を魔女に飛ばしていたから間違いない。


「此度の目標はノイエ様でしたが……持って帰るのは難しそうなので諦めるとしましょう」

「そうして貰えると助かります。つかもう大人しく国を出て行け」

「あら? 私のような美人に対して冷たい言葉ね」

「本当の美人が僕の隣に居るので」


 ノイエ以上の美人なんて僕には居ませんから。


「嫌な男ね」

「本当のことしか言えないだけです」


 それに懐に手を入れている相手を警戒するのは当然でしょう?

 こちらの視線に気づき、魔女が懐の短刀から手を離す。


「まあ……他の国で私を満足させる相手が居ればよろしいのですが」

「条件は?」

「潤沢な資金とあっちがお強いことぐらい」

「本当に自分に正直な魔女だな」

「ええ。そうでもないと女の身で出世など普通難しいですからね」


 クスクスと笑う相手の様子に嘘は感じない。


 確かユニバンスは男尊女卑が少ない国らしい。そしてこれはこの大陸では珍しい方だ。

 人手が足らないから女の人にも働いて貰わないとやっていけないって言う意味もあるけどね。


「あっちが強い人は勝手に探して貰うとして、潤沢な資金なら用意できなくもない」

「……」

「ノイエに変なことをしないと約束するなら、ユニバンス王国でも有数な金持ち貴族が面倒見るよ」

「……見返りは?」

「ん~」


 無理なのは分かっているんだけど。


「時間の逆行かな。そんな魔法が欲しい」

「過去に戻りたいと?」

「そうだね」

「どうして?」


 そんなのは決まっている。


「過去に犯した色々な過ちを正したい。ただそれだけかな」

「……ご自身のことも?」


 何その意味深な振りは? 変なフラグ立てないでよね。


「僕は大した過ちを起こしてないはずなんだけどね。

 ただ記憶を失う前の自分がどんなやんちゃをしていたのかは確認したいかも」


 とんでもないミスをしていたら正したいよね。


「ふふふ……あはは……」

「はい?」

「いえ失礼。確かに過去に戻れるのなら良いことでしょうね。ユニバンスへの亡命の件……考えさせていただきます」

「はいな」




 ユニバンス王国での滞在を終え、マリスアンは専用の馬車で移動していた。


 全面マットレス状態の馬車の中で転がり、天井を見上げて息を吐く。

 何度も仕掛けた魔法の全てを、あのドラゴンスレイヤーは封殺してみせた。

 それだけに相手の力量は間違いなく自分以上だ。


「面白いわね」


 魔女と呼ばれる自分が、得意分野で弄ばれたのだ。

 一矢報いたい……その気持ちが胸の中を支配する。


「それでいつもどこから来るのかしら?」

「普通に」

「そう」

「ご返答を伺いに参りました。マリスアン様」


 いつの間にかに姿を現した全体的に黒一色の男が、その冷たい視線を向けて来た。

 ドラゴンの様な目を持つ男が。


「良いわ。貴方たちの誘いに応じる」

「そうですか」


 恭しく頷く相手に向けて、魔女はピッと人差し指を立てた。


「ただし条件が一つ」

「何なりと」


 身を起こし魔女は相手を睨みつけた。

 竜司祭(ドラゴンプリースト)と自称する男を。


「ユニバンスのあの女は私が殺す。条件はそれだけよ」

「確かに伺いました。我が同志よ」


 クククと黒い男は笑った。




(c) 2018 甲斐八雲

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