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僻地に飛ばされた

 ガタゴトと馬車が揺れている。

 こう揺られていると眠くなって来るから困る。

 寝ないように視線を窓の外に向けると、今日は分厚い雲が出ている。

 話だとそろそろ雨期も終わりのはずなんだけどね。


 本日の見学コースは王都の外れにある砦の視察。おかげで無駄に移動時間が長い。

 名目は対ドラゴンの様子を見ることになっているが、まだ雨期でドラゴンがほとんど居ない。

 行って見て終わりと言う感じになるはずだ。

 よって今日は大半がフリートークとなっている訳だ。


 僕の質問から見事に脱線し、帝国のオーガトークは継続中だ。




「腕に自信のある人で取り囲んで四方から攻撃。後は最大火力で味方ごと、『どっかん!』とするしかないね。それでも生きてたら追撃を加えれば流石に倒せるんじゃないかな?」

「……中々に酷い作戦を思いつきますね。人で無しですか?」

「あの化け物が本当に化け物過ぎるだけだよ?

 どんなに傷を受けても笑いながら立ち向かって来る生粋の戦闘狂だしね。

 それ以外あれを倒す方法とか今現在だと思いつかないかな……流石のノイエも攻撃するのが精一杯で、齧られたりして結構危なかったしね」

「それは……」


 マリスアンは自分の中で、相手の供述と己の知識で発言を鑑みる。

 嘘を言っている様子は微塵もない。

 なら相手がこれほど情報を寄こすのは……本当に手立てが無いのだ。


「味方に出来なければ、最大戦力を使い捨てる覚悟でやれと?」

「まあね。うちに来たら諦めて倒す方法を考えるけどさ……ノイエを使い捨てになんて出来ないし、巨乳好きの馬鹿王子に爆発系の術式でも抱かせて突撃して自爆でもして貰うかな」

「……」


 ユニバンス王国のハーフレン王子の実力は折り紙付きだ。それを使い捨てるなど……共和国の戦力で見ると正直難しい。ほぼ不可能だ。

 最大火力は自分が居るが、ドラゴンスレイヤーと対等に戦える猛者など居ない。

 個の力より組織としての力を求めた結果だ。


 マリスアンは素直に『手立て無し』と認めた。


「我が国では難しいでしょうね」

「ですか。あ~。またあの化け物が来たらと思うと本当に夜も眠れない」

「……大丈夫。次は勝つから」

「うん。ノイエを信じてるよ」

「はい」


 アルグスタは、薄く目を閉じて甘えている彼女の頭を撫でる。

 本当に可愛らしい彼女を愛でて癒しを得る。


 癒されながらもアルグスタは心の奥底から願った。

 あの化け物が……どこかで拾い食いでもして死んでたら良いのにと。




 ブロイドワン帝国北部。



「っくしょいっ!」


 丸太を肩に担いだ大女が、地響きを起こしそうな勢いでくしゃみをした。

 実際に彼女が吐き出した息で、対面上にあった地面に転がる石が吹き飛んだ。


「トリスシア? 女性ならもう少し慎ましくしてください」

「くしゃみは勢い良くした方がすっきりするもんだよ。何よりずっと雨に打たれていたからね……風邪でも引いたのかもしれないさね。腹が下って辛いんだよ」

「お腹の具合が悪いのは、五日前に破棄した肉を拾って食べたからでしょう?」

「はんっ! 分かってないね。肉って奴は腐ったぐらいが一番美味いんだよ。いつも細かくした肉のスープなんて飲んでるから肉の良さも分からないんだよ」

「虫のたかっている肉など食べたくもありませんよ。全く」


 現場監督をしている生真面目な相手の男に大女は肩を竦めた。


「はいはい煩いね。そんな細かいからその齢にもなって独身なんだよ。童貞だろうお前?」

「それを言ったら貴女もです。両方の意味で」

「アタシは良いんだよ。オーガの婚期は40代だ。それに若いうちは男遊びなんてせずに戦って、それで戦えなくなったら子供を作るのさ。戦うオーガの女は生娘なんだよ」

「……確認できないからって出鱈目言ってませんよね?」


 共に謹慎処分を受け北部の僻地に飛ばされた彼の言葉にオーガが呆れる。


「確認出来ないんだからオーガの生態を知っているのは、オーガである私だけだよ」

「やれやれ」


 肩を竦めながら彼は手にした地図に目を向け、丸太を運んでいる兵に声を飛ばす。


「それはあっちに。物が良さそうなので住居の方に使いましょう」


 大工仕事に慣れた兵士たちは、素早く行動する。


「なあヤージュよ」

「はい?」

「アタシたちは何でこんな場所で大工仕事をしてるんだい?」


 してはいけない質問だった。

 現実に戻されたヤージュは深い深いため息を吐いた。


「……仕方ないでしょう? ここは文字通り大陸北部の最前線。あるのは自然の恵みだけで砦すら無い」

「あ~。一度失敗したぐらいで器の小さい皇帝だよな」

「諦めて小屋造りに専念してください。そうしないとまた雨の中で野宿ですよ」

「あ~。本当に嫌な話だね。アタシたちが何をしたって言うんだい?」

「任務に失敗した。それだけですよ」


 ほとぼりが冷めるまでは、最前線の田舎暮らしが確定したのだ。

 だが二人は諦めていなかった。一度受けた任務は必ず成功させたい。だから暇さえあればユニバンス攻略の手段を考えている。

 ただし作戦会議が最終的に言い争いで終わるけれど。


「腐って無いで体を動かして下さい」

「へいへい」

「返事は一度で」

「へいよ」


 何だかんだで仲の良い上司を兵士たちは、ほっこりしながら見つめていた。




(c) 2018 甲斐八雲

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