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魔女マリスアン

(2/1回目)

「何だよう……ちゃんと仕事はしてるぞ?」


 執務室の入り口で無言のまま立っている筋肉王子がかなりウザい。

 クレアのやる気が無くなってしまった様子だが……そもそもこれが普通なのだから文句は言うな。


「報告は朝一したでしょ?」

「……まあな。目覚めたら元に戻っていたから、一日中撫で回して仕事を休んだったか?」

「これこれ。何故そんな卑猥な報告にすり替わっている?」

「ならやってないんだな?」

「……黙秘します!」


 黙秘したはずなのに年少組が顔を真っ赤にして俯いている。若干ノイエも恥ずかしそうだ。


 でもね……元の16歳なノイエの姿を見たら元気になるでしょう?

 もしかしたら二度と戻れないと思っていた彼女が、突然元に戻って……あの時の甘えようはここ最近ではトップクラスだった。お蔭でMaxノイエを愛でましたよ!


 ツカツカと歩いて来た王子が、ドンと机に手を着いてこっちを見る。


「本当に何もしてないんだな?」

「そもそも時間が経てば戻るはずだったんでしょ? ノイエだけ遅くなった理由は知らないけど、元に戻ったんだから良いでしょうに。ね~ノイエ」

「はい」


 隣に座っているノイエに抱き付いて頬ずりする。

 うちの可愛いお嫁さんが嫌な素振りを見せることなんてない。嬉しそうな雰囲気を全身から漂わせて甘受する。良いでは無いか良いでは無いか……やっぱりノイエはこのサイズが良い。


 恥ずかしそうに視線を逸らすイネル君の反応は年相応だ。唾棄しそうな表情を見せているクレアは心を病んでいるに違いない。露骨に胡散臭そうな視線を向けて来る兄は……一番厄介なので無視してノイエの頬にキスしておく。


「まあ良い。それと執務室で女と遊んで良いのは親父だけだ」

「遊んでません。愛でてるだけです」

「同じだ。まったく……」


 ガリガリと頭を掻いて彼はクルッと背を向けた。


「そうだアルグ」

「ほい?」

「……共和国から厄介な客が近々来る」

「厄介?」


 何か嫌な予感が。あの財務大臣とかなら全力で逃げるよ?


「何故かお前を滞在中の接待役に指名して来た。こちらとしても結婚式の借りがあるから向こうの申し出を無下にできない。確りと務めるように」

「……それで相手は?」


 肩越しにこっちを向いた筋肉王子がいやらしい表情を見せた。


「共和国の相談役。この大陸で有数の大規模破壊術式の使い手……魔女マリスアンだ」


 本当に面倒臭いことになりそうだ。




 セルスウィン共和国内南部街道



「マリスアン様」

「なに?」

「これらの道は少々荒れております。揺れにご注意を」

「……それくらいで報告など要りません。私だって時と場合によって戦場に赴く身ですから」

「はっ」


 気真面目過ぎる警護隊の隊長の対応に辟辟しながら、魔女と呼ばれる女性は馬車の中で羽を伸ばしていた。

 普段は黒いドレス……体の線がこれでもかと目立つ物を着ている反動か、オフ状態の彼女はダボッとした緩めの衣服を好んで着る。


 何より彼女専用の馬車は、外から中を覗くことが出来ない。

 窓にはすべて内側から鍵が成され、外から開けることは容易では無い。

 完全な密室……それだけに彼女は持ち込んだ大振りのクッションに抱き付いてお菓子をポリポリと食べながらだらけきっていた。


(折角の外遊ですし……出来る限りのんびり過ごしたいものですね)


 黒くて長い髪を掻き上げ、一応本来の仕事であるユニバンス国王との謁見に思いを馳せる。


 本来なら自分が行くほどの仕事では無いのだが、最近財務大臣と内務大臣の後継者争いが表立って来て……正直面倒臭くなって来た。

 マリスアンとしては、自分が思い浮かべる術式の実験やそれに掛かる費用さえ面倒見て貰えれば、主が誰であっても特に気にしない。その主が肉体関係を求めて来たとしてもだ。


(魅力的な私に殿方が屈するのは仕方ないですしね)


 何より相手が"上手ければ"問題も無い。お互い良い思いが出来て万事解決だ。


(ただあの人もそろそろお歳であっちの方もだいぶ衰えて来てますし……新しく仕える主を探すべきなのでしょうね)


 クスッと笑い、魔女はベッドとして作られている馬車の中を転がる。


(ユニバンスには可愛くてなかなか死なない人形が居ると言うことですし……少し遊んでみるのも悪く無いかしら?)


 転がり放置されている書類を手にする。


 それはこれから向かう国に滞在している大使から送られて来た『ドラゴンスレイヤー』に関する物だ。

 読めば読むほど興味が湧く。何より余程のことが無い限り死なないという一文が胸を躍らせる。


(未確認の存在であった帝国のドラゴンスレイヤーとも互角に渡り合ったという逸材。良いわね……凄く良いわ)


 軽く舌を舐めて……興奮に体を震わせる。


(どんな風に痛めつけてあげましょうか? 普通にやっても死なないのなら……かなり酷いことも出来るはずね?)


 今まで奴隷に施して来た人体実験の過去を思い出し……魔女は興奮するあまりに太ももを擦り合わせた。


(ダメね。こんなことで……これでは発情した動物と変わらないわ)


 でも本能が求める。

 苦痛を……少女が苦痛に嘆き悲しむ表情を。


(ああ……楽しみだわ)




(c) 2018 甲斐八雲

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