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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 20

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ボクはこの胸を維持するから

「温泉。羨ましいわね」

「そうかな?」


 足に頬を預けている存在に歌姫は顔を向けた。

 目は見えないけれど、自分の足を枕にしているリグの様子は手に取るように分かる。


「リグは温泉が嫌い?」

「……この時期だと熱いと思う」

「そうね」


 乾期である今だと確かに熱いだろう。


「けど裸で彼に甘えられるわよ?」

「それは悪くないけど……」


 ノイエの視界から伝えられる光景にリグは顔を真っ赤にする。

 レニーラの性格ならあの動きは分かる。けれどそれをあっさり真似するノイエも凄い。

 ただノイエには恥じらいと言う単語が存在していないから、どんな無茶でもしてしまう。彼が喜ぶのなら……喜んでいるのかは疑問だが、喜んでいるように見えるなら何でもする。


「ああ見えて、ノイエって尽くす女なんだね」

「あの子の主成分は奉仕よ」

「納得だ」


 自分のことよりも他人に幸せになって欲しいと……あの施設に居た頃には、ノイエが色々な我が儘を披露したとリグは聞いたことがある。

 他人を幸せにするのに他人を巻き込んで、結果自分が一番傷ついてでも幸せを分け与える。

 底抜けに優しいが不器用……それがノイエなのだ。


「ねえセシリーン」

「ん?」

「ノイエは幸せなのかな?」


 何とは無くリグはそれを口にしていた。

 他人の幸せを望む彼女は、自分の幸せをどう考えているのか……ふと疑問に思ったのだ。


「ええ。幸せよ」

「本当に?」

「ええ」


 そっと手を伸ばしリグの頭を撫でながら、セシリーンは断言する。


 ある時を境に可愛い妹の心は幸せでいっぱいだ。

 最初はそれが何だか分かっていなかった様子だが、今はそれをいっぱい集めようとしている。だからこそあんな無茶なことをして彼を喜ばせるのだ。


「今のノイエは幸せで幸せで毎日が楽しいのよ。だから私たちは彼女の幸せを維持していけるように頑張れば良いのよ」

「そっか」


 今一度歌姫の太ももに頬を押し付け……リグは口を開く。


「セシリーンって本当に母親みたいだね」

「それは私が老けているって言いたいのかしら?」

「違う。違うって」


 だが怒った様子で歌姫は失礼なことを言う存在の一番掴みやすい部分を捕らえる。


「私たちの中で一番に胸が垂れるのはリグでしょうね?」

「……垂れないから。ボクはこの胸を維持するから」

「無理よ」


 フッと笑いセシリーンは遠くを見るように顔を動かした。


「人は老いには勝てないのよ」




「あれ~だね~」

「何よ?」

「攻撃~魔法に~難が~ある~よね~」

「そうね」


 2人は並んで歩き奥へと向かっていた。魔眼の深部と呼ばれる奥に向かってだ。

 ただ“また”足を止めた。


「こっちも無理ね」

「だね~」


 進んでいた廊下のような場所に転がる死体。

 必死に足掻いて床を這って来たのであろう人物が、全身を紫色に変化させて絶命していた。


「進む~?」

「止めてよ。あんな醜い死体になるのは嫌よ」

「だね~」


 片や元王女としての矜持がそれを許さない。

 片や外に出れなくなるのが嫌でそれを許せない。


「どう~する~?」

「道は?」

「ん~」


 フワっとしながらクルっと回って……指をさす。


「あっちに~行け~れば~?」

「なら進みましょう」

「でも~毒が~」

「その時は引き返す」


 宣言しツカツカと歩き出す。


「この毒を消さないと死んでる者たちが一向に復活しないわよ」

「だね~」


 肩を竦めながら、フワフワとして足取りで先に行く女性を追う。


「全く……魔女が居ればここまで酷くはならなかったのに」

「あはは~。無い~物~ねだり~だね~」

「愚痴ぐらい言っても良いでしょう?」


 胸の前で腕を組んで憮然とした様子で彼女は鼻を鳴らす。


「カミーラとファシーの死体を回収しておかないと後々困ることになるのよ」

「ここの~毒は~?」

「……ミジュリに出会えたら押し付ければ良いのよ。あれがあれの責任者なんだから」




「ようやく痺れが取れたか」


 言ってもまだ全身が、手足の先が痺れている。


 必死に腕や足を動かしおかしな一帯から抜け出したのだ。

 たぶんあれは毒の類だ。這って進むのは危険だ。だから立ち上がろうとして……爪先が痺れて彼女はまた床の上を転がった。


「うむ。諦めよう」


 あっさりと諦めズルズルと床の上を進む。

 また毒に出会ったら……その時は諦めるしかない。


 ズルズル。ズルズルと進んでいると、壁を背に床に座る女性の姿を見つけた。

 何処か疲れ切った様子に見える女性を……誰だか知らない。


 その知らない誰かが顔を向けて来た。


「誰?」

「ああ。自分はエウリンカと言う」

「エウ……あの変態の?」

「何故かそう呼ばれている」


 否定をしても全員が『変態』と呼ぶので、エウリンカは否定することを最近止めた。


「それでどうして床を這って?」


 問うてくる相手にエウリンカは震える手を掲げた。


「どうも毒にやられたみたいでね」

「毒? 毒って言った?」

「ああ。たぶんだが」


 慌てた様子で駆け寄って来た人物が手を掴む。

 されるがままのエウリンカだが、普段から無抵抗なのでこれが普通だ。


「間違いない。神経系の毒ね」

「神経系?」

「ええ。これを体の中に取り込むと手足が痺れ動きを奪う。次いで呼吸……肺の動きを奪い段々とゆっくりと相手を殺すのよ」

「それは中々に恐ろしいね」


 恐ろしいが興味を覚える攻撃方法だ。

 エウリンカは自分の能力でそれを模した魔剣が作れないか思考し始める。


「いつもならアイルローゼが始末するはずなのに」

「ああ。魔女は今死んでいるよ」

「……そう」


 掴んでいたエウリンカの手を離し、女性は立ち上がる。


「なら私が行かないとダメね。本当にあの子は……」


 言葉を残し離れていく女性を見送ったエウリンカはふと思った。

『彼女は何者なのだろうか?』と。




「旦那君?」


 ごめんなさい。もう許してください。お願いします。


 夕方から始まってもう何時間ですか? 日は沈んでもう深夜ですか?

 出来たら夜明けが来る前に開放してください。お願いします。


「何でこんなに震え上がるかな? 愛しいお嫁さんに囲まれて幸せでしょう? 違うの?」


 幸せってなんでしたっけ? ハーレム=拷問だと僕は学んでいますが?


「もう仕方ない。ノイエ~」

「はい」

「旦那君が駄々っ子になっているから」


 グイっとレニーラが僕の体を引っ張ってうつ伏せにする。


 何でしょうか?


「ちょっとホリー直伝の元気になるあれをしてあげて」

「はい」

「しなくて良いから~!」


 身の危険のみを覚えて僕は立ちあがる。


 ノイエさん! 何故に下半身に抱き着くの? ダメだから! それは絶対にダメだから!


「離せ~! ノイエ~!」

「大丈夫」

「絶対に大丈夫じゃないから~!」

「平気」


 その根拠は何ですか? ねえ?


「アルグ様は何度でも蘇る」


 何処のアニメだ! 奇跡の一致か! ノイエ~!


「ダメダメダメダメダメ……あっ、あ~!」




 僕のやる気スイッチが強制的にプッシュされ……2人のお嫁さんが大変満足してくれました。


 枯れ果て燃え尽きた僕は思うのです。

 絶対にノイエの教育をした姉たちが悪いのだと。

 こんな風にノイエを育てた姉たちが絶対に悪いのだと。


 何をどうしたらこんな自由人に育つの? ねえ?




「……」


 自分の膝を見てそれは思う。

 やはり幽霊って……温泉に浸かれないのだと。


「入りたいな……温泉」


 ノイエの背後霊と化した姉の1人はそう呟くと、濡れない自分の体をジッと見つめていた。




(C) 2021 甲斐八雲

 魔眼の中では死体回収に珍しいコンビが動いています。

 まあ現状動けるのってこの2人ぐらいか?


 床を這って進んでいるエウリンカは、不思議な人に出会いました。

 彼女は毒のことを知る…その正体を本編で語ることはあるのだろうか?


 で、主人公は相変わらずですw

 そしてノイエの背後霊は…頑張れ!

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