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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 19

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リハーサルとかしないの?

『衣装はどうなってるんだろう?』とお城の執務室でお茶をしながらお喋りしていたら、セシリーンが『会場の方でそんな話をホリーがしているみたいですけど?』などと言いだした。

 落ち着いて考えれば会場で準備をするのは当然のことだ。


 だから馬車で会場に移動していたら、馬車の天井に何かが着地した音がした。ノイエだった。

 馬車に乗り込んできたノイエは姉2人を並ぶように座らせ真ん中に座った。

 嬉しそうにフリフリとアホ毛を動かしているノイエを見たら、誰も何も言えなかった。




 ユニバンス王国・王都内街路上



「で、これから本番になるわけですが……1つ聞いても良い?」

「なに?」


 質問の矛先はレニーラだ。

 ノイエ争奪戦に勝った彼女は、ノイエを抱え込むようにしている。傍から見ると我が子に授乳している母親のようだ。


「リハーサルとかしないの?」

「りはー、なに?」

「事前準備かな」


 どうやらリハーサルという単語は存在していなかった。

 昔の偉い人の怠慢だ。今度馬鹿賢者に出会ったら、ハリセンチョップをお見舞いしてやる。

 問題は相手がポーラなだけだ。


「事前に舞台上で練習するとかしないの?」

「普通はしないね」

「はい?」

「だからしないよ。するのは新しい踊り……地方とかに伝わっている特別な踊りとかを習った時には練習するけど、今日は私の好きに踊って良いのよね? ホリーはそう言ってたけど?」

「ホリーがそう言うのなら全て任せた」


 丸投げではない。僕はホリーお姉ちゃんを信じているのだ。


「旦那様。丸投げしすぎるのは良くないと思いますが?」

「セシリーン」

「何か?」


 ノイエを奪われてさっきまでしくしくと泣いていた貴女に真面目な口調で言われても、ね?


「僕は心の底からホリーを信じています」

「……」


 ジッとセシリーンを見つめたら、何故か彼女は頬を赤らめて顔を逸らした。


「そんな熱い視線を向けられると流石の私でも」

「歌姫さん?」

「……良いじゃないですか。ノイエも奪われて」


 何故か拗ねだした。

 レニーラさん。少しだけノイエを貸してあげてください。


「お姉ちゃん」


 気配を察してノイエがセシリーンに近づこうとしてレニーラに引き戻された。


 頑張れノイエ。君の努力次第でこの馬車の中が平和になるのだ。


「つまりレニーラは練習無しで踊りを披露するの?」

「だね~」

「大丈夫なの?」


 失敗したらどうするの?


「旦那君」


 キリッと表情を正してレニーラが僕を見る。

 ただノイエを抱きしめてこっちを見ている姿は威厳も何もありゃしない。


「私は今日、私を存分に楽しませてくれるって言うから舞台に上がるんだよ」

「ふむ」

「私が楽しみたいから踊るの。結果としてそれを見て喜んでくれる人が居れば幸せなの」

「レニーラは自分が楽しむのが第一で、周りの評価は二の次だと?」

「だね。それに他人の評価にばかり気にしていると疲れるしね。だから私は私が楽しく踊れればそれで良いの。それが一番なの」


『ね~。ノイエ』と抱きしめているノイエにレニーラは甘えだした。

 この悪友は本当に踊りに関してだけは真面目だな。


 と、何故か難しい表情をしたセシリーンに気づいた。


「歌姫さんの意見は?」

「……レニーラが羨ましく思えたわ」

「でしょ~? 私ってば天才だから」


 カラカラと笑いだした馬鹿はそっとしておく。

 今日の主役だから調子に乗せておいた方が良いと思う。


 座席に座り直し、セシリーンは見えない目を窓の外へと向けた。


「私が楽しく歌えていたのは最初だけかしらね。途中からは歌うことが辛かった。息抜きは故郷で歌う時くらい。歌を仕事にしてしまってからは本当に辛かったわ」

「分かるわ~。だから私は開き直って楽しむようにしたの!」


 ノイエを背後から抱きしめてレニーラが左右に揺れる。


「私だって踊りを仕事にしてから辛くなった時期もあるんだよ? そんな時に、とある歌姫に出会って……私は彼女の言葉で開き直る結果を得た。自分が貴族に売り飛ばされるのなら、この国の歴史に残るほど高額で売られてやると心に誓ったの。それからはすっごく楽しく踊れたの」

「……」


 セシリーンが苦笑いをしている。

 絶望していた自分の助言でレニーラが開き直るとは……さぞ複雑な心境だろうな。


「セシリーンは開き直れない?」

「難しいですね」


 僕の問いに彼女はため息を吐いた。


「性格の違いなのでしょうね。私にはレニーラのような開き直りは難しいと思います」

「そうかな? 意外とセシリーンって楽天家かと思ってた」

「旦那様?」


 怖い笑顔を向けないで。笑顔なのに怖いって何よ?


「私はこう見えて臆病ですから」

「臆病?」

「誰が?」

「はい」


 僕。レニーラ。おまけのノイエはただ口にした感じだ。

 問題は地雷を踏んだらしい僕とレニーラに、セシリーンが恐ろしい笑みを向けて来た。


「旦那様? レニーラ?」

「うん。セシリーンは臆病だね」

「裏切ったな旦那君!」


 裏切りではない。戦略的なあれだ。


「こうなればノイエを人質に!」

「はい」


 人質になったノイエは、何故かフリフリと楽しそうにアホ毛を動かす。


 もうただの遊びだと思っているな?


「ノイエから手を離せ! この悪女が!」

「悪女? この私が悪女?」


 顔を赤くしてレニーラがプルプルと震えだした。


「旦那君? 謝るなら今の内だよ?」

「あっはは。レニーラ」

「何よ?」

「僕は好きな人ほどイジメたくなるのだよ」

「……もう旦那君ったら」


 あっさりとレニーラがデレる。

 ノイエの姉たち全員がこうだとそれはそれで怖いけど、扱いやすいのは助かる。


「アルグ様」

「はい」


 ただレニーラに抱かれているノイエがクルっとアホ毛を回した。


「イジメられてない」

「ふっ」


 笑止だノイエ君。


「ノイエは僕のお嫁さんだからね! 扱いが違うのだよ!」

「はい」


 犬の尻尾の様にノイエのアホ毛が大変なことに。


「で、旦那君?」

「旦那様?」


 おかげで僕は何かしらの地雷を踏み抜くことになったがな。




 王都内・鎮魂祭馬車停車場



「お姉ちゃん」


 馬車から飛び出してきたノイエに、ホリーは大きくため息を吐く。


「遅いわよ。全く」

「……お姉ちゃん?」


 足を止めたノイエは、彼女の左右の頬に真っ赤な手形を見つけて首を傾げる。


「気にしないの」

「はい」


 姉にそう言われればノイエは気にしない。


「それで彼とレニーラたちは?」

「中に居る」

「着替えがあるのに」


 呆れながら馬車に近づいたホリーは馬車の中からの声に耳を傾ける。


「だからこう。こうしてこう」

「見えないのだけど?」

「気合よ気合! 手で掴んで」

「もご~!」


 断末魔のような彼の声にホリーは察した。

 反射的に馬車の扉を開いて中へと突入する。


「本番前に私にも一口寄こせ~!」




 王都内・鎮魂祭演者控室



「あれ? 大人なホリー?」

「初めまして。ホリーの姉のコリーと言います」

「お~」


 紹介を受けレニーラはそっと頭を下げる。


「初めまして。私がレニーラです」

「今日の舞台の主役様ですか」

「あはは~。そうらしいです」


 大人しいホリーと言う認識でレニーラは彼女の姉と衣装の調整を始める。

 傍らではノイエの衣装調整が始まっていた。


 と言うかこう来るか? 流石刻印の魔女だ。これは想定していなかった。


 全体的に白い衣装を身に纏うノイエは、順調に準備が進んで行く。

 ついでレニーラが着替えを始める。いつもの水着のような服を脱いで、


「旦那君」

「はい?」

「お楽しみは舞台の上でね」

「はいはい」


 どうやら衣装姿は舞台上で見せたいらしい。

 2人に挨拶をし僕は控室を出て舞台傍と向かう。


 途中で山ほど肉の串焼きを抱えた我が隊の副隊長様が居た。

 目が合った瞬間、回れ右して逃げ出した。彼女の後ろに居て姿を隠していた婚約者が……こっちに気づいて頭を下げて来た。

 普通はこの反応が正しいと思う。


 と言うかノイエ小隊も全員半休なのか?




(C) 2021 甲斐八雲

 前日に投稿した話を『閑話』としました。主人公が出てなかったから。



 馬車の中でダラダラとトークをしながら会場に向かいます。

 家族内の馬鹿話とちょっとした悪ふざけです。暇潰しです。


 会場ではホリーがイライラとしながら待ってます。

 実の姉には往復ビンタを食らい…ストレス回避に栄養補給ですw

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