ブランコと狂気
ギーッ…ギーッ…ギーッ…
小さな悲鳴のような軋んだ音が夜の闇に響く。小気味の良い、一定のリズムで響くその音は、まるでメトロノームの音のようだ。そう、私はブランコを漕いでいた。小さくゆっくりと。
「この公園、昔2人でよく一緒に来たよね…あぁ、小さい頃も同じようなことあったなぁ、ねぇ?ミキ?」
「………。」
ミキはなにも答えない。
「覚えてない?ほら、思いっきりブランコを漕いでさ、チェーンがガッシャンガッシャンいうまで高く漕いで…ミキの頭に思いっきり当たってさ、脳震盪起こしちゃったの。」
「…………。」
私はなにも言わないミキに構わずに続ける。
「あの時も私、怒ってたんだよ?ミキが私のお気に入りの本盗ったって思い込んでたんだぁ。結局私の勘違いだったけどさ。ミキもいけないんだよ?会う度に私の本、羨ましそうにみてくるんだもん。」
「………。」
「あの時には怒ってたけど、怪我させようとかそんなつもりはなかったんだよ?ただ、ぶつかっちゃっただけで。でもね、今日は違うの。私、すっごくミキが許せない。小さい頃に私達ずっと一緒って約束してたでしょ?なのに…ミキが悪いんだからね。」
私はミキを見つめる。ミキの青白い顔。
「…だからちゃんとお別れしてね?」
私はブランコから軽やかに降りると、青白い顔のミキを残して公園を後にする。しばらくすると声が聞こえた。きっとミキがちゃんとお別れしたのね、そう思いながら私は満足して目を瞑り、大きく息を吸った。
私はミキのことを思い出していた。青白い顔で目を瞑って横たわるミキ。黒い髪と青白いその顔はまるで人形のようだった。そして、その人形のような顔の下には鮮やかな赤い湖。その対比は酷く美しくて…私は身を震わせた。
「ミキ…あなたは私とずっと一緒なのよ。」
私は嬉しくて声を弾ませ、ブランコから降りた時と同じように軽やかな足取りで帰路についた。
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【○○区の公園で男性の遺体が発見されました。警察は頭に外傷があることから他殺と断定。現場にいた交際相手の女性から詳しい話を聴いています…】
私はテレビを消して、ふぅっと息を吐くとコーヒーを入れた。ミルクと一緒に液体を入れると
「今行くわ、ミキ…。」
そういってコーヒーをあおると、静かに目を瞑る。途端に焼けるような感覚が混み上げ、私は呻き声出す。…私はミキと永遠に一緒になるのだ。そして…意識は遠のいていった。
ブランコは凶器。お後がよろしいようで。