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11.突撃

 木槿が深水のところで頭領としての知識を即席で頭に叩き込んでいる一方で、穂純は海豚魚雷群が目視できる位置にまで近づいていた。

 鯱に乗って桜花を離れてから穂純はずっと口にくわえた笛を吹き続けている。人には聞き取れない周波数で鳴り響く笛を。

 やがて後方――二方向から寄り集まってきたのは、穂純と同じように鯱に乗った者たちだった。

 穂純のすぐ横に鯱を誘導して並走し始めたのは、一方だけとはいえ着物の裾をまくって帯に差し込み惜しげもなく足をさらした妙齢な女性だった。

 ともすると冷たくさえ見える正統派美女の木槿とは違って、どこか愛嬌のあるくるくると表情を変える大きな瞳と肉厚の唇。豊満な胸としなやかな肢体が誘いをかけるように強調されていた。

「桜様ぁ。お呼びくださるのを今か今かとお待ちしていましたわぁ。やあっとお会いできてうれしゅうございますぅ」

 しなを作って嫣然と微笑むこの女性は見かけとは裏腹に、橘花の翼団よくだん頭領を務める雀鷹つみ。そして穂純と雀鷹の後方に並んで追走しているのは橘花翼団員の精鋭たちだった。総勢で二十名ほど。

 穂純は彼らをざっと見渡して微笑む。

「全員揃っているな。助かる」

 その言葉に元気よく答えたのは穂純のすぐ後ろにいた少年だった。

「当たり前だろう桜兄さん。花団はどうだったか知らないけど、総領である兄さんの呼び出しを無視するような莫迦は翼団にはいないよ。なんでも言って。俺も手伝うから」

「ああ日雀ひがらにもしっかりと働いてもらうさ」

 そういって穂純はまたざっと集まった人々を見渡した。

「竜王総領桜の名において命ずる。敵船団を叩きのめせ。まずは海豚魚雷の撤去だ。先陣の海豚を鯱で囲い込め」

 命ずる穂純の声は海原にあっても強く響き渡り集まった翼団の団員全員の耳に届いた。

「囲い込んだあとは?」

 一転して翼団頭領の顔になった雀鷹に向き直った穂純はにやりと笑うように口角を上げた。

「爆弾を取り外した海豚から順次解放。それが完了したら回収した爆弾を敵船に丁重にお返ししてやれ」

 その命令を聞いた一行は、穂純と同じように口角を持ち上げて楽しそうに眼を細めた。

「了解、総領」

 返答に一切乱れはなかった。

 敵先陣の手前で穂純たちは鯱をいったん散会させて、海豚の囲い込みにかかった。

 それぞれ口にくわえた笛と手綱を使って鯱を操る。

 鯱の捕食対象は多岐にわたり、魚や烏賊いかだけでなく、海豚や鯨、鮫なども対象となることがある。

 海洋の食物連鎖の頂点に位置し、人間を除けば天敵が存在しないといわれている。

 実際に捕食対象とされている海豚は人間以上にそうした事情に詳しいのはあたりまえのことで、たちまち恐慌をきたした。そうして中央に集めておいてから海豚用の笛で一頭ずつ呼び寄せてはくくりつけられた爆弾を外していった。しょせんは飼いならされた海豚である。同じ命令を出せば素直に従った。

 ほどなくすべての爆弾が外された。

「これで終わりね」

 雀鷹が団員に確認をとる。漏れがないことをしっかりと確認しなおしてから穂純へ作戦の第一弾終了の報告をした。

「よし。それじゃ第二弾へ突入だ。爆弾を各自に振り分け敵船団へと熨斗をつけて返してやれ。ただし相手も大砲をはじめとした武器を持っているから気をつけろよ。慢心は禁物だ」

「一撃離脱を心掛けていけ」

 雀鷹が補足すると全員の顔が改めて引き締まる。

 穂純は感心したようにわずかに片眉を持ち上げた。

 現在二十三歳の雀鷹が翼団頭領に就任したのは三年前。ちょうど穂純が橘花に最初に訪れたころだった。

 色々とあった三年間。だがそれが穂純にとっても雀鷹にとっても勉強になった時間でもあった。

 そして穂純は木槿のことを思う。木槿は十六歳で花団頭領に就任することになった。雀鷹よりも四年ほど早いことになる。

 同じ女性として、蔓穂が莫迦な真似をせずに補佐として支えとなってくれれば、と穂純が幾度となく考えてしまうのは、やはり樒では木槿の補佐としては物足りない感があるからだ。

 一人前の頭領となってからであれば樒のような実直な型の人間のほうがいいだろう。しかしまだまだ未熟な今の木槿には多少は型から外れていたとしても包容力があって助言もできる人物のほうが必要だろう。

 雀鷹には、いまだ少年とはいえ快活な性質の日雀が副頭領として適任であるように。

「桜様?」

 雀鷹が突入の時機を伺ってくる。

 敵船団はかすかではあるものの目視できる位置にまで近づいてきていた。

 穂純は大きく息を吸い込む。

「突撃!」

 鬨の声とともにいっせいに鯱が波を切った。


 その報は同時に訪れた。

「島長! 桜様が戻られました!」

「頭領! 蔓穂殿を捕らえました!」

 先陣を切っていた敵の海豚魚雷を無事処理し、なおかつ敵船団にその爆弾を見舞ってきたという状況報告とともに、穂純が島長深水を探しているとの知らせが一つ。

 もう一つは蔓穂と竜胆が地下倉庫で見つかったということだった。すでに二人の身柄は確保されて入牢済みということだった。

 深水が木槿に確認する。

「ワシはこれから桜様が待っておられる宿屋へと参りますが、頭領もご一緒しますか」

 木槿は即座に首を横に振った。

「私が総領に受けた命令は蔓穂と竜胆を捕らえること。二人が入れられている牢のほうへ向かうわ」

 ほかの者がいるため穂純とは言わずに総領と呼んだ木槿。そして迷わず即座に優先事項を見極めた彼女に対して深水が慈愛に満ちた笑みを向ける。

「頭領の裁量を支持いたしましょう」

 その判断が最良だと及第を与えた深水は即座に踵を返した。

 木槿と守人も急いで牢へと向かった。

 牢といっても蔓穂たちが入れられていたのは容疑者用のもので、単純に逃げられないようにすることが目的の為、設備的にはそう不自由はしない程度に揃っている。

 木槿が牢についたときには二人は別々の個室に入れられていたが、同じように椅子に腰かけて与えられたお茶を口にしていた。

「蔓穂姉さん、竜胆兄さん」

 すでに木槿が来たことに気づいていた二人は、木槿の呼びかけに対して静かに顔を上げた。そして蔓穂がにっこりと笑む。

「木槿ちゃん」

 いつもと変わらない呼び声。木槿は思わず瞳を潤ませた。

「あらあら木槿ちゃんはいつまでたっても泣き虫さんですね~。頭領となったんだからそろそろ泣き虫さんは卒業しないとね~」

 蔓穂に言われるままに深呼吸した木槿は、自身の気持ちが落ち着いた頃合いを見計らって改めて蔓穂と正面から向き合った。

「蔓穂姉さん、本当に姉さんが父さんを殺したの?」

 あまりにもまっすぐな問いかけに蔓穂は苦笑した。

「ええ、そうよ」

「どうして……」

「正当防衛だった。――そういったら木槿ちゃんは信じてくれるかしら?」

 木槿はゆっくりとけれどもしっかりとうなずいた。

 それを見た蔓穂の瞳がかすかに揺れる。

「ありがとう、木槿ちゃん」

 そんな蔓穂の様子を見た木槿は、今すぐ事情を聞きたかった。けれども今は戦艦桜花は戦場の真っただ中にいる。戦闘員はひとりでも多いほうがいいはず。木槿も花団頭領としていつまでもここにいるわけにはいかなかった。蔓穂と竜胆が確保されたことはこの目で確かめた。次はこのことを木槿自身が総領である穂純に報告しなければならない。

「姉さん、今は立て込んでいるからあとでゆっくりと話を聞かせてね」

「穂純ちゃんが言っていた略奪者たちのことでしょ。もう逃げたりしないから木槿ちゃんは安心して行ってきて」

 真摯な表情でまっすぐに蔓穂の瞳を見返した木槿は今度は力強くうなずき返した。

「わかった。それじゃ行ってきます」

「おう、行って来い」

 初めて口を開いた竜胆の口調も妹を送り出す兄としての明るいものだった。

 木槿は足を止めることなく走る。けれどもあふれてくるものをこらえるようにギュッと胸元を握りしめていた。

「桜様は広場に向かわれたとのことです」

 途中で行き会った伝令係の伝言を守人が木槿へ伝える。二人は方向を修正して穂純がいる広場へと走った。


 一撃離脱を心掛けた作戦は功を奏した。

 海豚は操れても鯱までは手に余っていたようで、敵が吹く攪乱の笛は全く影響を及ぼすことなくこちらへの被害はほとんどないままに完了した。

 反対に穂純たちのほうは敵旗艦の動力源を運よく破壊することができた。これで彼らの足を一時的に止めることができる。

 混乱させて足を緩ませられればいいと考えていたので、むしろ上出来といっていいだろう。

 ある程度敵船団から離れたところで穂純は雀鷹へ尋ねた。

「橘花はどのくらいで到着しそうだ?」

 橘花も軍艦で桜花と同じようにすでに離岸していた。

「もうまもなくだと思うけど……。誰かに確認に行かせましょうか?」

 この聞きかただと雀鷹はすぐには橘花に戻る気はなさそうだ。穂純は心の中でため息をついた。

「そうだな。そうしてくれ」

 雀鷹は二名を名指しして橘花へと向かわせた。

「二人だけか?」

 ほとんどのものがいったん橘花に戻るのだと思っていた穂純は驚いた。折り返して少数が穂純のもとへ報告に現れると思っていたのだ。

 それを聞いた日雀は声をあげて笑った。

「桜兄さんと頭領を置いていくわけにいかないでしょう。どのみち頭領が素直に帰ると思わないし」

 これだけの人間がいながら皆が橘花に帰って総領の穂純を独りにするわけにはいかない。

 しかも穂純も気づいたように、翼団頭領の雀鷹はなかなか穂純から離れようとしない人物だということは皆が知っている。そうなれば少数に様子を見に行かせるのが一番手間がかからないということになる。

 穂純は思わず頭を抱えそうになった。

(それでいいのか翼団……)

 竜王総領の拠点がこれで大丈夫なのかと、穂純は少々心配になった。もちろん三年間一緒にいたのだからそれなりに信頼していることに違いはなかったが、これでよかったのかと思ってしまうことは止められなかった。

 そんな穂純を見かねたのか、やや年嵩のがたいがいい男が声をかけてきた。

「桜様、どのみち私たちはそれぞれ外で動くことが担当のものたちですので橘花に戻ってもさしあたっての仕事がありません。それくらいなら桜様の護衛をしながら、この機会に桜花の新頭領へご挨拶に伺うほうが建設的なのです」

 翼団の頭領がいてそれはないだろうと思いつつも穂純は折れた。

 折れるしかなかった。

「そういうことにしておこう」

 受諾を示すその一言は翼団員に笑顔でもって迎えられた。


 さすがに橘花のものたちを連れて深水がいるであろう鍛冶場にいくわけにはいかないため、穂純はまずは最奥の宿屋へと向かった。

 宿屋通の束ねを務めるこの宿であれば穂純の正体などすでに把握しているであろうから余計な混乱も起きにくいと思われた。

 また深水の店からも近かったこともある。必要があれば容易にそちらへと移動できる場所ということでこの宿が最適だった。

 まずは店主に挨拶し、深水への使いを出してもらった。

 深水はすぐにやってきた。

「桜様、ご無事でなによりです」

「ああ、海豚や鯱に関しては俺たちほどの使い手ではなかったからな。多少傷を負った鯱もいるが、人間側には被害はない」

「それはようございました。して、こちらのおかたがたは橘花の翼団とお見受けいたしますが……」

「さすがだな。そのとおりだ」

 穂純は雀鷹を振り返った。

「雀鷹、こちらが当代の島長の深水だ」

 次に深水に雀鷹たちのことを紹介して本題に入った。

「さて深水。武器のほうはどの程度できた? 追加注文していた刀はどうなっている?」

「それはすでに仕上がっております」

 深水は控えのものに言って取りに行かせた。

 そのあいだに穂純たちにもおにぎりがふるまわれ、ひと時の休息を得た。

 ちょうどいい頃合いに持ってこられた刀を穂純が鞘から抜き放てば、雀鷹が感嘆の声を上げた。

「斬鋼刀じゃない。私も欲しいわね」

「落ち着いたら鍛えてもらえ」

 子供のように目を輝かせる雀鷹に苦笑しながら穂純がたしなめる。

 そんな二人のやりとりに皆がふと笑みをこぼしたその時、桜花が大きな音を響かせながら震えた。

「大砲か!」

 穂純は深水たちに引き続き武器の製造を指示すると、雀鷹たちを促した。

「俺は樒のところへ行ってくる。雀鷹たちも一緒に来い」

「もちろんどこへでもついていくさ」

 楽しげに返す雀鷹を一瞥した穂純は。

「おまえ、本当に楽しそうだな」

 いかにもあきれ果てたように言った穂純の嫌味も雀鷹には通じなかった。

「あたりまえでしょ。私は翼団の頭領よ。そもそも戦いが楽しくないものは翼団どころか橘花にすらいないわ」

 実際戦いを厭うものはほかの要塞島へと移動している。

 猿島や友ヶ島は自然島であることを生かして、それぞれ衣料や食料に特化した島となっている。だからこそ橘花の翼団が交代で護衛にあたっているのだ。

 凱旋中の鯱の上で男が言った『外で動くことが担当のものたち』とはそうした猿島や友ヶ島、さらには大陸竜へと出て武人として武力を提供する者たちのことで、彼らはそれで金銭を得ている。まさに上位の狩人といった感じの役目をこなしていた。

 だからこその雀鷹のこの発言となる。

 翼団では花団以上に頭領の条件に武人としての技量が求められる。血は一切関係がない。五年おきにおこなわれる頭領の選考会には二十歳になってある条件を満たせば翼団員の誰もが参加できた。

 ある条件とは大陸竜で恐竜一頭を独りで倒すことだ。

 雀鷹は二十歳になってすぐに竜へと渡り指定の恐竜を倒した。その後おこなわれた選考会にて優勝したからこそ今の頭領の地位にある。

 任期は五年。選考会へは何度でも出場できるため勝ち続ければずっと頭領の位置にいられる。しかし負ければまた一団員に逆戻りだ。

 優勝者が頭領。準優勝者が副頭領。そして頭領が指名した翼団員一名を二人目の副頭領に据えることができる。これが橘花翼団での常識だった。

 そして日雀は雀鷹から指名を受けた副頭領のため、まだ二十歳にはなっていない。準優勝者だった副頭領は今頃軍艦橘花で指示を出していることだろう。

 それほどまでに戦いが好きな者たちの集まりの頂点なのだから、この雀鷹の返答は当然であったのだが、そうでない穂純にはいつまでたっても慣れない感覚であった。

 そんなことをやりとりしながら走り続けた一行は広場で第二弾の弾込めを指示している樒のもとへとたどり着いた。

「樒、どうした」

 樒は無駄な挨拶を省いて簡潔に答えた。

「敵が海豚に乗ってやってきました」

 海へと視線を移せば、なるほどたくさんの海豚に乗った者たちが桜花へと向かってきていた。

「あいつら船を捨てたな」

「樒。皆に武器を持つように指示しろ。鍛冶屋へ仕上がった武器を早々に配るように伝えるんだ」

 穂純が直接命令を下すよりも、花団副頭領である樒が桜花島民および花団員へ命じたほうがはるかに従うものが多そうだと判断した。

 樒もそのことは理解しているようで、即座に言われたとおりに指示を出す。

 そこへ木槿がやってきた。

「穂づ……総領、蔓穂と竜胆を捕らえました」

 こちらも簡潔に要点だけを伝える。木槿も先ほどの音と振動で大砲が撃たれたことくらいは気づいていた。その意味も。

「わかった。彼女らについては追って沙汰する。今は目の前の敵だ。今樒をとおして指示を出したところだが、皆に武器の携帯を命じた。花団は総力を挙げて敵の乗艦を阻止せよ」

 その様子を見ていた雀鷹が口をはさむ。

「桜様、そちらが?」

「ああそうだ。花団頭領木槿と、副頭領の樒だ」

 穂純が二人を紹介すると、雀鷹は自ら自己紹介をした。

「私は橘花の翼団頭領雀鷹、これが二の副頭領日雀。そしてうちの団員たちよ。よろしく」

 差し出した雀鷹の手を木槿がとって握手を交わす。

 挨拶を終えた両頭領へと穂純が命令を下す。

「俺と翼団はまた鯱で出ていく。だから大砲は敵が射程距離に入ってきたときにもう一度だけ撃て。あとは敵船が来るまでは控えろ」

 そのあとは白兵戦に備えて武器を所持した者から外周を囲んで桜花への乗艦を阻止するようにと木槿たちに命じた。

 そのあたりの細かいことは補佐についた伝令使の青年がうまくやるだろう。穂純が視線を向ければ、青年は軽くうなずき了承の意を示した。

「行くぞ、雀鷹」

「待って! 私も行くわ」

 翼団を促す穂純に待ったをかけたのは木槿だった。

「木槿は鯱には乗れないだろう」

「海豚なら乗れるわ。それに海豚のほうが小回りが効くから補佐に適しているわ」

 しばしためらったものの、結局は穂純が折れた。花団の頭領として木槿にも意地があるゆえだと考えたからだ。

「わかった。それじゃ桜花のことは任せた」

 前半は木槿に向けて。後半は樒に向けて言い放った穂純は、直後には走りだした。

 即座に対応した翼団員が続き、一瞬遅れて木槿が追いかけた。

 一応木槿の海豚もそばに呼んでいたため、すぐに姿を見せた。

「いいか、木槿。敵は海豚を操る笛をもっている。音は違うが同じ海豚なら惑わされる危険性がじゅうぶんある。気を付けろ」

 鯱に乗りこむ寸前に穂純は木槿に最後の忠告をする。

 その様子を見て雀鷹が嗤う。

「桜様、過保護ね。新米とはいえ仮にも花団頭領を名乗っているんだから自分でどうにかできるわよ」

「おまえたちと一緒にするな」

「あら、同じよ。これから同じ戦場に行くんだから」

 諭すような口調になった雀鷹。事実穂純を諭すために言ったのだと気づく。

「悪かった」

 素直に謝った穂純に対して、雀鷹がさらに言葉をつづった。

「どれだけ大事な女か知らないけど、私たちの前であからさまなひいきをするのはやめてちょうだいね。今のあなたは竜王総領として立っているのだということを忘れないでね」

 助言に感謝しながらしっかりと雀鷹の目を見返しながらうなずいた穂純を見て、雀鷹はいつもの顔に戻る。

「じゃあ行くわよ。花団の頭領に翼団の戦いを見せてあげなさい!」

 士気を鼓舞するような台詞で締めた雀鷹は真っ先に出撃した。

 桜花から離れた穂純たちはいったん後方で終結した。

「次に大砲が撃たれたら、それを合図にいっせいに進撃する」

 大砲を撃ち放ったとしても海豚に乗った敵には早々あたるものではない。せいぜい海豚を驚かせるくらいのことだ。

 それでもなお撃てと命じたのは、穂純たちの出撃の合図とするためと、敵の進行速度を弱めると同時におおよその位置を把握するためだった。

「二組に分かれて左右から行く。今ここで組み分けをしておけ」

 もうまもなく合図があるはず。翼団員たちは慣れたものでさしたる時間をかけずに二手に分かれた。

「木槿は俺の組の最後尾からついてこい」

 海豚に乗っているのは木槿ただ一人。鯱の中に混ざっていると海豚が怖がって命令を聞かなくなることがある。それにもともと補助として同行を許可したのだからそこは従わざるを得なかった。

「わかったわ」

 木槿は素直に従った。

 もう一方の組は当然雀鷹が率いる。

「雀鷹、細かいことは戦い慣れているおまえたち翼団に任せる。まあ要するに片っ端から敵を薙ぎ払えばいいってことだ」

 この穂純の一言はずいぶんとお気に召したらしい。

 雀鷹をはじめとして翼団一行の目の輝きが一段と増し凄絶ともいえるほどの笑みを浮かべた。

(まったく、こいつらは……)

 思わず零れ落ちそうになったため息を、穂純は必死にこらえた。



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