表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
98/136

Side-O 正義の勝者


「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


 幻術で生成した百体の俺が一斉に“黒焔”を放つ。

 アルベルトの“超重力場ネオ・グラビティ・フィールド”の影響によって速度は落ちるが、それでも地面を焦がしながら着実に彼に迫る。


 さすがにこれだけの「俺」がいれば幻術だとわかったか、はたまた聖剣の権能によって俺の思考を読んだか、彼はこちらに目を向け剣を構えた。



「――“光槍点描(こうそうてんびょう)”・【(かがやき)】」


 膨大な量の光が聖剣に集う。光を纏って巨大な槍と化した聖剣を手に、アルベルトが光の速度で迫り来る。

 “黒焔”を放射し続けなんとか光を減衰させようとするが完全に威力負けしている。ならばと俺はアルベルトの聖剣を手のひらで受け止めた。

 当然剣は手のひらを貫く。だがそれ以上進むことはできずに止まった。

 すかさず俺は反対の手でアルベルトの手首を掴む。


 これで逃げられることもない。



「枷をはめられようと、重力魔法で動きを鈍らせられようと、捕まえてしまえば関係ない」


 アルベルトの手首を掴んでいる方の手に黒い焔を灯らせる。刹那、彼の意識がそちらに向いた隙をついて俺は彼のあごを蹴り上げた。



「ぐっ……」


 かすかに聖剣を握る力が緩んだのを見逃さず手のひらから聖剣を引き抜く。そうして血濡れた手に黒い火の粉で魔法陣を描いた。



「――“死燦槍黒焔シュヴァルツ・イレイア”」


「!!」


 濃密な死の焔が槍状に放射される。

 アルベルトの脳天めがけて放たれたそれは彼を傷つけることはしなかったが、白い粒子を散らしながら後方の木々を消しとばした。


 首を傾けて回避したアルベルトがおもむろに口を開く。



「恐るべき威力ですね……」


「まだ終わりじゃないぞ」


 俺の手を引き剥がそうとするアルベルトの眉間に頭突きをかます。バキッと鈍い音が響き彼の眼鏡が粉々になった。



「手足と違って頭は割と自由に動かせるんだな」


「……確かに“光の枷”ははめてないとは言え……“超重力場ネオ・グラビティ・フィールド”の影響下でこれほど動かれるとは……」


「そら、もう一発いくぞ」


「舐めないでいただきたい」


 俺の拘束を解いた彼は後ろに下がって頭突きを躱す。


 ようやく捕まえたと思ったんだが距離を取られてしまったか。ならこれはどうだ。


 懐に転移魔法陣を描き、アルベルトのうなじ付近へあるものを送る。すぐさま反応したアルベルトはその“もの”を切り裂いた。



「思考を読むと言っていたが、細かいところまでは読めないようだな」


 “もの”の正体に気づいた彼はすぐさま息を止める。だがわずかに間に合わなかった。

 ふらっと彼の身体がよろめいた。



「即効性の睡眠薬だ。じきに目も開けていられなくなるだろうが……ここで油断して痛い目にあったしな」


 今度は手元に四重の転移魔法陣を描く。



「――“四閻黒焔カトリエム・シュヴァルツ・フォイヤー”」


 四門の砲口がアルベルトに狙いを定める。聖剣を振るってそれらを破壊したアルベルトだったが、睡眠薬によって脳の働きを鈍らされているため一つだけ切り損ねた。

 “黒焔”が彼の全身を焼き尽くす。


 たたらを踏んだ彼はしかし鋭い眼光でこちらを睨みつけた。



「今のは効きました。おかげで目も覚めましたよ」


「そうか」


 聖剣に魔力を込めるのを気にもとめず俺は地面に手を添える。聖剣に貫かれた傷口からじわりと血が地面に染み込むと、アルベルトの足元からボロボロの腕が現れて彼の足首をつかんだ。

 これまたすぐに彼は反応して朽ち果てた腕を切り落としたが、俺は転移で彼に肉薄した。



「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


「甘い」


 身をかがめて“黒焔”を避けた彼は二本目の剣を抜く。

 回避も転移も間に合わず俺の腹が浅く斬られる。


 飾りなのかと思っていたが違ったか。


 休むことなく振り下ろされた聖剣エクスクライシスを白刃どりで受け止め、二本目の剣は身体を硬質化して最小限の傷に抑える。しかし浅いはずの傷口からドッとおびただしい血が溢れた。

 間合いの内にいては危険と判断し、一旦転移にて距離を取る。



「もしやとは思うがそれも聖剣か?」


「はい。【()国光(こくこう)】エンドカリバー。使用者には祝福を、敵対する者には裁きを与える聖剣です」


 なるほど、彼がそう言えば“黒焔”によって焼かれた皮膚が光に包まれて再生していくではないか。“祝福”とやらはハッタリではなさそうだ。

 浅かったはずの俺の傷口から血が溢れたのも“裁き”とやらだろう。



「切り札と見ていいのか?」


「教える義理はありません」


「ごもっともだ。まあ言わずともわかるがな」


 それには答えずにアルベルトは光の速度で俺に迫った。



「ふっ」


 二筋の光は空を切った。

 アルベルトの目が微かに見開かれる。極限まで姿勢を低くした俺が足を払い、彼の体勢を崩したのだ。


 突然目の前から姿が消えれば当然反応などできるはずもない。



「……“光の枷”を壊しましたか」


「ああ。時間はかかったが内側から少しずつ溶かしたよ。それに二本目の聖剣を抜いたからか知らないが“超重力場ネオ・グラビティ・フィールド”の効果も薄くなってきているぞ」


「必要ないと判断したからかもしれません」


 体勢を整え、再び彼は光となった。

 二本の刃が首筋に迫る。皮まであと数ミリ、というところでアルベルトの動きが不自然に鈍くなった。



「!?」


 俺の死霊術によって半実体化した浮遊霊が彼の腕を抑えたのだ。

 ゆるりと聖剣を避けて彼の背後に回る。



「エンドカリバーの祝福によって死にはしないだろう」


 黒い焔が魔法陣を形作った。



「――“死燦槍黒焔シュヴァルツ・イレイア”」


 死の焔を避けれぬよう浮遊霊や地縛霊などありとあらゆる霊の力を借りてアルベルトの動きを封じる。

 それでも彼は何とか腕だけは動かし、“死燦槍黒焔シュヴァルツ・イレイア”に抵抗した。



「――“()(じん)(こう)(じん)(へき)”」


 光の刃にて形成された壁が死の焔を受け止める。しかし防いだのもつかの間、すぐに壁は破られた。

 黒い槍がアルベルトを貫き、彼の魂の一部を削る。彼の周囲に血飛沫と共に白い霊子が飛び散った。



「がはっ……」


「まだだ。 ――“死黒焔珠シュヴァルツ・クライノート”」


 攻勢に転じたチャンスを逃さぬよう一気に畳み掛ける。

 俺は彼の体内に凝縮した“黒焔”の玉を打ち込む。“死燦槍黒焔シュヴァルツ・イレイア”で穿うがった彼の身体は聖剣の権能によって再生するが、穴が塞がる前に打ち込まれた黒球が彼の体内で荒れ狂う。



「…………このまま……やられるわけには……!」


 アルベルトの魔力が脹れ上がった。

 エクスクライシスを捨て、彼はエンドカリバーを構える。



「この戦いに終止符を打つ最後の一手。

 ……――“画竜点睛”」


 パッと周囲の景色が白くなり、俺の身体に墨で描かれた龍の文様が浮かんだ。次の瞬間、龍の瞳が輝き元の景色に戻った。

 目線を落としてやれば俺の胸に聖剣が突き刺さっていた。



「苦戦はしましたが自分の勝ちです。よって正義は勝者である此方こちらに」


 聖剣を抜こうとしたアルベルトの顔面を鷲掴みする。



「馬鹿……な……。まだ動け――」


「残念だったな」


 手のひらに焔を灯らせながら俺は言う。



「推測だが“画竜点睛”は相手の命を刈る技だろう。一点の迷いもなければ俺の命も奪えたはずだ。だがお前の心にわずかな迷いが生じた。『弟、そして妹の友の命を奪っていいものか』と」


「…………そんなはずは……」


「ない、のだとすれば俺は今頃喋ってはいない」


 アルベルトがかすかに歯を食いしばった。



「迷いが生じたことで狙いが外れ、俺を討つことができなかった。これが現実だ」


 彼を掴んだまま俺は“黒焔”を解き放った。



「俺の勝ちだ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ