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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
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Side-L 水の刀、竜の剣


「っく……あのエロオヤジよくもやってくれたわね……」


 勇者養成学園の長・キリスの自爆によって全身に火傷を負ったルナが息も絶え絶え歩いていた。

 兄オラク謹製の魔法薬を塗りたくって応急措置はしたものの痛みが引く気配はない。


 しばらく歩いていると、彼女の前方から戦闘音が聞こえてきた。



「3、4……5人?」


 漂ってくる魔力の種類から人数を割り出した彼女は気配を絶って戦闘地点へ近づく。



「っ!!」


 木陰から様子を伺ったルナは思わず息を飲む。そこには地面にひれ伏す四名の協会員と、凛々しく佇む一人の女性の姿があった。


 直接対峙したことはない。しかしルナは瞬時にその者の正体を悟った。

 太陽の光を反射する黄金の髪に意志の強そうな白銀の瞳。どこかオリビアやライトの面影を感じさせる風貌から察するに、彼女は二人の姉であるユリア・ドラゴニカに違いない。


 逡巡もせずルナはユリアの正面に躍り出た。



「あんたライトのお姉ちゃんでしょ」


「……む?」


「アタシは【宵の月】ルナ・ジクロロ・サタン。あんたに勝負を挑むわ!」


「ほう、東の魔王軍の四天王か。人間界までご足労なことだ」


 抜き身の刀を鞘に納めたユリアは髪を払う。



「【清明】のユリア・ドラゴニカだ」


「あんた以前アタシのお兄ちゃんを酷い目に合わせたわよね。その恨み、ここで晴らす!」


「っははははは! 面白い、受けて立とう。見るところ満身創痍のようだが手加減はしないぞ!」


 ルナは地面を蹴り、ユリアは刀の柄を握る。


 先に攻撃を仕掛けたのはユリアだった。



「――“明鏡止水”」


 辺りから一切の音が消え、一滴の雫が垂れる音が聞こえる。次の瞬間神速の居合が放たれた。

 激戦を終え疲労が溜まっているルナには反応しきれなかったが、しかし肌を硬質化して斬撃を弾いた。



「あんたの戦闘スタイルは聞いてる。常時“金剛力”発動よ!」


 言いながら彼女は拳を突き出す。ユリアは半身になってそれを躱して刀を突き出したが、やはり刃は通らなかった。



「くくはははっ、やるな【宵の月】。ならばこれでどうだ?」


 刀を頭上に放り投げ、ユリアはルナの胸ぐらをつかむ。一連の流れで足をかけるとそのままルナを背負い投げした。



「がっ!?」


 ルナの視界に星が瞬く。

 彼女が平衡感覚を失っているうちにユリアは落下してきた刀をつかんだ。



「――“波紋三文字”」


 ガガガッと鈍い音が響く。“金剛力”の抵抗を受けながらもユリアの刀はルナの身体に浅い傷を負わせた。

 その痛みにルナは一瞬歯を食いしばるも、すぐさま反撃した。



「はあっ!!」


「ふっ!」


 拳と刀がぶつかり、本来鳴るはずもない金属音が木霊こだまする。



「あんたなんか一瞬で片付けてやるんだから!」


「くっくっく、できるものならやってみろ」


「――“月光姫”!!!!」


 叫んだ彼女の足元から光の柱が天に伸びた。光が収まるとルナの全身が白銀のオーラに包まれていた。


 そんな彼女を見てユリアは微笑む。



「美しいな。これが“月光姫”か」


「何よ、この魔法を知ってるの?」


「ああ知っているとも。以前その魔法の前に散った我が弟から話は聞いている」


「弟……?」


「くっくっく、記憶にも残らないとは相変わらず滑稽な弟だ。オーガ・ドラゴニカだよ、覚えていないか?」


 しばらくピンときていなかったルナだったが、しばらくしてその名前を思い出した。



「ああ!! あの男ね! 弱すぎて忘れてたわ」


「っはははははははは! お前は本当に面白いな」


 笑いつつユリアは刀を地面に突き刺した。



「オーガによれば“月光姫”は触れた魔法を打ち消す効果があるとか。もっとも月の出ていないこの時間にどこまでの力を発揮できるかはわからないが、油断はできない」


「ふーん。で? 何が言いたいわけ?」


「『触れた魔法を打ち消す』ということは魔法の発動自体を防げるわけではないというわけだ。つまり――」


 言葉の途中で地面に刺さった刀から大量の水が湧き出てきた。

 意思を持っているかのように蠢く水は魔法陣を形成し、鉄刀が魔法陣に沈んだ。



「何をするつもりかわからないけどさせないわ!」


「もう遅い」


 逆流する瀑布のようにドッと水が噴き出す。



「――来い、【水竜刀】」


 ユリアに襲いかかったルナの正中線に藍色の跡が刻まれる。

 頭の回転が追いつかないままルナは静かに倒れた。



「今の魔法陣はこの魔刀、【水竜刀】アスハローランの召喚魔法陣。そしてお前は私の斬撃に沈んだというわけだ」


「……斬……撃…………」


「拳にさえ触れなければ刀の魔力が消されることもない。“金剛力”を解いたのは失敗だったな」


 ギリリとルナは歯を食いしばる。



「まだ……ここで倒れるわけには……!」


「くっくっく、見上げた根性だ。手負いの状態で当たったことが悔やまれる。またいつか、今度は万全の状態で挑んでくることだ」


「っ! 待ちなさいよ……!」


 必死に伸ばした手がユリアに届くことはなかった。しかし――



「……これはこれは。小娘の戦闘も無駄ではなかったということか」


 ――何者かを正面に捉えたユリアは足を止めた。



「魔力の乱れを感じて来てみれば、こんな状況だったとはね。ユリア姉さん一人にこちらの戦力を半分も削られたってことか」


「ら、ライト……?」


 ルナが視線を移すとそこには金髪の少年が立っていた。



「ライト、お前のところには協会の同僚を向かわせたはずだが?」


「眠らせて来たよ。とんでもなく時間は食ったけどなんとか間に合ったみたいだ」


「くはは、大層自信を持っていたから向かわせたが結局は無力化させられたか。だがまあ時間を稼いでくれただけよしとしよう」


 鼻で笑ったライトはルナを見やった。



「少し離れていてくれないかな。他の協会員たちはもうどけたから、君もそっちに行っててもらえると助かる」


 ライトが指差した方を見ると、4人の協会員たちが木の根元に寝かされていた。

 言い返したい気持ちをグッとこらえ、ルナはか細い声を絞り出した。



「…………わかったわよ」


 ふらふらと退避して行ったルナを見届けたライトは姉・ユリアを見据える。



「さて、ここからは僕が相手だ」



 ◆ ◆ ◆



 余裕の笑みを浮かべたユリア姉さんがくつくつと喉を鳴らした。



「少しはオリビア以外に対する思いやりを覚えたようだな」


「何がそんなに面白いのさ」


「なに、弟の成長を喜んでいるだけではないか」


「あっそ」


 相変わらず人を食ったように笑う姉には取り合わず、僕は魔剣ディバイドを抜く。

 既にユリア姉さんは魔刀を握っている。少しでも油断すれば切り裂かれるだろう。



「さて、精神面での成長だけではなく技術面での成長も見せてもらおう」


「言われなくても見せてあげる――よっ!」


 一瞬で肉薄した僕は魔剣を振り抜く。確実に両腕を斬るつもりで振るわれた剣はしかし衣服を切り裂いただけで姉さんの身体に届くことはなかった。

 超人的な見切りによって回避したのだ。


 姉さんは最小限の所作で僕の空いた脇へ魔刀を振るう。その動きに合わせるように僕も横へ飛んで傷を負うことを防いだ。



「くくはははっ、お前も見切りの技術を身につけたか」


「当然。それよりユリア姉さんはいつもみたいに鎧を着てないけどいいの?」


「格下の相手しかいないのであれば身につけるがな。今回はお前とオリビアがいる。鎧などおもりにしかならん」


「オラクのことは考慮しないんだ」


「魔王の力量はもう見切った。警戒すべきは長いこと手合わせをしていなかったお前とオリビアだけだ」


「なるほどね。でも鎧をつけていなかったら防御に不安が出そうなものだけど」


「心配には及ばんさ。――“波紋三文字”!」


 揺らいだ刀身が三本の刀身となり襲いかかってきた。剣を盾にかろうじて防いだが体勢が崩れる。



「――“水脈円環”」


「――“閃光輪華”!」


 甲高い音を響かせて互いの刀身が火花を散らす。



「今のは危なかったよ。僕の剣を力づくで弾くなんて馬鹿げた腕力だ」


「ライトこそ、さすがは“竜伐者(ドラゴンスレイヤー)”と言うべきか?」


 姉さんはニヤリと笑う。


 僕が“竜伐者(ドラゴンスレイヤー)”だってことユリア姉さんも知っていたんだ。



「もったいぶらずに本気を見せてみろ」


「仕方ないな。後悔しても知らないからね。……【分裂剣】」


 銘を呼び、その能力によってディバイドを複製する。

 二本の魔剣を握りしめた僕は闇色の魔力を込めて無数の剣閃を刻んだ。尾を引いた剣閃は重なり合い、二本の長大な刃と化す。



「――“闇竜双葬斬ダークネス・ナトルウォス”」


 

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