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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
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Side-O 【義勇】


 上空を飛び続けること数分、ようやく俺は目標を発見した。

 驚いたことに一人で佇んでいた王政側の大将の正面へ降り立つ。



「やっと見つけたぞ」


 死霊術を解いた俺は敵方の大将――アルベルト・ヒッグス・ドラゴニカへ目を向けた。



「予想していたより早かったですね。ユリアとは衝突を回避しましたか」


「こちらは空を飛んでいたからな」


「なるほど」


 頷いた彼は腰から一振りの剣を抜いた。

 腰には二本差さっているがもう一方は使わないのだろうか。



「改めて名乗っておきます。エントポリス王国国王、アルベルト・ヒッグス・ドラゴニカです。与えられた二つ名は【義勇】」


「【東の魔王】オラク・ジエチル・マンムート・サタンだ」


貴方あなたとは幾度となく顔を合わせてきましたが、こうして戦うのは初めてですね」


「そうだな。正直驚いたよ、お前がライトとオリビアと敵対することになって」


「意外でしたか?」


「ああ。お前はあの二人に対して少なからず兄弟の情を抱いていたはずだ。ライトはお前のことを冷酷な男と思い込んでいるようだが、俺の目にはそうは映らなかった」


「思い違いでしょう。仮に二人のことを思っていたとしても国王となったいま身内贔屓はできません」


 それは為政者としての本心だろう。アルベルトは国王となってから国民のための政策を実行してきた。たとえ相手が貴族であろうとも不公平をもたらす者には容赦なかった。

 だが本当にそれだけだろうか。為政者としての信念がある一方で家族への思いも残っているはずだ。


 国と家族、あるいは正義と愛の狭間で揺れているように思える。



「協会は騎士団に統合する。これは決定事項なのです」


「そこは俺の関与するところではないからどちらでもいいけどな。友に力添えする。それだけだ」


 言って、両の手に黒い炎を灯らせて臨戦態勢をとる。



「確かに貴方には関係のないことでしたね。失礼いたしました」


 眼鏡に触れてからアルベルトも神経を研ぎ澄ませる。



「勝者が正しいとされるのが世の常。この試合に勝利し此方こちらの言い分が正しいことを証明しましょう」


 ふと音もなく彼の姿が消えた。

 転移ではない。目では捉えきれぬほどの速さで移動したのだ。


 とっさに交差した俺の腕に剣が突き刺さった。



「……貫くつもりだったのですが。硬質化ですか」


「簡易的なものだがな」


 骨に達したところで止まった剣を押し返す。



「ところでその剣、どこかで見た覚えがあるんだが」


「隠すことでもないのでお教えします。この世に二振りだけ存在する聖剣のうちの一つ、【選別者】エクスクライシス」


 銘を聞いて思い出した。以前ライトに連れられ勇者養成学園へ行った時に見たものだ。確かこの剣を握って剣身が輝けば、その者には勇者の素質があるとか。


 そんなことを考えていると聖剣は眩い光を発した。


 これはつまり、アルベルトに勇者の素質があるということだろう。



「あるいは正式に勇者として認められたか?」


「いいえ。勇者という称号にはなんの価値もございません。ただし聖剣の権能には大きな価値があるため国王の名を用いて貸していただいた次第です」


「なるほどな。ならば聖剣の力を見せてもらおうじゃないか」


 両手を構え、炎を打ち出す。



「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


「――“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”」


 異種の炎が激突し黒煙が上がる。


 この魔法ライトもオリビアも使っていたな。ドラゴニカ家の兄弟は皆使えるのだろうか。



「“陽炎身の術”」


 その場に魔力の塊を残した俺は煙に紛れてアルベルトの背後に回る。

 “黒焔”を灯らせたまま俺は彼めがけて飛び込んだ。否、飛び込もうとした(・・・・・・・・)



「――“閃光一文字”・【斬光】」


「なっ!?」


 迷いの欠片もない斬撃が飛んできたのだ。

 斬撃自体は肘打ちで粉砕したものの、こちらの位置に気づいていたことに驚く。


 “陽炎身の術”に騙されなかったということだが……まさか初見でここまで通用しないとは思わなかった。偶然ではあるまいし。



「考え事をしている余裕がありますか?

 ――“光槍点描(こうそうてんびょう)”」


 アルベルトが一条の光となった。気づいたときには聖剣が腹に刺さっていた。



「くっ……――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”!」


 彼の顔面に焔を打ち込もうとするも光のごとき素早さを以って距離を取られる。

 攻防どちらにおいてもこの速度。厄介だ。



「――“閃光一文字”」


「ふっ!」


 両目に霊力と魔力を集わせて視力を底上げする。

 そうしてアルベルトの姿を捉えた俺は聖剣を鷲掴みにして斬撃を防いだ。



「……微動だにしない……。これが魔王の腕力ですか」


 聖剣を掴まれていては退こうにも退けない。

 好機と捉えた俺は再び“黒焔”を打ち込む。



「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


 聖剣とアルベルトが黒い焔に呑まれる。と思えば、聖剣から猛々しい炎が吹き出した。



「――“豪炎剣”」


 逆巻く炎が“黒焔”を打ち消し俺の身に迫る。

 指を焼かれた俺はいったん距離を取った。


 ただの聖剣というだけでも剣に触れるのがはばかられるというのにますます触れがたくなってしまったな。



「一見ただの炎を纏わせただけに思えるが、相当な密度だ。その分長くは持たないと見た」


「さて、どうでしょうか」


 予備動作もなく彼は再び光となる。俺も地面を蹴り彼に劣らぬ速度で対抗する。

 “黒焔装”を発動し“豪炎剣”に掻き消されぬ鎧を纏い、聖剣と打ち合う。


 十合、二十合と打ち合ううちに聖剣(エクスクライシス)の炎が弱まってきた。

 元々聖剣に炎の魔力は調和しないのだろう。やはり光の魔力が最も相性が良さそうだ。



「――“光のかせ”」


 間近でせり合っている最中アルベルトが腕を振るった。すると俺の手首足首に枷がはめられた。

 枷がはめられたことを確かめたアルベルトは数歩距離を取る。



「――“光槍点描”・【無謬(むびゅう)】」


 ヒュッとアルベルトが剣を振るうと無数の光の槍が襲いかかってきた。飛んで避けようとするも枷がおもりとなって俊敏な動きが取れない。

 仕方なく俺は全身を“黒焔”で覆い衝撃を和らげることにした。


 結果槍の奔流には耐えることができたが――



「――“閃光一文字”・【無音踏破(むいんとうは)】」


 ――音もなく脇腹を切り裂かれた。


 “光槍点描”を打ち終えたアルベルトが神速の一撃を繰り出したのだ。

 斬りつけつつ俺の後方に回ったアルベルトへ向き直る。



「ライトがよく使う技の派生……。兄弟だけあって同じ技を使えるんだな」


「“閃光一文字”は自分がライトに仕込んだものですから」


 淡々と答えつつ彼は油断なく構える。

 なかなかどうして骨が折れる相手だ。



「“光の枷”は速く動こうとするほど重さが増します。もはや貴方はこちらの速度に対抗できない」


「どうだろうな」


「転移しても同じこと。この聖剣エクスクライシスは斬りつけた相手の思考を読みます。思考の裏をかくこともできず、思考が間に合わぬほどの速度で動くこともできない。この絶体絶命の状況でどう動きますか?」


 なるほど、先ほど“陽炎身の術”で虚をついたはずがこちらの位置を読まれていたのにはそういうカラクリがあったのか。聖剣の名は伊達じゃないな。



「思考せず、動かなければいいだけだ」


 自分を奮い立たせるために口の端で笑った俺は幻術を起動する。



「持てる全ての力で捩じ伏せる」


「微塵も負ける気はないようですね。魔王の称号は伊達ではないようだ」


 互いに睨み合い、次の一手に出る。



「“百鬼夜行ひゃっきやぎょう”」


「――“超重力場ネオ・グラビティ・フィールド”」


 

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