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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
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Side-L 猛進する【獅子】

 前回予約投稿日の設定を誤り中途半端な形で投稿してしまったので、大幅に加筆・修正しました。前話を更新直後(4月7日)にご覧になった方は、お手数ですがもう一度ご覧いただけましたら幸いです。


 Sランクの人たちとの話し合いを終え、いよいよ試合当日になった。オラクを含む僕たち中枢魔法協会セントラル側の者たちは、今回の戦いの場であるエーテ湖のほとりに集結していた。



「姉さん、調子はどう?」


 話し合いの輪から外れ、一人集中力を高めていた姉さんに声をかける。



「姉さん?」


「……えっ? ごめんなさいライト、何か言いました?」


「いや……大丈夫? どこか調子悪い?」


「大丈夫ですよ、心配しないで下さい」


 姉さんは気丈に微笑んだが、どこか不自然な笑みに思える。



「きっと緊張しているんだろう。そっとしておいてやれ」


 背後からオラクが現れ僕の肩を掴んだ。


 『緊張』……? 姉さんに限ってそんなことあるだろうか。でもそれ以外に説明のしようもないし。

 珍しいこともあるものだ。 



「あんたこそ調子はどうなのよ」


 僕が首をひねっていると、ひょこっとルナが顔を覗かせた。


 彼女も今回、中枢魔法協会セントラル側の助っ人として参戦することになっている。セラフィスやドルトン、それにハルバードらの扱う武器はどれも殺傷力が高い。ゆえにルナの戦闘スタイルが最適だろうということで、オラクが協会セントラルの人に推薦したのだ。



「僕はいつでも絶好調だよ」


「ふーん、つまんないの」


「つまんないって……。何なんだ君は」


 くだらない話をしていると、今回大将を務めることになる協会セントラルのSランカーが近づいてきた。



「ねーねーねーねー、みんなおはよー」


 ピョンピョン跳ねて目線を合わせようとする彼女の無垢な姿に自然と皆の頬が緩む。



「おはようございます実務長。今日も元気そうですね」


「んー。ライトちゃんも元気そうだね」


 この場にいる誰よりも背の低い彼女の年齢は20代後半だったか。少なくとも姉さんより歳上だったことは確かだ。

 彼女は癖のある若菜色の髪を揺らしてオラクに向き直る。



「【東の魔王】ちゃん、今日はよろしくね」


「ああ。重ねて言うようだが、本当に魔族の俺が協力しても大丈夫なんだな?」


「だいじょぶだよー。今は【東の魔王】ちゃんの手配書も取り下げられたしね。それに試合の様子は魔法放送で放映されるけど、一応幻術をかけるから」


「そういうことなら心置きなく戦わせてもらおう」


 オラクが確認を終えると、魔法放送が聞こえてきた。



『双方、大将は中央に集まってください』


 もう間もなくか。

 僕は表情を引き締め集中力を高める。



「呼ばれたからちょっと行ってくるねー」


 微塵も緊張を感じさせず、Sランクの彼女は魔法陣を描き、光の粒となった。


 しばらくして上空に二人の顔が投影される。互いの大将の顔だ。

 向こう側に映し出されたのはアルベルト兄さんの無機質な顔だ。



「金髪眼鏡自ら試合に参加するとはな」


「あんまり戦いの場には姿を見せないからね。僕も予想してなかったよ」


 互いの陣営は事前には公表されない。試合当日に大将だけ明らかになる規約だ。だから参加する面子から大将を予測するのが不可能だったわけだ。


 少しして協会方の陣地に大将が戻ってきた。



「みんなー、作戦どおりに動いてね」


 大将の言葉に皆一様に頷く。



「ぜったいに、みんなの大好きな中枢魔法協会セントラルの存続を勝ち取るよ」


 彼女が剣を天に掲げると、協会員はそれに倣い、剣あるいは拳を掲げた。


 湖畔の周囲に巨大な結界が展開され、やがて案内人の声が響く。



『開始前に勝利条件の確認です。先に相手方の大将を倒した陣営が勝利となります。エントポリス王国の名に恥じぬよう、立派な試合を心掛けてください。

 それでは“直訴試合”、開始です』


 瞬間、湖の反対側で火の手が上がった。魔力場が不安定な上、遠すぎて魔力を探れないけれど、あの色はおそらくオーガ兄さんの炎だ。

 僕がのんびりしてる間にも味方は各々散っていった。



「オリビア、無理するなよ」


「はい、大丈夫です」


「何かあったらすぐに俺を呼んでくれ」


「分かりました」


 オラクに声をかけられた姉さんも、不安げな表情を隠しきれないまま転移していった。



「行くよオラク」


「ああ」


 大将に会釈をして僕は背中に翼を顕現させる。そして白い粒子に包まれたオラクと共に飛び上がった。


 今回の作戦は至って単純。『守るな。攻めろ』。

 大将に絶対の自信があり、なおかつ僕たちに実力があるからこその作戦。

 そのうち僕とオラクに与えられた役目は向こう方の主力の索敵と撃破。そのために空へ飛び上がったのだ。



「さっきの炎はオーガ兄さんのものだ。たぶんかかって来いって意味だと思う」


「潰しておくか?」


「無視していこう。オーガ兄さん相手なら、数合わせに参加しているAランカーでも二人がかりで何とか対処できる」


 話しながら進んでいくと湖の中心に浮かぶ島の上空に差し掛かる。

 ふと目線を落とすと、チカチカと光が明滅していた。



「来るよ」


「分かってる」


 次の瞬間、島から極太の炎柱が噴き出した。



「――“竜炎渦ドラゴン・フレイム”」


「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


 橙色の炎に赤黒い炎が激突する。肌を焼くような熱風が吹き荒れ、地上の木々が焼け焦げる。

 十数秒間拮抗していた異種の炎はやがて、魔力場の乱れによって爆散した。



「俺たちが無視しようにも、向こうがそうはいかないみたいだ」


「まったく、オーガ兄さんは何回負ければ気が済むのやら。僕とオラクに敵うわけないのに」


 喋っていると一つの影が島から飛んできた。オーガ兄さんだ。

 橙色に輝くオーラを身に纏い、魔剣を握りしめる兄さんは不敵な笑みを浮かべる。



「ここで会ったが百年目! 今日こそおぇらをぶっ倒す!!」


 僕らより僅かに高い位置まで到達した兄さんは魔剣を高々と掲げる。



「いくぞ【獅炎】! ――“豪炎一文字”!!」


 ボッ、と大気が割れた。

 咄嗟に身を捻って回避する。振り返ると、兄さんの魔剣・【獅炎】の通った剣筋が轟々と燃え上がっていた。



「へえ、やるじゃん」


「ったりめぇだ! 二度とライトに負けねえように鍛えてきたんだ。次こそ当ててやるぜ!」


「その心意気は感心するよ。でもオーガ兄さんに“次”は訪れない」


 僕は空中でうまく身動きの取れない兄さんの背後に回り込み、上段から剣撃を繰り出した。兄さんは剣を盾に攻撃を防いだものの、勢いよく大地へ落下する。



「っ、クソがあっ!」


 落下しつつも兄さんは炎の弾丸を撃ち出してくる。が、その悉くを避け、僕は急降下する。

 地面に亀裂を走らせ着地した兄さんに体勢を立て直す暇など与えずに、僕は彼の脳天目がけて魔剣を突き出した。



「はあっ!」


「なめんじゃねえっ!」


 人と人とがぶつかったとは思えない、何かが爆ぜたかのような音が大気を震わせる。



「トドメを刺すつもりだったんだけどね」


 頭上に魔剣を構えて攻撃を防いだ兄さんは得意げに鼻を鳴らす。



「フハハッ、この程度でオレがやられると思ったか?」


「うん、正直防がれるとは思わなかったよ」


「言っとくが、オレはお前ぇが思ってる以上に強くなってるぜ?」


 一旦僕が着地して距離を取ると、兄さんは重心を低くした。

 ピキ、と微かな音が聞こえた。


 地面を蹴ろうとしたのであろう。前のめりになった兄さんだったが、しかしその場からピクリとも動けなかった。

 ――僕が“竜眼ドラゴン・アイズ”を発現させたのだ。



「な……どうなってやがる……っ!」


「“覇者の威厳”。目を合わせた相手の四肢の動きを封じる竜伐者ドラゴンスレイヤーの特殊能力だ」


「『竜伐者ドラゴンスレイヤー』だと……!? それは兄貴の称号のはず―――っっ!!?」


 兄さんの言葉が途切れた。彼がそろそろと背後に首を向けると、注射器を持ったオラクが立っていた。



「悪いな。睡眠薬を注入させてもらった。少し眠っててくれ」


「……いつの…………間……に……」


 “竜眼”の効力を弱める。するとオーガ兄さんは意識を保つ糸を手放し、地面に倒れた。



「ありがとうオラク」


「何、お前が動きを止めててくれたおかげだ」


 オーガ兄さんを一瞥して僕たちは飛び上がろうとする。と、その時。どこからか風が吹いてきて、僕たちの正面に渦を巻いた。

 やがて風は人の姿をかたどり始め、輪郭がはっきりと定まった。

 そこに立っていたのは紫色の髪を掻き上げる青年。見覚えのある顔だ。


 確か名前は――



「「――ライマン」」


 僕とオラクの声が重なる。

 ライマンは僕たちを交互に見た後、醜怪に頰の端を上げた。



「ずっと見てないとは思ってたけど、今ここに姿を現したっていうことはそういうことだよね」


 僕の言葉には答えず、彼はただ醜悪に笑うだけだ。


 まあ問答なんて要らないか。そう思って僕が剣を正眼に構えると、横からオラクの手が伸びてきた。



「ここは俺に任せてくれ」


 ふと視線を向けてみれば、彼の全身の毛が逆立っていた。



「いいけど、ライマンに何か恨みでもあるの?」


「ああ。ライトには言えないが、こいつは徹底的に叩き潰す必要がある」


「ふーん?」


 僕の知らないところで喧嘩でもしたのだろうか。


 温厚なオラクにしては珍しいこともあるものだと思いながら僕は浮き上がる。



「じゃあ任せたよ」


 一言残してその場から飛び去る。

 ――少しして、轟音と共に濃密な殺気を伴った魔力が流れてきた。


 

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