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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
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Side-O 魔王の修練


 ――時は少し遡り――



 幼馴染である【南の魔王】ルシウスを城へ招き入れてから、俺は彼と共に結界が張ってある地下修練場へ向かった。途中まではハルバードもついてきていたが、彼は城内警備のため見回りに出た。

 今俺のところにいるのはルシウスとその腹心のセリーヌ、そしてオリビアだ。


 俺とルシウスは女性陣二人を残し結界の中へ入る。



「いやあ、未だに信じられないネ。オラクが人間相手に辛酸を舐めただなんて。冗談じゃないんだよネ?」


「何回も説明しただろう。オリビアの姉に散々な目に遭わされたと」


「アハハハハッ、それが事実ならホント、ドラゴニカ家は化物揃いだネェ」


「同感だ」


 ルシウスはチラリとオリビアを一瞥する。



「ま、【水吟卿】の二つ名を持つボクと鍛錬していれば水魔法使いなんて敵じゃなくなるサ」


「そうだといいんだがな」


 呟きながら身体をほぐす。

 準備完了だ。



「始めよう」


 ニヤリとルシウスが口角を上げる。と、同時に彼の姿が消えた。



「――“水流レスタ”!」


 背後からおびただしい量の水流が襲いかかってくる。

 俺は咄嗟に飛び退いたが、その先にルシウスが拳を構えていた。



「アハハハーッ!」


「ふっ!」


 俺は身をよじって拳を突き出しヤツの拳に合わせる。瞬間衝撃波が発生し、結界内に暴風が吹き荒れた。



「――“水門楼スイメンロウ”!」


 一旦身を引いたルシウスが叫べば、俺の周囲に水の壁がせり上がってくる。さながらそれは水の楼閣のようだ。

 このまま楼閣の中に俺を閉じ込めようという算段だろう。そうはさせるものかと俺は掌に魔力を集めた。



「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


 凝縮された死の焔が水の楼閣に触れ、跡形もなく蒸発させる。その際数秒だけ、お互いの姿が蒸気に紛れた。


 ――この状況は利用できる。


 ギュッと濃縮した魔力の塊をその場に残した俺はルシウスの魔力を探り、背後を取った。



「アハハハハハッ! いくら姿は隠せても、魔力は隠せていないよ? そうら、そこだ!

 ――“大瀑水砲オーク・レスタ”!」


 水の大砲が霧もろとも俺の魔力を撃ち抜く。しかし、そこに俺の姿はない。



「魔力の塊を本体と誤認させる“陽炎身の術”だ」


 言いながら拳を振り抜く。俺の拳は確実にルシウスの後頭部に吸い込まれた――。



「何!?」


 ところが俺の拳がルシウスに触れた途端、彼の姿が霧となって消えた。



「アハハハハハハハッ!! 幻術と“陽炎身の術”の合わせ技サ! キミだけしか使えないとでも思っていたかい?」


「くっ……!」


 背後から声が聞こえたため慌てて距離を取ったのだが、あらぬ方向から殴打を受けてしまった。

 さらに水球の絨毯爆撃が俺に襲いかかる。



「――“四閻黒焔カトリエム・シュヴァルツ・フォイヤー”」


 このままではまずいと判断した俺は周囲に四つの転移魔法陣を展開し、黒い魔力を送り込む。死の焔は辺りを焼き尽くし、無数の水球を消滅させた。



「やっぱりオラクの魔法は凄いネ。迂闊に近づけばたちまち火だるまになってしまうよ」


「褒め言葉として受け取ろう」


「うん、でも、出そうと思えばもっと威力出せるよネ?」


 すぐには答えずに、俺は眼に意識を集中させる。

 ルシウスの誘いに乗って魔法を撃ってもいいのだが、先ほどのように幻術である可能性がある。まずは奴が本物であることを確かめなければならない。



「お前もまだ全力は出していないだろ?」


「まあネ」


 喋っている間に分析が完了した。幻術は使っていないようだ。

 ルシウスが使わないのであればと、俺は幻術を発動した。



「“百鬼夜行”」


 ゆらりと辺りの空気が揺らいだかと思えば、ルシウスの周囲に百体の俺が出現する。


 百体の俺は一斉に“黒焔”を用い、手元に魔法陣を描く。



「アハハハッ、これは壮観だネェ。でも、無駄だって分かっているだろう? 所詮百体の内の九十九体は偽物。魔法の威力もオラク一人分だ」


「ああ、分かっているとも」


 俺は頷き、魔法陣を完成させた。あまりの魔力に結界内の舞台が震撼し、ひび割れていく。


 そして魔法陣の照準がルシウスを捉えた。



「――“死燦槍黒焔シュヴァルツ・イレイア”」


 夜よりも深い真黒の槍が、霊気の白い粒子を撒き散らしながらルシウスに迫る。

 百条の黒い光が伸びる様は不気味で、されど美しかった。



「――“陣水刃裂死滅ドルウォス・オーク・レスタ”!」


 ふと、ルシウスと目が合った。


 彼の紺碧の瞳が輝いたかと思えば、彼を中心にして無数の水の刃が出現する。一見軽そうに見える刃だがしかし、その一つ一つが“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”に匹敵する魔力を秘めている。


 幻術の焔と九十九体の俺を消し去った水の刃の陣幕が本物の“死燦槍黒焔シュヴァルツ・イレイア”と衝突した。


 二つの魔法は黒白の粒子と濃紺の魔力を散らしながら拮抗する。

 やがて魔力場が乱れ、二つの魔法は爆散した。



「アハッ、アハハハハッ」


 ルシウスの楽しそうな声が響き渡る。



「いいネェ、それだけの威力があれば、大抵の水魔法には対処できるよ」


「ユリア・ドラゴニカには通用しなかったがな」


 視界が良好になると、ルシウスの笑顔が目に入った。



「そうかい? じゃあ“黒焔装”はどうだい? オラクの手持ちの中では屈指の魔法だよネ」


 なるほど、“黒焔装”か。試してみる価値はあるな。


 俺は肩を回し、次いで全身の筋肉を揉みほぐす。


 いざ“黒焔装”を使わんと全身に魔力を巡らせた、その時。

 ――地上から強大な人間の(・・・)魔力が漂ってきた。


 

 今回はかなり短めですがご了承下さい。

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