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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
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Side-L vs四天王【宵の月】と【剛鬼】



「習得状況はどんな感じかな?」



 硬化魔法の練習を行っていたルナと、同じく四天王のドルトンに声をかける。


 魔法をかけたまま動きの確認をしていた二人は僕の声にこちらを振り向いた。



「なんとなくはつかめてきたんだけど、ちょっと動きが鈍くなっちゃうのよね」


「関節まで硬化してるんじゃないの?」


「いや……そんなことはないと思うんだけど……」


 指摘を受け、ルナは小さく唸る。



「デモ、飲み込ミは十分早イ。コノ調子ナラ近いウチに完璧にナルと思ウ」


「まあオラクもだけど、ルナは元々無意識に身体を硬化出来ていたからね。今まではとにかく大量の魔力を纏わせて硬化していたのを、より効率のいい魔法にするっていう、単に硬化の手段を変えるってだけだから」


 硬化魔法の習得を提案した時から大して時間はかからないだろうと考えていた。

 飲み込みが早いのも事実だけどね。



「とりあえず一回実戦で試してみようか。その方が覚えやすいだろうし」


 言いながら体をほぐす。

 途端にルナの表情が輝きを増した。



「二対一でいいよ。その代わり剣を使わせてもらう」


「望むところよ!」


「オデも、武器使ッテいいカ?」


「うん」


 僕が魔剣ディバイドを抜き正眼に構えると、ドルトンも背に担いでいた金棒を取り出す。



「それじゃあ、始め」


 僕の言葉を合図に二人は硬化魔法を発動する。



「「――“金剛力”」」


 一見変化は見受けられない。しかし注意深く魔力の流れを観察すれば、二人の肌の表面には濃密な魔力が纏わり付いていることが分かる。


 瞳に“竜眼(ドラゴン・アイズ)”を顕現させつつじっと出方を窺っていると、ルナの痩躯がブレた。


 ――後ろか。


 魔力を察知して魔剣を振り抜く。しかしそこに彼女の姿はなかった。



「……?」


「にゃはははっ、また引っかかった! “陽炎身の術”だってば」


 脳天に鈍い痛みが走る。


 そういえばそんなものもあったっけ。



「――“金剛打法”」


 低い声が聞こえた瞬間身をかがめる。刹那の間を置いて、頭上で風を切る音が聞こえた。

 だがホッとしたのも束の間、今度はルナに足元を払われた。



「つ、とっとっと」


「――“紅石連弾レッド・バレット”!!」


「――“羅刹らせつ琰灸えんきゅう”」


「っく……。――“閃光輪華”!」


 ルナの掌から放たれた無数の紅石と、炎を纏ったドルトンの拳を剣で打ち払う。しかし僕はふと違和感を覚えた。


 ……また光の魔力の出力が弱かった。最近こういうの多いな。一体何なんだろう。


 体勢を整えて頭を振る。

 今はそんなことどうでもいい。目の前の相手に集中だ。



「今度はこっちの番だ」


 言いながら右手を二人に向ける。同時に僕は竜胆色に染まった瞳でドルトンと目を合わせた。



「――“竜炎渦ドラゴン・フレイム”」


 黒い魔力の混じった炎が渦を巻き二人に迫る。

 ルナは咄嗟にその場を飛びのいたが、ドルトンはその場からピクリとも動けずに業火に呑まれた。



「……ッ、気持ちイイ……!」


 彼の心の叫びが聞こえたが、炎の勢いが勢いなだけに彼はそのまま地面に倒れた。


 ちょっとやりすぎたかな?



「なにボーっと突っ立てんのよ!」


 突然背中に小さな拳が突き刺さった。たまらず僕は膝をつく。



「“竜眼ドラゴン・アイズ”を使ってるからって油断して一歩も動かなかったらあっという間にやられるわよ! …………ん? あれ、もしかして……?」


 言ってる途中に何かに気がついたルナは手を止める。



「君こそ手を止めてたらやられちゃうよ」


 立ち上がった僕は魔剣を繰り出す。

 切っ先がルナの鎖骨辺りに触れると甲高い音が響いた。



「へえ、だいぶ“金剛力”が身体に馴染んできたね」


「アタシにかかればこんなもんよ。それより……あんた今ちょっと“竜眼”使ってみなさいよ」


「……どうして?」


「いいから」


 彼女はゆっくりとこちらに掌を向けながら言う。


 これは、気づかれたかな?



「やっぱり君は凄いね。普段と違って戦闘中は頭が回るようだ」


「『普段と違って』は余計よ! ていうか、ライトがそう言うってことはやっぱり……?」


「うん、あんまり他人には教えたくないんだけど、“竜眼ドラゴン・アイズ”――厳密には“覇者の威厳”――を使って相手の四肢を封じている間は、僕も身動きが取れないんだよ。だから攻撃を加えるには、事前に魔法の照準を相手に向けてなきゃいけないんだ」


「ふーん、強力なんだか面倒なんだかよくわからない能力ね」


「まあね。とりあえず続きといこうか」


 キョトンとしたルナに口から炎を浴びせる。



「あっつ!! ちょとそれ卑怯!」


 文句を垂れながらも彼女は僕の腹に殴打を入れる。

 硬化した拳で殴られるんだからたまったもんじゃない。胃の中から液体が逆流してくるのを何とか抑え、僕は魔剣に魔力を注いだ。



「【分裂剣】!」


 ディバイドの別銘を叫び、二本目を複製する。しっかりとそれを握りしめた僕は内に眠る荒々しい魔力を二本の剣に注いだ。



「――“闇竜ダークネス……」


 と、その時。激しい地響きが僕の全身を揺らした。

 振り返れば、肌と同じく赤黒いオーラに包まれたドルトンがゆっくりと立ち上がっていた。


 彼が一歩踏み出すと、地割れと共に深い足跡が刻まれる。



「これは……凄いね」


「“鬼神ノ息吹”。鬼人族ガ持ッテいる、秘めラレた力を全開放スル魔法」


「ああ、なんか変わっていると思ったら君は鬼人族だったのか」


「正確ニハ、魔族トのハーフ」


「なるほどね」


 僕は思わず感嘆のため息をこぼす。

 金棒を手にゆらりと歩み寄る彼の姿はまさに鬼人……いや、鬼神と呼ぶに相応しい。圧巻の光景だ。


 てっきりさっきので気絶したと思っていたんだけどな。少し侮っていたかもしれない。



「――“月光姫”」


 彼の意思に呼応するように、ルナも全身に白銀のオーラを纏った。


 ……さてと。



「君たちの実力に敬意を表してこっちも全力でいかせてもらうよ」


 ルナとドルトンが同時に襲いかかってくる。

 横に飛び退いた僕は構築中だった術式を完成させた。



「――“闇竜双葬斬ダークネス・ナトルウォス”」


 一瞬にして無数の剣閃が刻まれる。尾を引くそれらは絡まり合い、やがて二本の長大な剣と化した。

 黒々と染まる剣がルナとドルトンの脇腹に襲いかかる。即座に反応した二人は“金剛力”を腕の一点にのみ纏い、防御の体勢をとった。


 ぶつかった瞬間、黒剣から瘴気が溢れ出す。



「……っ、これは……」


 思わず術者である僕が息を呑む。

 黒い魔力の奔流が周囲の植物を枯れさせ、地面をえぐっていく。


 以前は闇属性の魔法でここまでの威力は出せなかった。

 ただ光属性の魔法が扱いづらくなっただけじゃなく、得意魔法まで変わったというのだろうか。



 やがて瘴気が晴れると、腕を除く全身から血を垂れ流すルナとドルトンが立っていた。


 瞳の光は消えていない。けれど――。


 これ以上の続行は危険だと判断し、僕は両手を挙げた。



「ごめん、終わりにしよう」


 フッと二人の闘気が収まる。



「熱くなりすぎた。本当にごめん」


 僕が深々と頭を下げると、二人は顔を見合わせた。



「別にいいわよ。これくらい普通じゃない?」


「オデもそう思ウ。気にスルことナイ」


 本当に二人共何とも思っていないようだ。魔王軍の鍛錬はそんなに激しいのかな。



「でも流石に今のはまずかった。自分でも制御しきれない力を仲間に使うなんて」


「……『仲間』?」


 ルナがキョトンと固まった。


 僕の非に気がついてくれたかな。

 そう思ったけど、僕の予想はいい意味で裏切られた。



「ライトがアタシたちのことを『仲間』って言ってくれたの初めてじゃない……?」


「そうだっけ? ちゃんと覚えていないや。気を悪くしたなら謝るよ」


「わ、悪くなんて思ってないわよっ! むしろ、ようやく認めてくれたんだって気持ち。……うれしい」


 彼女の隣でドルトンも頷く。不思議と悪い気はしないな。



「僕もそう言ってもらえると助かるよ。一方的に勘違いしてたら恥ずかしいからね。とりあえず二人共、治療室に向かおうか」


「うん」


 嬉しそうに笑顔を咲かせるルナと、何を考えているのかよく分からないドルトンを連れ立って城内へ向かう。


 まさか魔族とこんなにも深く接することになるなんて思いもよらなかった。ルナと出会った頃なんてどうやったら関わりを絶てるのかってことばかり考えていたし。


 人生分からないものだな、なんて年寄りじみたことを考えていた、その時だった。

 強大な人間の魔力(・・・・・)を感知したのは。


 

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