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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第一章 東の魔王と竜伐者
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Side-L あくまのおうち


「えっ……!? ど、ドラゴンスレイヤー!!?」


 僕の愛の告白……ではなく素性についての告白を受け、ルナが固まった。いや四肢は動かせないんだけども。



「そう。こんな特殊能力を使える人なんて、竜伐者ドラゴンスレイヤーの他にいないでしょ」


「確かにこんな能力今まで見たことも聞いたこともなかった……」


 どうやら信じてくれたみたいだ。



「これで満足かい」


「あ……うん」


 視線をそらして彼女の拘束を解いてやり、満足してもらえたか確認する。あまりにも衝撃だったようで呆けたまま返事をされたけれど、少しは考えた上での返事だろう。



「じゃあ約束通り君の家について教えてもらおうかな」


 納得のいく答えを貰えたので僕は微笑んでルナに素性を晒すよう促す。



「う……っ、あまり気が進まないけど……。仕方ないわね」


 言葉通り気乗りのしない様子でルナは大きく息を吸う。


 後悔してるんだろうけど、今更後悔しても遅い。これに懲りて次からは安易に『実力を見せて』などと言わないことだね。


 チラッとフェルを見たルナは耳飾りに触れながらおもむろに口を開いた。



 ◆ ◆ ◆



 ――アタシの生まれた家は少し特殊で……、ううん、この際正直に話すわね。アタシの家は魔王の家なの。

 え? 魔王は世襲制なのか、って? 違うよ。ただアタシはお父さんが魔王だったし、お兄ちゃんも魔王なの。だから生まれてから今この時までずっと魔王の家族ってわけ。親子二代続けて魔王なんて滅多にないことなんだけどね。

 つまりアタシの身分は魔族……魔界の中ではかなり上流階級ってこと。

 あ、お兄ちゃんはどこの魔王か? 【東の魔王】オラクって聞いたことある? そう、【残虐】とか【侵略者】の二つ名が付けられてる。まあそれは誤解なんだけどね。これでアタシの身分と家については理解してもらえた?

 ……なに、人間界に来た理由? そんなものないわよ! ただお城の中をぶらついてたら武器庫を見つけて、その中に紛れてた転界装置を間違って起動しちゃったの! いや、信用できないのは分かるけど嘘じゃないって! 本当よ!


 ◆ ◆ ◆



 ルナの説明を一通り聞き終え、僕はあくびをしてからぐぐーっと伸びをした。


 正直彼女が魔王の妹だというのは驚いた。高飛車な、言ってしまえば傲慢な態度をとっていたから上流階級なんだろうなとは思っていたけど、まさか魔王の妹だったとは。


 人間界には誤って来てしまったという話は半信半疑といったところだ。武器庫に侵入して転界装置を見つけたというのは本当だろうが、魔王の妹ともあろう者が理由もなく人間界に来るとは思えない。

 確かに間違って装置を起動したというのならば説明はつくけども、そんなの嘘をつこうと思えばいくらでも嘘をつける。一応監視はしておこう。僕の目が無い時はフェルに見張っててもらえばいい。



「どうもご丁寧に説明してくれてありがとう。これで安心して風呂に入れるよ」


 「え!? それだけ!?」と食いかかってくるルナを無視して風呂場に向かう。


 さて、ルナの手前安心と言ったものの招かれざる客の来訪には気をつけなければならない。「城をぶらついて〜云々」と言っていたからそこまで厳しい家ではなさそうだが、立場上外出にある程度の制限はかかりそうだ。早いとこルナには魔界に戻ってもらうべきだろう。


 きっと魔界に帰るすべがないんだろうから、転界の手伝いもしてあげないとダメかな……。こりゃあ骨が折れるぞ。アテがないわけじゃないから、早速明日から動いてみるか。

 ……それにしてもほんと面倒くさいなぁ。なんで僕がこんなことに。


 服を脱ぎながら明日のことを考えていると頭が痛くなってきたので、僕はそこから先を考えることを放棄して、長時間ゆったりとお湯に浸かった。

 フェルが心配して風呂場を覗きに来たぐらいだから、よほど長い間浸かっていたのだろう。その証拠に手足の指が真っ白にふやけていた。


 ◆



「ふぅ、さっぱりした」


「……ねぇそれ風呂に入れないアタシへのあてつけに聞こえるからヤメてくれない?」


「何で入れないの? お湯沸かしてあるから自由に入っていいよ」


 リビングダイニングの食卓の前に腰掛け、タオルと風属性の魔法を使って髪を乾かしていると、皿を洗っていたルナに鬼の形相で睨まれた。



「着替えがないじゃないの! 風呂に入った後も同じ服を着るなんて嫌なんだけど!」


「えー、同じ服でいいじゃん」


 わがままなことを言うお嬢に顔をしかめる。


 そんな服とかまで面倒見れるわけないでしょうが。それくらいは自分でどうにかしてほしい。

 風呂を上がってからキッチンを覗くと、皿を洗ってくれていたので「身分の割には家庭的なんだな」とか思っていたけれど、やっぱり魔王の妹というだけあってわがままだった。



「一日着た服をもう一日着るなんて耐えられないわよ。お願い! お金は後で返すから、市場で何か買ってくれない?」


 ……なんとおこがましいんだこの子は。寝床と食事を提供してあげてるのに、服まで買ってもらおうとして。この家の主が誰なのかわかっているのだろうか。



「面倒だから嫌だ」


「そこを何とか〜」


「嫌だ」


「ご〜主〜人〜」


 何だよご主人って。君を雇った覚えはない。



「あ! じゃあさ、こういうのはどう?」


 耳を塞いだ僕には何を言っても無駄だ、と諦めたかに見えたルナだったが、手を叩き僕の耳元に唇を近づけてきた。



「お代は身体で――」


「却下」


 最後まで言わせずに、僕はきっぱりと拒否の意を示した。



「もう、こんな美女の誘いを断るなんてひどいわね」


「酷い……って言われてもね。冗談だってのがバレバレだし、第一僕に幼女趣味はないし、君ももっと自分の身体を大事にするべきだ」


「え? 幼女っ!? ちょっと待ってよ! アタシそんなに幼く見えるの!?」


「幼女は言い過ぎた。でも12歳くらいでしょ? そういうことをするには早い年代だ、ってことに変わりはない」


「……」


 ん? 何で固まったんだろう。口が半開きのままピクリともしないぞ。



「……もしかしてもう少し上とか?」


「……ょ」


「何?」


「16歳よっ! ライトのバカ!!!」


 しまった、これはまさかの事態だ。ルナのこめかみに青い筋が浮かんでる。


 ほんの4歳の差じゃないかと言いたいところだが、そうはいかない。なぜなら僕がルナを実年齢より幼く思った理由は――



「どうせアタシの胸を見てそう思ったんでしょ! いいもん! 普段から貧乳だってバカにされてるから!」



 そう、胸。


 身長も決して高くはないけれど、平均的な女性の身長と比べて著しく低いというわけでもない。だから身長から年齢を判断したわけではない。

 16歳にしてはあまりにも小さな、というかほとんどまな板状態の胸を見て、年頃の女の子ではないと判断したのだ。

 そりゃあ、ショックを受けるのも当然だ。



「えっと……なんかごめん」


「謝られたって許さないから! お兄ちゃんに言いつけてやる!」


 え……それだけは勘弁して。ルナのお兄ちゃんっていったら現役の魔王じゃないか。勇者でも倒せないような化物を怒らせたらどうなっちゃうんだ。天災級の何かが起きるんじゃないか。



「あーじゃあわかった。明日服買ってあげるから。それで許して」


「ダメ! 許さない! それに明日買うんじゃ結局今夜風呂入れないじゃないの」


「そうは言ってもこの時間じゃあ違法な店しか開いてないよ」


 時計を見つつ、なんとかルナに納得してもらおうと頑張る。けれどもわがままお嬢様はご不満のようだ。



「違法な店でもいいからとにかく綺麗な服が欲しいの!」


 んー……、それは難しいんじゃないだろうか。違法な店となると王都の端っこの暗い路地裏に多いから、どうしてもそういう場所だと衣類は汚くなってしまうだろうし。



「参ったな……。ん? どうしたフェル?」


 既に髪は乾いていたがいい考えが浮かんでこないので意味もなく頭を拭いていると、愛犬ならぬ愛狼のフェルが膝を叩いてきた。顎を撫でてほしいのかな?と思ったけどフェルは違うと首を振り、廊下に出ていってしまった。


 なんだろうと首をかしげながら後をついていくとフェルはクローゼットの前で立ち止まった。



「何でクローゼットに……ああそうか」


 ようやくフェルの言いたいことを理解できた僕はフェルの頭を撫でてからルナのところへ戻った。



「やっぱりフェルは賢いね。そう再認識できたよ」


「はあ?」


「僕には兄と姉が合わせて5人いるんだけど、その中で一番下の姉は僕と同じ中枢魔法協会(セントラル)に所属していてね。たまに特訓に付き合ってくれるんだ。それでこの家に泊まっていくこともあるから、着替えが何着か置いてあるんだよ」


「で、何? あんたがシスコンだって言いたいの?」


「いやいや、姉の服を着たらどうだってフェルが教えてくれたと言いたいんだ」


 ここまで言ってようやくルナも理解してくれたみたいだ。若干疑惑の目を向けられているような気がするけど、たぶん気のせいだ。



「そういうことならクローゼットの中から適当に服を選ばせてもらうわ。本当に勝手に着ちゃって大丈夫なんでしょうね?」


「うん」


「じゃあ服と風呂場を借りるから、絶対に覗かないでよね!」


「わかってるよ」


 それだけ言ってから皿を洗い終えて手を拭くと、ルナは風のように風呂場へと走っていった。

 しばらくしてから「サイズが全然違うんだけど!」という声が聞こえてきたが、それを無視してルナが風呂から出てくるまでの間、アドバイスをくれたフェルにご褒美の毛づくろいをしてやった。







 余談だが、ルナが洗ってくれた皿を見るときちんと汚れが落ちていなかったので、結局僕が洗い直すはめになった。やっぱり高貴な育ちゆえか、彼女に家庭的な能力はさっぱりないみたいだ。


 

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