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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第四章 大義を胸に抱いて
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Side-L この目でしかと見届ける


 アルベルト兄さんが新たな王として立った。その報せを聞き、一瞬だけ思考が停止した。



「何で兄さんが……。何を考えているのか分からなかったとはいえ、そんな野心を持っていたなんて――」


 いや、待てよ? 兄さんがよく口にしてた言葉が確か、「大義なき者に統治者たる資格などない」。

 今の……じゃなくて今までの王政は腐りに腐っていた。大義の欠片すらない。そんな状況を打破するために王権を奪取したというのであれば、野心などではなく、国を変えたいという信念の下にそうしたのだろう。


 僕が黙り込むと、代わりにオラクが口を開いた。



「色々確かめたいことはあるが、まず最初にセラフィス。その傷はどうした?」


「む、これか。これは人間界の拠点を襲撃された際、敵と交戦して負ったものである。力及ばず敗走し、仲間を見捨てることになってしまったが……魔王陛下に報告することが最優先だと判断した」


「ああ、撤退したことは咎めはしない。交戦を続け、全滅してしまったら諜報部隊の意味がないしな。お前だけでも帰ってきてくれて良かったよ」


 オラクが肩を叩いてやれば、苦々しくもセラフィスは頷いた。



「それより、“魔王の糸”を襲撃した敵の規模を知りたい。お前がそれほどの傷を負うくらいだ。よほど多勢だったんだろ?」


 オラクは気休めのつもりで言ったのだろう。しかし彼の意に反してセラフィスは唇を噛み締め、ますます渋い表情を浮かべた。



「…………一人である」


「は?」


「……敵は、一人。白銀の瞳を持つ金髪の女性一人に、我々は蹂躙されたのだ」


 場が静寂に支配される。


 四天王率いる部隊をたった一人で壊滅させるなんて尋常じゃない。少なくとも先の戦いで交戦した北の魔王軍の四神将以上の実力がないとそんなことはできない。


 白銀の瞳を持つ金髪の女性でそれが可能な人物に、一人心当たりがあるけれど、まさかその人のわけがない。いや、でも断定はできないか。一応確かめてみよう。



「その人、名前は言ってた?」


「いや。だが二つ名は名乗っていた」


「もしかして【清明】とか?」


 僕が二つ名を口にすれば、セラフィスは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。



何故なぜ分かった?」


 うっそ、本当に【清明】だったの?


 僕はこめかみを押さえ、ため息をつく。



「ただ思い当たる人物の二つ名を言っただけだよ。……まさか本当にあの人だとは思わなかったけど」


「どういうヤツなんだ、その【清明】ってのは」


 僕が答えるのを渋っていると、代わりに姉さんがオラクの質問に答えた。



「わたしたちのお姉様です」


「またドラゴニカ家か。揃いも揃って化物ばっかりだな」


「失礼な。君は僕たちのことを何だと思っているんだ」


「だから化物だって。特にお前なんか人外もいいところだろう」


「魔王の君に言われたくないけどね」


「俺は元々人間じゃないからな」


 肩を竦めるオラクに向かって口から火を吹く。


 まあオラクの言う通りなんだけどさ。全部。



「おま……っ! 当然のように火吹くなよ……」


「悪かったね」


「お前本当に人間か? 勇者たちも怯えてるぞ?」


 目線を落としてみると、彼の言う通り三人の勇者は肩を震わせ身を寄せ合っていた。



「そんなことより、どうして“魔王の糸”が襲われたんだろうね?」


「分からぬ。逃走するのに必死だったゆえ、調べる余裕はなかった」


「じゃあ今から調べに行くか」


 オラクの提案に、皆目を丸くした。



「危険ではありませんか?」


「まあな。だが世界の大きな蠢動をこの目で見ないわけにはいかない」


 珍しく熱い意志を瞳に灯らせ、彼は言う。


 確かに僕も興味がないと言ったら嘘になる。

 面倒なことには関わりたくないけど、ここで情勢を見誤ったら時代に取り残されてしまう。



「一旦ルナやハルバードも呼んで状況を整理しよう。場所はここでいいだろう。全員揃うまで、セラフィスはオリビアに回復魔法をかけてもらってくれ」


 二人はしっかりと頷く。



「ライトは叩き潰した他の勇者を連れてきてくれ。全員地下牢に幽閉する」


「この三人は?」


「情報を聞きたいからこいつらはこのままでいい」


「オッケー。オラクも他の勇者を運ぶのを手伝ってくれる?」


「ああ。そしたら転移で行くか。どこら辺だ?」


「どこら辺と言われてもね。魔界の地理には疎いから何てとこなのか分からないな。てことで空を飛んでいこう」


「俺は構わないが……ライトは飛べるのか?」


「うん。なんか飛ぼうと思ったら飛べた」


 言って僕は背中から漆黒の翼を生やす。



「…………お前……どんどん人間離れしていくな……」


 呆れたような声を溢したオラクは白い粒子に包まれ、ふわりと浮かび上がった。



「よし、行こうか」



 ◆ ◆ ◆



 勇者たちを地下牢にぶち込み、僕の相棒のフェル、四天王のルナとドルトン、それからオラクの秘書のハルバードが揃うと、オラクはおもむろに口を開いた。



「始めるか。初めに勇者に問おう。なぜお前たちはこのタイミングで、かつ集団で魔界にやって来た?」


「ふん、誰がそんなこと――」


 言いかけ、勇者は悲鳴を上げた。

 僕が魔剣ディバイドを勇者の肩に突き刺したのだ。



「君たちがどうしても喋りたくないなら構わないけどね。代わりに傷が増えていくよ?」


「ぐっ……、クソッ! 人間だというのになぜ貴様は魔族の味方をする!?」


「さてね」


 肩を竦めた僕は勇者たちを縛る雷撃鎖の術式をいじり、彼らを地面に縫い止める。



「“雷桜封殺陣・弐ノ型【縫合】”」


 そして魔剣ディバイドをその効果により数十本複製し、彼らの周囲に突き刺す。



「君たちに質問する権利はない。おとなしくこっちの質問にだけ答えてればいい」


「……人でなしめ」


 ポツリと呟いて勇者たちは大人しくなった。



「もう一度問う。魔界へやって来た理由について教えてくれ」


「……学園長からの命令だ。先日貴族の出の勇者のみが呼び出され、魔界へ出立するよう言われたんだよ! 『今まで貴族を魔界へ送り込んだことはなかったが、お前たちの実力であれば必ずや【東の魔王】の首を取れるだろう』ってな! それがこのザマだ。魔界がこんなに化け物だらけだと分かっていたら来なかったのに……!」


「それだけか?」


「ああそうだよ! 他に何があるってんだ!」


「いや、いい。ありがとう」


 そう言ってオラクは三人の勇者に注射をし、深い眠りにつかせた。



「アルベルト兄さんの差し金だろうね」


 思考の海に沈みかけたオラクに声をかける。



「革命を起こす際か、遅くとも終わった後。物事を前に進めるのに勇者養成学園の協力は必須だ。そこで反乱分子となり得る貴族たちを排除したかったんだと思うよ」


「……なるほど」


「貴族を表立って処分するわけにもいかない。でも魔王討伐という名目で魔界に送り込めば無事に帰って来なかったとしても不自然じゃない。早い話が、東の魔王領(ここ)がゴミ箱みたいに使われたってこと」


「随分と酷い言いようだな……。けどまあ、ライトの言う通りなんだろう。さすが金髪眼鏡の弟。兄の考えはお見通しってわけか」


「別にお見通しってわけでもないよ。あの人何考えてるのか分からないし」


 だいたい僕の言う通りで合ってるとは思うけど、断言はできない。



「勇者がこれまでにない規模で魔界へやって来たことに関しては解決だな。やはり人間界での革命と関連はあったようだ」


 勇者たちの身体に魔法陣を描いたオラクは、彼らを地下牢に転移させる。



「順序としては、貴族の勇者たちに指令が下り、革命が起きると同時に“魔王の糸”が襲撃されたってところか」


「うん、そうだろうね」


 他の面々も同じ意見のようだ。



「じゃあ次は人間界へ行って“魔王の糸”が襲撃された理由について探ろう」


「おおよそ見当はつくけどね。“魔王の糸”の性格は東の魔王軍所属であるということと、諜報部隊であるということ。これを考えれば王都から魔族を排除したかったか、魔族の中でも特に東の魔王軍を排除したかったか。あるいは逆に人間とか魔族とかを問わず諜報部隊の存在が邪魔だったかのどれかだと思うね」


 とは言ったものの、東の魔王軍だけを排除したかったって可能性は限りなくゼロに近い。いくらエントポリス王国でオラクの虚偽の悪評が広まってるとはいえ、他の魔王軍は無視して東の魔王軍だけを追い出す道理はない。というかもっと言えば魔族だけを追い出す道理だってない。

 おそらく王都内に潜む間諜をこの機に一掃したかったんだと思う。



「ライト殿の仰る通りでしたら、答えは明白でございましょう。わざわざ人間界へ行って調べる必要があるとは思えませぬな」


 一瞬頭に浮かんで消えた意見をハルバードが代弁する。



「俺だって答えに気がつかないほど鈍くはない。けど今人間界が大きく変わろうとしている。理由を確かめるだけじゃなく、世界のうねりを見ることには大いに意義がある」


「……サタン様が望むのであれば強くは引き止めませぬが……。あまりにも危険なのでは?」


 彼は深い傷を負ったセラフィスをチラリと見やる。



「覚悟の上だ」


 毅然と言い放つオラクに、ハルバードはぐっと押し黙った。



「人間界に行くことは決まったかな?」


「ああ」


「面子はどうする?」


「そうだな……」


 一人一人に目を向けてから、オラクはゆっくり言葉を発する。



「変革が人間界で起きている以上、オリビアとライト、それにフェルは絶対だろ。あとは……俺だけで大丈夫だろう」


 彼はルナを一瞥したが、意外なことに彼女は口を閉ざしたままだった。


 絶対『アタシも行く!』とか言い出すと思ってたんだけどな。



「異論がなければ今すぐ出発しよう」


 言って、彼は幻術で頭部の角を消す。同時に姉さんが転界魔法陣を展開する。

 僕とフェルは黙ってその様子を眺めていた。



「準備が整いました」


「ありがとう」


 重低音を響かせ、世界と世界を繋ぐ扉が開いていく。



「行くぞ」


 オラクの言葉を合図に、僕たちは一斉に扉へ足を踏み入れた。



 

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