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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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エピローグ


 四天王や大勢の兵士たちを巻き込んだ祝宴を終え、オラクは城外にある墓場へやって来た。


 淀んだ空気が立ち込め、傾いた墓石が散見する墓地をしばらく歩いていくと、整備されて間もない一画にたどり着いた。

 百には届こうかという墓前の一つ一つに花を供え、最後にオラクはひときわ立派な墓前に白い花を供えた。



「遅くなってすまない」


 カサブランカの意匠が施された墓石に頭を垂れ、オラクはゆっくりと語りかける。


 墓石の中央にはそこに眠る者の名とともに、【天馬】という文字が刻まれていた。



「もっと早く来るべきだったんだろうが、こんなにも遅くなってしまった」


 一呼吸ついて彼は静かに腰を下ろす。



「知っているかもしれないが、一応報告に来た。北の魔王軍は撤退し、無事この領地には平穏が戻った。お前が命を賭して北の魔王軍の南下を防いでくれたおかげで、目立った被害もない。本当によくやってくれた。ありがとう」


 深々と頭を下げた彼はその姿勢のまま固まる。

 やがて肩が小刻みに震えてきたかと思えば、一条の雫が彼の頬を伝っていた。



「できることならお前と一緒に祝宴に臨みたかった。でもそれは贅沢な願いなんだろう。せめて最後に一声、と思ったが……」


 言いながら死霊術を使うも、そこにオラクの求める人物の姿は現れない。



「この世に未練はない、ということなんだろうな」


 ため息を漏らし、彼が立ち上がろうとした間際のことだった。

 彼の背後から一人の足音が聞こえてきた。


 振り返ってみれば、ピアスをつけた銀髪の少女・ルナだと分かった。

 彼女の手には一本の槍が握られている。



「お兄ちゃん、これ」


 彼女はおずおずとその槍を兄に差し出す。



「…………これは……」


「東門の前に刺さってたって、セラフィスが言ってた」


「そうか、ありがとう」


 礼を言って、オラクは槍を膝の上に乗せる。


 これは亡き四天王、ニュマル・ペテスの形見の槍。魂との結びつきが強い道具を媒体にすれば、もしかすると召霊できるかもしれない。


 そう考えたオラクは立ち上がり、再び死霊術を発動した。


 初めこそ辺りの霊気に変化は見られなかったものの、しばらくして槍から白い粒子が立ち上り、やがて魔族の姿をかたどり始めた。



「ニュマル……」


 オラクがそっと語りかければ白い粒子が反転し、その正体が顕になった。



「魔王様、ルナ。お久しぶりです」


 そう微笑む、白藤色の髪の女性は先の抗争により戦死した四天王。【天馬】のニュマル・ペテスだ。

 肉体のない魂だけの存在と成り果てた証拠に、彼女の姿はうっすらと透けている。



「良かった。最後に一声、と思っていたんだ」


「ええ、分かっています。ずっと聞いていましたもの。北の魔王軍を撃退したという話も」


「そうか……」


 ひと呼吸挟んでオラクは続ける。



「別れの前に一言。感謝の気持ちだけ伝えておく。これも聞いていただろうが、東の魔王領の被害を最小限に留めることができたのはお前のおかげだ。本当にありがとう」


「もったいないお言葉ありがとうございます。ですが、北の魔王軍を食い止めることができたのは私の力だけではありません。愛する配下たちの奮闘がなければ食い止めることなどできなかったでしょう」


「それは……そうかもしれないな。黄泉の国で会ったら『ありがとう』と伝えてくれ」


「はい。魔王様の仰せのままに」


 ニュマルが頭を下げると、彼女の身体がより一層透けてきた。

 もう現界していられる時間もわずかとなったのだ。


 そんな彼女に近づき、ルナが手を伸ばす。



「ねえ、もう行っちゃうの?」


「ええ。未練のない霊がこの世に留まることができる時間は短いのでしょう」


「また会える?」


 ニュマルは悲しげな表情を浮かべるルナの手に自らの手を重ねようとしたが、虚しいことにするりと透過してしまった。



「いつでも。私は風となって、あなたのことを見守り続けるでしょう」


 それはすなわち、面と向かって会えるのはこれが最後ということだ。



「どうかそんな顔をしないで。ルナ、あなたには笑顔が似合う」


「でも……! まだニュマルには教えてほしいことがいっぱいあった! こんなところでお別れだなんて……!」


 今にも泣き出しそうなルナの肩を、オラクが優しく叩く。



「ルナ、そろそろ時間だ。最後くらい笑顔で見送ってやれ」


「お兄……っ、ちゃん……っ」


「本来生者と死者は交わらないもの。死霊術を使って霊を呼び出すこと自体禁忌に触れる。こうして声を聞けただけでも幸運なことなんだ」


「……わ、わかっ…………てる……けど……っ!」


 ついに堪えきれなくなったか、ルナは顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を溢し始めた。



「……困りましたね。未練はないと思っていましたが、ルナの泣き顔を見ていると欲が出てきてしまう」


「ルナ」


 オラクが背中を擦るも、ルナの涙を止めるには至らない。



「ぅうっ……ひぐっ…………。ニュ、マル……?」


 だが彼女は嗚咽混じりながらも、しっかりと正面からニュマルを見つめた。



「アタシ頑張るから……っ! ニュマルが…………ぅっ、大好きだった皆のことも……! ニュマルが何より大事にしてたっ……この領地も……! 全部ぜんぶ、守るから……っ!! だから、ちゃんと見ててね……っ。見てないと、許さないんだから……!!!!」


「ええ、しっかりと」


 優しく微笑んだニュマルは、最後にオラクへ向き直る。



「魔王様。私はあなたの部下になれて光栄でした。来世でもきっと、あなたの部下になるでしょう」


「俺も、お前みたいな優秀な部下を持てて誇りだった」


「魔王様には多くのものをいただきました。だから最後は、私からほんの助言を。魔王様は今、悲しみの中にいらっしゃることと思います。それは私の死に関してだけではなくて」


 ハッと、オラクは微かに目を見開いた。



「どうか、一人で抱え込まないで。あなたの周りには心優しい人がたくさんいる。もっと他人に頼ることを覚えてください。きっと、温かく受け止めてくれるはずです」


 ニュマルが微笑むのと同時、彼女の全身が白い光に包まれる。



「ぅう……ニュマル……っ!」


「ニュマル……」


「魔王様、ルナ」


 三人は向かい合い、そして三つの声が綺麗に重なった。





「「「今までありがとう」」」



 


 以上で第三章は終了となります。いかがでしたでしょうか。

 どんな内容でも構いませんので、感想をいただけると大変嬉しく思います。


 次章についてですが、二週間ほどお休みをいただきまして、公開は11月15日の木曜日とさせていただこうと思います。

 今までは金曜日に更新していましたが、これからは木曜日更新となります。


 次章も新キャラが登場しますので、ご期待ください!

 それでは、次回の更新日にお会いできることを願っています。

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