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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-L vs四神将【奏楽】と【芸術】


「さて」


 ヒュッと剣を一振りして、ルナを捕らえていた牢獄を破壊した僕は、手のひらをかざして無数の魔法陣を出現させ、拳を握りしめることで白桃色の雷撃を発生させた。



「――“雷桜封殺陣”」


 呟けば、雷撃は鎖となって二人のオレンジ髪の魔族へ襲いかかる。



「フホホ、こんなもの……!」


「ああ、先に言っておくけど避けようとしても無駄だからね」


「むぐぅっ!?」


 俊敏な動きで雷撃鎖を避けようとした二人だったけど、避けた先にも鎖が張り巡らされていたため、いとも簡単に縛られてしまった。


 捕縛魔法を幾重にも張り巡らせるのなんて当たり前なのにね。


 二人に哀れみの視線を投げてから、僕はルナに向き直る。



「……」


「おっと、忘れてた。先にその炎をなんとかしないとね」


 口をパクパクさせながら目で訴えてきた彼女の胸に容赦なく魔剣を突き刺す。



「っ!?」


「落ち着いて。消火するだけだから。

 ――“竜の咆哮”」


 瞬間、猛獣の雄叫びに似た音が響き渡り、その振動が剣を伝ってルナの体内に届く。彼女の体内から発生していた魔法は術式を乱され、しばらくすると完全に鎮火した。


 剣を引き抜いてあげれば、彼女は何とも言い難い目線をこちらに向けてきた。



「……ありがと」


「どういたしまして」


 情けない姿を晒して羞恥に染まっているのだろう。頬を赤くした彼女はポケットから小瓶を取り出し、傷口にその中身を塗りつけた。

 オラク謹製の魔法薬か何かだろう。たぶん。



「……じろじろ見ないでくれる? 変態」


「勘違いしないでくれるかな。ルナの身体に興味はないんだけど」


「じゃあ何なのよ!」


「いやただね、強者を相手にして熱くなる気持ちは分からないし、不利だと分かってるのに戦い続ける気持ちも理解できないなあって」


「はあ?」


「二対一なんだ。強情を張らずに助けを呼べばよかったのに」


「あ……」


 今思い出したと言わんばかりに、ルナは懐から手のひら大の玉を取り出した。

 信号弾かそれに類する物かな。



「これだからお馬鹿さんは困る」


「なっ……、う、うるさいわね!」


 いつものようになじってあげると、彼女は頭から湯気を発してそっぽを向いてしまった。



「お遊びはそこまでにしてもらってもいいかね?」


「っ!」


「ホハハハハ! 戦いの最中によそ見をするとはいい度胸だ」


「それ前も聞いた気がする」


 ルナと話をしていると、二人のオレンジ髪が鎖を引きちぎりながら立ち上がった。

 何も雷桜封殺陣でとどめを指せるとは思っていない。動き出すとすればそろそろだと思っていた。



「魔笛・クリアナよ。我が思いに共鳴し旋律を鳴り響かせよ」


 オレンジ髪のうち、長髪でジャケットを羽織っている方の男はそう言うと、輝く笛に息を吹き込んだ。


 僕の記憶が正しければ、ムジークといったかな。



「<奏楽魔法>――“恋慕焦炎”」


 鳴り響く笛の音が魔法陣の役割を果たし、僕の胸に火を灯す。

 胸の内で燃え盛る炎には取り合わず、僕はルナに声をかけた。



「片方任せてもいいかな」


「当たり前よ。それより大丈夫なの?」


「何が?」


「ライトの胸の炎」


「大丈夫だよ。誰が君の炎を消したと思ってるんだ」


「それはそうなんだけど……。じゃあ何で今消さないのよ?」


「心配してくれるの?」


「バッ……! バッカじゃないの!? 誰があんたの心配なんか……!」


 悪戯な笑みを浮かべてやると、ルナは面白いように顔を赤らめた。


 なかなかいじり甲斐がある。



「今消してもいいんだけどね。ちょっと格の違いを見せつけてやろうと思って」


 「格の違い?」と首を傾げたルナを放置してムジークに向き直る。



「待たせたね。じゃあやろっか」


「フホホホホ、いいのかね? 先程、助けに来るのは柄じゃないと言っていなかったかね?」


「うん。だから?」


「後悔することになるぞ。このオレに勝負を挑んだことに」


「あ、そう。あいにくとまだ魔族に負けたことはなくてね。後悔する理由が見つからない」


「なるほど。では今日が初めて魔族に敗北する日になる」


「どうだろうね。やってみれば分かるよ」


 言って、僕はムジークに斬りかかった。


 甲高い音を響かせ、魔剣と魔笛がぶつかり合う。



「フホホ、豪語するだけの腕力はあるようだな。しかし胸に火が灯された状態でどこまで戦えるかね?」


 ムジークの言葉を無視し、魔剣ディバイドに魔力を注ぐ。



「【分裂剣】」


 魔剣ディバイドのもう一つの銘を呟けば、僕の正面に二本目の魔剣ディバイドが出現した。

 はしっと空いてる方の手でそれを掴み、光の魔力をまとわせる。



「――“光竜双葬斬ライトニング・ナトルウォス”」


 刹那、無数の剣閃が刻まれ、光の尾を引く。光の尾は複雑に絡み合い、やがて二振りの巨大な光の剣となった。


 大きさと鋭さを兼ね備えた光の剣を受け止めることは不可能と悟ったか、ムジークは身をひねるが間に合わない。

 パパッと鮮血が舞い、ムジークの胸には二筋の切り傷が残された。



「ぐぁ……、何たる威力だ! だが“恋慕焦炎”の灯火は未だ健在! 愛の炎に焼かれよ!」


 そう言って彼が魔笛に息を吹き込むと僕の胸の炎が勢いを増し、僕の全身を覆い尽くした。



「ふ、フホホホホホホホホッ!! 見よ! これが音楽の力だ! 誰かを慕う心は胸を焦がし、やがてその身を焼き尽くす! 人を愛する気持ちを止めることなど誰にもできや――」


「君の言う通り」


「――!?」


「誰かを想えば想うほど身は焦がされていくよね」


「ばっ……バカな。炎に呑まれてなぜ平然としていられるのかね……!?」


「よく見てごらんよ。この炎の元になっている魔力が誰のものなのか」


「何を言って…………っ!? こ、これは……! まさか、あり得ない! 一体何をしたのかね!?」


 燃え盛る炎をものともせずに一歩踏み出した僕を見て、ムジークの顔に焦燥の色が浮かぶ。彼はわなわなと震える手で僕を指す。



「これは少年の魔力……! いつの間に変わっていた!?」


「最初から」


「何だと!?」


「聞こえなかった? 『最初から』って言ったんだよ」


 魔剣ディバイドを鞘に収め、そっと右手を構える。



「君の魔法の効果は、誰かを想う気持ちを燃料にして相手の胸に炎を生じさせる、ってところかな」


「なっ……、なぜそれを……」


「そりゃあ、僕も似たような魔法を使うからね」


「『似たような』……。っ! まさかその炎がその魔法なのかね!?」


「ご名答。胸を焦がすほどの愛にとらわれている者にのみ扱えるこの魔法は、術者に牙を剥く魔法を喰らい、緋色の魔力に変換する。君の魔法によく似ているでしょ?」


 言って、僕は右腕に炎を収束させる。



「――“しゅうあい”」


「なっ――」


 ムジークが息を飲むのと同時、緋色の牙が彼に襲いかかり、彼の上半身を覆い尽くした。



「“恋慕焦炎”で点火されるまでもない。僕の心は姉さんを想う気持ちで燃えている。姉さんを想う気持ちこそが僕の力の原点だ」


 バクン、と炎に呑まれ、彼の上半身は真っ黒焦げになった。



「さて、ルナはどうなったかな?」


 彼女の魔力が漂ってくる方向に目をやると、まさに今、決着が着かんというところであった。


 助太刀は、必要ないかな。


 北の魔王軍も呆然としているから少しくらい目を離しても大丈夫だろうと、目線を手元に落とし自分の手のひらを見つめる。


 さっき僕が“光竜双葬斬ライトニング・ナトルウォス”を使おうとした時、わずかにだけど違和感があった。うまく魔力を変換できないというか、光の魔力が別のものに変質しそうだったというか。

 魔剣の元のオーラが闇色だから光を纏うには相性が悪かったのかな。“囚愛緋牙”は難なく使えたし。


 まあ気にすることはないか。



 そう思って足を踏み出したけれど、すぐに、僕の感じた違和感は目に見えるかたちとなって現れることになる――。


 

 前回が長かった分、今回は少し短めです。

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