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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side- Big 4 【剛鬼】

 セラフィスが名乗りを上げる際、第二師団長と名乗っていることに関して。諜報部隊“魔王の糸”隊長じゃなかったの? と思われた方がいるかもしれないので補足をしておきますと、第二師団員は全員が“魔王の糸”を兼ねています。ですからどちらで名乗りを上げてもいいわけです。諜報部隊のことはあまり表立って言えないので、基本は第二師団長と名乗ることになりますが、どう名乗るかはセラフィスの気分次第です。


 セラフィスがダラオと対面した頃。


 北の魔王陣西方にて二人の人物が向かい合っていた。


 一人は赤黒い肌をした、身の丈が2メートルはあろうかという偉丈夫。魔族の特徴である黒角の他に、額からは肌と同じ色の短い角が生えている。

 もう一人は和服に身を包んでいる、まげ(・・)と髭を生やした渋い男。


 互いの出方を探ろうと睨み合っていた両者だったが、赤黒い肌の巨漢が口火を切った。



「東の魔王軍四天王……兼、第三師団長【剛鬼】のドルトン・ゴドウィン」


 警戒心は決して緩めずに、和服男はそれに応える。



「北の魔王軍四神将補佐にして白虎隊参謀。【凪のひらめき】のイブキにござる」


 和服男――イブキが名乗りを上げ、腰から刀を引き抜けば、ドルトンも背負っていた金棒を構える。



「金棒とは厄介でござるのう。まともに打ち合えばすぐに刃こぼれを起こしてしまう」


 そう言いつつも、イブキは刀に魔力を乗せて攻める姿勢を見せる。



「だが、打ち合わなければどうということはない。貴殿の御首みしるし、頂戴いたす。――“魔断一閃”」


 呟いた瞬間、イブキの姿が消えた。

 ドルトンが不可解そうに眉根を寄せると、彼の背後から声が聞こえた。



「音もなく刹那の間に敵を切り裂く。ゆえに、【凪の閃】」


 静かに刀を収めようとし、イブキはふと違和感を覚える。よく見てみると、刀が刃こぼれを起こしていたのだ。

 思わず困惑し、彼の意識は目の前の刀に集中する。結果、肝心の敵に対する意識がおろそかになってしまった。



「っ!」


 イブキが殺気を感じ取った時には遅く、頭に鈍い痛みが走った。続けて背中には鋭い殴打が突き刺さる。



「馬鹿な……! 拙者の攻撃は入ったはずだ! なぜ動ける!?」


 叫びながらドルトンを睨みつけ、イブキは衝撃を受けた。

 切り裂いたつもりでいたドルトンの首筋には傷一つついていなかったのだ。



「オデ、“金剛力”使っタ。“金剛力”使ウト身体硬くナル」


「硬…………っ!? 硬いどころの話ではなかろう!」


 ドルトンの淡々とした返しにイブキは慌てふためく。無論そのような状態で攻撃をいなせるはずもない。

 幾撃かの殴打を浴びてから、ようやく彼は持ち前のスピードで攻撃の嵐から抜け出した。



「ちぃ……っ! 斬撃を防ぐだけの硬度があれば当然攻撃力にも転じうる。何とも厄介な魔法でござるのう!」


 悪態をつきながら、彼は腰に下げていたもう一本の鞘から刀を引き抜く。



「こうなれば致し方なし。拙者の秘刀を見せてくれるわ」


 現れたのは、禍々しいオーラに包まれた刀身。



「“妖刀・アケノミヤツコ”」


 彼の言葉に呼応するように輝きを増した刀の切っ先をドルトンに向け、殺気を研ぎ澄ましてゆく。



「鉄のように固いのであれば、鉄を斬るつもりで斬ればいいだけのことでござる」


「……――“金剛力”」


「ししし、試してみるか? ――“破断斬鉄凪閃ノ息吹”」


 刹那、イブキの身体が閃光と化す。


 キンと刀を収める音が鳴ると、鮮血が舞った。



「っく、コレは――」


「どうだ? ご自慢の硬化魔法が破られた感想は」


「――気持ちイイ……!」


「そうでござろう、気持ち――なえ!?」


「気持ちイイ。モットやれ」


「く……、どこまで馬鹿にすれば気が済むつもりか!! ならば望み通り微塵に斬り裂いてくれるわ!

 ――“破断斬鉄凪閃ノ息吹”ッッ!!」


 妖刀が煌めき、ドルトンの身体に無数の切り傷が刻まれる。しかし彼は苦痛に顔を歪めるどころか、気持ち良さそうに恍惚とした表情を浮かべる。

 そんな彼の様子に薄ら寒いものを感じ、イブキの斬撃は鋭さを失う。途端、彼の首が大きな手によって掴まれた。



「オマエ、もう終わりカ?」


「離せ……! 冷静になりさえすれば貴殿など敵では――」


 ポキン、と、何かが折れる音がした。



「――な、な……ば…………」


 ドルトンが金棒を叩きつけ、イブキの妖刀を折ったのだ。



「……そん……、こ、が……。ぁ、あ、あ! あああああああああああああああああああああっ!!!!」


 ショックの大きさに発狂したイブキは折れた妖刀をわなわなとドルトンの眼前に突きつける。



「よくも拙者の妖刀をォオ! 許さん! 貴殿だけは許さんぞォォオオオアがばあっ!」


 イブキは顔面を殴られ、宙に放られる。



「――“金剛打法”」


 たった一撃。

 バットのように振り抜かれた金棒によってイブキの全身の骨は粉々になり、彼は遥か彼方へ飛んでいった。



 * * *



「おーおー、コイツらまで殺られちまったんかー。戦況が混沌としてきたなー」


 ドルトンがセラフィスの元までやって来たとき、ちょうど北の魔王軍方の最強の将・アドルノスキーが姿を現したところだった。

 アドルノスキーは屍となった二人の将を冷徹に見据え、手をかざして氷漬けにした。



「とはいえまだこっちのが有利だけどなー。四神将が健在のうちは、そう安々と撤退にまで追い込まれることはない」


「それはこちらとて同じことだ。四天王がいる限り、貴公らの好きにはさせない」


「んー? つっても一人死んだろ。俺様がこの手で葬ってやったんだからよ」


 ピクリとセラフィスのこめかみが動いた。普段から不機嫌そうな面持ちの彼だが、今日はいつにも増して一段と険しい表情を浮かべている。



「ははっ、【穿空】さまはよー、冷静そうに見えて、実は仲間のことになると熱くなりやすいよなー」


「黙れ」


 挑発に乗り、セラフィスは魔弓ヘヌメネスの矢を放った。



「――“氷晶石壁クリスタル・ウォール”」


 しかし涼しい顔で十本の矢は弾かれてしまう。



「短絡的だなー。まさかお前たちだけで俺様に勝てると思ってんのか?」


 彼の言葉にふと我に返ったセラフィスは信号弾を打ち上げる。



「ははっ、そうだ、助けを呼ぶこったなー。【東の魔王】さまなら俺様を倒せるかもしれないしよ」


 「まあ」とアドルノスキーは続ける。



「助けが来る前に、お前たちは死ぬけどな」


 氷の結晶の形をした鐔を持つ、透き通るような魔剣を抜いて地面に突き刺す。



「北の魔王軍四神将にして玄武隊司令官。【白霜】のアドルノスキー」


「東の魔王軍四天王にして第二師団長。【穿空】のセラフィス・リュードベリ」


「同ジク四天王、兼、第三師団長。【剛鬼】のドルトン・ゴドウィン」


 名乗り終えると、地面から無数の氷の槍が出現した。



「――“激震氷牙”」



 * * *



 セラフィスが打ち上げた信号弾を確認し、オラクの側に控えていたハルバードは烏羽色の杖を手に取った。



「行ってまいります」


 うやうやしく頭を下げ、足元の影をトントンと杖で突く。と、その時。



「報告しますっ!」


 呼吸を荒げた一人の兵士が本陣に駆け込んできた。



「北の魔王陣より魔物部隊が進軍を開始! さらには東の魔王領の東端に位置する“果ての森”から無数の軍勢が出現! 速度を上げてこちらへ迫っています!」


「『軍勢』……?」


 首を傾げたオラクは一つの結論に至る。



「そういえば人間界の南方は北の魔王軍が占領してるんだったな。そいつらか」


 人間界と魔界を繋ぐ唯一の場所である“果ての森”は人間界の南方に通じている。オラクの記憶が正しければ、ここ一ヶ月で北の魔王軍は“果ての森”周辺一帯を完全に手中に収めたはずだ。

 一帯を占領してしまえば人間の妨害を受けないため、万全の態勢を整えて東の魔王領へ侵攻してきたのだろう。



「その軍勢に四神将はいるのか?」


「四神将かは分かりませんが、四天王以上の魔力を有する者がいるとの情報が入っています」


「なるほどな。ハルバードはどう思う?」


「十中八九四神将とみて間違いないでしょうな」


「やはりそうか」


 報告に来た兵士を下がらせ、オラクはさてどうするかと頭を捻る。


 信号弾を確認した以上ハルバードはそちらへ向かわせるべきなのだろうが、“果ての森”から現れた北の魔王軍も看過できない。魔物部隊とて、幹部なしに撃退できるかは分からない。



「さすがに俺も出るしかないんじゃないか」


「……そうですな。できれば【北の魔王】が出てくるのを待ちたかったのですが、やむを得ないでしょうな……」


 立ち上がったオラクはコートを羽織り、いくつかの魔道具を忍ばせる。

 転移防止結界の効果で術式を乱されながらもなんとか魔力を制御しきり、転移魔法陣を描いたオラクはふと魔力を感知し、上空を見上げた。



「この魔力……まさか……」


 戦場を覆い尽くす膨大な魔力。発信源である上空には、世界と世界を繋ぐ扉が開こうとしていた。



 * * *



「はあっ……はあっ……はあっ」


 ギリッと歯軋りをし、ルナは目の前に悠々と佇む二人のオレンジ髪を睨みつけた。


 戦闘が始まってから数十分。二対一という厳しい状況ながら善戦を続けていた彼女だったが、とうとう限界が訪れていた。



「フホホホホ、そろそろ諦めたらどうかね?」


「潔く負けを認めるのもまた芸術アートだ!」


「……っ、誰が降参なんてするのよ! アタシが奥義を使えたらあんたたちなんて……!」


「ホハハハハハ! たらればの話をしたところでどうにもならないだろうよ!」


 正論を返され、ルナは言葉に詰まる。



「月夜に力を発揮する“月光姫げっこうき”。確かに恐るべき技ではあるが、日の出ているこの時間においてはただの身体強化魔法でしかない。なんとも使い勝手の悪い魔法だとは思わんかね?」


「ホハハハ、兄者の言う通りだ!」


 悔しげに拳を地面に叩きつけたルナは気力を振り絞って立ち上がる。地面を蹴って駆けた彼女だったが、突然目の前に灰色の魔力が飛んできて、一つの魔法陣が描かれた。



「ホハハハハ! <芸術魔法>――“嘆きの牢獄”!」


 モヒカン男・ピエールが叫べばルナの周囲に歪な檻が出現し、彼女を捕らえる牢獄と化した。

 動きを封じられたルナに追撃を加えるため、長髪男・ムジークは魔笛に息を吹き込む。



「<奏楽魔法>――“恋慕焦炎”」


「くぅ……っ!」


 瞬間、ルナの胸から真紅の炎が生じる。

 炎は内から彼女の身体を焼いていき、呼吸を乱す。



「……かはっ、何……よ。これ……!」


 忌々しそうにムジークを睨みつけるも、彼は答えずに魔笛を吹き鳴らし続ける。


 魔笛と魔筆により新たな魔法陣を完成させたムジークとピエールは、炎の波と紅の魔弾を射出した。



「<奏楽魔法>――“情熱音楽ジャズ・ミュージック”」


「<芸術魔法>――“芸術爆発ダ・ヴィンチ・コード”!」


 奇しくも自分の得意な属性の魔法。全力で迎え撃てば相殺できるだろうが、ルナは身体を内から焼かれ、まともに魔力を練り上げることができないでいた。


 まさに絶体絶命。

 なすすべもなく散るのかと、己の無力を呪い、彼女は目をつぶった――。


 ――しかし。轟音が響き渡り、驚いたルナが目を開けると二つの魔法は跡形もなく消えていた。



「……え?」


 目を丸くする彼女の正面に、何者かが流星のように降り立つ。



「間一髪だったね」


 砂塵の中から姿を現したのは、頭部に黒角の生えていない金髪碧眼の少年。



「ら、ライト……?」


「うん。柄じゃないんだけど」


 静かに剣を抜き、少年は口を開く。





「助けに来たよ」



 


 今回の話はちょっと長くなってしまいました。どうしても最後の部分を入れたかったので……。

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