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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-O 仲間の思いを背負って


 開戦前。北の魔王軍の正面に布陣した俺たちはミーティングを行っていた。



「予定通り、これから北の魔王軍に攻撃を仕掛ける。ただ無理はするなよ。死んだら元も子もないからな」


 はやる気持ちを抑え、俺の正面に立ち並ぶ幹部達に指令を下す。

 今にでも仕掛けたい気持ちでいっぱいだが、感情を優先させて軍を危険に晒すわけにもいかない。事前に認識を共有しておくことが重要だ。



「この一ヶ月、吾輩は北の魔王軍の要注意人物について調べてきた。これから名前の上がる人物については頭に入れておくと良いだろう」


 俺の隣にセラフィスが歩み寄り、幹部達を見渡すと数枚の紙を取り出した。



「まず、誰もが知る【北の魔王】トオル・オキシド・ピンクゴリラ」


 いつものように険しい表情で話し始めたセラフィスだったが、幹部達は何とも言えないような表情を浮かべる。


 【北の魔王】のファミリーネームが珍しいためだろう。気持ちは分かる。ルナに至っては笑いを隠そうとすらしてないし。



「名前が変わっているからと決して侮らぬことだ。彼は魔王陛下と同じ“災厄の世代”の一角。【雷神】の異名をとる彼の実力は本物である。貴公らでは到底足下にも及ばぬだろう。当然、吾輩も」


 空気を引き締めるためにセラフィスが軽く脅しをかけると、幹部達はギョッとして硬直した。

 一番驚いているのはルナだ。笑ってしまった手前、バツが悪そうにもしている。



「次に、北の魔王軍四神将、【白霜はくそう】のアドルノスキー。【北の魔王】を除けば、かの軍の中で最強の将だと思われる。一目彼が戦うところを見たことがあるが、一対一で勝てるのは魔王陛下とハルバード殿ぐらいであろう。ニュマル殿を倒したのも彼だという報告が入っている」


「なっ……!?」


 四天王すら凌駕する実力を有する。衝撃の事実が明かされ、その場の空気がさらに重くなった。


 その後もセラフィスから要注意人物の名が伝えられていき、最後の一人の情報が伝えられると幹部達は意気消沈して地面と睨めっこを初めてしまった。


 相手の幹部へ無謀な戦いを挑まないように情報を周知させておこうと思ったが、これではただ士気を下げただけになってしまうな。少しフォローしておくか。



「何、そこまで落ち込むことはないさ。一対一で勝てないからといって北の魔王軍に勝てないわけじゃないだろう? これは集団戦なんだ。ちゃんと連携が取れてれば勝てない相手じゃない」


 ハッと、彼らは顔を上げた。



「それにお前達だって強くなったじゃないか。オリビアの魔法講座を受講する前の自分達を想像してみろ。あの時と比べて、皆成長しただろ?」


 全員がはっきりと頷く。オリビアの教えを受けたことで、格段に実力が上がったことを実感しているのだ。



「四神将と魔王にだけ注意して、単独の部隊での行動を避ければいい。四神将が相手でもない限り、二対一で負けるお前達じゃない。もし四神将が現れたとして、二部隊以上で行動してれば少しは持ちこたえられるだろう」


 徐々に空気に活力が満ちてきた。

 あと一押しか。



「時間さえ稼いでくれれば、その間に四天王や俺が駆けつける。訊くが、俺が誰かに負けると思うか?」


 思わない。

 声にこそ出さなかったものの、彼らの口は全員同じように動いた。


 いや、一人声に出してた。まあそいつのことはいいか。



「俺は……いや、俺達は負けない。勝って、東の魔王領に平和を取り戻す」


 歓声は上がらない。だが、幹部達の瞳には熱いものが宿っていた。



「行くぞ。北の魔王軍に思い知らせてやろう。『これが東の魔王軍だ』と」



 ◇ ◇ ◇



 戦いが始まってから数時間。決着のつかないまま、日の入りを迎えた。



「やはりそう簡単には崩れてくれませんな」


 自陣へ引き返して行く両軍を双眼鏡で眺めながら、滞空しているハルバードが呟いた。



「向こうの兵力は八万。一方の俺達は四万。元の数が違うからな」


「そうですな。この兵力差で互角以上に渡り合えたのですから滑り出しは上々と言えましょう」


 双眼鏡を下ろし、彼は俺の傍に降り立つ。



「俺が出てればあるいはもっと優勢になっていたのかもしれないが」


「なりませぬと何度もお伝え申し上げたでしょう。貴方様のお力はそこまで北の魔王軍に知れ渡っておりませぬ。無闇に力を晒すのはおやめくださいませ」


「それは……そうなんだけどさ」


 分かってはいるが、ニュマルの仇を討てないことがもどかしい。



「【北の魔王】が出るまではご辛抱してくだされ」


 一息つき、紫色に染まっていく空を仰ぐ。



「【北の魔王】をおびき出せればいいんだけどな」


「……ふむ、おびき出す……ですか。策がないわけでもありませぬ」


 そう言って、ハルバードは幻術にて手のひら大の人型を三体地面に投影した。



「後方に控えるこの人型を【北の魔王】としましょう」


 彼が指を指すと、その人型はバチバチと雷を纏った。もちろんこれも幻術だ。



「前方の二体を四神将とします。これを見事倒したと仮定しましょう」


 バタリと二体の人型が倒れる。すると仮想【北の魔王】がそわそわとし始め、やがて耐えきれなくなったのか全身から雷撃を解き放った。



「【北の魔王】は義理堅い、配下思いの人柄で知られております。一人ならまだしも、二人やられたとなれば心情的にも戦略的にも出撃せざるを得なくなるでしょうな」


 彼が手を叩けば、幻術の【北の魔王】は消え失せた。



「策と呼べるほどの策でもありませぬが、有効な手ではあるかと存じ上げます」


「なるほどな。確かにこれならうまくいきそうだ」


 「しかし」と俺は顎に手を当てる。



「ますます分からないな。義理堅い、どちらかといえば温厚な【北の魔王】がなぜ南下しようとしたのか」


「それはじぃも気になっておりました。ですが戦争が始まってしまった以上考えるだけ無駄というものでありましょう」


「ああ、そうだな」


 直接対面すれば聞けるだろうし。


 もっとも相手が俺の恩人だろうが何だろうが手加減するつもりはさらさらない。何しろ北の魔王軍は俺の配下をあの世へ送ったのだ。相応の仕打ちは覚悟してもらう。



「今日は双方最高幹部は部隊の指揮に徹しましたが、明日は本格的に仕掛けてくるでしょうな。そこで、敵の主力を叩きます」


「簡単にはいかないだろうな」


「ええ。正直申し上げると、東の魔王軍四天王と北の魔王軍四神将とでは、四神将の方が僅かに分がいいでしょう。四天王には最悪、四神将補佐を抑えていただければ十分です」


「でもそれだと四神将を叩けなくないか?」


「じぃが出ます」


 静かな闘気を瞳にたぎらせ、彼は俺と視線を交差する。


 覚悟は本物のようだ。



「大丈夫なのか?」


「はい。200歳にもなっていないような若造に負けるほど衰えてはおりませぬ」


「なら頼む。無理だけはしないようにな」


「約束はできかねますな。我が身は御身の盾。命を賭して貴方様をお守りすることでこそ輝くことができる身であります。無理の一つや二つ、ご勘弁いただけますよう」


「……本当、頑固だよなお前。そこは嘘でも『はい』と言えよ。まあ負けないならいいけどさ……」


「お気遣いいただき万謝いたします」


 言って、彼は静かに腰を折った。



 ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 作戦を伝えるため、俺はルナを含む三人の四天王を呼び出した。



「いいか、お前達の仕事は四神将を戦場に引っ張り出すことだ。四神将を見つけ次第、信号弾を打ち上げてハルバードを呼ぶこと。四神将は基本補佐と共に行動するらしいから、お前たちは補佐を抑え、ハルバードに四神将を討ってもらう」


「……アタシたちが四神将と戦っちゃダメなの?」


「四神将の方が強いからな。だがまあ、勝てる見込みがあるなら戦ってもいい。どちらにしろ二人の幹部を相手にするのは厳しいだろ?」


「ハルバード殿を呼ぶことに変わりはないというわけか」


 「そういうことだ」と頷き、三人に拳大の玉を渡す。



「これが信号弾だ。魔力を込めれば勝手に空へ飛んでいく」


 各々それを慎重に懐へしまい、姿勢を正す。



「武運を祈る」


 俺が声をかければ、彼らは胸に拳を当てる魔王軍式の敬礼をし、そして部隊を率いるために駆けていった。


 

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