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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第一章 東の魔王と竜伐者
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Side-L 竜伐者


「セントラル……? 何それ?」


 僕が素性を明かすと、魔族の少女・ルナから驚くべき言葉が飛び出してきた。

 対魔族の名目でエントポリス王国が設立した3つの魔法機関。そのうちの一つ、中枢魔法協会(セントラル)のことを知らないという。


 中枢魔法協会(セントラル)といえば多くの人間が恐れ、敬う集団だ。度々勇者の補助として魔界に赴き、魔王暗殺を試みることもある。それゆえ魔族でも憎むべき相手としてその情報がインプットされているはずだ。


 そう教わったんだけどなぁ。ま、いっか。



「セントラルっていうのは、市民や貴族から寄せられた依頼をこなして生計を立てる魔法専門の戦士たちが集まった組織のことだよ。主に魔物狩りなんかをしている」


「魔物狩り……」


「そ。君たち魔族にとっては仲間かもしれないけど、僕たち人間にとっては害獣でしかないからね。もっとも全てが害獣ってわけではないけれど」


 中枢魔法協会(セントラル)について説明してあげると、かすかにルナの表情が曇った。

 それもそうだ。魔族は姿形は人間と同じと言えども、魔力の波長は魔物に近い。だからこそ魔族は魔物を操れるのだし、魔物に仲間意識を持つ魔族もいる。


 とはいえ魔族に害を及ぼすような魔物もいるし、仲間というよりも家畜のように思う魔族の方が多いらしい。彼女みたいに仲間のように思うケースは稀だろう。



「狩るって言っても、まさか人間に害を及ぼしていない魔物までは狩ってないでしょうね?」


「もちろん――と言いたいところだけど、意味もなく魔物を狩るような連中もいる。毛皮を売ったり、牙を売ったりするために」


「そんな……」


 少し喋りすぎたかな。必要以上に彼女を悲しませてしまった。

 こんな時は風呂に入ってご飯も食べてもらって、リフレッシュしてもらうか。



「さあ、こんなところで立ち話するのも何だし、家に行こう」


「う、うん、そうね。ちゃんとおいしい料理を用意してくれるんでしょうね?」


「もちろんそのつもりだよ」



 ◆ ◆ ◆



「ただいま」


 人目につかないよう気をつけながらルナの手を引き、ようやく僕の家に到着した。

 彼女にはフードつきのコートを着てもらったので、夜ということもあり、黒角が誰かに見られた心配はない。面倒事が嫌いなので、念には念を入れたというわけだ。


 玄関に入り彼女からコートを預かると、リビングの方からドタドタと白い毛玉が走ってきた。



「ひっ!? い、犬!?」


「違うよ。犬だったらこんなに大きくならない。狼だよ」


「あ、あんた狼なんて飼ってるの!?」


「懐かれたから仕方なくね」


「噛んだりしない?」


「まさか。この子はお利口だから僕が噛めって言わない限りそんな真似はしないさ」


 一歩後ずさったルナに説明してやると、彼女は警戒心を解きホッと息をついた。



「この子の名前はフェル。魔物だから仲良くできると思うよ」


「魔物!? え!? あんた魔物を狩る組織に属しておきながら魔物を飼ってるの!?」


 僕の飼い狼・フェルのことを紹介すると驚いたリアクションをされる。と、同時に魔物と一緒に暮らしていることが判明したためか、僕に対する警戒心が少し和らいだみたいだ。



「フェル、この人は魔族のルナ。仲良くしてあげるんだよ」


 ルナの紹介をすると、フェルは「待ってました」とばかりにルナに飛びつく。


 一人と一匹のじゃれ合いに微笑ましいものを感じながら、僕は彼女の食事を準備するためダイニングに歩いていった。


 ◆


 10分後、フェルの洗礼を受けたルナはすっかりフェルと仲良くなったようだ。魔族と魔物、魔力の波長が近いだけあってフィーリングが合うのだろう。

 ただフェルの体長は約3メートルなので、13歳くらいのルナと並ぶと絵面が凄いことになっている。絶対怒られるから口にはしないけど。



「保管庫に入ってたのを温めただけだけど、できたよ」


 こみ上げてくる笑いを必死にこらえながら食卓に料理を並べる。魔族は肉が大好物だとどこかで聞いたことがあるので、卓上は肉料理のオンパレードだ。



「へぇ! どれもこれもおいしそう! 全部ライトが作ったの?」


「いや、ほとんど貰い物か買ったものだよ。僕はあまり料理が得意じゃないから」


「ふーん、貰い物か。確かにクオリティーの高いものばかりね。ていうかこれ全部作ったとか言われたらちょっと引く」


「え、なんで」


「アタシ女子力高い系男子とか嫌いなのよ。あと女子力高い系女子も」


 そういうことか。

 よくわからないけど何か嫌がる理由があるのだろう。



「それじゃあゆっくり堪能してくれ。僕は風呂に入ってくるよ」


「ん? ライトは食べないの?」


「うん。もう食べたから」


「そう。なら遠慮なく食べさせてもらうわ」


 ルナは「いただきまーす」と言って手を拭きナイフとフォークを持つ。


 うん、この様子ならナイフの使い方がわからないなんてことはなさそうだね。安心して風呂に入れる。


 フェルに彼女のことを見張るようアイコンタクトで伝えてから部屋を出ようとし、ふと思い出した。



「そういえば君の素性をまだ明かしてもらってないよね」


「いやいやいや、さっき名乗ったでしょ!?」


 もしルナの家が厳しい家だったら、この家に泊めてあげることで何か面倒なことになってしまうかもしれない。そうならないためにも彼女の家について教えてもらおうと考えていたのだ。



「名前だけじゃなくて、身分とか、家のこととか、大雑把でいいから教えてほしい」


 僕の心の内を伝えると、ナイフを持っていたルナの手の動きがピタッと止まった。



「……何でそんなこと教えなきゃいけないの?」


「はっきり言ってしまえば、まだ君のことを信用できないから。名前しかわからないような魔族を家に招いているんだから、警戒して当然でしょ」


「け、警戒って……! 何もしないわよ! それにアタシの家について教えたからって、アタシのこと信用できるとは限らないじゃない」


「それでも、だ。居候が家主に素性を明かすのは礼儀だよ」


 「居候じゃないし……」と言いながらルナは目を伏せる。よほど教えたくないのだろうか。口を開く気配が見られない。



「どうしてもっていうなら教えなくてもいいよ。その代わりこの家から出ていってもらうから」


「ちょ……! それ脅迫っていうのよ!? あんたって本当に性格悪いのね!」


「ありがとう」


「褒めてないし!」


 そのまましばらくギャーギャー騒いでいた彼女だったが、骨付き肉にかぶりつき、あることを提案してきた。



「ライトの実力を見せてくれたら教えてあげてもいいわよ」


 だそうです。まったく、家に泊めさせてもらう立場だってことを忘れているじゃないか。



「実力を見せるっていうと、具体的にどんなことをすればいいのかな」


「実力は実力よ! 魔法でも剣舞でもなんでもいいから、アタシを満足させてみなさい!」


 はぁ、随分と高飛車な子だ。

 なんとなく高貴な魔族っぽいということはわかったけど、いちいち話に付き合うのが面倒だな。



「なんでもいい、となると……これか」


 僕のほうが立場が上だということをわからせつつ、実力を見せつけることができる方法を実現するため、ゆっくり息を吐き空間を支配する。そして目に意識を集中させ、気力の流れをコントロールする。



「さあ早く……し…………っ!!?」


 僕が目を合わせた瞬間、ルナの瞳孔が拡大した。



「どうかな? これで僕の実力は理解してくれたと思うけど」


「ど、どうなってるの!? 体が動かないんだけど!」


 驚きの声を上げ、苦痛に汗をにじませる彼女の顔を見てニヤリとする。



「これは目を合わせた相手の四肢の動きを止める、“竜伐者(ドラゴンスレイヤー)”の持つ特殊能力だ」


 そしてなぜ魔族を家に招き入れるという危険な行動に出たのか、またなぜ魔族を脅迫できたのか、その答えを、僕の正体を明かすことによってほのめかした。


 って、何やってるんだ僕は! 彼女の正体を暴くつもりが自分の素性について語ってしまった!

 ……まあいっか……。


 

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