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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-O 勇者養成学園


 ライトの家に来て数日が経った。俺はルナと共に、オリビアとライトに案内してもらって街を歩いていた。

 いくつかの店を回った後、俺達はある施設に足を踏み入れた。



「ここは?」


「魔王の宿敵を育てる場所だよ」


「宿敵……?」


 何のことだと思いながらライトの後について行く。



「やっぱり人間側と魔族側とじゃ認識に違いがあるんだね」


 苦笑したライトは敷地内の広場の中央で立ち止まった。



「人間側――というかエントポリス王国の認識としては対魔王の切り札ってことになってるんだけど、君にとっては大した脅威じゃないみたいだ」


「……あー、もしかして勇者のことか?」


「正解」


 彼の背後にある、仰々しい台座に刺さった剣に向き直りつつ彼は続ける。



「僕と姉さんが所属する中枢魔法協会セントラル、アルベルト兄さんが副団長を務める聖魔導騎士団。それらに並ぶ三つ目の王立魔法機関。それがここ、勇者養成学園なんだ」


「こんな普通に敷地に入れるものなのか」


「立入禁止エリアもあるけど、ここは一般向けに開放されてるいわば宣伝用のスペースだからね。その象徴がこの剣だ」


 言って、彼はその剣を指し示した。



「これは?」


「聖剣エクスカリバー。と、解されているもの」


 『解されているもの』ということは、本当は違うということだろうか。



「これは五大貴族しか知らない情報なんだけど、この剣の真の銘はエクスクライシスっていうんだ。またの銘を【選別者】。この世にただ二振りしか存在しない聖剣のうちの一つだ」


「聖剣……」


 感嘆のため息を漏らしながら聖剣――エクスクライシスに触れると、刀身がまばゆい光を放ち始めた。



「特に身体に異常は感じないが」


「…………あ、うん、聖剣とはいっても【選別者エクスクライシス】に対魔族の効果はないから……。っていうかそんなことより――」


 ライトが言い淀んでいると、背後から野太い声が聞こえた。



「おおおっ、なんと! これは素晴らしいっ! 貴方には勇者の素質がある!!」


「は?」


 振り向けば、白い髭を生やした体格のいい男性が立っていた。

 制服のようなものを身に纏う彼の拳には、勇者の証である刻印タトゥーが刻まれている。



「聖剣エクスカリバーが輝いている! これは聖剣が貴方のことを勇者と認めた証です!」


「いや急にそんなこと言われても」


「憎き諸悪の根源・【東の魔王】を倒すこの上ない名誉を得るチャンスです! さあ、どうです。ぜひ当学園に通い、勇者への道を歩みませんか?」


 この上ない名誉って言われてもな。俺が俺を倒してどうする。


 困ったようにライトらに視線を向けると、皆おかしそうに腹を抱えて笑いをこらえていた。



「申し訳ない。興味ないな」


「なっ……! そうおっしゃらずにどうかっ! 見事勇者になれれば莫大な富と名声が得られる。在学中の学費もすべて国が負担してくれます。お金の心配なら無用ですが……?」


「金の問題じゃない。興味がないと言っているだろう」


 なおも彼は引き留めようとしてきたが、俺は取り合わずに足早に学園の敷地を出た。


 少し遅れて他の三人も出てくる。



「あはは、さっきのやりとりは面白かったよ。新手のギャグかな?」


「やめてくれ……」


「まさか魔王を勇者にしようだなんてね」


 本当だよ。一体何がどうなっているんだ。


 なんとも言えない疲労感に苛まれていると、考える素振りを見せていたオリビアがふと口を開いた。



「聖剣エクスクライシスが輝くには何か条件があったような……」


「勇者としての素質を持つ者が触れれば光るんじゃないのか?」


 さっきの男性も言及していたし。



「それはそうなのですが、素質を持つと判断される条件があったはずです。たぶん、貧困に繋がるような何かだったと思うんですけど……」


 目をキュッと瞑り、長考に沈む。

 そのまま歩き始めようとしたものだから、彼女はつまづいて体勢を崩してしまった。


 とっさに手を伸ばし、彼女の体重を支える。



「大丈夫か?」


「あ……はい。すみません」


 相変わらず考え込むと周りが見えなくなるようだ。


 微笑みかけ、体勢を整える手助けをしていると、棘ある二つの声調が耳に入ってきた。



「いつまで姉さんの手を握ってるんだ」


「そうよ、お兄ちゃんから手を離しなさいよ」


 一方は俺に、もう一方はオリビアに。しかし批難の矛先はすぐに変わった。



「ルナの目は腐ってるのかな? 先に握ってきたのはオラクの方じゃないか」


「ライトこそ頭に豆腐でも詰まってるんじゃないの? その手をいつまでも離さないのはオリビアの方でしょ」


 指摘され、オリビアは慌てて手を離した。



「オラクの握力が強すぎるから離したくても離せなかったんだよ。こんなパッと見冴えない男の手を誰が喜んで握るっていうんだ」


「はぁあっ!? どう見たってお兄ちゃんの腕に力なんて入ってなかったでしょうよ!」


「力が入っていなかったならどうやって姉さんの体勢を支えたっていうのかな」


「その後の話よ!」


 互いに火花を散らして睨み合う。

 と、ライトが視線をそらし、何かを視界に捉えた。さらにその瞳が徐々に竜胆りんどう色に染まっていく。


 ライトに飛びかかろうとしたルナを払い除け、彼は俺に耳打ちする。



「知り合い?」


「? 何の話だ?」


 俺が首をかしげると、彼は近くを通りかかった白髪の人物を顎で示した。



「あの人だよ。魔族の香りがしたから“竜眼ドラゴン・アイズ”で見てみたんだけど、頭に黒い角が生えてた。それに魔力の格が桁外れだったから四天王だったりするのかなって思っ――」


 言いかけた彼の言葉は轟音によって掻き消された。

 俺達の目の前に白髪で隻眼の青年が現れ、石畳に魔剣を叩きつけたのだ。



「いっやー、バレちまったか〜。やっぱ幻術はムズいなー」


 ケタケタと笑いながら青年は魔剣を構える。



「四人を相手にすんのはさすがにキツいから一人になるのを待とうって思ってたんだけどよー」


「誰のことをだ?」


「そりゃおめー、【東の魔王】さまと【宵の月】さまのことよ」


 俺とルナのことを?



「けど俺様が魔族だとバレてる状態で奇襲が成功するとも思えないかんなー。どうせうまくいかないなら人目の多いところで暴れた方が【東の魔王】さまも困ると思ってよー」


 青年がトンと足を踏み鳴らせば彼の幻術が解かれ、頭部の黒角があらわになった。

 途端に辺りには殺気を伴った魔力が漂い始め、通行人がバタバタと倒れていく。



「まあそういうわけでよ、ちょっくらお二人の実力を測らせてもらうわー」


 言って、彼は地面を蹴ろうと姿勢を低くしたがしかし、その場からピクリとも動けなかった。

 彼の眉が怪訝に顰められる。



「君が何のためにオラク達を襲おうとしているのか分からないけどね」


 声の主の方を振り向くと、ライトの鋭い視線が白髪の青年の瞳を射抜いていた。



「既に“竜眼ドラゴン・アイズ”を発現させている僕の目の前で自由に動けると思わないことだ」


 そう言ったライトの全身から尋常ならざる魔力が放たれ、青年の魔力と殺気を呑み込んでいく。



「……何だこの魔力は……。こんなの聞いてねーよ」


 ポタリと雫が地面に垂れる。

 青年は魔法陣を構築しようするが、両手が使えないためうまくいかないようだ。


 微動だにしない青年の様子を好機と捉え、ルナが拳を振りかざして飛びかかった。



「うぉー、やっべー」


 焦る青年の鳩尾みぞおちに拳が吸い込まれていく。


 ――入った。


 そう、誰もが確信した瞬間。



「フホホホホホ! させると思うかね?」


「ホハハハハハ! 身動きの取れない味方の前に颯爽と姿を現す。これぞまさに芸術アート!」


 新たに二人の男が現れ、変わった得物でルナの殴打を受け止めた。


 二人とも茶ともオレンジともとれる髪色をしており、顔のつくりがとてもよく似ている。兄弟か、あるいは双子だろう。

 ただ髪型と服装はだいぶ系統が違う。片方はパーマのかかった髪が背中まで伸びており、ワイシャツの上に黒のジャケットを羽織っている。他方は膝丈のデニムのパンツに、ボタンを開けて肉体をさらけ出したアロハシャツ。そしてモヒカン頭だ。


 そんな二人の新手によって視線を遮られたためかライトの“竜眼ドラゴン・アイズ”の効果が切れ、白髪の青年は自由を取り戻した。



「いっやー、危なかったわー」


 コキコキと骨を鳴らし、彼は魔剣を構え直す。

 彼が魔力を注げば、氷のように透き通る刃を持つ魔剣は月白げっぱく色のオーラに包まれた。



「さーて、今度はこっちの番だぜー」


 言いながら魔剣を地面に突き刺す。



「――“激震氷牙げきしんひょうが”」


 瞬間、地面から無数の氷の槍が出現した――。



 

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