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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-L 魔王様のご案内


 僕と姉さんが魔王城へ戻ってくると、ちょうどオラクが【南の魔王(ルシウス)】と惜別の挨拶を交わしているところだった。



「それじゃあ、また来るネ!」


「ああ。次からは前もって連絡を寄越してから来いよ。配下が驚くから」


「オッケェェイ!! 覚えておくよ、三秒ほど!」


 苦笑するオラクに手を振って、ルシウスは転移魔法陣を描く。

 と、何かを思い出した彼は手を止め、オラクの耳元で囁く。



「たまにはルシェルにも顔を見せてあげてネ?」


 最後に穏やかな笑みを残して、今度こそ、ルシウスはセリーヌと共に転移の光に包まれた。



「……」


 軽く手を振っていたオラクの眉が中央に寄る。

 そんなに気乗りしないことなんだろうか。

 『ルシェル』というのが誰なのか、僕には分からないけど。



「あ、お兄ちゃん、ライト達が帰ってきたわよ」


 声をかけるかどうか迷いながらも近づいていくと、ルナがこちらに気づいてオラクの肩を叩いた。



「帰ってきたか。おつかれ」


「うん、ありがとう。大して疲れてないけどね」


「だろうな」


 話しているうちに彼は普段の気怠そうな表情に戻る。



「それと僕の家の掃除も済ませてきたから、いつでも迎え入れられるよ」


「……つまり、お前の家に泊まってもいいと?」


「うん」


「どういう風の吹き回しだ? さっきまであんなに面倒臭がってたのに。しかもオリビアだってお前の家に泊まるんだろ?」


 彼が問いかければ、姉さんは静かに首肯した。



「同じ屋根の下っていうのは少し不安だけど、僕の目の届くところに置いておきたいし」


「俺をってことだよな」


 当たり前じゃないか。他に誰がいるんだ。



「あれ、じゃあアタシもライトの家で生活しないといけないの?」


「君が野宿したいってんなら別だけど」


「それだけは嫌!」


「あるいは宿を借りるとか。まあ君の愛しのお兄ちゃんとは離れることになるけどね」


「それも嫌っ!」


「なら僕の家に来るしかないね」


「……ぬぅ…………分かったわよ。あんたの家に泊まることにするわ」


「あ、でも僕の家は三人までしか入れないんだ。ごめんね、君を泊めることはできないや」


「はぁあああ!? 何それ!!?」


 目をまん丸にして、ルナは僕の胸ぐらを掴んできた。


 苦しいからやめて。



「冗談だよ」


「なっ……、タチの悪い冗談はやめてくれる!?」


「ははっ、まんまと引っ掛かった」


「……っっ!! 腹立つ……!」


 彼女の手はそのまま僕の首へとスライドし、徐々に握る力が大きくなっていく。


 苦しいけどルナの怒った顔が見れるから面白いな。ナニカに目覚めそうだ。



「ストップ、そこまでだルナ」


 さてどうルナをいじってやろうかと考えていると、彼女の兄から制止が掛かった。



「ライトが苦しそうだ」


「でも……!」


「ライトの言動に腹を立ててるのは分かってる。だが首はまずいだろ」


 え、じゃあ首以外ならいいの? ちょっと酷くない?

 僕が悪いってのは重々承知してるけどさあ。


 ルナが渋々僕の首から手を離すと、オラクは疲れた表情でため息をついた。



「何の話をしてたのか忘れたじゃないか……」


「僕の家に泊まろうって話だね」


「ああそうだった……。えー、じゃあとりあえず仕事机とか書類とかを運ぶか」


「人間界でも仕事するんだ」


「少しだけな。大方の仕事はハルバードと四天王に任せる」


「あれ、四天王なのに人間界に来ようとしてる人がいる気がするんだけど。気のせいかな」


 チラッとルナに目を向ければ、彼女は鋭い目つきで僕を睨み返してきた。



「アタシのことっ!?」


「僕はそんなこと一言も言ってないけど、君がそう思うならそうなんじゃない?」


 四天王だったらセラフィスも人間界にいるのにね。



「……また始まった……。もう止めるの疲れた……」


 ルナが僕に襲いかかってきたのを今度は止めず、オラクはまた大きなため息をついて、姉さんと共に城内へと歩いて行った。


 って姉さんを連れてくな!



 ◆ ◆ ◆



 ――1週間後――


 人間界へ行く日がやって来た。

 大勢の配下に見送られ、オラクとルナが城の正門から出てくる。

 彼は姉さんが用意していた転界魔法陣の正面までくると、四天王と思しき人物とハルバードに一言二言伝えてから僕達の方を向いた。



「行くか」


 微笑んで、彼は一歩、世界と世界を繋ぐ扉に足を踏み入れる。

 珍しく嬉しそうな表情だ。本当に人間界に行きたかったんだろうなぁ。


 彼につられて自然と僕の頬も緩む。

 ハルバードに会釈して、僕も扉へ足を踏み入れた。



 真っ白に塗り潰された視界が数秒して明瞭になってくる。見れば、そこは僕がルナと出会った場所である“風の高原”だと分かった。



「風が心地いいな」


「穏やかな魔力に満ちた高原だからそう感じるのかもね」


 オラクと会話をしているうちに姉さんとルナ、フェルも人間界こっちにやって来た。



「う〜ん、空気がおいしい!」


 肺いっぱいに空気を吸い込んだルナが伸びをしながら声を上げる。



「それじゃあ皆揃ったし一旦僕の家に行こうか。荷物はもう君達の配下が運んできてくれたから、不備がないかだけ確認してもらおうかな」


「分かった」


 “風の高原”を下り、城壁で囲まれた王都に入る。

 城門では聖魔導騎士団の軽い身体検査を受けたが、あってないような雑な検査だったのでオラクもルナも問題なく通過した。

 仮に精密な検査だったとしてもオラクの幻術を見破るのは容易ではない。同じように何事もなく通過できただろう。


 そもそも王都内に転界してしまえば検査なんて受けずに済むんだけどね。姉さんいわく、王都のいろんなところを知ってほしいから高原に転界魔法陣を開いたとのことだ。


 家へ向かう道すがら商店が建ち並ぶ通りを物色する。

 途中、雑貨屋へ立ち寄ると、見知った顔の人物に遭遇した。



「あれ、セラフィスだ」


「む、これはライト殿。それに魔王陛下も」


 眉間に深い皺を寄せていたセラフィスは僕達に気がつくと、軽く会釈をしてきた。



「仕事中かな?」


「仕事ではないが……似たようなものだ。貴公らは今日から人間界こちらで生活するのか?」


「そうだね」


「何か手伝えることがあれば良いのだが」


 チラリとオラクの顔を窺うと、彼は柔らかい表情で首を横に振った。



「いい。何かあったらこっちから呼ぶよ。お前は自分の用事を優先してくれて構わない」


「魔王陛下が言うならばそのようにしよう」


 頭を垂れたセラフィスは再び神妙な面持ちで手元の商品とにらめっこを始めた。


 相変わらず固い人物だ。そこが彼の面白いところではあるんだけどさ。


 僕達はセラフィスに別れを告げ、その後も寄り道をしながら僕の家へ向かった。



 そして約十分後。



「ここだよ」


 ようやく僕の家に到着した。



「一人暮らしの割には大きい家だな」


「まあね」


 姉さんが泊まりに来ても窮屈に感じないように設計してあるから。



「ていうか結界すごい張ってあるな……。何重だ?」


「んーっと、七重だったかな」


「そんなに張る必要あるか?」


「必要だから張ってあるんじゃん」


 まあやりすぎ感は否めないけど。


 そんなことを話しながら玄関の扉を開ける。同時にオラクはフッと幻術を解除した。

 外履きからスリッパに履き替えて二階に上がる。

 寝室の奥にある部屋の扉を開ければ、重厚感のある机と本棚が綺麗に並べられていた。全てオラクの配下が運んできたものだ。



「ここがオラクの仮設執務室。二階で一番広い部屋を当ててあげたから、感謝してよね」


「ありがとう」


 次に、寝室の対面の扉を開ける。



「ここは姉さんとルナが寝泊まりする部屋。何か足りないものがあったら言ってね」


「わかった!」


「ルナの要望には答えられないけど」


 「ちょっと!」と目を剥くルナを無視して寝室の扉を開く。



「ここは僕とオラクの寝室。ベッド以外は特に何もない」


 二階の部屋を全て案内し終え、僕達は一階のダイニングに降りた。


 「とりあえずこんな感じかな」と言ってお茶を入れていると、オラクがゆっくりと口を開いた。



「ついさっき言ったばかりだが、改めて広い家だな」


「魔王城には負けるけどね」


「比べる対象がおかしいだろ」


 彼は苦笑しつつ続ける。



「貴族の屋敷を除けば王都の中でもかなり大きい方だろう。一人で管理するのは大変じゃないのか?」


「まあね。でも姉さんを泊めるスペースが欲しかったし」


「シスコン」


 どこからかそんな声が聞こえた。当然、無視だ。



「さ、お茶が入ったよ」


 カップとチーズケーキを食卓に並べて、フェルにもチーズケーキを用意してあげる。


 お茶を飲み終えたら日用品の買い出しかな。街の案内は後日でもいいだろう。オラク達はすぐに帰るわけじゃないから急ぐ必要はない。


 そんなことを考えながら、僕は紅茶のカップに手を伸ばした。


 

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