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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-O 夢見る羊の館


「……ろくに話も聞かずに斬りかかったりして、ごめん」


 ルシウスの仲裁とオリビアの説得のおかげでライトはようやく矛を収め、悔しそうな表情を浮かべながらも頭を下げてきた。



「結果論だが、周りに被害は出なかったからいいよ」


 元々俺は腹が立っていたわけではないので笑って許すことにする。



「アハハハ! ボクに感謝だネ! ところで話は終わったのかい?」


「いや、それが話の途中でライトがキレたから、まだまとまっていないんだ」


「アハハッ、それは災難だったネェ」


 「じゃあ城下町を見てるよ」と言って、ルシウスはセリーヌを伴って城の外に出て行った。



「あー、えー、さっきの話に戻るんだが……」


 チラッとライトの目を見る。



「結局、王都を案内してくれるのはオリビアだけってことでいいのか?」


 少しの間を置いてから、ライトが口を開いた。



「僕も行くよ」


「無理しなくていいんだぞ?」


「無理するとかじゃなくて、オラクが姉さんに手を出さないか心配だから。姉さんに胸を借りたっていうのもオラクから迫ったわけじゃないにしろ、事実だったわけだし。……監視のためにもお供するよ」


「そうか。じゃあよろしくな」


 不服そうにしながらも彼は頷いた。



「ねーお兄ちゃん、アタシも人間界に連れて行ってくれない?」


 発言の機会を伺っていたようで、黙って話を聞いていたルナが口を挟んでくる。



「う〜ん、そうだな……。あまり東の魔王領を手薄にするわけにもいかないが……ルナ一人くらいなら平気か。四天王も二人いるし、ハルバードも魔王城に残ってくれるみたいだし」


「やった! お兄ちゃん大好き!」


 顔を綻ばせ、ルナは俺の胸に飛び込んできた。


 さっきまでセリーヌと喧嘩してたというのに元気なことだ。



「それじゃあ、一週間後になったらよろしく」



 ◇ ◇ ◇



 中枢魔法協会セントラルの依頼を受けに人間界に行ったオリビアとライトと別れ、俺とルナは城下町に降りてきた。

 しばらく歩いていくと、紺色の髪の魔族と瑠璃色の髪の魔族を見つけた。



「ルシウス」


「お、話は終わったのかい?」


 声をかけてやれば、彼はにこやかにこちらを振り向いた。



「ああ。待たせて悪かったな」


「アハハッ、いいんだよボクのことは。貴重な人間の客人だからネ。大切に扱ってあげないと」


 笑って、彼は手に持っていた肉にかぶりつく。



「話は変わるけど、この肉美味しいネェ。珍しい味付けだ」


「焼き鳥というらしい。塩胡椒で味付けしたシンプルなものもあるが、ルシウスが食べてるのは人間界特有のタレをかけたものだな」


「へぇ、人間界の。さっきの彼女達に教えてもらったのかい?」


「そうだ」


 『焼き鳥』という食べ物を知ったのは御前試合の時だが、レシピはオリビアに教えてもらった。

 マリアにレシピを渡し、せっかくだから領民にも知ってもらおうというマリアの意見に従い、領内各地に広めたのだ。



「人間と関わると新しい文化を取り入れられるからいいネェ。人間と交易を行っているオラクが羨ましいよ」


「は?」


「アハハッ、地下で交易を行っているんだろう?」


「何で知ってるんだよ……」


 極秘情報のはずなんだけどな。



「アハハハ! 地下に入れなくとも、噂話くらいは耳にできるからネェ。間者達が報告してくれるのサ」


「間者って……。俺に言っていいのか?」


「アッハハハハハハ! いいんだよ、どうせどこの魔王もやってることじゃないか! 今さら隠す必要もないと思うけどネ」


「うーん、ってもなぁ……」


 まあルシウスがいいって言うならいいのだろう。



「そんなことより一緒にカフェでも行かないかい? 東の魔王領には美味しいところがたくさんあるからネ!」


「ああ、いいぞ」


 頷いてから、チラリとルナを振り返る。



「ルナはどうする」


「コーヒー……コーヒーかあ。……あまり気乗りしない……」


「アハハハ! ルナ嬢はお子様なんだネェ」


「んなっ、何よ! 別にいいじゃない!」


「おほほほ、コーヒーの一つも飲めないとは四天王の風上にも置けないですわね。四天王なんて退いて、愛しいオニイチャンにかわいがってもらってはいかが?」


「ッッ!! かっ、勘違いしないでもらえる!? アタシだってコーヒーくらい飲めるわよ! 一杯でもニ杯でも、何杯でも飲めるわよ!」


 おい。そんなこと言っていいのか。

 ルシウスはイタズラ好きだ。あまり不用意な発言は――あ、もう手遅れだな。


 彼はニヤッと、悪戯心を覗かせた笑みを浮かべた。



「そうかそうか! じゃあコーヒーが大好きなキミのためにボクがコーヒーを奢ってあげよう!」


「えっ……?」


「アハハッ、何、遠慮はいらないよ」


 ルナは愕然とルシウスのことを見つめる。

 あわよくば「お金がもったいないから」とでも理由をつけてコーヒーを飲まずに済ませようと思っていたのかもしれないが、これでは飲まざるを得ない。


 口は災いのもととはよく言ったものだ。

 これに懲りて反省してくれればいいんだけどな。なかなか学習してくれないのがルナの特徴だ。



「さあさあ! 早く行こう!」


 鼻歌を歌いながらルシウスはルナの背中を押す。



「ちょ、ちょっと……」


「ほらグダグダしてないで、ネ? 早くしないとお兄ちゃんが怒っちゃうかもよ?」


 彼は一瞬こちらに視線を向けた。



「何で俺が怒るんだよ」


「アハハハ、だってオラクの人生に彩りを添えているのはコーヒーを嗜むことくらいだろう?」


 否定できない。



「さっ、とにかく行こうじゃないか! さっきの姉弟が依頼を終えて戻ってきてしまうよ?」


「嫌なのか?」


「アハハハ! まさか。人間との交流を望んでいるボクが人間を邪険にするはずないじゃないか! ただルナ嬢が困るかなって思っただけサ。どうもオリビアという子のことを良く思ってないみたいだったからネ!」


 そうだったのか。それは知らなかった。



「別に良く思ってないわけじゃないし……」


「じゃあ嫉妬かい?」


「っ! ち、違うわよ! もうっ、どうでもいいから行くわよ!」


「アハハッ、ルナ嬢はいじりがいがあるネェ」


 ルシウスがケラケラと笑うと、ルナは頭から湯気を発して先に行ってしまった。

 そんなルナをからかうようにセリーヌが後について行った。



「あんまりいじめてやるなよ」


「優しいネ」


 それには答えずに、俺も黙ってルナの後を追った。



 城下町の外れの方まで歩いていくと、一軒の店が見えてきた。

 壁から屋根に至るまで温かみを感じる木目調に統一され、深煎り豆色の扉の上には、可愛らしい羊の意匠が施された看板がかけられている。



「今日はここにしよう!」


 そう言ってルシウスが鼻歌を刻みながら店内に入る。

 カランというベルの音に遅れて、店主マスターの声が聞こえた。



「この店に来るのは久しぶりだな……」


 呟きながら俺も中へ入る。

 どうやら他に客はいないみたいだ。

 店内を見渡しながら、俺はルシウスの対面に腰を下ろした。



「アハハハ、もうすぐ昼時だというのにここは閑古鳥が鳴いているネェ!」


「ちょ、お前……」


 朗らかな表情で失礼な発言をしたルシウスの口を慌てて塞ぐ。弁解するように、傍らに佇んでいた店主マスターの顔色を窺う。



「……」


 目の下にくまがある、つややかな黒髪が特徴的な店主マスターは、顔色一つ変えずにまじまじと俺の顔を眺めていた。



「あ……っと、申し訳ない。コイツも俺と同じ魔王だから、不遜な態度をとってしまうことがある。強権者の傲慢だと思って聞き流してくれないか」


「…………注文は……」


「……え?」


「注文」


「ああ、えっと、じゃあ『店主の気まぐれセット』を頼む」


「ボク達もそれでいいよ!」


 頷いて、彼女はカウンターへ下がっていった。


 ……怒らせて、しまっただろうか。



「アハハハ! そう暗い顔をしなくてもいいじゃないかオラク!」


「誰のせいだと思ってるんだよ」


「え、何? 聞こえないネェ! アハハハハ」


 うるさい。まあいいけど。



「それにしても似てるネェ」


 カウンターの方を眺めながら、ルシウスはそんなことを呟いた。



「誰が誰によ」


 ルナが合いの手を打つ。



「マスターの彼女だよ。ルシェルに似てると思わないかい?」


「ルシェルって……誰?」


「あれ? 知らないのかい? 【西の魔王】のことだよ」


 ルナに説明を始めたルシウスの声を聞き流しながらさりげなく店主マスターに視線を向ける。


 確かに目の下のくまとか、ツヤのある黒髪とか似てる部分がある。違う点を挙げるならば、店主マスターの黒角が羊のように巻いていることと、身長が低いということか。


 幼馴染の顔を思い浮かべながらぼんやりしていると、やがて店主マスターが湯気立つカップを四つ運んできた。コトッと置かれたカップに鼻を近づければ、深煎り豆独特の香りが鼻腔をくすぐる。

 周りから漂ってくる香気を嗅いでみた限り、俺とルシウスが同じ種類、ルナとセリーヌはそれぞれ違う種類のようだ。

 そっとカップを口元まで運べば、苦味と熱さが舌に心地良い刺激をもたらす。



「美味しい」


「アハハッ、本当だネェ。オラクが微笑むだけのことはある」


 一口含んだルシウスも楽しそうに笑う。

 セリーヌも目を閉じて香りを楽しんでいたが、唯一、ルナだけはじっと液面を見つめていた。



「飲んで」


 そんなルナを見かねてか、店主マスターは一言ルナに声をかける。

 淡々としているようでどこか温もりのある声調に、ルナは渋々カップに口を付けた。



「苦っ。……でも、おいしい……」


 顔を綻ばせたルナを見て、店主マスターは満足げに頷いた。



「う〜ん、やっぱり似ているネェ。マスターはルシェルの親戚なのかい?」


 彼女の所作に幼馴染の影が重なったのだろう。じっと横顔を眺めていたルシウスが尋ねた。


 いきなりそんなことを言われても困るだろうに。


 しかし俺の予想に反して、彼女はとりたて騒ぐでもなく、一つあくびをこぼしてから淡々と言った。



「秘密」


 

 ふと気づいたのですが、この物語には「ル」のつく人物が多いですね……。ルナの名前はだいぶ前から決まっていたのでどうしようもありませんが、ルシウスとルシェルに関してはもう少し考えるべきでした。名前が似ててしかもどちらも魔王という。これは覚えにくいですよね……。

 誰が誰だか分からない!という方のために簡単に紹介を載せておきますね。


ルナ:オラクの妹。お兄ちゃんっ子。東の魔王軍四天王。

ルシウス:南の魔王。ヘラヘラしてる男。

ルシェル:西の魔王。エピローグにちょくちょく出てくる女。

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