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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-L 東の魔王vs竜伐者


 城の中に連れて行かれた僕と姉さんは、オラクから一週間後に人間界に行きたいという話を聞かされた。

 その際、王都を案内して欲しいと。



「セラフィスに頼めばいいんじゃないの」


 別に忙しくともなんともないのだが、僕は面倒だったのでそう問い返した。



「そうだな……週に一回くらいならいいかもしれないけど、あいつも“魔王の糸”としての仕事がある。それにセラフィスには交際者がいると言ってた。交際者と過ごす時間を作ってあげないと」


 つまり交際者のいない僕達なら暇だろう、ってことなのかな。


 てか恋人なんていたんだ。意外。



「頼む。お代もしっかり支払う」


「いやお金の問題じゃなくてね。単純に面倒くさい」


 暖簾に腕押しと思ったか、オラクは諦めて小さな溜め息を漏らした。



「そうか……。なら他を当たるとしよう。無理に頼もうとまでは思わない」


 そう言って立ち上がろうとした彼の手首を姉さんが掴んだ。



「あの、わたしは構いませんよ?」


「いいのか?」


「はい。約束もしましたし」


「ああ、そうだったな」


 オラクの唇の端に笑みが浮かぶ。



「ちょっと待ってよ。約束って何!? 僕が見てないところで姉さんと何かあったろ!?」


 それに心なしか姉さんとオラクの距離が縮まってるような気がするんですけど!?



「いいや? ただこないだオリビアを助けた礼に、人間界を案内してもらうって約束をしてただけだ」


「本当?」


「神に誓って本当だ。なあオリビア?」


 同意を求められ、姉さんはきっぱりと答えた。



「はい。少しお話と約束をしただけです。胸を貸してなんかいません」


「ちょ」


 オラクの表情が固まった。



「……『胸』?」


 鋭い眼光でオラクを睨みつける。



「お、オリビア……。一言多いぞ……」


「え? わたし何か余計なことを言ってしまいましたか?」


「いや、その……何というか……」


 誤魔化すように彼は視線を泳がせる。



「オラク、『胸』って何のこと?」


「落ち着けライト。誤解だ」


 彼がチラッと見れば、姉さんはようやく思い至ったようで大きな声を上げた。



「あっ、訊かれてもいないことを答えてしまいました! ご、ごめんなさいオラクさん!」


「ああ、いいよ。たぶんもう手遅れだから」


 渇いた笑いをこぼすオラクの首筋に魔剣を突きつける。



「表に出てもらおうか」


「いや、だから誤解だって」


「問答無用。話は後で聞くよ」



 ◆ ◆ ◆



 オラクを引きずって、僕は西門付近までやって来た。

 つい先程セリーヌとかいう魔族とルナの喧嘩が終わったらしく、大きなクレーターの中に二人は倒れていた。

 ちょうどいいのでそのクレーターの中心に立つ。



「前から気になってはいたんだよね。オラクが姉さんに手を出さないか」


 オラクを放り投げて、僕は魔剣・ディバイドを構える。



「魔族だから人間には興味ないだろうと思って放置してたんだよ。だけど、姉さんの美しさの前には種族なんて関係なかったみたいだ」


 フッと冷笑をオラクに浴びせる。


 それにしてもハルバードがいなくてよかった。

 彼はさっき城に戻った時、危険はないようだからと仕事に戻ったのだ。

 彼がいたら、きっと全力でオラクとの決闘を阻止されていただろう。彼の力の底は見通せないので、できれば敵対したくない。


 まあ、オラクの力の底も見通せないんだけど。



「俺が何を言っても無駄だとは思うが、誤解だからな?」


「へー、そう。姉さんに胸を借りたんじゃないの?」


「それは……その、何というか」


「ほら、誤解じゃないじゃん」


 返す言葉が思い浮かばなかったようで、彼は押し黙る。



「ライト、本当に何もやましいことはしていないのです。矛を収めてくれませんか」


「…………姉さんがどうしても、っていうなら収めるけど……。でも流石に、姉さんの身体に触れられて黙っているのは難しい」


「触れられたといっても、わたしの方から抱き寄せたので、オラクさんは悪くありません」


 姉さんがそう弁解すれば、地面に倒れていたルナが身を起こして叫んだ。



「はぁあ!? ちょっとあんた! 今なんて言った!?」


「ルナは黙ってて」


「ぐふぅっ!」


 話がややこしくなりそうなので、“雷桜封殺陣”を放ってルナを黙らせる。



「ぁ、ああっ……、どんどん被害が……。ライト! 本当に誤解なんです! わたしはただオラクさんを慰めるために――」


「『慰める』ッ!!? やっぱり手を出してたんじゃないかもう許さないそこに直れオラァァァァァァァァァク!!!」


 堪忍袋の緒が切れ、僕は目を血走らせてオラクに飛びかかった。



「――“閃光一文字”ッ!!!」


「ぉおっ!?」


 魔王と呼ばれるだけあってとっさにかわしたオラクだったが、僕は高速で剣を振るって怒涛の追撃を加える。



「【分裂剣】!」


 更に魔剣ディバイドに魔力を注ぎ、銘を叫ぶことで二本目の魔剣ディバイドを出現させる。

 それを左手でしっかり掴み、僕は二本の剣でオラクを攻め立てる。



「――“光竜双葬斬ライトニング・ナトルウォス” !!」


 魔剣が、煌めいた。


 細い剣閃が尾を引き、それらが絡み合って二本の巨大な刃となる。

 竜の首さえも落とせそうな光の刃がオラクに襲いかかり、そして――光が弾けた。



「お前、オリビアのことになると本当に熱くなるな」


 光の刃を消し飛ばしたオラクは黒い炎を纏わせた両手でしっかりと魔剣ディバイドを掴んでいる。



「人のためにそこまで熱くなれるのは凄いと思う。けどいわれのない罪でやられるわけにはいかない。お前を倒して誤解を解く」


「やれるものならやってみなよ。姉さんに手を出すようなケダモノになんか負けない」


 言って、僕は魔剣ディバイドを投擲した。

 彼は身を捻っていとも容易く避けたが、僕は構わず魔剣ディバイドを複製して次々に投げていく。


 一体何本投げたか。数えるのも面倒になるほど投げ続け、ようやくオラクに隙が生じた。


 幻術を使われていないか確かめるため、“竜眼ドラゴン・アイズ”を発現させて接近する。



「はあっ!」


「“転移”」


 魔剣ディバイドを横に一閃したが、あとわずかというところで転移された。


 わざわざ苦手だと話していた転移を使ったのだ。何か策があるのだろう。

 いや、苦手とまでは言っていないか。得意ではない、くらいだったかな?


 とにかく何かを考えているのは間違いないと辺りを見渡していると、突然目の前に小さな玉が落下してきて、勢いよく煙を噴出し始めた。



「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ。……目隠しのつもりかな?」


 周囲は完全に濃い煙に覆われてしまったので、視力は宛にならない。

 僕は全身の感覚を研ぎ澄ませ、オラクの魔力を探った。



「……見つけた」


 上空からゆっくりと濃密な魔力の塊が落下してくる。速度や形からして魔法ではないだろう。おそらく、というか確実にオラクだ。


 トドメを指すために魔剣ディバイドに魔力を注ぎ、地面を蹴る。剣身一体となった僕は横薙ぎに剣を振るい、魔力を斬り裂いた――。



「――あれ?」


 しかし、手応えがなかった。



「“陽炎かげろうの術”だ」


「っ!」


 とっさに飛び退き、声の元から距離を取る。

 退いて退いて退いて。僕はようやく煙の中から脱した。



「そういえばルナが同じようなことやってたっけ……」


 呟きながら手を構え、魔力を練り上げる。


 煙が晴れると、中に立っていたオラクも同じように右手を構えていた。



「――“竜炎渦ドラゴン・フレイム”」


「――“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”」


 紅の炎と漆黒の焔が激突する。

 威力は完全に互角。ならば――。



「――“竜の逆鱗”」


 怒りのエネルギーを魔力へと変換する魔法を使い、“竜炎渦ドラゴン・フレイム”に魔力を上乗せする。

 勢いを得た“竜炎渦ドラゴン・フレイム”は着実に“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”を呑み込み始めた。



「馬鹿っ、そんな威力を出せば周囲に被害が……!」


「人の心配してる場合? まずは自分の身を心配したら?」


 常に領民のことを考えるのが魔王なのかもしれないけどさ。


 このまま呑み込まれるのだけは避けたいと思ったのか、オラクは“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”を放つ右手に左手を添え、同じ魔法を放ってきた。


 再び“竜炎渦ドラゴン・フレイム”と“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”が均衡する。



「さすが魔王だね。半端ない威力だ」


「ライトこそなかなかやるな。“竜伐者ドラゴンスレイヤー”の名に違わぬ実力だ」


「ありがとう。それじゃあもう少し、威力を上げてみようかな」


「え、いや、それは困るんだが」


 ニヤリと口角を上げ、僕が更に魔力を上乗せしようとしたその時。



「おおーっ! 何やら凄いことになってるネ!」


 上空から陽気な声が響いてきた。



「だけどこのままだとちょっと危ないネェ。というわけで消火させてもらってもいいかい? なあんて、キミ達の意見はどうでもいいんだけどネ! アハハハ!」


 紺色の髪を揺らす彼は【南の魔王】、名前はルシウスだっけか。

 くつくつと笑う彼は滞空したまま魔法陣を描き、一言。



「――“陣水刃裂死滅ドルウォス・オーク・レスタ”!」


 叫んで、無数の水の刃を射出してきた。


 “竜炎渦ドラゴン・フレイム”と“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”は水の刃に切り刻まれ、ジュウゥゥという音を立てて消えていく。



「アハハッ! 危なかったネェ。あのままだと辺り一体焼け野原になっていたよ」


 完全に火の手が収まり、地面に降り立った彼は微笑む。



「喧嘩するほど仲が良いとはいうけれど、程々にネ?」


 彼は仲裁をしようと手を伸ばし、そして――






 不安定な足場にバランスを崩し、派手に転んだ。


 

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