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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-O 旧友との再会


「……え!? いいのか!?」


 オリビアの婚約を破棄するための戦いを終えてから数日後。俺はハルバードとあることについて話し合っていた。



「だってお前……今まではさんざん俺の外出に否定的だったのに」


 その内容とは、俺が人間界へ行くということ。


 オリビアとライトの助言を受け、俺は長い間夢見ていた人間界への遊学を決意した。ただそのためにはハルバードの同意が必要だろうということで、こうして話し合っていたのだ。



「本音を言えば人間界に行ってほしくないと思っております。ですが、一番大切なのはサタン様の意思。切実な貴方様の思いを無下にするわけにもいかないと気付かされたのでございます」


 彼は一息ついてから続ける。



「何よりもサタン様のことを考えてきたつもりですが、そのせいでサタン様に窮屈な思いをさせていたようです。単純なことに思い至らず、誠に申し訳ありませんでした」


「謝らなくていいよ。実際お前はよくやってきた。お前の俺達兄妹への思いはよく理解している」


「……そう仰っていただきますと救われる思いです。しかし、本当にじぃは愚かでした。オリビア殿がいなければ未だに気づいていなかったやもしれませぬ。彼女には色々なことを教わりますな」


「ああ、本当に」


 本当にそう思う。



「彼女を匿った俺の判断は正しかったろ?」


 冗談めかしてそう言えば、ハルバードは穏やかな笑みを浮かべた。



「何はともあれ、もはやサタン様の意見に異は唱えますまい。どうぞこれからはご自由になさって下さい」


「いいよ無理しなくても。俺に堂々と意見できるのはハルバードぐらいのものだ。むしろ抑止力として、これからもどんどん意見してくれて構わない」


「……サタン様が望むのであればそのように」


 彼はうやうやしく頭を下げた。



「念の為確認しておくけど、本当にいいんだな?」


「はい」


「じゃあとりあえず四天王とかに臨時の権限を移譲して……一週間後にでも旅立つか」


「すぐに取り計らいましょう」


「頼む」


 ちょうど話がまとまったところで、俺達が会話していた部屋に一人の配下が入ってきた。



「お伝えします! 魔王城西門付近に不審な魔力を二つ感知! 規模は共に四天王級! 現在衛兵等が現場へ急行しております」


「不審な魔力? 勇者じゃないのか?」


 四天王級の魔力を有する勇者なんて滅多にいないが、可能性は全くのゼロというわけではない。



「いえ、波長からして魔族であることは間違いないかと。現場付近には客人であるオリビア様とライト様もいらっしゃいますゆえ、何か問題が起こらなければいいのですが……」


「あいつらなら大丈夫だろう。でもまあ、一応出向いてみるか」


 緊張の糸を張り、俺はコートを羽織った。



「ハルバードも来るか?」


「はい。じぃは御身の盾。可能な限りご随身いたします」


 「そうか」と頷き、俺は配下を下がらせ現場へ向かった。



 ◇ ◇ ◇



 西門の外まで来ると、配下達とドラゴニカ姉弟の先に二人の魔族が堂々と佇んでいた。

 俺に気づいたライトとオリビアが道を開けてくれたので一歩先へ出れば、その正体が明らかになった。


 一人は縦ロール髪のドレスを着た女性。そしてもう一人は紺色の髪をセットした堀の深い男性。



「……【南の魔王】様か」


 俺が呟くと、彼は口角を上げた。



「やあ、久しぶりだネ。ところでその他人行儀な言い方はなんだい?」


「別に。で、どうしたんだ」


「何だよつれないネェ。ホラ、ちゃんとボクの名前を呼んでくれよ」


「あー……悪いな。忘れた。ルルル何とか、だっけか」


「アハハハハハハハハ! なんて楽しそうな名前なんだ!」


 腹を抱える彼を放置していると、その隣の女性から怒声が飛んできた。



「調子に乗るのはそこまでにしなさいな、【東の魔王】。それ以上ルシウス様のことをからかったらあなたの首を刎ねますわよ」


「アハハハ! セリーヌは元気だネ」


「ルシウス様は少し静かにしていて下さいまし!」


 二人のやりとりを眺め、なんとなく彼らの訪問の目的を察する。いや、正確に言えば目的などない。おそらく気まぐれで東の魔王領に来たのだろう。


 これなら警戒する必要はないだろうと判断し、配下達に戻るよう伝える。



「あの……この方達は一体……」


 配下達がいなくなったのを確認したオリビアが俺の背中を突いてきた。



「人間には馴染みが薄いであろう、【南の魔王】とその腹心だ。男の方が魔王。名前はルシウス・ルビジウム・ルッケンブルク。女の方が腹心で、名前はセリーヌ・フレロビウム」


 二人のことを紹介してやれば、ズイッとルシウスが身を乗り出してきた。



「やっぱりちゃんと覚えてるんじゃないか! いやー、嬉しいよオラク。片時もボクのことを忘れていなかったんだネ!」


「いやそんなこと言ってない」


 拳を握られ、俺はただうんざりした表情を返した。



「――おや?」


 くんくんと鼻を鳴らしたルシウスの目が、オリビアの前で止まる。



「人間?」


 オリビアの息を呑む音が聞こえた。



「そっちの少年もかい」


 指摘されたライトの全身からは殺気が漂ってくる。



「アハハッ、そう怖い顔をしないでくれるかい? ボクはキミ達をどうこうしようなんて思ってな――」


「見つけた! 嫌な予感がすると思って来てみたら、やっぱりあんただったわねルシウス!! お兄ちゃんの手を離しなさい!」


「――ぐはぁあっ!」


 腰を低くしたライトの目が丸くなった。

 風のように現れたルナにルシウスが蹴飛ばされたのだ。


 あれは痛いな。もろに飛び蹴りを喰らった。



「いっててて……。アハハハ、ルナ嬢は相変わらず元気だネェ」


「あんたは相変わらず気の抜けた顔をしてるわね」


 ルナがさらに攻撃を加えようとすると、二人の間にセリーヌが割って入った。



「ごきげんよう、小娘。ルシウス様を足蹴にするとはいい度胸ですわね」


「っ、久しぶりねセリーヌ! またアタシにボコされに来たの?」


「おほほ、何を言っているんですの? 前回ボコされたのはあなたではなくって?」


「何よ、やる気?」


「望むところですわ」


 バチバチと二人は火花を散らす。そんな様子についていけなくなったか、ライトが呟いた。



「これどういう状況?」


「俺にもよくわからない」


「ははっ、何それ」


 笑って、彼は殺気を鎮めた。



「【南の魔王】っていうからてっきり敵なのかと思ったけど」


「少なくとも敵ではない……と思う」


 俺が歯切れの悪い返事をすれば、後ろに控えていたハルバードが身を乗り出して解説をした。



「【南の魔王】はサタン様の幼馴染にございます。お互いに気心の知れた相手ですから、懇意にすれども敵対することはないでしょう」


 「なるほど」と視線を戻したライトの肩がビクッと震える。

 いつの間にかルシウスが彼の目の前にいたのだ。


 ライトが驚くなんて珍しいな。



「そういうわけでキミ達の正体を明かす気はないから安心していいよ」


「まだ信用できないけどね」


「アハハハ、これは手厳しい。名前を教えてくれるかい?」


「ライト・ドラゴニカ」


「いい名前だネ。そちらのお嬢さんは?」


「ライトの姉、オリビア・ドラゴニカです。以後お見知りおきを」


「うん、よろしくネ」


 爽やかな笑みを浮かべ、ルシウスはドラゴニカ姉弟の手を握った。



「ちょっと、自然に姉さんの手を握らないで」


「おおっ、これは悪かったネ」


 パッと手を引っ込めたルシウスの笑みが深くなる。



「キミはお姉さんのことが好きなのかい?」


「この世の何よりも」


「アハハハ! それは素晴らしい!」


 魔力のぶつけ合いを始めたルナとセリーヌに一瞬視線を送ってから続ける。



「ということはこの場にいる大部分の人は愛に捕らわれているわけだ!」


「ふーん。興味ないけど」


「アハハハ! 本当にお姉さんのことしか考えてないんだネェ」


 彼はくつくつと腹を抱える。とても楽しそうな表情だ。



「ルシウス」


「なんだいオラク?」


「わざわざ東の魔王領を訪ねてきてくれたところ悪いけど、オリビアとライトに話があるんだ。少し城下町をぶらついててくれないか」


「オッケー!」


 どんな内容かは訊かないんだな。まあしかし、幼馴染とはいえ他領の魔王に聞かれるわけにはいかない内容だ。助かった。



「オリビア、ライト。話がある。付いてきてくれ」


 ルナは……後でいいか。忙しそうだし。


 ドラゴニカ姉弟を促して俺が踵を返そうとすると、俺の顔を見つめていたルシウスが柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。



「オラク」


「何だ」


「いい顔になったネ」


 

 一話に七人(モブ除く)も登場させると書くのが大変ですね……。

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