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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第二章 この手に自由を
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Side-L 覚悟の違い


「姉さん!」


 僕が叫びながらドアを破壊し、ある部屋へ飛び込むと、額に汗を滲ませた金髪の麗人が立っていた。


 女神っ!? いや姉さんか。美しすぎて錯覚した。


 向かいには第二王子ともう一人。口が隠れるほどの長い白髭を蓄えた細身の老人が杖を構えていた。



「ふぉっふぉっふぉ、加勢かのぅ?」


「っ……さっきの小僧! どうやってここまできた!」


「どうって……普通に姉さんの魔力を辿ってきただけだよ」


 残像が見えるほどの速度で姉さんの全身をくまなく観察して、どうやら傷は負っていないようだと安心する。

 まだ戦っていなかったのかもしれない。



「王子の相手は僕に任せてもらってもいいかな」


「はい。2対1だと手加減が難しいですから助かります」


「ははは、姉さんらしい」


 この様子だと、王子に連れて行かれてからすぐに彼の手から逃れたのだろう。ホッとした。



「ふぉっふぉっふぉっ、自信に満ち溢れているのぅ。一つその自信をくじいてやろうかの」


「待て! 小僧の相手はおれ様がやる! フォークスはオリビアの相手を」


「ふぉいふぉい、殿下の言う通りにしよう」


「くれぐれも殺すなよ、おれ様の后になるのだからな」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は地面を蹴って疾駆した。


 瞬きよりも素早く抜剣し、王子の首筋を狙う。



「ぉおっ!? あ、危ないぞ小僧!」


 しかし驚きの声を上げながらも、王子は身を捻ってしっかり僕の斬撃を回避した。



「名乗りもせぬとは無礼者め!」


「無礼で結構。僕は貴族の位を捨てた身なんでね。……でもせっかくだから名乗っておこう。ライト・ドラゴニカ。中枢魔法協会セントラルのランクD協会員だ」


「……ドラゴニカ…………だと?」


「さあ、僕も名乗ったんだから、そっちも名乗りなよ」


「む、そうだな。おれ様は王位継承権第三位、現国王の第二王子、グラハム・セルバルトン・エントポリスだぶごぉぉぉおおおおおおっ!!?」


 胸を張って名乗った王子の顔面に拳を叩きつける。



「こっ、小僧! 名乗っている最中に殴るとはなんと卑劣な!!」


「名乗り終わってたじゃん」


「そ、そんなことはない! それにおれ様の顔を殴るということが何を意味するかわかっているのかっ!?」


 鼻血をボタボタと垂らしながら彼はもの凄い剣幕で喚く。



「王子の顔は国の顔。それを殴るとは、国家に弓引くも同然の罪だ!」


 もう僕は剣を抜いているというのに、この期に及んで脅そうというのか。なんて頭の弱い。



「だから何だっていうのさ」


「だっ……『だから』……だと!?」


「姉さんのためなら、僕はこの世の全てを敵に回したっていい」


「んなっ……!!」


 絶句した王子に切っ先を向け、僕の覚悟を伝える。



「姉さんが悲しむような結婚なんて、僕は認めない。王子様をズタボロに引き裂いて、姉さんと結婚したいなんて二度と思えなくしてやる」


「っ……!」


「さあ、かかってきなよ。覚悟の違いを見せてやる」


 戦いは嫌いだけども、姉さんに関わることだけは別だ。

 全身から濃密な魔力を垂れ流して、僕は王子を挑発した。



「……フフフ、いいだろう! 小僧っ、お前を叩き潰して、オリビアはおれ様がもらう!」


 高らかに宣言すると、彼は部屋に立てかけてあった無骨な大剣を手に取った。



「こいつはおれ様の相棒、魔剣・セオドシウス。またの名を【重豪】。小僧のような矮小な剣ではおれ様の斬撃を止めることなどできないぞっ!」


「あっそう」


「どりゃぁあっ!!」


 大上段に振りかぶった大剣をあえて正面から受け止める。

 頭上で斬り結ばれた大剣を押し戻そうとすると、逆に僕の鉄剣が押し返された。



「……重い?」


「気づいたかっ! 【重豪】は剣の重さを1倍〜50倍まで自在に調節できる。今この剣の重量は元の2倍。小僧のような細腕では支えきれないだろっ!」


 全身の筋肉を流動させて何とか踏ん張るも、全身が床に沈んでいく。



「ぐっ……」


「フハハハハハ!! どうした、覚悟の違いを見せると言っていなかったかあ!?」


 大剣はどんどん重くなっていき、とうとう床にヒビが入り始めた。



「10倍! 15倍! 20倍ぃぃいいい!」


 ついに均衡が崩れ、爆発に似た轟音が響いた。






 ――王子が天井に突き刺さったのだ。



「ごっ……ごふぅ……っ!?」


 結構重かったけど、身体強化を使えばこんなものか。


 失笑を漏らし、落下してきた王子めがけて飛び上がる。



「――“閃光一文字”」


「な・め・る・なぁぁあああああっ!!! 50倍の重さで押し潰してやるぞ!! ――“地獄車じごくぐるま”!!」


 ぐるぐる回転してくる王子と空中で交差する。どちらの剣も勢いを緩めることなく互いの身体を切り裂いた。

 より深手を負ったのは王子。しかし僕の鉄剣は限界がきていたのか真っ二つに折れてしまった。


 さっき【重豪】を受け止めた時にヒビでも入ってたかな。



「……」


 これはもう使い物にならないだろう。

 剣を放り投げ、僕は天井を蹴って王子の正面に降り立った。



「剣が折れたというのにまだおれ様と戦うつもりか?」


「あいにく、僕は剣にこだわりはないんでね。あくまで魔法を発動する媒体として使っているに過ぎない」


「だが素手では斬撃を止められないぞっ! 覚悟することだ!」


 そう言い放った王子の上段から再び重い大剣が振り下ろされる。重ければそれだけ振り下ろされるスピードも速い。

 身体強化を使っていたためなんとか避けられたものの、左袖の一部が切り裂かれた。



「……こりゃあ“竜の逆鱗”を使うしかないかな。あるいは“竜眼ドラゴン・アイズ”か」


「もったいぶらずにどんどん使え! さもなくば小僧の首はあっという間に胴体から切り離されるぞっ」


「じゃあ、遠慮なく。 ――“竜の逆鱗”」


 瞬間、僕の魔力が爆ぜた。



「フフフ……こちらも奥の手を使わせてもらおぼふぉぉぉおおおっ!!?」


 一瞬で王子の間合いまで踏み込み、鳩尾みぞおちに殴打を突き刺す。勢いよく飛んでいった彼の背後に回り込み、今度は背中を殴る。



「がはあっ! がぺっ、ごほぉっ! ぐはぁあっ、あがぺっ! おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!」


 脇、頬、胸、腰、こめかみ、顔と殴打の嵐を浴び、とうとう王子は大剣から手を離した。



「ぐっ……み、見えない……! だが……!

 ――“大山鳴動”!!」


「おっと」


 彼が床に拳を叩きつけると、彼を中心に床から岩石が次々にせり上がってきた。揺れも激しいのでついバランスを崩してしまい、追撃することができない。

 この揺れをどうにかしないとダメかな。



「はあっ……はあっ……はあっ……。今度こそ奥の手を使わせてもらうぞ!

 ――“千華真空斬レウォルフ・カムストラ”!!」


 突如、僕の周囲に無数の魔法陣が出現した。一拍遅れて真空の刃が襲い掛かってくる。



「“大山鳴動”で動けない今、これを避けることなどできない! 断末魔を上げて滅びるがいい!」


「……」


 僕が一つ息を吐いたのと同時に真空の刃が着弾した。



「フフフ……これを喰らって生きてる……わけ…………が……っ!!?」


「もう終わり?」


「……んなっ…………う、嘘だ……」


「今のが奥の手ならがっかりだね」


 わざとらしく溜め息をついてから、腰をかがめて床にそっと手を添える。



「――“竜の咆哮”」


 僕が呟くと、猛獣の雄叫びに似た音が響き渡り、地面の揺れが収まった。



「なっ……何をしたのだっ!?」


「『何を』って、どっちのこと?」


「どちらもだ!」


 仕方ないので腰を抜かした王子の下まで歩み寄りながら解説をする。



「“竜の逆鱗”はただの身体強化魔法じゃなくてね。怒りのエネルギーを魔力へと変換する。攻撃に魔力を用いない限り、そのオーラを纏っているだけで結界並の防御魔法になるんだよ」


「そ、そんな魔法が……!?」


「そして今のは単純に地中の魔力場を乱しただけ。相手に向けて放てば衝撃波にもなるんだけどね」


 言い終え、僕は王子の目の前に手のひらをかざした。



「――“雷桜封殺陣”」


「ぐっ、ぐぁぁぁああああああっっ!!!」


 拳を握り締めれば、白桃色の雷撃が鎖となって彼の全身を縛り上げた。



「一つ勘違いをしていたようだけどね」


 王子を床に転がし頭を踏みつける。



「何も僕が持っている剣は一本ってわけじゃない」


 僕は腰に下げていたもう一本の鞘からスッと剣を抜いた。薄暗いオーラを放つその切っ先を王子の鼻に突きつける。



「こ、これは【分裂剣】……?」


「その通り。姉さんは剣を扱えないから、代わりに僕がもらったんだ」


 左手も柄に添え、ゆっくりと上段に構える。



「おっ、おれ様をどうするつもりだ……!!」


「いちいち言わないとわからないの? 魔法で動きを封じて剣を抜いた。この状況から導き出される答えは一つしかないと思うけど」


「……っ! おれ様を殺す気か……!!」


「さてね」


「そそそ、そんなことをして許されると思うのかっ!? お、おれ様を殺せば小僧だけじゃない! 家族だってただじゃ済まないぞっ!」


「そんなの知ったことか。姉さん以外はどうなったっていい」


「んな……っ!?」


 「それに」と僕は続ける。



「姉さんの自由と幸せを奪おうとした。それだけで、万死に値する」


 失禁した王子の頭に魔剣を振り下ろすと、彼は恐怖に泡を吹いて気絶した。



「騎士団長と互角に渡り合えるって聞いてたからどんなもんかと思えば、この程度か」


 そう吐き捨て、僕はパチンと魔剣を鞘にしまった。




「覚悟もないヤツに、僕が負けるわけがない」


 

 王子が玉子に見える……。

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