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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第二章 この手に自由を
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Side-O 祝勝パーティー


 ライトが連れの女性に別れを告げてから、俺達は正装に着替えてエントポリス王国・第二王子の屋敷にやって来た。

 中はもう優勝者の関係者や貴族達でいっぱいである。


 各ランクの優勝者は皆堂々と貴族達と応対しているが、中でもとりわけオリビアは異彩を放っていた。

 Sランクを除けば中枢魔法協会セントラルの中で最強であり、しかも五大貴族のご令嬢。なんとか取り入ろうという貴族達の意思が透けて見える。


 誰も手を付けようとしない立食の料理をぱくつきながら彼女の様子を眺めていると、宴会の間とでもいうべきこの大きな部屋の正面から第二王子とドラゴニカ家当主が姿を現した。



「誰一人欠けることなくパーティーに出席してくれて嬉しく思う。今宵は存分に楽しんでいってくれたまえ!」


 第二王子が短い挨拶をすれば、出席者達は優雅に礼をした。



「お兄ちゃん、王子が来たけど挨拶には行かないの?」


 またたく間に貴族達に囲まれた王子を見て、ルナが口に入っている物を飲み込んでから耳打ちしてきた。



「焦る必要はない。どうせ今近づいても貴族の壁に阻まれるだけだ」


「そっかぁ。じゃあまだご飯を食べてても大丈夫ね!」


 自分の皿に新しく料理を盛ろうとしたルナの手をライトが止める。



「王子に挨拶するのは後にするにしても、一旦姉さんのところに行こう」


「どうしてよ」


「王子やあの人にちょっかいを出されるかもしれない」


「『あの人』って誰?」


「あの人はあの人だよ。……僕の生物学上の父」


「ふふっ、何その言い方」


 変な言い回しをするライトにルナがクスリと微笑む。



「何だっていいだろ。ほら、早く行くよ」


 俺達魔族陣は手招きをする彼に黙ってついていった。


 王子が現れたことでそちらに人が集中し、ちょうどオリビアを囲んでいた人の波が収まったので彼女の傍らに移動する。



「人気者だな」


「あ、えっと……どうなんでしょう」


 声をかけてやれば、彼女は照れくさそうに頬を掻いた。

 言葉に詰まった彼女にグラスを差し出すと、彼女はお礼の言葉を述べてからそっと受け取った。



「澄んだ白い肌に赤いワインがよく似合う」


 賛辞のつもりで俺がそう言った瞬間、腰に激しい痛みが走った。



「姉さんを下品な目で見るな」


「見てない……」


「見てたよ。じゃないとそんな卑猥な言葉なんて出てこないでしょ」


 ……え? 卑猥……だったか?



「ライトっ、あまりオラクさんを痛めつけないでください。わたしを助けてくださった恩人なのですから。……それに、少し嬉しかったですし」


 酒のせいか嬉しさのせいかオリビアの頬がほんのりと朱に染まる。その様子を見てライトは愕然とした表情を浮かべた。一拍遅れて再び腰に痛み。



「ライトっ」


 オリビアにたしなめられ、ライトは俺を睨みつけながらも渋々手を引いた。



「ふむ……何やらどぶ臭いな……」


 ふと、背後から低い声が聞こえた。

 振り返ってみれば、ワインを片手にドラゴニカ家当主がこちらに近づいてきていた。


 その姿を視界に捉えただけで、心の奥底から沸々と黒い感情が湧いてくるが、今は我慢だ。



「これはこれは……。溝臭い原因は恥知らずの小僧か……」


 彼はライトを見据えて吐き捨てる。



「二度と兄弟に近づかぬよう言ったはずだが……?」


 それには取り合わず、ライトは鼻を鳴らして酒を呷った。



「……まあよい。それよりオリビア、付き合う友人は選ぶことだな……。貴様は第二王子に嫁ぐのだから、品位を落とすような人付き合いは謹め……」


「品位を落とす!? あんた誰に向かって言ってんの!?」


「ルナ、静かに」


「でもお兄ちゃん……!」


 ドラゴニカ家当主は瞑目して厳かに口を開いた。



「“誰に向かって言っているか”……。無論、薄汚い魔族の頭目に対してだ」


「っ!!!」


「ルナ」


 周囲を見渡すが、幸いにも“魔族”というワードを聞かれてはいないようだ。

 しかし、いつの間にか第二王子がそこにいた。



「これはこれはグラハム殿下……。かように溝臭いテーブルにお越しいただくとは……」


 頭を下げた当主に「よい」と告げて、王子は俺とオリビアとの間に割って入った。


 ……この立ち位置は少々まずいな。オリビアが当主と王子に挟まれる格好になっている。



「一ヶ月前に逃げられた時には嫌われているのかと思っていたが、こうして婚約を結ぶ運びとなり、誠に嬉しく思うぞ!」


「そ、それは……」


「観念するのだ娘よ……。もう逃れられん……」


「おとなしくおれ様の后になってもらうぞ!」


 “后”という言葉が聞こえたか、周囲の貴族達の動きがピタリと止まる。



「け、結婚はしません! ごめんなさい!」


 シーンと、辺りが静まり返った。


 刹那の間状況を飲み込めなかった当主と王子の額に、青い筋が浮かぶ。



「貴様……自分が何を言っているかわかっているのか? もう婚約は決定したことなのだ……」


「ですがわたしは同意していません!」

 

「だがはっきりとこの耳で聞いたぞ……。『結婚する』と」


「さっきは呪いのせいで言わざるを得なかっただけです。わたしの意思じゃありません」


「生意気な口を……。この父の願いに背けばどうなるか――」


 言いかけて、彼は口を閉ざした。彼の願いに反することを言っているにも関わらず、オリビアを黒雷が襲わないことに気がついたのだ。



「――なぜだ」


 理解できない。そういう顔をしている。



「貴様……【分裂剣】をどうした……?」


「俺が解呪した」


 グラスを置いて静かに言えば、ドラゴニカ家当主は不可解そうに眉根を寄せた。



「なぜ貴様が」


「さあな」


「それほどまでに殿下と結婚させたくないということか……?」


「理由なんてない。目の前で困っている人がいたら助ける。当たり前のことだろ?」


 理解できなかったか、口を一文字に引き結び、彼は黙ってしまった。

 そんな彼を見て焦燥に駆られたのだろう。王子がオリビアの手を取り声高に叫んだ。



「皆のものに重大な発表がある! 今宵、おれ様グラハム・セルバルトン・エントポリスは、ドラゴニカ家三女、オリビア・ドラゴニカと婚もごぉおっ!?」


 言いかけた王子の口に大量のピザが突っ込まれた。

 ライトの仕業だ。



「失礼、手が滑った」


「もぐもぐ…………おのれぇぇええ!! 小僧がっ!!」


「なんて言おうとしてたのかわからないけど、姉さんを不幸にするような意図を感じた」


「不幸なわけなかろう! このおれ様と結婚できるのだから幸せに決まって――むぐぅっ!?」


「失礼、また手が滑った」


「……っっ!!!」


 再び口に物を突っ込まれた王子の顔が真っ赤に染まる。



「一つ聞いてほしい。僕の姉さんは結婚なんて望んでない。僕はあまり手荒な手段は好まないんでね、おとなしく婚約を破棄してくれないかな」


「破棄しなければ手荒な手段に出るということかっ!?」


「そういう可能性もあるって話さ。とにかく、双方の合意がないのに結婚するなんておかしいと思わない?」


 とうとう我慢できなくなったか、王子は烈火のごとく怒りだした。



「薄汚い小僧がっ!! 無礼であるぞ!! 不敬罪で処罰する!! 者共、こやつらを引っ捕らえよ!!」


 王子が叫ぶと、俺達の周囲に衛兵、そしてオリビアを除く各ランクの優勝者達が集まってきた。

 当の王子はオリビアの手首を掴むと正八面体の結晶を床に叩きつけ、光と共に消えていった。



「……結局こうなったか」


 なんとなく想像はしてたけどな。王侯がそう簡単に人の言うことを聞くはずがないと。



「姉さんの魔力は近くに感じる。そう遠くに転移したわけじゃなさそうだ」


「助けに行くのか?」


「助けに行くというより王子を殴りに行く。雑兵相手じゃないから僕が助ける必要もないだろうし」


「そうか」


 実力のかけ離れた弱い相手だと抵抗できなくなると言っていたが、王子とはそう差はないだろう。ライトの言う通り、助ける必要はないかもしれない。



「愚かなものだな、息子よ……。自分達から騒ぎを起こすとは……」


 一瞬だけ視線を向けたが、当主を無視してライトは衛兵を薙ぎ倒し、どこかへ駆けていった。



「さて、俺達はどうするか」


 俺が呟けば、当主が腰から一振りの剣を抜いた。



「貴様らの相手は俺達だ……」


 鐔にコウモリの意匠が施されたその剣は紅いオーラに包まれている。おそらく魔剣だろう。



「者共、よく聞け。この者達は魔界より忍び込んできた【東の魔王】とその配下だ。一人残らず叩き潰せ……」


「証拠は?」


「証拠は……これだぁっ!!」


 威勢のいい声が頭上から響いてきた。見れば、逆立つ金髪の青年が黒い炎を打ち出していた。

 障壁を展開して直撃は免れたものの、一瞬魔力場が乱れ、幻術が解かれる。結果として俺達3人の頭には黒い角が現れた。



「この前より強くなってるな」


「フハハッ、ったりめーだ!」


「魔力場を乱す程の魔法……いや、お前じゃない……のか?」


 当主を見ると、口角がわずかに上がっていた。



「もはや誤魔化せん……。おとなしく降参してもらおう。降参しても、殺すがな……」


 言って、彼は弾丸の如く俺に迫ってきた。



「ルナ、セラフィス。ここはお前たちに任せた」


「うん!」


「そのように」


 転移魔法陣を展開し、当主の手首を掴む。



「行かせるかよ! ――“雷爪らいそう”!!」


「お兄ちゃんの邪魔はさせないわよ!

 ――“紅石連弾レッド・バレット”!!」


 オーガとルナの魔力がバチバチと音を立てて激突する。


 これなら任せて行ける。



「場所を移させてもらう。お前と戦うとなると、周りに構っていられない」


「構わん。どこだろうと同じことだ……」


「――“転移”」


 呟き、俺の視界は光で塗りつぶされた。


 

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