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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第二章 この手に自由を
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Side-O 仇敵との邂逅


 初戦を突破したオリビアは、2回戦、3回戦と危なげなく勝ち進んでいった。



「決まったぁぁぁああああああ!!! またしても一撃!! 果たしてオリビア選手を止めることができる者はいるのかぁあっ!?」


 会場が歓声に包まれる。


 圧倒的強さを誇るオリビアに熱狂し、観客はスタンディングオベーションで彼女を祝福する。



「強いな」


 その一言に尽きる。

 まだまだ戦闘経験が未熟だとは思うが、ここ最近のルナとの鍛錬でその弱点もある程度克服できている。初対面時に思ったように、Sランク相当の実力があるという見立ては間違っていないようだ。



「なんたってアタシに勝つくらいだからねー」


「それは君が弱すぎるんじゃないの」


「はぁあっ!? 少なくともあんたよりは強いし!」


「何週間か前、僕に負けたのは誰だっけ」


「あっ、あの時は調子が悪かったっていうか……」


「はいはい」


「……っ! こんのっ!!」


 俺がオリビアの強さに舌を巻いていると、またライトとルナの言い争いが始まった。



「ど、ドラゴニカくん? 席代わった方がいいかしら?」


「このままでいいですよ。こんなうるさい少女の隣にいたくないですし」


「〜〜っ!! だったらアタシと席代わりなさい巨乳エルフ! ライトのことボッコボコにしてやるんだから!」


 袖をまくり席を立ち上がったルナのことを無視してライトは武舞台を向く。と、その時、彼の目が怒りに染まった。



「情けないな……」


 聞こえてきたのは、落胆の色が混じった低い声。



「いちいち転移して背後をとる。己の魔法に自信がない証拠だ……。正面から撃ち合おうという気にはならんのか……」


 それは、会場の誰も思いもよらなかったオリビアを責める声。

 彼女も声の主を見つけると眉がピクリと動いた。


 ライトとオリビアの視線を辿っていくと、東面の最も上座に位置するドラゴニカ家の席の前に、3人の金髪の男が立っていた。

 一人は静かに目を閉じている、眼鏡をかけた細身の青年、アルベルト・(ヒッグス)・ドラゴニカ。

 一人は笑みを浮かべている、燃えるような橙色の瞳を持つ青年、オーガ・ドラゴニカ。


 そして最後の一人は――



「残りの試合はくれぐれもこの父をがっかりさせないことだな、娘よ……」


 錆びた鉄のような褐色の瞳を持つ、厳かな雰囲気の壮年の男性。



「魔王陛下、あれがドラゴニカ家当主だ」


 その男性を視界に映すと、記憶の海に沈んでいた、ある光景が浮かんできた。



「……魔王陛下?」


「お兄ちゃん?」


 あの姿、あの立ち居振る舞い……。少し老けてはいるが、忘れるはずもない。



「あい……つは……」


 13年前、俺たちの穏やかな生活を奪った人間に違いなかった。



「あいつは……ミーナを奪った……! あの時の……っ!!」


 ギリリと歯軋りの音が響く。

 無意識の内に俺は拳を握りしめ、全身から鋭い殺気を放っていた。


 近くに座っていた観客達が、俺の殺気に当てられバタバタと倒れていく。



「っ、魔王陛下、失礼する。――“転移”」


 このままではマズいと判断したのかセラフィスが転移魔法陣を展開し、俺の周囲は光に包まれた。

 光が収まると、目の前には大きな特設会場がそびえていた。



「ちょっと、いきなりどうしたんだよ」


 気を失ったエルフの女性を介抱しながら、ライトが困惑気味に尋ねてきた。



「……悪い、少し取り乱した」


「少しってレベルじゃなかったけど」


 それ以上は何も言わず、彼は女性を抱きかかえてどこかへ歩いていった。



「さ、寒いぃ……。死ぬかと思ったぁ……」


「悪かったルナ」


「アタシは大丈夫だけど……お兄ちゃんどうしたの?」


 ガクガクと震えながら、ルナも恐る恐る尋ねてきた。



「……ちょっと、な。友の仇だったものだから……」


「か、仇ぃ!?」


 飛び上がったかと思えば、妹はくしゅんと一つくしゃみをした。



「まだお前が3歳くらいの時だったか。仲良くしていた友の一人が、俺の目の前で人間に攫われたんだ」


 俺の口から語られた過去に、ルナもセラフィスもどう反応したらいいのかわからないようだ。


 重い、話だからな。



「友を攫った後、その人間は友を殺した」


 もし見つけることができたならば、この手で葬ってやろうと考えていた。

 まさかこんな形で再会するとは。



「その人間が、あいつだ」


 オリビアやライトの父親がそうだとは思いもしなかった。



「少し一人にしてくれ。落ち着いたらまた戻る」


「お兄ちゃんは無理しなくていいよ……。アタシたちだけで何とかするから」


「吾輩も同意見だ」


「気遣いありがとう。でも呪いは俺にしか解けない。俺がやるしかないんだ」


 ふぅ、と大きく息を吐いて、ルナの頭に手を置く。



「大丈夫だよ、俺だって大人なんだから。仇とはいえ、顔を合わせるくらいならできる。ただ――」


 静寂に包まれていた会場から、司会の声が聞こえてきた。

 試合を再会するところだろうか。



「――ドラゴニカ家とぶつかることになった場合、あいつの相手は俺に任せてほしい」



 ◇ ◇ ◇




 俺が会場に戻った時には既に決勝戦が始まっていた。

 先ほど俺の殺気のせいで気を失ってしまった観客達は大部分は回復したようだが、一部まだ気を失っている人がいるらしい。彼らには申し訳ないことをした。



「あ、お兄ちゃん! こっちこっち〜」


 手招きをするルナの下へ移動する。


 武舞台に目を向ければ、オリビアが紫色の髪の爽やかな青年と対峙していた。



「――“礫氷れきひょう”!」


 オリビアの開かれた手のひらから氷のつぶてが勢いよく放たれる。一つ一つは小石ほどの大きさしかないが、よく見てみればとてつもない密度だということがわかる。

 相当の魔力耐性がなければ全身蜂の巣にされてしまうだろう。


 ところが氷の礫は青年に被弾したかと思えば、そのまま彼の後方へすり抜けていった。



「出たァァァァあああああ! ライマン選手の“霊魔粒子体サイガフロム”! どれだけ威力が高かろうとも、形ある攻撃を回避する! やはり彼がオリビア選手の唯一の対抗馬か!?」


 ライマンと呼ばれた青年が髪を掻き上げると、観客席から黄色い声援が彼に浴びせられた。

 ルナも調子に乗って便乗している。



「さあ、ぼくに攻撃が通用しないということは十分理解できただろう? おとなしくサレンダーして、ぼくの女になるんだ」


 唇を噛み締めてから、オリビアは膨大な魔力を打ち出した。



「――“竜炎渦ドラゴン・フレイム”!!」


「やれやれ……それも無駄だって証明しなかったかい?

 ――“精霊樹壁スピリッツ・ウォール”」


 渦を巻いた爆炎が、樹の形をした半透明の障壁に激突する。

 表面は激しく燃え上がっているかのように見えるが、分厚い障壁が削れる気配はない。



「なんと! ライマン選手、またしてもオリビア選手の“竜炎渦ドラゴン・フレイム”を受け止めました! 形ある魔法で攻撃すれば“霊魔粒子体サイガフロム”でかわされ、形のない魔法は“精霊樹壁スピリッツ・ウォール”で防がれる! 絶対防御を誇る彼を、果たして打ち崩すことはできるのかっ!?」


 会場の黄色い声がますます大きくなる。それに比例して、オリビアを応援する男の声も大きくなる。


 なかなか面白くなってきたな。観客席が。



「ははははは! 2年前、きみに敗北を喫した時には大きな衝撃を受けたよ。これほどまでに強く、美しい存在がいるのかと」


 どこからか、殺気が漂ってきた。



「あれからぼくは必死に特訓した。中枢魔法協会セントラルの依頼も魔物の討伐依頼しか受けず、休みの日は森の奥で新しい魔法を習得するために己を鍛え上げた。すべては、そう。きみを打ち負かし、ぼくの女とするために」


 ライマンはオリビアを見下すようなポーズをして前髪を掻き上げる。

 どうもナルシストみたいだ。



「ごめんなさい、それだけはお断りします」


「はははっ、断るだけの力があるかな? 敗者は勝者に従う。それが世の理だ。数十秒後、きみはぼくの前にひざまずいて許しを請うだろう」


 ライマンはニヤリと口角を上げ、魔力を練り上げた。



「――“霊魔樹呪砲弾サイガ・ナドゥーフ”!」


 彼の頭上に巨大な魔法陣が構成されたかと思うと、そこからコバルトグリーンの砲弾が射出された。同時に彼は四方に障壁を展開し、オリビアからの反撃に備える。

 一方のオリビアは何をするのかと思えば、正面に砲弾よりも一回り大きな魔法陣を描いた。



「“転移”」


「はははははっ! 転移しても無だべごおっほぉぉぉおおおおおおおおお!!?」


 転移魔法陣をくぐったのは、彼女ではなく砲弾。


 “精霊樹壁スピリッツ・ウォール”の内側にも展開された魔法陣から砲弾が現れ、ライマンに襲いかかったのだ。



「……7……8……9……10! ライマン選手、立ち上がれないぃー!! よって勝者、オリビア選手!!」


 ペコリと、オリビアは対戦相手にお辞儀をした。

 同時に今日一番の歓声が響き渡る。


 とりあえず、第一関門は突破だな。


 

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