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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第二章 この手に自由を
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Side-O 開幕


 とうとう御前試合の日がやって来た。


 俺はルナとセラフィスを連れて、王宮の敷地内にある特設会場に来ていた。


 ハルバードは今回は留守番だ。どうも北の魔王領で不審な動きがあるらしく、東の魔王軍最大戦力である彼を城に残すことにしたのだ。


 無論彼には反対された。『我が身は魔王の盾。どうしてサタン様の下を離れることができましょうか』と。

 しかし万が一北の魔王軍が侵攻してきた場合、俺やハルバードなくして進撃を止めることはできない。俺が城に残るのが一番いいのだろうが、呪いを解除せねばならないため、オリビアから離れることはできない。

 結局一時間に及ぶ問答の末、俺は最終兵器・【魔族の母(裏番長)】マリアの力を借り、ハルバードを説得することに成功した。


 ただどうにも事前にオリビアからも説得されていたみたいなのだ。御前試合を見に行くことだけでなく、俺が人間界に行くことを許してくれるように。


 今ここに俺がいられるのは、マリアとオリビアのおかげだ。2人には感謝しないといけない。



「今日は王宮に潜入できるまたとない機会。御前試合に皆の注意が集中している間に、情報を集めさせてもらおう」


 どでかい特設会場を見上げながら、セラフィスが感情のない声で呟いた。



「そうだな。“魔王の糸”の隊員には頑張ってもらう。セラフィスも情報収集をするのか?」


「吾輩は魔王陛下とルナ殿の護衛に専念する。人間界について詳しい者がいれば、何かと役に立つであろう」


「そっか。まあ俺はドラゴニカ家当主の顔すら知らないわけだし、解説役がいるのは助かるよ。ライトがいればよかったんだがな」


 周りの者に聞かれないように声を潜めて会話する。



「まさかシスコンのライトが女の人と一緒に観戦するなんてね〜」


「正直言って意外だったな」


 姉に固執する様子を思い起こして苦笑を漏らす。


 昨日の夕方、中枢魔法協会セントラルの依頼を受けてきたライトは帰ってくるなり『明日は一緒に行動できない』と言ってきたのだ。

 詳しく聞けば、同僚の女性と一緒に観戦するという。


 何かあれば戦線には参加するとのことなので、彼の自由を奪うわけにもいかず、俺はわかったと頷いたのだが、心底驚いたのは事実だ。


 そんなことを話しながら俺たちは観客席に上り、南面の席の最後列に座った。

 観客席は後方に行くとほど高くなる階段状になっており、最前列も舞台から5メートル程高い位置にある。これなら選手に手を出すことはできないし、後ろの観客が見えないこともない。



「向かいの北面には王族、今回は第二王子とその関係者が座ることになっているそうだ」


 セラフィスの説明に正面を見れば、他の観客席より豪勢な作りの席がズラァッと並んでいた。



「東面には北側から順番に五大貴族、上流貴族、下流貴族が座る。ドラゴニカ家の席は最北。判別しやすいであろう」


 右手を見ると、王族の席ほどではないものの、南面や西面よりは瀟洒しょうしゃな作りの席が並んでいる。

 ちらほらと恰幅のいい貴族達が座っているが、一番北の枠にはまだ誰も座っていない。



「というか来るの早すぎたか」


 年に一度開催されるお祭りのようなものだと聞いていたからもっと人がいるものかと思っていたが、開会式が始まる1時間以上前とあってはまだまだ人影もまばらだ。



「早い分にはいいじゃない。より長くお兄ちゃんとセラフィスにくっつけるから、アタシは大歓迎」


 満面の笑みを咲かせ、ルナは俺とセラフィスと腕を組む。しかしセラフィスは困ったように眉間にしわを寄せ、「軽食を買ってくる」と言って転移して行ってしまった。



「あれ……怒っちゃった……?」


「怒ったのとは違うような気もするが」


 しばらくすると、肉が刺さっている棒を抱えたセラフィスが戻ってきた。



「それは鶏肉か」


「うむ。『焼き鳥』というらしい」


 俺とルナに『焼き鳥』を手渡した彼は、ルナの前に跪き頭を垂れた。



「先程は取り乱して申し訳ない。吾輩には交際者がいるゆえ、あまり軽率な行動は取れぬのだ」


「「えっ!?」」


 俺とルナの声が綺麗に重なった。


 いつも不機嫌そうな顔をしている、生真面目で朴念仁のイメージが強いセラフィスに交際者が?



「……そっかぁ、セラフィスには交際者が……」


「申し訳ない」


「別に謝ることはないわよ。アタシの方こそごめんね」


 多少なりともショックは受けているようだが、ルナは素直に謝った。


 ルナは面食いだからな。また別の人を見つけるだろう。



「アタシにはお兄ちゃんがいれば十分だし!」


 俺か。



「……ルナ殿らしいな」


 珍しく微笑み、セラフィスは席について焼き鳥にかぶりついた。



 しばらく談笑していると、徐々に人が集まりだし、舞台に一人の男性が上がる頃には9割ほど席が埋まっていた。貴族もあらかた揃っているが、ドラゴニカ家だけはまだ来ていない。


 会場をぐるりと見渡した男性は、大きく息を吸い込んでから会場を震わせるほどの大声を発した。



「只今より、王立魔法機関・中枢魔法協会主催、第13回 御前試合の開会式を始めさせていただきます!」


 第13回か。思ったより歴史は浅いんだな。



「まず初めに、国王陛下の第二王子、グラハム・セルバルトン・エントポリス殿下よりご挨拶を賜りたいと思います」


 司会の仰々しい身振りにより、ざわついていた観客席が凪のように静まり返る。


 やがて、北面の席の奥からきらびやかな服装を纏った筋骨隆々の男が現れた。


 こげ茶色の髪をなびかせながら闊歩し、凛々しい瞳で観客を一人ひとり見回すと、司会にも負けぬ野太い声を響かせた。



「本日はこのように盛大な式典が開催されることを心から喜び申し上げる! 誇りをかけた武舞台上の攻防、繰り出される魔法の数々をしかとその目に焼き付けてほしい」


 彼が手を挙げると、観客席からは拍手喝采が浴びせられた。


 王子が座ったのを見届けて、司会は口を開く。



「次に、御前試合のルールについてです。武器や魔法具の使用は可、ただし呪いの類いは一切使用が認められません。試合中に薬を飲むことも禁止です。対戦相手を死に至らしめるのももちろん禁じられています。

 勝敗については相手を武舞台の外に落とすか、ギブアップさせる、または10カウント数えて相手が立ち上がらなければ勝利となります」


 なるほど、至ってシンプルなルールだ。



「安全には万全を期し、観客席の正面には結界を5枚張りますので、どうぞご安心して試合をご覧ください!」


 司会の言葉を合図に、視界の先には無色透明の分厚い結界が何枚も現れた。これならば客席に被害が及ぶことはないだろう。



「それではお待たせいたしました! 只今より、第13回 御前試合、開・会・ですっ!!」


 観客のボルテージが一気に上がり、地響きの如き歓声が沸き起こった。



「魔王陛下、先ほど日程表を貰ってきたのだが、初めはEランクの部の試合をやるらしい。C、D、Eランクの部は事前にベスト4まで決めているらしいが、オリビア殿が出場するのは幾分先のことであろう。どうされる?」


 歓声をよそに、セラフィスは一枚の紙を取り出して俺に耳打ちしてきた。



「うーん、せっかくだし全試合見ていった方がいいんじゃないか? 中枢魔法協会セントラルのメンバーは魔法使いのエリート達だ。王国軍として戦場に赴くこともあるらしい。有事に備えて彼らの実力を見定めておくべきだと思う」


「魔王陛下がそう言うのであれば従おう」


 大方予想はつくけどな。


 それにしてもドラゴニカ家の人間やライトがまだ来ていないのは、オリビアが出場するAランクの試合がまだ先だからか。観客席がまだ完全には埋まっていないのも、同じ理屈だろう。


 何にせよ、ドラゴニカ家が来るまでに呪いの解析を終えないと。まだ完全に術式を理解できたわけじゃない。今の内に終わらせてしまおう。


 俺は懐から呪いの術式が描かれた冊子を取り出した。



「試合が始まったら教えてくれ」


「うむ」


 一言伝えて紙面に目を落とす。


 この呪いの難解な点は、魔法陣が何重にも重なり合うことによって立体魔法陣を形成しているということだ。三次元的に捉え、様々な角度からアプローチしなければならない。


 呪いに関してはそこそこ知識があるつもりでいたが、なかなかどうして自信を砕かれそうだ。

 だがあと一歩のところまでは迫っている。ここでくじけるわけにはいかない。


 俺が自分を奮い立たせて両頬を叩いたのと同時に司会の声が耳に入ってきた。



「それでは早速第一試合! 両選手の入場ですっ!」




 呪いの御前試合が、始まる。


 

 次回の更新は5月1日です。

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