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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第一章 東の魔王と竜伐者
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Side-L vs四天王【穿空】§1


「なん……だと……?」


 【穿空】など聞いたこともない。僕がそう答えると、セラフィスと名乗った赤髪の魔族は数ミリ眉を動かした。



「言っておくけど、僕達人間は東の魔王軍のことを何も知らないも同然だからね。13年前かな? エントポリス王国軍が魔界へ侵攻したらしいけど、大した成果を挙げることもなかったみたいだし、それ以来王国は大規模な遠征を行っていないから魔界のことを知る手がかりはほとんどない。

 今でも唯一魔界へ旅立つ勇者たちは秘密主義だから、魔界で得た情報を公開することはない。だから一般人が知ってる情報といえば、【東の魔王】の名前がオラクということ、その魔王が化物みたいに強いってことくらいしかない」


「……なるほど。カマを掛けたというわけか」


「まあ、ルナが東の魔王軍の四天王だってことは聞いてるから、魔族に絡まれるとしたらその関係者だよなっていう、至極単純な予想を立てたまでだよ」


「そうか」


「それで? 話があるって手紙には書いてあったけど?」


 逡巡する素振りも見せず、彼はコクリと頷いてから口を開いた。



「貴公もわかっているとは思うが、そのルナ殿に関してだ」


 やはりか。


 声には出さなかったけれど、予想通りの展開にため息を漏らした。



「昨日、貴公とルナ殿が共に歩いている姿を偶然目撃した。彼女は何故、人間界にいるのだ?」


 そんなの彼女に訊いてくれよ……と思ったが、ここはおとなしく答えておく。



「なんか城の宝物庫をぶらついてたら、うっかり転界装置を起動しちゃったんだって」


「うっかり……?」


「そ。最初は僕も信じられなかったんだけど、君の様子からすると魔王軍の計略って線はなさそうだね」


 やれやれ、と首を振りながら伝えると、セラフィスは顎に手を当て、何やら考え事をし始めた。


 ……なんていうか、絵になるな。これだからイケメンは嫌いだ。



「確かに、ルナ殿に憂いの色は見られなかった。少なくとも貴公が誘拐したというわけではなさそうだな」


「誘拐どころかむしろ逆ですけどね」


 魔族が現れたということを王国に悟らせないよう、彼女を匿って家に泊めてあげたのだ。恩人とは呼ばれても、誘拐犯と呼ばれるいわれはない。


 ただ僕が匿わなくてもセラフィスのような人物が助けてくれたかもしれない。骨折り損だったかな。


 そんな気持ちが言葉にもにじみ出て、つい敬語になってしまった。



「では次に、ルナ殿の正体は誰にも明かしているまいな?」


 一瞬兄さんの顔が頭に浮かんだが、僕は何食わぬ顔で「もちろん」と答えた。



「彼女の正体がバレぬよう、手は打っているのか?」


「そりゃ、魔族を匿っているとバレて一番困るのは僕だし」


「ふむ、ならばひとまずは安心か。では最後の質問だ。ルナ殿は人間界にとどまることを望んでいるのか、それとも帰還することを望んでいるのか? もしとどまりたいのであれば――」


「帰還」


「――そうか。わかった」


 言葉を遮られ僅かに顔をしかめたものの、彼はそのまま続けた。



「であるならば、いつでも転界の用意はできている。貴公とルナ殿の都合の良い時に吾輩の下へ来るといい。責任を持って魔界へ送り届けよう」


 なんだって!? ついに、ついにルナを魔界に送り返せるのか!?


 突然降って湧いた話に僕は嬉しくなったが、ふとあることを思いつき、不敵な笑みを浮かべた。



「断る、と言ったら?」


「…………何?」


 僕が敵対する素振りを見せていなかったため、にわかには飲み込めなかったのだろう。ただでさえ神経質そうな顔立ちをしているセラフィスは、さらに表情を険しくした。



「貴公、ルナ殿を返したくないと言うのか?」


「いや、あんな悪魔みたいな子とは別れたいのは山々なんだけど、まず君が本当に東の魔王軍なのか確証がないしね」


「戯れ言を。ルナ殿を連れてきて、彼女の反応を見ればわかることだろう」


「ふふ、そうだね。今のは冗談だよ。ただこっちにも事情があってね。僕の条件を飲んでくれるのならば返してあげるよ」


 一息の間。

 はっ、と目を見張り、セラフィスは怒りを乗せて言う。



「つまり、ルナ殿は人質だということか?」


「さてね」


 ギリリと歯ぎしりをしながら、彼は首に下げていたネックレスを握りしめた。



「ルナ殿を匿ってくれたゆえ心の広い御仁かと思ったが、どうやら吾輩の思い違いだったようだ」


「謙遜しないでいいよ。君の思った通り、僕の心は海よりも広い」


「黙れ。平和的に話を進めたかったが、致し方なし。貴公を屠り、ルナ殿は返してもらう」


 言ってネックレスに魔力を注ぐと、突然セラフィスの手元に禍々しい輝きを放つ弓が出現した。



「なんだ、もう決闘? ずいぶん短気なんだね。おとなしく交渉してくれればいいのに。凶器を向けられるほど悪いことをしたつもりはないんだけど」


「ルナ殿を匿ってくれたことには感謝している。だが、彼女を交渉の手札(カード)にした。仮に貴公の要求が我々魔王軍にとって損がないものだったとしても、同胞を物のように扱う言動を見過ごすわけにはいかない」


 ふむ、一理ある。

 少し言い方が悪かったのかな。


 彼相手に限らず、僕はつい相手を怒らせるようなことを言ってしまう。そのせいで一体今までにどれだけ面倒な目に遭ってきたことか。

 今回も僕の悪い癖が出てしまったようだ。けど仕方ない。彼を打ち負かせば再び交渉の(テーブル)につくことは可能だろう。


 戦いは避けられないと見て、僕は静かに剣を抜いた。



「あまり戦いは好きじゃないんだけどね」


 その言葉を合図に、セラフィスは魔力の矢をつがえ、同時に三本射出してきた。

 さすがに一振りで全ての矢を防ぐのは厳しそうだ。


 僕は一振りで二本の矢を叩き落とし、もう一振りで残った矢を弾いた。が、既にセラフィスは魔力の矢を五本錬成しており、間を空けずに打ってきた。



「さっき噴水を破壊したのはこれか」


 呟きながら矢を打ち払い、セラフィスに接近する。それを彼は器用にも、矢を錬成しながら転移して、剣の間合いから外れる。



「――“雷桜封殺陣”」


 雷撃を浴びせれば集中力が乱れ、転移はできない。そう考え、僕は彼の周囲に複数の魔法陣を展開した。


 転移は間に合わないと判断したのだろう。彼はその身を守るのではなく、十本の矢を放つ、攻めの一手を繰り出してきた。



「けど無駄だよ」


 上体を微かに動かして矢をかわす。避けきれないと思ったものは右手で握りしめた長剣で打ち払う。

 慌てて射たせいか、どの矢も重さはなく、かわした矢も含めてあさっての方向へ飛んでいってしまった。そして転移する間もなく、セラフィスは雷撃の鎖に囚われた。



「さあこれで――」


 刹那、全身に悪寒が走る。


 危険を察知した僕は口をつぐみ、とっさに跳躍した。

 コンマ数秒遅れてあさっての方向に飛んでいったはずの矢が飛来する。僅かにでも反応が遅れていたら、串刺しにされていた。



「あっぶな……」


 ストンと着地し、力尽くで雷桜封殺陣を脱したセラフィスに目を向ける。



「今の、何?」


「吾輩が持つ魔弓・へヌメネスの能力の一つ、【操作】」


 意外にも、彼は僕の問いに答えた。


 それ以上は語らなかったけれど、おそらく【操作】とは一度射出した矢を自在に操れるのだろう。それで僕が避けたはずの矢が、再び襲い掛かってきた。


 十本もの矢を同時に【操作】するのにはとてつもない集中力が必要とされそうだが、そこは魔王軍の四天王。あっぱれという他ない。それほどの集中力があれば、あるいは雷桜封殺陣も転移で抜け出せたのかもしれないが、僕を油断させるため、あえて転移を使わなかったのだろう。



「さすがは四天王。手加減は必要なさそうだ」


「貴公が何者なのか知らぬが、あまり甘く見ないことだ」


 その言葉に微笑みを返し、身体強化魔法をかける。

 一方の彼は油断のない視線で僕を睨みつけたまま、また十本の矢をつがえた。


 さて、筋一本でも動かせば直ちに射殺されそうな空気がひしひしと感じられるけど……。攻め続けるか、守りに転じるか。ここはもちろん、攻め一択だ。あまり面倒事は長引かせたくない。


 静かに息を吐き、僕は鉄剣に魔力を注いだ。


 何かを感じ取ったセラフィスが矢を射出するが、もう遅い。



「――“閃光一文字(いちもんじ)”」


 剣身一体となり、一筋の閃光と化す。

 姿勢を低くして矢をくぐり抜けた僕は勢いそのままに、鉄剣を振り抜いた――。


 しかし、確かに切り裂いたはずのセラフィスの総身は霧となって消滅した。



「幻術か」


 “竜眼(ドラゴン・アイズ)”を発動していればこうはならなかったろうが、“竜眼”は地味に疲れるので長時間使いたくはない。とはいえそんなことも言ってられないので、両の眼に意識を集中させ、僕は“竜眼”を発動した。



「見つけた」


 竜胆色に染まった瞳でセラフィスを睨みつけ、一瞬で彼に肉薄する。

 幻術を見破られたことに驚いている彼には避けることは難しいだろう。この剣を首筋に当てれば僕の勝ちだ。


 勝利を確信し振り抜いた鉄剣はしかし、突如現れた三本の矢によって防がれた。



「貴公がこの広場にやって来る前に、矢を放っていないとは言ってないぞ」


「……ふ〜ん。矢を錬成する余裕がないときのために、あらかじめ矢を作っていたってわけか」


 これこそ魔弓(へヌメネス)の能力を活かした戦い方なのだろう。



「【操作】をしなかった矢は時間経過で消滅するが、【操作】されている矢は的に突き刺さるか、一定以上の衝撃を受けるまで存在し続ける」


 なるほど、彼の言う通り僕の斬撃を受け止めた三本の矢はボロボロと崩れていった。


 話してる合間に術式を練っていたかセラフィスは光に包まれ、“竜眼”をもってしても捉えきれない、遥か遠くへと転移した。



「使うつもりはなかったが、やむを得ない」


 静謐な声だけが、響いてくる。



「見せてやろう、これが四天王の戦い方だ」


 

 第一章だけで既に二人目の四天王と対峙。普通ゲームのストーリーとかだったら、もっと後の方になってから戦うものだと思うんですがねぇ。作者は四天王が出てくるゲームといえば、ポ◯モンくらいしかやったことがないので詳しいことはわかりませんが……。


 Side-Oで戦闘が終わり、Side-Lでは戦闘が始まりました。ここから物語が加速していきます(というか今までが進むの遅すぎた……)。

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