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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第一章 東の魔王と竜伐者
23/136

Side-O 手がかり

 またSide-OとSide-Lとで時系列がズレてしまいました。すぐに一致させますのでご了承ください。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ。……くそっ!」


「なんでコイツら倒れねーんだ!」


 戦闘開始から20分。俺が死霊術を用いて召喚した腐死者(ゾンビ)達は、徐々に勇者たちを押し始めていた。


 魔法が効かない上に、身体を切断されてもくっつければ元通りになる腐死者を相手に、彼らは有効打を打てないでいるのだ。


 死霊術を扱えない彼らが腐死者を倒す方法は一つ。再生が不可能なくらい微塵に切り刻んで火葬するというものだ。


 実のところ魔法も“黒焔”級の火力があればダメージを与えられるのだが、残念ながら4人の勇者のうちその境地に達している者はゼロのようだ。


 というわけで先述の方法で倒すしかないのだが、次から次へと襲いかかる腐死者を前に、冷静な判断などできるはずもない。



「畜生っ、ただの魔族ならば“不屈の闘志(ブレイブハート)”の恩恵を得た力で殲滅できるのに……!」


 いくら精神操作を受けて恐怖を捨てた勇者たちとはいえ、体力が無限にあるわけではない。

 彼らは「決して止まらない」などと言っていたが、必ず限界が訪れよう。


 彼らも薄々勘づいているだろう。少しは俺の話を聞いてくれる気になっただろうか。



「さて、腐死者達の力はよく理解してくれたと思う。どうだ、ここらで一つ降参しないか?」


「黙れ! 誰がそんなことをするか!!」


「私たちは決して止まらないと言ったでしょう! この身が肉片となるまで攻撃の手を緩めるつもりはないわよ」


「そうか。それは残念」


 やはりダメか……。


 こうなったらやはり命を断つ他ないか? さっきから殺さずに済む方法を考えてはいるのだが、何分(なにぶん)俺も奴らの“不屈の闘志”とやらの影響で魔法を使えない。

 女勇者の言う肉片とまでしなくとも首を刎ねれば即死だろうが……。


 ひとまず足の腱を裂いて動きを止めるか、とコートの内ポケットの小刀に手を触れた瞬間



「っっ!!?」


 バクン、と、巨大な三日月型の影が勇者の首を切断した。いや、呑み込んだと言った方が適切かもしれない。



「腕を切り落とされても止まらぬとのことでしたが、さすがに首を落とされてはどうしようもないようですな」


 突然の出来事に他の3人の勇者の動きが止まる。それが大きな隙となり、勇者たちは腐死者達の渾身の一撃を受け、遥か彼方まで吹き飛ばされた。



「な、何が起きた……? 魔法は使えないはず――っ!!」


 彼らはすぐに立ち上がろうとしたが、全員最初の一人と同じように三日月型の影に首を呑み込まれ、あっけなく事切れた。



「……お前は守りに徹するように言っただろ」


 小刀に触れていた手を戻し、俺は建物の影からヌッと姿を現した人物に声をかける。



「申し訳ありませんサタン様。しかし、状況が変わったのでございます」


「何とか殺さずに済む方法がないか考えていたのに……。まあいい。状況が変わったってどういうことだ」


「ほんの数刻前、“魔王の糸”隊長・【穿空】が人間界より帰還したのですが、貴重な情報を持ち帰ってきたのです」


「セラフィスが?」


「はい。彼が言うには『人間界でルナ殿らしき人物を見かけた』とのことです」


「! それは本当か」


「ええ、じぃがサタン様に嘘をつくことなど天地がひっくり返ってもありえませぬ」


 勇者を倒すのに使ったであろう烏羽からすば色の鎌を肩に掛け、ハルバードは声を強めて言った。


 急を要することではないが、ハルバードにとっては何より嬉しい知らせだろう。今朝からずっと気を揉んでいたからな。

 それでさっさと勇者を片付けたのか。いつまでも勇者と遊んでないで、話を聞いてくれと。



「ささっ、第三食堂で【穿空】が待っております。勇者の死体の後始末は配下に任せて、城へお戻り下さいませ」


「わかった。だが死体の後始末はいい。人間の亡骸は人間に弔わせよう」


 ハルバードを待機させ、俺は腐死者達に勇者の亡骸を集めさせると、一輪の花を添えて転界魔法で人間界へ送り返した。


 ついでに腐死者の魂に刻まれた恨みを綺麗に取り去り浄化してやる。

 魂を浄化され、この世に留まる理由のなくなった腐死者達は魂ごと肉体も黄泉の国へと消えていった。



「……サタン様はお優しいですな。敵の亡骸を丁重に扱いなさる」


「そりゃ、死人とはいえ身体が残らないと遺族が悲しむから。本当は傷も消せたらいいんだけど」


「その気持ちだけでも十分でありましょう。……しかし、なぜ腐死者達を呼び出したのですか? それこそ肉体が傷つくのでは?」


 第三食堂へ足を運びながら、ハルバードの問いに答える。



「彼らは勇者と戦い無念の死を遂げた者たち。勇者への恨みを募らせ腐死者となっていた彼らの魂が叫んでいたんだ。『自分たちに戦わせてくれ』と。

 死霊術師が呼び出してやれば魔法耐性が大きくなるし、強い肉体を得られる。傷もすぐ再生するから、ならば良かれと思って彼らの願いを叶えてやることにしたんだ」


 あまり呼び出したくなかったのも事実だけどな。亡骸を弄ぶようで心が痛むから。

 でもそれ以上に強い彼らの思いに押されて、今回は戦ってもらうことにした。



「そうでしたか。本懐を遂げることができて、彼らも満足していることでしょう」


「そうだといいんだがな」


 これは持論なのだが、生ける領民だけでなく死した者の想いも汲み取ってこその魔王だと思う。魔王にしかできない、この俺にしかできないことをしなければ、この世に生を受けた意味など無い。

 少しは、魔王らしいことができただろうか。


 沈みゆく太陽を横目に、俺は死した者たちの冥福を祈った。



 ◇ ◇ ◇



「戻られたか魔王陛下」


 俺たちが第三食堂へやって来ると、オリビアとセラフィスが席について果物をつまんでいた。



「ああ。おつかれセラフィス。ハルバードから話は聞いている。その話の前にまず、彼女のことを紹介をしよう。家庭の事情で人間界から逃れてきた貴族のご令嬢、オリビア・ドラゴニカだ」


 彼女のことを紹介すると、セラフィスではなくオリビアの方が驚いて目を丸くした。



「え、あの、わたしが人間だと言ってしまっても大丈夫なのですか?」


「何、心配はいらない。こいつは口が堅いし、それに今日は四天王にオリビアのことを紹介しようと思ってこの第三食堂に呼んだんだ。……もっとも、セラフィス以外の四天王は誰もいないようだが。

 というわけで簡単に紹介すると、こいつは東の魔王軍四天王【穿空】のセラフィス・リュードベリ。諜報部隊の隊長も務めている」


「あ、ええと……よろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 紹介を終えると、2人は一度立ち上がって握手を交わした。



「質問をしてもいいだろうか」


 俺とハルバードが席についたのを見計らって、セラフィスはスッと手を挙げた。



「ドラゴニカというと、オリビア殿はあの五大貴族のドラゴニカ家の令嬢で間違いないか?」


「そうだな」


 オリビアは口に果物を含んでいたので、代わりに俺が答える。



「では行方不明の少女というのはオリビア殿のことであったか」


「行方不明?」


「魔王陛下はご存知ないだろうが、今朝方からエントポリス王国の王都ではドラゴニカ家の三女が行方不明になったと少々話題になっている」


「それはまた面倒な……」


 う~んと唸りながら、隣に座っている少女の置かれている状況を整理する。


 昨日の日中、第二王子との婚約が嫌でオリビアが魔界へやって来た。婚約を発表するはずだったパーティーの前に抜け出してきたことから、彼女の父親は怒り心頭になったと思われる。そして今朝、早くもオリビアの捜索が始まったと。

 昨日の今日の出来事なのに、随分迅速な動きだな。それだけ王子との政略結婚にかけていたのか。


 しかし……結構まずい状況なのではないだろうか。

 親だから当然彼女が転界魔法を使えることも知っているだろう。となると、王都を捜索して手がかりが得られなかったら、当然次の捜索場所の候補としてあがるのが魔界だ。


 もし魔界に狙いを定めたら、捜索ついでに軍隊を引き連れ、魔界を蹂躙しに来るかもしれない。



「一応訊くが、オリビア。君の父親は転界魔法のことを知っているのか?」


「いえ、弟の前で転界魔法を使ったときに『転界魔法のことは父に言わないほうがいい』と言われたので、わたしが使えるということは教えていません」


「なんだ、それならば魔界まで追ってくることはなさそうだな」


 てっきりオリビアの父は知っているものかと思ったが、俺の杞憂だったか。


 度々オリビアの話に出てくる弟というのは、案外気が利くようだな。

 なぜ父親に伝えなかったのかは弟のみぞ知るというやつだ。



「サタン様! そんなことよりもルナ様のことについて詳細を聞く方が先ではありませぬか!」


 オリビアの話ばかりしていたため、ハルバードが焦った表情で迫ってくる。

 たしかに話題を見失っていたかもしれない。



「よし、じゃあセラフィス。ルナがどこで何をしていたのか教えてもらってもいいか」


「うむ。時は今日の朝。いつも通り王都内で情報収集を行っていると、金髪の少年と共に通りを歩いている銀髪の少女を見かけた。後ろ姿しか見えなかったためその時は気に留めもせず、商店で店主や客などの話を聞いていたのだが、ちょうど吾輩が店を出た時、少し先の店から声が聞こえてきたのだ」


「それが、ルナの声だったというわけか」


「その通りだ。見れば黒角こそ生えていなかったものの、鮮やかな紅眼を持つ、紛れもないルナ殿の姿がそこにあった」


 人間の目がある中で下手に接触するのは危ないとでも思ったのか、その時はルナに接触しなかったのだろう。



「その時のルナ様の様子は?」


 俺が黙り込むと、代わりにハルバードが口を挟んだ。



「吾輩の目には楽しそうに見えた。隣にいた金髪の少年もおそらくは同じくらいの年頃ゆえ、久しぶりに気軽に話せる同年代の者と出会えたのではないだろうか。魔王軍にはルナ殿と同年代の者はほとんどおらぬことだしな」


 そう言ってセラフィスは一口大の果物を頬張る。



「金髪の少年か……。そいつがルナを誘拐したか、あるいは匿っているかのどちらかだろうな」


 ルナが楽しそうにしていたとのことから、少年には匿われている可能性の方が高いだろうが、ルナは単純だから騙されていることも考えられる。

 どちらの可能性も考慮した上で対処しないといけないな。



「今のところ、ルナが人間界に行ったことによる騒ぎは起きていないのか?」


「特には。だが時間の問題であろう」


「そうだな。早めに手を打つのに越したことはないから、今すぐにでも動いてもらおうか。帰ってきたばかりのところ悪いが、もう一度人間界へ行ってもらってもいいか?」


「無論、魔王陛下の命とあらば。元より人間界に潜み、情報収集するのが“魔王の糸”の役目である。何をためらうことがあろうか」


「助かる。ではまず『金髪の少年』に接触し、ルナがなぜ人間界にいるのか聞き出してくれ。ルナは魔界へ帰ることを望んでいるのかどうかも確認し、それを望んでいるのならばセラフィスの転界魔法で連れてくる。人間界に留まりたいのであれば、ルナの意思を尊重して、しばらくは見守るだけにしよう」


 俺の言葉にハルバードが何か言いかけたが、セラフィスが口を開く方が早かった。



「もし金髪の少年が誘拐犯だったり、ルナ殿を人質に何かを要求してきた場合は?」


「その時は全力で叩き潰せ」


 セラフィスは静かに頷き、立ち上がると、転界魔法を構築し、世界と世界を繋ぐ扉へと消えていった。



 

 この後セラフィスがライトに接触し、前話のような流れになっていきます。


 時系列が前後してしまい、少しわかりにくかったと思います。やはり2人の視点を交互に展開していくのは難しいですね……。

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