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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
最終章 【白】の魔王と【黒】の竜
122/136

プロローグ


 ねえ、お母さん。今日とってもきれいな男の子と出会ったの。オラクっていうんだって。

 初めてなのにとってもやさしくしてくれて、日が暮れるまでずっと遊んでたんだよ。

 「友だちになってくれる?」ってきいたら「いいよ」って言ってくれたの。またいっしょに遊ぶの楽しみだな。


 * * *


 ねえお母さん。オラクってね、魔王軍のえらい人の子どもなんだって。あたしといっしょだね。

 もしかしたらお母さん、オラクのお父さんのこと知ってるかな?


 お父さんの名前? なんだっけ、忘れちゃった。


 * * *


 ねーねーお母さん、今度オラクがね、友だちをしょうかいしてくれるの。

 みんなオラクよりもやさしいんだって。本当かな?

 でもオラクが言うならきっと本当だよね。オラクが嘘つくところ見たことないもん。


 * * *


 お母さんきいてきいて。オラクの友だち、とってもいい人たちだった。ルシウスとミーナっていうの。

 ルシウスって、なんかあたしの名前とにてるね。

 二人ともなかよくなれるといいな。


 * * *


 お母さんお母さん、今日ね、とってもおもしろいことがあったの。

 ルシウスが鼻に牛乳をつけたままきて、オラクとミーナはずっとだまってるの。おかしくて大きな声を出して笑っちゃった。

 オラクたちと遊ぶの本当に楽しいな。


 * * *


 お母さん、今日とってもかなしいことがあったの。

 ミーナがね、ミーナがね……。


 どうして人間はあたしたちのことがきらいなの? どうして人間はひどいことをするの?

 どうしたらかなしいことがなくなるのかな?


 * * *


 お母さん……どうしてあたしを残して逝っちゃうの? なんで、こんなに悲しい目に遭わなくちゃいけないの?


 オラクもお母さんがいなくなっちゃったみたい。あたしと一緒。

 オラクも今ごろ悲しんでるのかな?


 * * *


 お母さん、聞こえてるかな。お母さんに声が届けられたらいいなと思って死霊術を勉強し始めたんだけど。

 小さい頃から死霊術を勉強していたオラクには全然敵わない。

 早くオラクと肩を並べられるようになって、彼を支えてあげたい。彼の苦しみが分かるのは、ルシウスとあたしだけだと思うから。


 * * *


 お母さん、この前メノリねえと会ったよ。これからあたしの面倒を見てくれるみたい。もうそんな歳でもないのに。

 でも、少し嬉しいかも。今のあたしに親戚と呼べるのはメノリ姉くらいしかいないから。


 * * *


 ねえ、お母さん。人間って本当にどうしようもないね。

 “勇者”って崇められてる人達は魔界へ来て略奪を繰り返すだけ。


 でも一番悔しいのはそんな人間達に抵抗できないこと。

 この前勇者と戦って、負けた。人数で押し切られて、無様な姿を晒して、本当に死ぬのかと思った。

 幸いメノリ姉が助けてくれたけど。


 オラクも勇者に負けたことがあるみたい。

 オラクだけじゃない。どこの魔王軍も幹部がいないと勇者には勝てない。

 全員で強くならないと。また悲しい思いをしないために。


 * * *


 お母さん、あたしの考えは間違ってたみたい。どうしようもないのは人間だけじゃない。


 オラクが【東の魔王】になったって聞いて、それは嬉しかったんだけど。前の【東の魔王】、つまりオラクのお父さんはオラクにも部下にも領民にも酷いことをしていたみたい。

 オラクのお父さんだけじゃない。他の魔王領同士の争いが起きれば必ず略奪や一般人への暴行が起きる。


 どうして世界には価値のない人が多いんだろう。どうして誰もそんな世界を変えられないんだろう。


 救いようのない人も、それを黙って見過ごしている人も、全員価値がない。

 価値がない人はいなくなればいい。


 * * *


 お母さん、あたし決めた。価値のない人はみんな滅ぼしてしまえばいい。そうすればもう、オラクが悲しむこともなくなるだろうから。

 価値のない人のためにオラクが悩む必要はない。価値のない人のためにオラクが泣く必要はない。

 オラクが笑っていられる世界を。オラクが悩むことのない世界を。あたしはつくる。


 どんな犠牲を払っても、どれだけ人の道から外れようとも。

 オラクのためならあたしは躊躇ためらわない。


 * * *


 この世にはオラクさえいればいい。オラクの他には何もいらない。

 

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