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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第五章 きみ思ふ
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Side-D 想いを重ね、放つ竜の炎


 金属音が響いた。

 アドルノスキーの魔剣【白兎(はくと)】とアルベルトの【真聖剣】エクスカリバーが交差したのだ。



「おーおー、いきなり背後から襲ってくるとはいい度胸じゃねーの。人間の国王さまよー」


 【真聖剣】を押し返したアドルノスキーは魔眼を働かせてアルベルトを睨みつける。



「自分のことは知っていましたか」


「当然だろー。これから攻め落とそうっていう国家の元首のことくらい下調べするっての。そこで氷漬けになってるねーちゃんのことは知らなかったけどよー」


 言いつつ目を向ければオーガの炎によってユリアの氷が溶かされていた。



「お? なんで動いてんだ? 二人まとめて凍っちまえ」


 万物を凍てつかせる魔眼・“霜眼(そうがん)”にてオーガとユリアを凍らせようとしたアドルノスキーだったが、眼前に躍り出たアルベルトによって魔眼の効能を切り裂かれた。



「……“霜眼”が通じない……?」


竜伐者(ドラゴンスレイヤー)の“竜眼(ドラゴン・アイズ)”や貴方のような魔眼などこの世にはいくつかの魔眼が存在するようです。しかし【真聖剣】の前には無意味。この聖剣はあらゆる呪いを斬り裂きます」


「【真聖剣】だと……!? こんなの聞いてねー……」


 彼は思わず半歩身を引く。



「くっくっく、まさか全身を氷漬けにされるとはな。生きた心地がしなかったぞ」


 アルベルトの隣に並び立ったユリアが肩を回して動きを確かめる。



「兄上とオーガが来なければこの命尽きていただろう。感謝する」


「べ、別に礼を言われる筋合いはねぇよ! 家族なんだから当然だろ!」


「くくはははっ! 何を照れている」


 わしわしとオーガの頭を撫で、ユリアは【水竜刀】アスハローランを構える。



「さて、反撃といこう」


 そう言ったユリアの姿がブレた。

 アドルノスキーはとっさに後退したがわずかに間に合わず首に浅い傷を負う。



「ちっ、流石に分が悪すぎる……。ここは撤退――」


「させると思うか?」


「っ!」


 アドルノスキーは転移魔法陣を描こうとするがユリアの鋭い斬撃を回避するのに手いっぱいで展開する余裕がない。



「ライトから教わって成った私の新たな力、とくと御覧(ごろう)じろ。

 ――“水竜の逆鱗”」


 ユリアの纏う魔力が【水竜刀(アスハローラン)】と同じ深い藍色に染まった。


 鋭さを増したユリアの斬撃を対処しきれずアドルノスキーの額に汗がにじむ。



「まだ速くなるのかよ……。化け物だなー」


「そちらこそまだ余力を残しているように見えるが? 出し惜しみしていると後悔するぞ!」


「勘違いすんなよー。俺さまに余力なんてないぜー」


「ならば大人しくひれ伏せ」


 火花を散らしながら両者は斬り結ぶ。と、アドルノスキーの背後からオーガが獅子の牙をかたどった炎を放った。



「――“炎王牙(エン・オーガ)”!!」


「――“氷霜牙霹靂(ひょうそうがへきれき)”」


 稲妻にも似た氷を放って対抗したアドルノスキーだったが、ユリアとオーガを同時に相手にしたことで隙が生まれた。

 常人では気づかぬほどのわずかな隙。しかしアルベルトがそれを見逃すはずもなく、彼の眼鏡が怪しげに光った。



「――“閃光一文字”・【無音踏破(むいんとうは)】」


 音も無くアドルノスキーの脇腹が裂かれた。

 ドッとおびただしい血があふれる。



「がはっ……」


 思わずつかを握る手が緩んだ。



「その魔剣貰い受ける。――“波紋(はもん)三文字(さんもんじ)”」


 【白兎】が宙を舞った。


 がら空きになったアドルノスキーの胴体に【水竜刀】が吸い込まれる。さらに彼の背後からは魔剣・【獅炎(しえん)】を携えたオーガが迫る。


 入った――。

 そう確信したユリアとオーガの目が見開かれた。

 二人の剣はアドルノスキーの身体ではなく【白兎】を貫いていたのだ。



「……はっは、魔剣に助けられるなんて情けねー」


 数歩離れたところに姿を現したアドルノスキーが呟く。



「今のは?」


「所有者と剣身の位置を入れ替える【白兎】の能力だ。これを使うってことはそれだけ所有者が追い詰められているってことだ。つまり【白兎】は助からねー。……絶対に使わねーって決めてたんだがよ」


「くっくっく、魔剣が自らの意思で主人あるじを助けたか。なかなかどうして愛されているではないか」


「どうにかして撤退することを考えてたが相棒をやられた以上引き下がることはできねー。お前ら全員まとめて始末してやんよ」


 彼がドラゴニカ兄弟達を睨みつけると、空から粉雪が舞い降りてきた。



「“霜眼”の効果は断ち切れてもこいつを媒介にした魔法は防げないだろ?」


 【真聖剣】に目を向けてからアドルノスキーは右目をえぐり取った。

 眼球に繋がった神経も眼孔からずるずると垂れ、あまりの不気味さにオーガは胃液が逆流する感触を覚える。



「呪いから解き放たれし魔眼は世界を凍てつかせ、そして自らも永遠の眠りにつく。

 ――“雪禍(せっか)”」


 シャァンと“霜眼”が砕けた。


 まるで封印されていた魔力が解き放たれるかのようにアドルノスキーの手の内から流動する氷が放たれた。

 大気を凍てつかせながら氷の砲はドラゴニカ兄弟へ迫る。



「……これは避けるわけにもいきませんね」


「そりゃ見れば分かるがどうすんだよ兄貴」


「昔から氷には炎と相場が決まっています」


「あぁ?」


 意図を汲み取る間も無く“雪禍”が到来した。

 アルベルトとユリアはそれを“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”で受け止める。



「何をもたもたしているオーガ。早く魔法陣を展開しろ」


「ど、ドラゴン――」


「違う」


 ぴしゃりとユリアが言い放った。



「火力不足だ。“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”では1に3を掛けたところで3にしかならん」


「なら姉貴たちが氷を受け止めている間にオレが奴を……」


「やめておけ。あやつも“雪禍”で動けぬとはいえ片手間にお前をあしらうことくらいわけないだろう」


「じゃあどうしろってんだよ!」


 それには答えずにユリアとアルベルトは魔刀と聖剣を捨て、“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”を放っていない方の手で球状魔法陣を描く。



「…………そりゃあ未完成の……」


「未完だろうが何だろうが関係ない。“雪禍”に打ち勝てる魔法はこれしかあるまい」


「自分とユリアの力だけでは足りません。貴方の力が必要です、オーガ」


「オレの……?」


 魔剣を収めたオーガは自らの手を見つめる。



「三人の力を用いて描く魔法陣。その鍵となる部分は最も炎の扱いに長けたお前が構築すべきだ」


「んな急に言われてもまともに練習したことねぇよ。だが迷ってる暇もねぇし……」


 じりじりと“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”を飲み込もうとする“雪禍”には目もくれず、オーガは球状魔法陣に魔力を注ぐ。

 ユリアとアルベルトも“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”へ込める魔力を弱め、魔法陣に多くの魔力を供給する。


 やがて魔法陣が完成――その一歩手前で魔法陣は四散してしまった。



「くそっ!」


「もう一度だオーガ」


 再び彼らは魔法陣を描くがオーガの魔力が定まらない。



「落ち着きなさい。急いては事を仕損じます」


「分かってるよ! 頭では分かっててもできねぇんだよ!!」


「っはははははは! ではこのまま私たちは王都もろとも氷漬けだな」


「タチの悪い冗談はやめろよ!」


 激昂するオーガの顔には玉のような汗がいくつも浮かぶ。

 それもそのはず、彼の一歩前に立つアルベルトとユリアは“雪禍”の余波で髪や腕の一部が凍りついているのだ。


 じっと魔法陣を睨みつけるが、それでも完成には近づかない。

 余裕のないオーガにユリアは優しく声をかけた。



「後ろを見ろ」


「あ?」


「上空に投影されている各所の様子だ」


 言われた通り振り向くと、泥まみれになりながら戦う仲間の姿が映っていた。

 聖魔導騎士団や中枢魔法協会(セントラル)が勝ちどきを上げ、オリビアがルナの肩を借りて立っている。そしてオラクと共にライトが敵に立ち向かっていた。


 不意にオーガは時折聞こえていた魔法放送のことを思い出した。それによればライトが戦っているのは【南の魔王】のはずだ。

 同じく魔王であるオラクと共闘しているとはいえ、ライトの表情には微塵も焦燥や悲壮の色は出ていなかった。



「……フハハッ、そうだ、そうだよな……。あいつはオレよりも年下のくせに堂々と魔王に戦いを挑んでやがる。あいつが魔王に勝とうっていうのに兄のオレが負けるわけにはいかねぇよな」


 正面に向き直ったオーガは全身から吹き出すような猛々しい炎を身に纏った。



「――“(えん)獅子(じし)”!!」


 燃え盛る炎はオーガの心を映す鏡。感情を力に変換するその魔法を使いながら彼は球状魔法陣にありったけの魔力を込めた。


 “雪禍”が“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”を呑み込む――。それと同時に球状魔法陣が完成した。



「「「――“竜獄三叉想炎ドラゴニカ・フィーリア”!!!」」」


 三重螺旋の炎が“雪禍”を真っ向から受け止めた。

 初めこそ拮抗していたものの、次第に炎の勢いが勝り流動する氷を押し返す。



「おーおー、“霜眼”を破られて切り札すら通用しないとはなー」


 そうこぼすアドルノスキーの表情は至って冷静だった。

 退くこともできず抗うすべもない。自らの死を悟ったのだ。


 彼は最後に一言



「死に場所を用意してくれてありがとなー、魔王さま」


 呟き、満面の笑みを浮かべて炎の餌食となった。


 

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