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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第五章 きみ思ふ
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Side-O 【懺悔の華】


「魔王様! 魔物の群れはなんとか抑え込んでいますがドラゴンを止められません! 四天王様の援護をお願いします!」


 兵士が慌ただしく動き回る魔王城の中庭にて一人の兵が報告を持ってきた。



「魔王陛下、既に住民の避難は完了している。吾輩が出よう」


「分かった。頼んだぞセラフィス」


 仰々しく頭を下げたセラフィスが下級兵と共に出ていく。

 彼らを遠目に眺めながら、俺は思考の海に沈んでいた。


 先ほどライトから寄せられた情報。ルシェルのみならず、ルシウスまでもが人間界に現れたという。

 ライトを信用していないわけではないのだが、それ以上にルシウスがエントポリス王国に侵攻するとは信じられなかった。



「顔色が悪いけどお兄ちゃん大丈夫?」


「大丈夫……ではないな」


「ルシウスまで敵に回ったんだもんね。あのバカっ、絶対に許さないんだから!」


 心配そうに顔を覗いてきたルナが拳を握り締める。



「本当にあいつが俺と敵対するか……?」


「わからない。でもライトが見間違えるはずないわ」


 それはそうなんだがな。

 ライトにはあらゆる幻術を見破る“竜眼(ドラゴン・アイズ)”がある。ごまかせるはずはない。

 しかしルシウスが敵対する理由がないのだ。南の魔王領が代々中立の立場にあることもそうだが、何よりあいつの夢は「魔族と人間との共生」だ。人間と争うことは最も避けたいはずなのだ。

 考えたくはないが、俺に嘘をついていたということだろうか。



「お兄ちゃん、とりあえず人間界に行こうよ。行けば何かわかるかもしれない」


「……そうだな。行くだけ行ってみるか」


 厳しい現実を知りたくはない。しかし魔王が二人現れた以上戦略的に人間界を放置することはできない。


 俺は傍に控えていたハルバードに水晶を渡した。



「人間界の様子を見てくる。こちらの竜はセラフィスかドルトンであれば十分抑えられるだろう。万が一の時はお前が出てくれ」


「承知しました。サタン様の名にかけて侵略者どもを一掃してみせましょう」


 席を立ち、俺は世界と世界を繋ぐ扉を構築する。



「あれ、お兄ちゃん転界魔法使えたの?」


「ああ。普段は俺より上手いオリビアかセラフィスに任せていたが、俺が使えないとは一言も言ってないぞ」


「さすがお兄ちゃん! お兄ちゃんにできないことを探すことの方が難しいわね」


「器用貧乏とも言えるがな」


 そうこうしている間に転界魔法が完成した。



「行こう」


「え? アタシも?」


「嫌か?」


 ルナは激しく首を振った。



「ライトからの情報によればセリーヌも来ているらしい。セリーヌの相手はルナに任せる」


「わかった!」


 世界と世界を繋ぐ扉がゴゴゴゴと音を立てて開き、眩い光が溢れる。

 俺とルナははやる心の赴くまま足を踏み入れた。



 ◇ ◇ ◇



「わたくしの可愛い足を墜としてくれるなんて……覚悟はできていますこと?」


 場所は人間界に戻り、王都の城壁外にてオリビアは瑠璃色の髪をなびかせるドレス姿の魔族と対峙していた。

 つい先刻、城壁へ攻撃を加えようとしていた竜をオリビアが倒し、結果としてその背に乗っていた魔族と睨み合うことになったのだ。



「以前東の魔王領を訪れた際はほとんど関わらなかったから知らないでしょうけれど、わたくしは【宵の月】より強くってよ」


「それが本当なら手強いですね……」


 油断なく構えるオリビアに対し、瑠璃色髪の魔族は優雅に扇をあおいでいた。



「改めて名乗りを。わたくしは南の魔王軍副官筆頭、セリーヌ・フレロビウムですわ」


「ドラゴニカ家三女、オリビア・ドラゴニカです」


 お互いに名乗り終えるとセリーヌが両腕を広げた。



「わたくしの二つ名は【懺悔の華】。わたくしに勝負を挑んだことを後悔し、こうべを垂れることですわ!」


 次の瞬間彼女の脇の空間が裂け、中から多数の魔族が現れた。彼らはオリビアを視界に捉えると一斉に襲いかかった。



「オリビア・ドラゴニカの弱点は把握済みですわ。自分より遥かに力が劣る者を相手にした時何もできなくなる! 戦場においてそれは命取りですことよ」


 魔族の兵士たちに襲われ、オリビアの姿が見えなくなったのを確認してセリーヌは口角をあげた。


 直接手を下すまでもなく勝利――そう確信したセリーヌだったが、目の前の光景に驚愕した。


 激しく燃え盛る炎が兵士たちを包み込んだのだ。



「これは一体……」


 次々に兵士が倒れていき、彼らの中心から微塵も動揺を見せていないオリビアが現れる。



「確かにわたしは自分より大きく魔力が劣る方々を相手にするのは苦手です。ですがそんな致命的な弱点を放置したままにするわけないじゃないですか」


「まさか克服したんですの!?」


「いいえ。そう簡単には克服できません。卑怯な手かもしれませんが、魔力を制御する魔法具を用意しました」


 そう言ってオリビアは銀色に輝く指輪を見せた。以前訪れた東の魔王領の喫茶店で、女店主のメノリからもらったものだ。



「そういうこと……。ならば雑兵を差し向けるだけ無駄ですわね。いいでしょう、わたくし自ら相手をして遣わしますわ」


 セリーヌの目つきが鋭くなり、魔力が跳ね上がった。

 オリビアも指輪の効力を解除して魔力を練り上げる。



「この世にあまねく全てのものはルシウス様のモノ。全てがルシウス様の思い通りにならなくてはいけない」


「そんなのおかしいです。わたしたち一人一人に選択の自由があるはずです」


「議論するつもりはありませんわ! 【謳歌扇(おうかせん)】!!」


 セリーヌが扇を振ると、扇から数枚の羽毛が飛び散った。

 まるで剛体のように形を変えることなく飛ぶ羽がオリビアに迫る。



「――“礫氷(れきひょう)”」


 一方のオリビアは氷のつぶてを撃ち出す。だがしかし、羽に触れた氷の礫はことごとく砕かれた。



「なっ……」


 驚きに言葉を失いながらも転移して羽の攻撃を躱す。



「あら、自分の魔法が砕かれたというのに転移できるなんて大した精神力ですこと。ならばこれはどうかしら。

 ――【謳歌扇】“羽毛牢”」


 飛来した無数の羽が重なり合い、オリビアを囲う牢獄と化す。彼女の姿が完全に羽毛に覆われたかに思えたその瞬間、牢獄に穴が空いた。

 オリビアが打ち出した炎が“羽毛牢”を溶かしたのだ。



「――“雷桜封殺陣”!」


 今度はセリーヌの周囲に魔法陣が出現した。オリビアが拳を握りしめれば白桃色の雷撃がセリーヌに襲いかかる。

 とっさに飛び上がって雷撃を回避しようとしたセリーヌだったが、あまりの雷撃鎖の多さに避けきれずついに片足が鎖にとらわれた。



「――“塵風刃乱波(ドルウォストラ)”」


「くっ……甘く見ないことですわ! ――【謳歌扇】“孔雀幕”」


 風の刃が羽毛の壁にぶつかった。

 鋼鉄並みの硬度を誇る【謳歌扇】の羽毛はオリビアの魔法を完全に遮断し、セリーヌが傷を負うことはなかった。


 魔法を防いだ隙にセリーヌは雷撃鎖を力づくで脱する。



「固いですね、その扇の羽」


「ほほほ、怖気付いても遅いこと。この【謳歌扇】は【宵の月】の小娘でも壊せませんの。あなたごときに突破できると思って?」


「さっき炎の魔法は通りましたけど……」


 控えめにオリビアが言うとセリーヌの顔が真っ赤になった。



「いいですわ! ならばもう一度撃って御覧なさい!! 二度と炎は通らせなくってよ!」


 逆上したセリーヌは巨大な羽毛の壁を築く。対するオリビアは再び炎の魔力を練り上げた。



「――“竜炎渦(ドラゴン・フレイム)”!」


 彼女が叫べば渦巻く炎が放たれた。

 竜の形を成す炎は壁に激突する。ジリジリと羽が焦げる音はするが、削れる気配は見えない。



「おほほほ、だから言ったでしょう」


「まだです! もっと……もっと魔力をっ!」


 オリビアがさらに魔力を注ごうとしたその時。

 轟音が響き、羽毛の壁が粉砕された。



「なっ…………!?」


 さらにセリーヌが持っていた【謳歌扇】も微塵に砕かれる。



「にゃははは! ついに【謳歌扇】を壊してやったわ!」


 二人が声の聞こえてきた方へ目を向けると、そこには白銀のオーラを拳にまとわせたルナの姿があった。



「東の魔王軍四天王【宵の月】ルナ・ジクロロ・サタン、エントポリス王国の加勢に来たわ!」


 

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