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俺は畑で無双する  作者: 昼熊
激震編

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十四話 人差将軍タワキテの場合

「タワキテ様、偵察部隊が戻りました」


 もう帰ってきたのか。まだ人肉二体目だというのに、食事の邪魔をしおって。とっておきの脳の煮付けは話を聞いてからじっくり楽しむか。


「ぶふぉー。そこから話すぶひ」


 どうせ代わり映えのせん、報告だろう。あの吸血娘は意気込んでおったが、気持ちで町が落とせるなら誰も苦労はせん。

 それに副官のこやつは豊豚魔の癖に痩せておるから、近くにいられるだけで妙にイラつく。テントの入り口越しで充分だ。


「中将軍クョエコテク様の部隊は壊滅、そして、クョエコテク様及び、近衛兵の面々も所在が不明となっています。おそらく戦死されたと思われます」


「何、ぶひっ! もう一度詳しく説明するぶひっ!」


 何と、あの不死の軍勢が負けたというのか。骨と皮しかない肉厚不足の女だが、率いる死人魔と骨人魔は厄介な存在だった。その部隊を人間がどうやって……。


「はっ。偵察隊からの情報によりますと、夜明け前、通常ならば戻ってきてもおかしくない時間帯になっても、不死の魔物が一体も戻ってこず、戦況の確認に向かったようです。防衛都市の人間が北門と呼ぶ、巨大な門扉の近くの広場まで進むと、そこには魔物が一体もおらず、クョエコテク様の姿もなかったとの報告を受けました。後は、途中の道には何をするわけでもなく、ぼーっと突っ立ている死人魔と骨人魔が二千体近くいたそうですが」


 ふむ、不死の者共は命令系統を失ったということか。自分で考える知能がない奴らは、操る者がいなくなると、ただの動く死体に成り果てる。

 防衛都市を攻める命令を受けていたのであれば、吸血娘が死んだところで、命令は生きているので町を攻めようとする筈なのだが、動いておらぬのか。


 ということは、待機の命令を受けたまま、次の指示がなかったと考えられるな。

 一番可能性があるのは戦死だ。次に相手に捕縛された。

 一本道から戻ってくる者がおらなかったということは、逃げたという選択肢は存在せん。あの気位の高い吸血娘が逃げるとも思えんしな。


「吸血姫の部隊は、どの程度の兵力だったぶひか?」


「合計六千程度と聞いております」


 六千もの不死の内、四千を滅ぼしたというのか。あれだけ疲労して、町に籠るしか能のない人間がどうやって……強力な助っ人でも雇ったか、帝国からの援軍か。

 何にせよ新たな戦力を得たのは間違いない。

 捕まっておれば助け出し恩を売ればよい。死んでおれば、それはそれで構わぬこと。町を落した手柄を全て俺の物にすればいいだけだ。

 今までは、全力を尽くし攻めきれなかった場合、吸血娘に美味しいところを取られるのを危惧していたのだが、それも気にしなくて良い。


「副官よ。総攻撃の準備をするぶひ」


「はっ、仰せのままに」


 これで報酬は独り占めだ。死んでるにしろ捕まっているにしろ、あやつの兵士どもはもう必要ないな。通りすがりに腐肉は捨て、骨だけは部下共のおやつにするとしよう。

 防衛都市を陥落させれば、大量の食糧を得ることができる。暫くは好物の人肉にも困らん。もも肉と噛み応えのある肩肉以外は部下共にくれてやるとするか。理解のある上司だからな。


「ぶひひひひ。楽しみぶひなぁ」


 丸焼きにするか、それとも油でカラッと揚げるか。塩漬けにして保存食にするのもありか。

 さっさと仕事を終わらせて、夕食は豪勢にいくとしよう。





「ぶふぉ? 本当に何もしてないぶひ」


「はい。目的もなく彷徨っているだけのようです」


 生気のない腐った目や黒い空洞があるだけの目。死人魔と骨人魔が進路を妨げるように、無為にうろついている。

 正直、進軍の邪魔だ。


「死人魔は谷にでも落とすぶひ。骨人魔は頭蓋骨を砕けばただの骨ぶひ。再生する前ぶひに、カルシウムの補充をしておくがいいぶふぅ」


 不死の群れとはいえ、谷底に落としてしまえば復活もままならないだろう。特に豊豚魔は鼻が利くから、あの悪臭には耐えられん。

 骨は食べごたえは全くないが、カリカリとした歯ごたえが悪くない。

 っと、こいつをおやつにするか。


「タワキテ様、そのようなモノを食べると、お腹を崩されますよ」


「そんなやわじゃないぶふぉ。お前もどうぶひか?」


「結構です」


 そうやって物を食わないから、副官はガリガリなのだ。骨人は蘇生する最中の生きのいい状態を噛み砕くのが口に楽しいのだがな。


「で、先発隊はどうなったぶひ」


「百名ほど先に送り出しましたので、そろそろ、報告が入るころだと思われます……すみません、暫しお待ちを」


 副官の後ろに歩み寄ってきたのは、副官と同じくやせ気味の部下か。偵察係は素早くなければならないとか言っておったな。豊かな脂肪もなく腹がキュッと絞まっているのが、豊豚魔の美学に反する。


「ご報告します。先発隊、百名。全て土に呑み込まれました」


「のみこぶぅ? どういうことぶひか?」


「北門に到達した先発隊が門周辺を調べていると、突如、足元から土に埋まり、瞬きをしている間に埋没したそうです」


 土操作の加護、もしくは土魔法の使い手を雇いおったか。

 これまでの戦いで、百もの兵を瞬時にして飲み込む使い手など出てきておらん。精々、土の礫を放つか、小さな落とし穴を作る程度だった。

 それに、吸血娘の軍もやられたと考えるべきだな。


「使い手を目撃しなかったぶひか?」


「それが。外壁の上に見張りが数名いたそうですが、魔力の流れも見えなかったそうです」


 偵察担当は『魔眼』の加護持ちだったよな。魔力が見られなかったということは、魔法ではなく加護ということか。数名の土魔法の使い手を雇ったのではなく、強力な加護持ちを一人雇ったという考えもありか。

 そういえば風の噂で、人間の国には百の加護を持つ者がいるとかどうとか。人間側の妄想と希望が混ざり合い、作り出された虚構の存在だとは思うが。わずかでも可能性があるならば考慮しておくか。


「匂いはどうぶひ」


「それが、見張り以外の人間の匂いは感じなかったそうです。近くに潜んでいた可能性も少ないかと。土の中に隠れている可能性も低いです。『気配察知』の加護に反応がなかったと報告を受けております」


 魔眼、嗅覚、気配察知。この三つに反応しなかったのか。ふむ、巧妙な隠蔽術を行使している可能性も無きにしも非ずだが、一つだけならまだしも、全てから逃れるとは考えづらいな。


「更に500送り込んで様子を見るぶふぉ。土操作の範囲を調べるぶひに、密集せずに広がって攻めるぶふぅ」


「わかりました」


 全てやられたとしても1割にも満たない。土操作の加護持ちだけではなく、他にも何人か強力な助っ人がいるのか調べておかねばな。

 戦いに最も重要なのは情報。吸血姫の部隊に密偵を送り込みたかったのだが、全部腐っておるか、骨だというのが厄介過ぎた。死人魔の変装をさせても、あやつらは戦闘中、生者に襲い掛かる習性があるのが誤算だった。

 どのようにして倒されたのか情報が不足しているな。もう少し、詳しく知りたい。


「ぶひっ、副官よ。あれを持たせておくぶひ」


「物見の魔法道具ですね」


「そうだぶふぉ。もう少し情報が欲しいぶひ」


 副官は見た目が貧弱だが頭が切れる。何を言いたいのか事前に察知する能力が高い。だからこそ、副官に任命したのだが。

 物見の魔法道具を持たせておけば、この水晶玉に現場の映像が投影される。これで、何が起こったか確認するとしよう。





「これは、予想外だぶひ」


 水晶玉に移る光景に思わず目をみはる。

 広場にいた配下の者共が地面に呑み込まれていく。

 広場全域に影響を与える土操作だと……そんな使い手は魔王軍でも知る限りでは、土の精霊と土竜様ぐらいだ。

 門の上を映し出しているが、そこにいるのは数名の兵士だけか。加護を発動させている気配がない。むしろ、その光景に兵士が驚いているな。

 となると、門の向こう側に使い手がいるのか。


「厄介ぶひっ」


 防衛都市に向かうには谷にかかる一本道を進むしかなく、門の前に広がる地面に兵を限界近くまで押し込んだとしても、500がいいところか。

 相手は門前の地面に出来るだけ多くの敵が入り込んだところで、地面へと埋めている。立地条件が悪すぎるか。相手にとっては最高の立地だが、こちらにとっては最悪だ。

 このまま進んでも、無駄に兵を減らすだけに……いや、待てよ。一つ妙案を思いついた。


「副官。次も500程度でいいぶひから、兵に門を襲わせるぶふぉ」


「お言葉ですが、それはみすみす兵を死なせることに」


「そんなのわかっているぶふぅ。その兵士たちには、槍を持たせるぶひ」


「槍ですか……」


 副官が首を傾げておる。今一ピンと来ていないようだな。


「それも、長槍をぶひ。最も長い槍を持たせるぶふぅ」


「ああ、なるほど、そういうことでしたか。直ぐに手配させます。槍が足りない場合は、棒でも宜しいでしょうか」


「無論だぶひ」


 ようやく理解したか。

 これで予想通りであれば、勝利への糸口が掴めるだろう。結果が判明次第、総攻撃を開始する準備をしておくとしよう。

 戦争は情報と力と数。これさえ押さえておけば、大抵の戦には勝てる。


「ぶひひひひひ。あの門が落ちるのも時間の問題ぶひ」


 確実な情報が得られるまで、骨の歯ごたえを楽しんでおくこととしよう。





「タワキテ様! 判明しました!」


 いちいち大声で報告せんでもわかっている。水晶玉に一部始終が写っていたからな。

 やはり、深さに限界があったか。沈んでいった部下が所持していた槍の穂先が、地面から幾つも飛び出ている。

 生き残った部下が泥沼と化した地面に槍を突っ込み、深さを測っているが、大体、我らの身長の倍に満たない程度か。


「これ以上相手の思う通りに事を運ぶひ、わけにはいかんぶふぅ。用意しておいた、空の樽や使わんゴミを、門前まで運び入れるぶふぉ。壁をよじ登る用の梯子も全部持って行くぶひ」


 地面に埋めるにしても、限界がある筈。泥の上なら空の樽が浮かぶかもしれん。沈んだところで地面が物で埋まっていくなら、それで構わん。

 埋めた者を処理する暇もなく、次々と送り込めば、どれだけ強力な力を操れたところで無意味なことだ。

 面積が限られているのであれば、限界まで埋めてしまえばいい。足場さえ確保してしまえば、恐れるに足りん。必勝への道が見えた。

 全軍をもって門を破壊し、人間どもを蹂躙し、今日の晩飯にしてくれる。

 では、食前の軽い運動といくか。


「お前ら、食いつくすぶひ! 全軍突撃ぶひいいい!」


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