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俺は畑で無双する  作者: 昼熊
激震編

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九話

 キモい。そして、臭い。

 さっきから、迫る敵の全てが腐っているか、骨の二択じゃねえか!

 闇夜に行進するゾンビとスケルトンの群れ。B級ホラーを見ているかのようだ。

 でも実際は、ホラー映画でゾンビとスケルトンが共演する作品なんて見たことが無いよな。これは、ある意味ファンタジーならではの光景と言えるかもしれない。


 ちなみに俺は今、北門の前に居座っている。地面と同化した畑バージョンで。

 移動形態で一気に押し潰すことも考えたのだが、広場の先に続く道が自分の体より細いというのもあり、相手の能力がわからないうちは無謀なことはやめた方がいいという結論に達した。

 ここは異世界。巨大な畑を吹き飛ばすような魔法や能力が無いと断言することはできない。吹き飛ばされても恐らく死なないだろうが、全ての土を掻き集め元に戻るのには、相当な時間を必要とするだろう。


 それに、死なないと思うだけであって、確証はない。

 安全のために動物やキコユたちも、今は門の向こう側で待機してもらっている。

 何もわかっていないうちに博打をする気は毛頭ないからだ。

 なので、地面と同化して北門に近づく輩を畑に埋めていき、吸収する作業を繰り返している。普通、仲間が目の前で土に沈んでいったら警戒の一つもするものだけど、ゾンビとスケルトンにはまともな知性が無いらしく、無謀な突撃を繰り返してくれている。


 まったく、栄養の補給が捗るじゃねえか。腐肉と骨ガラは見た目に反して結構栄養があるようで、以前、緑魔を吸収した時より満たされる感じがある。

 既に1000体近くの魔物を取り込み、かなりパワーアップしたようで、吸収速度も上がり、土質の変化も更に磨きがかかってきた。

 悲しい思い出が詰まった記憶の引き出しを開けて泥状にする際も、以前より感情の起伏が小さいのに泥の柔らかさが増し、まるで池に沈むような速度で泥に埋没させることが可能となっている。


「ア、ア、アア、アァ」


 ゾンビが呻き声を漏らしながら、畑に埋まっていく姿は逆再生すればホラー映画にありがちな光景だが、普通に流すと中々に滑稽だ。

 このまま、順調に吸収を繰り返し、栄養を蓄えることが出来れば、それを野菜に回すことにより、成長を促進させ収穫速度も上げることができる。

 敵の殲滅に野菜の育成。一石二鳥だな。

 ただ、このまま終わるとは思っていない。今は雑魚相手だから無双状態だが、知能のある個体が現れたら、何かしらの対策を練ってくるだろう。本当の勝負はそこからだ。


 一度視界を上空で旋回している黒八咫の輪っかに移すか。

 眼下にいるのはゾンビとスケルトンの集団。その後方につぎはぎだらけの巨大なゾンビが佇んでいる。あれが来ると結構厄介そうだぞ。

 で、更に問題なのが、巨大ゾンビの肩に座っている、黒のワンピースに赤い文字のような模様が無数に描かれている服を着込んだ、一人の女性の存在。寒くないのだろうか。


 時折命令をしているようなので、彼女がこの死体軍団の親玉、もしくは、それなりの地位にいる存在なのだろう。

 見た感じは、長い黒髪が顔にかかって表情がわからず、和風ホラーで頻繁に見かける幽霊タイプ。死体軍団の長として相応しい見た目だ。

 魔王軍の一員ならもっと人間離れした容姿を想像していたのだが、ちょっと怖い感じではあるが人間にしか見えないな。

 だけど、見た目で油断はしないでおこう。俺だってごく一般的な畑だが、結構強いから。


 アレが指揮官と仮定すると、他のゾンビやスケルトンと違っている個体はいないのかな。

 っと、いたいた。何か、場違いな格好をしている一団がいるぞ。巨大なゾンビの背後にずらっと並ぶ、タキシード姿の男たち。この男達は生身の人間に見えるが、鮮度のいいゾンビなのかもしれない。

 あれっ、あの男たちみんなイケメンじゃないか?

 距離があるので正確な容姿がわからないというのに、全身から滲み出ているモテオーラを感じるぞ!

 何と言うか、見ているだけでイラッとするレベルだ。別に僻んでいるわけじゃないが、決して羨ましい訳じゃないが、あいつらだけはこの手で倒さなければいけないという、使命感が土に宿った。


 巨大ゾンビと指揮官らしき女性にイケメン軍団は動く気配がない。

 警戒態勢は維持するとして、他に厄介そうな個体はいないか確認しないとな。スケルトンは全部裸体で武器や盾で区別するしかない。違いがあったとしても、正直わからん。


 ゾンビは死んだ時と同じ格好なのだろうか。村人っぽい素朴な格好の者もいれば、鎧や兜を装備した個体も結構いるようだ。武器は棍棒もあれば、錆びてはいるが剣や槍を装備しているのもいるな。無手も多いみたいだけど。

 共通しているのは鈍重な足運びで、機敏さの欠片も見当たらない。今は歩いているだけなので、いざ戦闘になったら見違えるような動きを見せるのかもしれない。


 だが、現在進行形で畑に埋もれていくゾンビたちを見ている限りでは、基本的に素早さはかなり低いと考えてよさそうだ。最近のゾンビが出てくるゲームは、全力ダッシュするのも珍しくないから警戒していたのだが、このタイプなら問題なく畑の肥やしにできる。

 あ、いや、今の発言は撤回しておこう。かなりの速度で前線を目指している個体がいる。

 周囲のゾンビに比べ、かなり質のいい鎧を装備しているな。兜を装着していないので、頭頂部が丸見えなのだが、毛が所々にしか生えていない。

 ハゲにしては毛の残り具合が妙だ。頭の所々に毛がポツンポツンと残っている。普通、髪の毛の薄い人は頭頂部から円形に抜けるか、オデコが後退してくるものだろう。それに、髪のない頭に覗くのは頭皮ではなく、白い何か。


 あれって、頭蓋骨だよな。ってことは、あれもゾンビで腐敗が進んで毛ごと頭皮が剥がれ落ちたと考えると合点がいく。

 にしても、機敏だな。かなりの速度でゾンビやスケルトンの脇を駆け抜けている。このままだと、数分で北門前に到着しそうだ。

 確実に今までと違う格上の存在だよな。となると、知能もそれなりと仮定するなら、何を目的に移動しているのか。普通に考えるなら、前線に強者を送り込んで戦況を変える。


 もしくは、何が起こっているのか偵察といったところかな。どちらにしても、このまま泥沼もぐもぐ大作戦は変更したほうがよさそうだ。

 地面に次々と埋もれていく仲間を見れば、警戒されるに決まっている。

 さーて、どうしてくれようか。かといって雑魚を放置すると、門が破壊されかねない。

 まあ、対策はしてあるからなんとかなるか。暫く普通の地面のふりをして、アレが土の上に来たら取り込むとしよう。





「兵たちに問題はないようだ。門への攻撃も続いているな。にしては、兵が少なすぎる。それに、アレは土を塗りつけて補強しているのか?」


 おっ、この上位個体らしいのは話せるのか。渋くていい声しているな。皮膚はボロボロだけど。

 やはり、知能が人並みにはあるようだ。門扉の違いにも気づいたぐらいだからな。

 あの個体の指摘は間違いではない。門扉とその周辺には畑の土がたっぷりと塗られている。その上で土質を変化させて、ある程度固くしておいた。

 死体共の攻撃を受けて、土が陥没しているようだが、まあ、そんな凹みは土を移動させてすぐさま修復するので全く問題にならない。


 奴らは完全修復する土を永遠に殴りつける作業を繰り返しているだけ。かなり強烈な一撃でも入れない限り、俺の土補強アースディフェンスを破ることは不可能だ!

 さあ、その塗られた土が怪しいだろ?

 だったら、近くに寄って調べるヨロシ。その為に土のふりをしているのだからな。って、元々土だが。


「妙だな。私が来てから一体も倒されていない。あの壁に塗られた土に何かあるのか? クョエコテク様へ一度報告に戻るか……しかし、もう少し詳しい情報が必要か」


 この人、独り言が多いぞ。ゾンビになって思考力が落ちて、口に出さないと考えがまとめられないのかもしれないな。

 クョエコテクって上司だよな。たぶん、あのツギハギゾンビの肩にいた女性っぽい。

 上位ゾンビは、何もない状態で戻るわけにも行かないよね。この土は不思議だよなー。だから、ほら、近寄って調べるがいいよ。


 それに、このまま戻られると少々厄介なことになりそうだからな。

 俺の状態は、畑の右側半分を北門の前に出し、残りの畑半分を、門を挟んだ内側――街中に置いている。畑の半分だけを北門前の地面と同化させ、こうやって防衛に励んでいる。

 街中にある残りの畑には、お婆さんの家、農作物、風呂や台所などの施設を纏めているので、外で激しい戦いが繰り広げられていても、内側はのどかな農園風景だったりする。


 さて、そんな現状は兎も角、あの上位ゾンビはまだ迷っているようだ。

 門から50メートルの範囲に敵が入り込めば、一気に取り込み吸収できるのだが、結構慎重派だな。ちょっと誘ってみるか。


「ぬっ? 今、門に塗られた土が脈動しなかったか?」


 はい、動きましたよー。ほーら、殴られた場所が自動修復されてるよ?

 もっと近くに寄って見てみ?

 大きく動くことを避け、最小の動きで土を元に戻していく。

 ちなみに、以前は畑の土を動かすには、いちいち土の腕で掘ったり、盛ったりしなければならなかったのだが、今は自在とはいかないが、この程度であれば自分の意思で動かすことが可能となっている。

 以前と比べて『土操作』の加護がパワーアップしているということなのだろう。それに加え、さっきまで魔物を吸収していたので『土操作』が更に強化されたのが実感できている。


「こやつらが使い物にならぬ今、私が調べるしかあるまい」


 無能な部下を持つと困るよね。うちの親父も酒を飲むとたまにこぼしていたな。

 警戒態勢を保ちながら、慎重な足取りで上位ゾンビが前に進んでいる。

 今、俺の領域に足を踏み入れたが、まだだ。逃げられる可能性を少しでも減らす為に、もう少し辛抱しないと。


 5メートル、10メートル、20メートル……よっし、今だ!

 そいつを取り囲むように2メートル級の腕を四本出して、一気に押さえ込む!


「何っ! 土の腕だとっ、罠か!」


 ふはははは、我が領域の跳び込んだのがキサマの運の尽きだ!

 このまま、取り押さえてくれるわっ!


「剣技――弧線斬」


 何それ!?

 ゾンビが何かを叫び腰に携帯していた剣を鞘から抜くと、体の周囲を光の線が何重にも走る。すると、俺の四本の腕が……ぶつ切りにされた!?

 つまり、剣を使った技だよな。くそっ、敵ながら格好いいじゃないか。正直、相手を舐めていたことを反省するよ。


「見かけ倒しか。何処かに土操作の加護持ちのハンターか、土属性の魔法を操れる者が潜んでいるのか」


 惜しい。者でもハンターでもないよ。

 あの剣は精霊殺しのような特殊な武器ではないようだな。斬られた際に精神が切り離されたような感覚がなかった。精神に何らかの影響も感じられない。

 なら、四本で無理なら、倍の八本ならどうだ!

 土の腕で全ての方向から、横殴りの拳の雨を降らせる。


 ツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチツチィィッ!!


「無駄なことを……弧線斬」


 さっきの映像を再生したかのような光景が再び繰り広げられ、俺の腕が八本とも無残に切り落とされた――が、予定通りだっ。


「なっ、足元がっ!」


 足下がお留守だぜ。土の拳による乱打に意識を取られている間に、地面を泥状に変化させておいた。ついでに、小さな土の腕が何本もそいつの足や腰にまとわりつき、地面へと引きずり込んでいる。


 さあ……一緒に土に……うまろぉぉぉぉぉぉぅ……。

 ずっと……地中で……一緒だよおぉぉぉぉぉぉぉ。


「くそっ、弧線斬!」


 またも光の軌跡が周囲に発生するが、畑の土を切り裂くのは無茶だったな。相手の切っ先が土に埋もれている。その剣、いただくぞ。


「放せっ、ぐおおおっ!」


 既に腰上まで土に埋まり、その武器は完全に埋没している。ここまでくると、もうどうにもならないようで、首から上を残した状態で土に埋めることに成功した。

 さて、こいつからは色々聞き出したいが、その前に門にへばりついている輩も埋めておくか。


「くっ、どうなっている! 隠れてないで出てこい!」


 隠れては無いです、はい。ちょっと、今忙しいので、少し黙っていてくださいねー。

 そいつをもう少し深く埋めて、口元も塞いでおいた。

 どこぞの掃除機よりも高性能な吸引力で、次々と門周辺のゾンビたちを埋めて吸収していく。

 くうううぅ、力が漲るっ!

 栄養がかなり補充されている。これなら野菜の成長に集中して栄養を注いだら、一日で実をつけることも可能かもしれないな。

 っと、上空に視界を移して、親玉の様子も見ておくか。


 現在、谷の上を滑空中の黒八咫さんに騎乗中の畑さん、そちらの様子はどうですかー。

 はい、こちら現場の畑です。今、一本道の上空から眺めているのですが、おっ、とうとうリーダー格が動くようです!

 他にも見るからに性格が悪そうな(偏見)イケメン軍団も動き出しました! 現場からは以上です!


 なるほど、リポーターごっこはここまでにして、ちょっと真面目にやるか。

 ツギハギ巨大ゾンビと、黒髪のリーダーらしき女性。更にイケメン軍団が10名。

 相手の戦闘力は不明だが、こちらの方針としては畑の肥やしとする。それだけだ。

 これだけ大量の栄養をいただいた状態で、加護の力もかなり増強されている。悪いがあんたたちは実験台だ。

 今、自分がどれだけやれるか、試させてもらおう。


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