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俺は畑で無双する  作者: 昼熊
目覚め編
3/58

三話

 あんっ、やめて、そんなとこほじらないでえええっ!

 巧みな指捌きが俺の中に入り込んでくる。

 はうううぅ、そ、そこはらめええええっ!

 あ、そんなの入れないでっ、俺の初めてが初めてが奪われていくううぅ。


 現在、お婆さんの手により種が植えられている。

 体に何かが埋め込まれるというのは妙な気持ちになるが、痛覚や性感は無いので取り敢えず、気分だけ盛り上げてみた。こうすることにより、土が柔らかくなるので種も埋めやすいと考えての事だ。

 決して楽しんでいるわけではない。


「何や、今日の畑は機嫌がええようやねぇ。種も楽に入りよるわ」


 お婆さんも喜んでくれているようで何よりだ。

 俺の体を蹂躙し尽くした翌日、今度は種蒔きをしている。

 季節は春の終わりらしく、今から夏に収穫する作物を育てているらしい。


 この畑の大きさなのだが、どうやら結構な広さらしく100メートル×100メートルぐらいはある。土地の単位は一坪とかヘクタールとかいうらしいが、正確な数値がわからないので例えようがない。馬鹿なもので!

 こういう時、パソコンでもあればぐぐって終わりなのだが、そんなことを今更言ってもどうにもならないよな。


「今年は雨が少のうてあかんなぁ。雨がもうちょっと降ればええんやけど」


 雨不足か。でも、まあ、余程のことが無い限り水不足になるということは無いだろう。

 現代日本において、ダムの水が枯渇することは滅多にない。数年前はかなり水が無くて、うどん国の人が、うどんが茹でられない! と嘆いたことはあったが。

 確か、天気予報では今年は雨が結構多い年だと言っていた。俺が転生したのが、死んで直ぐなら水不足はそんなに心配しないでもいける。





 と思っていた時期が俺にも……もう、この下りはいいか。

 転生三日目。今日、新たな事実が判明した。どうやら、ここは俺が死んで直ぐの日本ではないらしい。

 というか、日本どころか地球でもない。俗に言う異世界というくくりになる。

 何故、それに気づいたのか。今思えば怪しいところは結構あった。

 お婆さんの素朴過ぎる服装。古ぼけたじょうろと無骨な造りの鍬。それだけでも、おかしかったのだ。今の時代、ホームセンターに出向けばもっと良質で、造りのいい農耕具は山ほどある。

 服だって量販店で安く質のいい物があるだろう。だというのに、手作り感あふれる服に、決して精巧とは言えない農耕具。怪しさ抜群である。


 それに加え、本日、我が視界に新たな登場人物が現れた。人物と言っていいのか、はなはだ疑問ではあるが、お婆さんに続いての飛び入りのゲストが登場したからだ。

 そう、あの時はほんと驚いたな。





 早朝、俺は何をするでもなくぼーっと空を眺めていると、視界に影が差した。

 お婆さんにしては、ちょっと早すぎないか。まあ、お年寄りだからいつもより早く目が覚めたのかもしれないな。もう少し、体休めた方がいいと思うけど。

 ん、お婆さん、ちゃんと服着た方がいいよ。誰もいないからって、そんな上半身剥き出しにして。一応女性なんだから、深緑色の筋肉質な体を露出プレイは……深緑?


 あれ、白髪が消え失せているぞ。んんっ? 八重歯長いっすね。昨日までは普通だったのに。

 ああ、うん、なんだ。誰だお前。

 てか、何だお前!

 つるっぱげの頭に、ぎょろぎょろと大きな目。瞳孔が猫のように細い。

 お婆さんと同じぐらいな身長だが、腕には結構筋肉が付いている。腹は少しでているが。

 腰に獣の皮を巻いているだけで、他は何も着ていない。下から眺めている俺からは、腰に巻いた皮の下に潜んでいる凶悪な代物が丸見えで、軽く吐き気がする。


 下着ぐらい履けよ……。

 この謎の人型生物はどうみても人間じゃない。百歩譲って体が緑の剥げたちっちゃいオッサンだとしても、危険な存在であるのは確かだ。その証拠に、手には棍棒が握られている。

 やばい。お婆さんの危機だ!

 このまま、家に入られたら……どうにかしないと!

 今、この緑のオッサンは畑の上を歩き回っている。何かを探しているようだが、まさか農作物狙いか。だとしたら、今、何も育っていない。


 諦めて帰ってくれればいいが、もし、食料を求めて民家に侵入したら。その光景を想像してしまい、冷汗、は出ないが心が冷たくなった。

 俺がどうにかしないと! どうにかって、どうすんだ!?

 土壌を柔らかくすることしかできない俺には対抗手段が無い。だが、何とか、何とかしないと!


 緑のオッサンは作物が無いと理解したようだ。小さく息を吐いた姿は、残念がっているようにも見える。よっし、そのまま帰れ、帰れ。

 俺が念を飛ばすが、何の反応もない。それどころか、視線がお婆さんの住む家へ向けられている。


 やばい、やばい!

 どうする、どうしたらいい!

 危険を知らせたいが、術がない!


 感情の変化で土質を変えたところで、この状況が打開されるとは思えない。柔らかくして、歩きにくくするか……でも、少し柔らかくした程度で……どうにか、もっと土質を変化する方法は。どうにか歩くことすら困難にできないか?

 緑のオッサンは今、お婆さんの家と正反対の位置にあるが、狙いを定めたようで、ゆっくりと畑を横断して家へと向かっている!


 感情で土質の変化。柔らかくするのは無駄。理想なのは歩くこともできなくすること。その為の手段。歩きにくい……泥状へ変化させられたら、相手の足を封じられる!


 泥状って感情的には何だ!?

 気持ちが軽くテンションを上げれば、土は柔らかくなった。

 逆に、真面目に考え、真剣に悩むと土は固くなる。

 だとしたら、泥にするには水分……そうか!


 俺は――あることを思い出していた。

 そうあれは、中学生の頃だ。クラスにとても気になる女生徒がいた。

 クラス一の美人というわけではないのだが、明るく誰とでも分け隔てなく接する、気持ちのいい女子だった。当時の俺はそれなりに友達もいて、クラスの人気者とまではいかなかったが、それなりに充実していた方だったと思う。

 そんな俺は、ある日、彼女に思いを告げようと机に手紙を忍ばせ、放課後の体育館裏へと呼び出した。ソワソワと落ち着かない気持ちで、待ち続けていた俺の前に最後まで彼女は現れなかった。


 学校を追い出される20時まで待っていたのだが、誰もその場に来ることは無く、翌日を迎えた。学校の校門を通り、下駄箱付近まで来たところで俺は周囲の空気に違和感があった。

 どうにも、皆が俺を見て笑っているような気がしてならない。

 気にし過ぎだと思ってはいるのだが、ニヤついた笑みと、小さな笑い声が教室に入ってからも続いていた。思い当たる節はあれしかないのだが、あのことは彼女しか知らない筈。

 気のせいだ、気のせいだと自分に言い聞かせていた俺の元に、複数の生徒がやってきた。先頭に立つのは、意中の女生徒。そして、周りにいるのは友達らしき女生徒と、不良グループらしき男子たちだった。


「畑くん、お手紙貰ったのだけど……正直、こういうの、キモいからやめてくれる?」


「こいつ、俺の女でな。昨日は面白かったぜ、ずっとうろちょろしながら待っていた姿が、面白くてよ、思わず動画を撮っちまった」


 そう言って爆笑する生徒たちに囲まれ、俺は驚きや悔しさを通り越し、ただただ、悲しかった――


「ゴジュルグウウウ!」


 はっ、過去のトラウマを抉り出し過ぎていたようだ。緑のオッサンの叫び声で現実世界に呼び戻された。

 そうか、肉体は無く土だというのに胸が締め付けられる感覚はあるんだ……そっか。

 あっ、緑のオッサンが膝下まで畑に埋まっている。

 狙い通りだな。悲しみの感情を抱けば畑の土は泥と化す。

 過去のトラウマを思い出すことにより、嫌な汗と涙が湧き出る代わりに土に水が湧く。


「ゴシュルゥ? ゴウルウウア!」


 いきなり足元が液状化したら、そりゃ驚くよな。

 ダメージは全く与えていないが、緑のオッサンが取り乱している。ダメージ的には俺の心の方が大きいがな!

 足を引き抜くのにも苦労しているようだ。よっし、このまま硬さを調節はできるのか? いや、できるのかじゃないくて、やらなくちゃダメだ。

 緑のオッサンの背後は土が硬くなるイメージ。悲しみを持続しながら、硬く、硬く、真面目に考えるんだ。そう、落ち着いてあの頃を思い出すと……怒りが湧いてくるなああああっ!


 あの女、俺を馬鹿にして、あの後、手紙の写メを取ってLINEやトゥイッターで、拡散しまくっていたらしいな。

 あああもう、思い出しただけでもはらわたが煮えくり返る!


「ゴフルウウゥッ? ゴフウウウウゥ!?」


 あ、ゴブリンが泥から抜け出して、慌てて走り去っていく。何か、地面を飛び跳ねながら逃げているのは何故だ?

 足を地面につける度に、微かにジュウッという異音が。あれか、もしかして土が異様に熱くなっているのか。なるほど、怒ると地面の温度が上がるって寸法なのか。

 まあ、何にせよ。お婆さんを守れてよかったよ。自分へのダメージは軽くなかったけどな……。


「なんや、今日は地面が妙に湿っとんなぁ。夜雨でも降ったんかねぇ」


 ごめんな、お婆さん。今日はテンション上げられそうにないや。


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