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俺は畑で無双する  作者: 昼熊
畑の守護者編

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四話 ハンター、ナユッキの場合

 まさか、こんなところで野盗に会うとは。

 違うか、野盗にしては統率がとれている。粗末な革鎧を着込んで誤魔化そうとしているようだが、あれは正規の訓練を受けたことがある者の動きだった。

 何処かの町の衛兵か、戦場を渡り歩く傭兵団かもしれない。

 だが、なんでこんな山奥に10人以上で乗り込んでいるのだ。それに野盗に扮して私を何故脅した?

 金目の物を置いていけとは言っていたが、殺意は全くなかった。どちらかというと、この先に進ませたくないようだったが。


 となると、あの噂の信憑性が増す。山奥に住む伝説のハンター、ターミオ様がいるというのは本当だったのか。

 神の寵愛を一身に受け100もの加護を所有する者。

 長期間、一定の場所に住み着くことは無く、生涯の殆どを旅人として過ごしたと言われている。十数年前から表舞台から完全に姿を消し、多くの国が血眼になって探している。所在を確認した者は大量の褒美が貰えるとあって、ハンターたちの間では有名な話だ。


 まあ、その必死に探している一員が、私なのだが。

 私のような駆け出しに毛が生えたような新人のハンターが、そんな情報をどうやって手に入れたかというと、全てが偶然の産物だった。

 親戚が数年前、偶然山奥に住む女性に助けられたことがあり、当時の事を酒の席で話していたのを聞いて、ピンときた。


 山奥に住む、美しい女性。人を寄せ付けないオーラを纏っていたが、魔物に襲われ命からがら逃げてきた親戚に治療を施し、一晩だけ宿を許してくれたそうだ。

 どうして、こんな辺ぴな場所で独り暮らしているのか。疑問は尽きなかったようだが、質問を全く受け付けない凛とした態度に何も言えずに次の日を迎え、何とか無事に山を下りられたと。


「ふっ、ふふふ、あははははははっ! とうとう、きたわ! このナユッキの名が世界に広まるだけじゃなく、大金までも手に入れるチャンスが!」


 真面目ぶって考察していたけどもう限界。笑いが止まらないっての!

 何とか野盗もどきから逃げ出して撒けたようだし、あとは伝説のハンターを見つけ出したら、バラ色の人生が待っているわ!

 まあ、問題があるとしたら――現在進行形で迷っていることよね。

 何でこんなに木々が生い茂ってんのよ。ちゃんと雑草の駆除と通路用の道ぐらい整備しろっての!

 ああもう、雑草斬り過ぎて切れ味が落ちてきちゃった……。


 もう少しで日も暮れそうだし、早く見つけないと色々やばいわね。

 ここら辺一帯は頻繁に魔物が現れるそうだし、緑魔一体ぐらいなら勝てるけど、複数で来られると逃げの一手しかないわ。

 やっぱり、賞金を分けるのが惜しくて一人で来たのは間違いだったかしら。


「いいえ、お金は命と同等! 大金を手に入れるのは私だけよ!」


 がめつさだけは天下一品だなと師匠にも褒められたし!


「やってやるわ!」


 決意を込めて叫ぶと、思ったより声が大きかったようで山に響き渡る。

 あ、こんな場所で大声だしたら……。

 周囲から草を掻き分ける音がしてきている、ような感じぃ?

 やばい、進路方向の木の影から緑魔が出てきた。それも、三体。

 こ、これは戦うのは論外ね。手の早さと脚の速さは一級品と言われた私の実力を見せつけてやろうじゃないの!


「あっ、あんなところに紅鬼がっ!」


 緑魔の天敵である紅鬼の名を出せば、注意が逸れるに決まっている。私がびしっと指差した方向に……一匹も見てないわね……。


「紅鬼よっ? ほら、あの角が生えて顔が赤い。ま、まさかっ、言葉が通じてない!」


 私の天才的な推理が的中したようで、言葉の意味を理解していない緑魔が歪な形をした棍棒を手ににじり寄ってくる。


「くっ、共通語ぐらい勉強しなさいよ!」


 取り敢えず、煙玉を投げつけて目くらましはしたけど、あいつらしつこい!

 こんなところ師匠に見られたら「だからお前は馬鹿なんだ」って罵倒されるに決まってる。


「ああもう、最悪よおおおっ!」


 この完璧な作戦が通用しないなんて、今日は厄日ねきっと。

 でも、所詮はただの魔物。後ろと両脇から挟み込むように追っているだけで、前に回り込んで逃げ道を塞ごうとするものがいない。

 足場が悪いから本来の走りができずに、緑魔の方が足取りは軽いのに、ふっ、間抜けね。

 それも、私が走っている場所は比較的地面がしっかりしてきた。邪魔になる障害物も減ってきている。これなら、一気に逃げ切れる!

 三匹の緑魔がついてこられない速度で一気に駆けると、木々の切れ目から日の光が射し込んでいるところへ跳び込んでいった。


「ふふ、更に加速して、して……へっ?」


 な、なんで、緑魔がこんなにいるのよ!

 まるで円形状に森をくり抜いた広場のような空き地に緑魔が――10体待ち受けていた。

 ど、どういうことよ! 

 私は魔物から逃げ延びて、ここに来ただけなのに、まるでここに来るのを知っていたみたいに……まさか、誘い込まれたというの!?


「ゴフゴフウウウゥ」


 こ、こいつら笑いやがったわ!

 く、くそうぅ。低能な緑魔にしてやられるなんて、ナユッキ一生の恥よっ!

 って屈辱に震えている場合じゃないわ。来た道を戻る……のは無理よね。後ろから足音と荒い呼吸が近づいてくるし。

 もう、前に行くしかないわよね。このままここにいたら、森から出てくる三匹に捕まるだけだし。ああもう、空き地の真ん中に美少女が一人に取り囲む緑魔って、どっからどうみても、英雄譚に現れる悲劇のヒロインじゃないの!

 わかっているわよ、こういう場面で颯爽と白馬に乗った王子様が現れて、助け出してくれるのよね。


「ゴフルウウゥ」


 は、早く来て、私の王子様。もしくは美形の英雄でもいいわよ!

 あっ、汚い涎を垂れ流しながら迫ってくる……。

 ご、ごめんなさい、贅沢は言わないからっ――


「だ、誰でもいいからだずげでえええっ!」


 このまま、私は儚く散ってしまうのね……ああ、一度だけでいいから、高級レストランでお釣りはいらないからって台詞を言ってみたかった……。


「ゴビュルウウウウゥゥゥゥゥゥゥ」


 あれ、今、鈍い音がしなかった?

 それに、緑魔の声が遠ざかっていくような。

 そ、それに、緑魔が手を出してこないわ。思わず恐怖の余り手で顔を覆ってしまったけど、な、何かあったのかしら。

 そっと手を外すと、目の前には信じられない光景が広がっていた。

 緑魔の腹から血に濡れた鋭い棘のような物が飛び出していて、宙に浮いた状態で足をばたつかせている。


「えっ、えっ」


 何で、巨大な白いウナススが背中から緑魔に角を突き刺しているの?

 ど、どうして、そのウナススの上に黒光りする羽を持つキリセが乗っているの?

 白馬に乗った王子様じゃなくて、白ウナススに乗ったキリセ様?

 緑魔を次々と切り刻んでいるのって、エシグ?

 何で動物が魔物を楽々と葬っているの?


 あ、キリセが背中から飛び立って、空から矢のように降ってきて……へっ? 緑魔の胴体を貫いたあああっ!


 おおおっ、ウナススが次々と緑魔を跳ね飛ばしているううぅ。


 あっちでは、二匹のエシグが見事なコンビネーションを見せているわ。

 一匹が注意を引きつけている間に、もう一匹が足下を刈って、体勢を崩させてから頭を切り落としている。ど、どうなっているの。動物にあんな知能があるなんて聞いたこともない。


 え、なに、なんなの。私の中で常識の壁が次々と崩れていくのだけど……。

 棒立ちのまま、目の前で繰り広げられている獣たちの暴れっぷりを、ぼーっと眺めていると、いつの間にか戦闘が終わっていた。

 動物チームの圧勝。

 信じられないけど、これが現実。なんなの、この獣たちは。

 どの個体も二回り以上、大きいように見える。それに、毛の艶が良すぎる。太陽の光を浴び、美しい光沢を見せつけている。


 肩までしかない自分の茶色い髪を摘み、目の前に持ってきた。

 あ、毛先が割れてる。艶どころかかさかさね。うん。負けているわ、完敗よ。

 って、そんなことはどうでもいいのだった。私は助かったのかしら。それとも、餌にされる対象が変わっただけで……。


 怯えながら視線を向けると、四匹の獣はじっとこっち見ている。品定めされているような気がするのは気のせいよね、うん。で、でも、私って美味しそうに思われそうよね。

 くっ、スタイルの良さがこんなところで裏目に出るとはっ、罪な女ねっ!


「た、助けてくださって、ありがとうございます?」


 言葉が通じるとは思えないが、取り敢えずお礼を口にしてみた。

 あれ、気のせいかしら。今、キリセが会釈を返したように見えたのだけど。まさか……ね。

 獣たちが私に背を向けて立ち去っていく。

 た、助かったのかしら。よ、良かったあぁぁ。薄幸の美少女展開かと思ったけど、やはり神は私が死ぬのは惜しいと思ったのねっ。


 ぐぎゅるるるるるるるるる。


 うっ、緊張が解けて安心したら、油断してお腹が鳴ったわ。そういや、野盗もどきから逃げ続けて、更に迷った挙句、この状態だもの。

 お腹がすくのも当たり前か。食料を入れていた背負い袋は逃げる最中に邪魔だから、捨ててきたのよね。

 一難去ってまた一難か。助かったのはいいけど、今度は飢えとの勝負なんて。


「クカアアアー」


 へっ、え、あれ、キリセが立ち去らずにこっちを見ている。

 大きく羽を広げて、片方の翼で羽ばたいて、え、もしかして手招きしているの?


「こいって言っているの?」


 今、頷いたわよね。見間違いなんかじゃなく確かに頷いた。

 人の言葉を理解しているっていうの。

 あ、もしかして、


「伝説のハンター、ターミオ様の僕なのでしょうかっ!」


 数多に存在する加護の一つに、動物使役というものがあるって聞いたことがある。

 100も加護を持っているのだから、それを所有している可能性は高い。

 やったの? とうとう、私はやっちゃったのおおおっ?

 心の叫びが表情に出ないように必死に堪え、キリセを見つめる。

 あれ、首を横に振っているわ。

 ど、どういうこと。伝説のハンターとは別の人に使役されているのかしら。


「ええと、別の方に使役されているのでしょうか?」


 今度は縦に首を振ってくれた。

 まさか、ここまで来て無駄骨なんて。大金を手に入れるチャンスが泡と消えていくううぅ。


「クワァ、クワァ」


 え、何で服の袖を引っ張るのっ。ちょっと離して、離してよっ!

 何て力強さ。私じゃ振りほどけ……ってえええ! 体が浮かんだっ!?

 いつの間に股の間にウナススがっ! え、強引に乗せられたけど、まさか。


「ちょっと、冗談ですよねえええええええええええええええええええぇぇ」


 景色が後方へ跳んでいくんですけどっ!

 何て速度なのっ! 馬車何て目じゃないわ、これだと振り落とされてしまう!

 え、誰かが後ろから優しく抱きしめてくれている。この優しいタッチの肌触り、まるで翼のような腕が腹に回されて、落ちないようにしてくれているというの。

 あ、これ羽だわ。

 背後にいるのって、さっきのキリセなの!?

 あれ、並走しているのって、さっきのエシグよね。

 そう、そうなのね。もう何をしても無駄なんだ。

 どうしようもないことを悟った私は、ウナススの背に乗った状態で成り行きに身を任すことにした。


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