“I, said the Sparrow.” -3-
なんでこんなことを急に書きたくなったのか分からない。今までミセス・ロビンの最期を語ろうと全く思わなかった。いくらミセス・ロビンの従弟だからって、そんな話をすぐにしようとは思うわけがない。しかし今、カナリアは何かを吐き出すように文字を書いてしまった。もしかしたら、筆談とはいえ久々に人と会話をしたから、書いてしまったのかもしれない。それともカワウにどこかカワセミの優しさを感じて、甘えてしまったのかもしれない。
「おまえが、ミセス・ロビンを殺した…?」
カワウは文字を声に出した。それを聞いて、ウソはただ黙っていた。
「どういうことだ、カナリア?」
静かに、だが確かに怒気が含まれたような声でカワウはそう尋ねた。
失敗したと直感的にカナリアは感じ取った。カナリアとカワウは初対面だ。しかし彼は、ミセス・ロビンと親しい間柄だった人物だ。親しい人物を殺したという人に怒りを持たぬ者などいないのではないか。
カナリアは怯えた。せっかく友人を作るチャンスだったのに、それを無駄にしたどころか、敵を増やしてしまったのだ。また独りに近づいていくのではないか。
黙っていると、カワウは目を伏せた。ため息を一つ吐く。
「どういうことかはわかんねえよ。でも、話してくれなければ俺はおまえを憎むだろう。だからしっかり話してみろ」
「カワウの言う通りです。ミセス・ロビンは焼死でした、そして致命傷と見られる傷はありませんでした。あなたが放火したとでも言わない限り、彼女は死に得ない。それともあなたは放火してしまったのですか?」
カナリアは首を振った。
そんなわけない、そんなことボクがするはずない!
「じゃあ、ちゃんと、ここに書いて下さい。カワウ、読んでいただけますか?」
カワウはカナリアの目の前にある羊皮紙を、穴が開くように見つめた。
それからはあっという間に全てを洗いざらい羊皮紙に書いてしまった。まるで雪崩が起きて全て崩壊してしまったかのように。所々にはカナリアの感情が含まれており、非常に読みづらい部分もあったが、それを丁寧にカワウは読解しウソに伝えた。
書き終えたあと、カワウは一言「おまえ、悪くねえじゃねえか」とだけ言った。
何かがカナリアの胸にこみ上げた。
自分は許されたのか。生きていて良かったのか。
声が出ていれば自然に嗚咽を上げてしまっていただろう。今は声が出なくなったことにひたすら感謝した。
「でも結局、放火犯を見つける手掛かりにはならないな」
しばらくしてから、カワウは首をひねってそう言った。
「ちょっとでも犯人捜しの手がかりが出ないかなって思ってたんだ、俺」
また無茶をなさる、とウソは呆れかえっていた。どうやらカワウは怖いもの知らずのやんちゃ坊主といった性格のようだ。
「カワウ、本当に依頼する気なんですか?」
「ウソ、あんたが依頼するなら手がかりを持って来いっていったんだろ」
何の話だろう。カナリアはきょとんとして聞いていた。
最近この町では探偵業というものが流行りになっている。カワウはそれに依頼するつもりなのだろうか。基本的に探偵に依頼する際には仲介役が必要となるのが定義だが、今回その仲介役がウソなのだろう。
“犯人、捜すの?”
「そうだ。犯人をとっ捕まえたいんだ。…さっき、おまえ、自分が犯人って言った時には正直驚いたぞ」
でもそうじゃなくてよかった、とカワウは言った。カナリアは続けてペンを走らせた。
“で、依頼するには手がかりが必要なの?”
「って、ウソが言うんだよな」
そうカワウは言ってウソを睨んだ。
「ルールということです。実際、有ること無いこと…酷い時には幽霊騒ぎだとかなんだって言ってくる依頼者が多くて。捜査しても無駄足が多々…」
あれ、とカナリアはひらめいた。
実際にあった事件で、そして有ること、つまりほぼ嘘偽りない真実を語れる者ならば依頼できるんじゃあないか。事件の当事者なら、もしかして。
“じゃあ、それボクが依頼してもいい?”
その一言で、事はいとも簡単に進んでしまった。