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“I, said the Sparrow.” -1-



 ミセス・ロビンは死んでいた。


 その有様は目も当てられないほどに酷いものだったという。背中が焼けただれ炭化していたのはまだ良い方だった。足は柱に潰されていた。骨が原型を留めていなかったという。その瞬間の彼女の痛みは如何ほどか。彼女の遺体を確認した親族や親しい者は皆涙した。

 幸いにも顔面の左半分は煤けている以外は綺麗なままだった。そのため、葬列者は半分だけだが、彼女の顔を見ることが出来た。寝ているかのように健やかな顔をしていたという。


 まだ彼女が死んだとは信じられない。ウソはどこか遠くを見つめるようにそう言った。

「彼女は私を、トウテンコウの家庭教師として雇うことを提案してくれた人です。彼女がそれをしていなかったら、私は今頃、野垂れ死んでいたと思います」

 漢方はこちらの国では人気がないようで売れませんでした。しかし、ある日彼女が私の薬を使いました。彼女はこの薬はすごいと言って、弟の家庭教師という面目で自分の家で雇えないかと、彼女の父親に相談してくれました。

 少したどたどしい様子で、ウソはそう言った。


 ウソの知識は薬だけではないらしい。遠い東の国から来たという彼は、薬学、医学、数学、生物学、化学といった学問を心得ていた。だけど文学だけはどうも苦手で、と彼は申し訳なさそうに頭を掻いた。

「そのせいで筆談ができません、だから一方的に話をするしかないです」

 別にいいよ、とカナリアは首を振った。



 カナリアが目を覚ましてから、もうすでに幾日かが過ぎていた。カナリアはミセス・ロビンの実家であるコック家に正式に引き取られ、厄介になっている。その家の家庭教師でありホームドクターであるウソは、一時的にカナリアの専属医となり、治療を行っていた。未だ足の火傷が酷く、カナリアは立ち上がることができない。ウソはそんなカナリアを見て、暇潰しにと毎日自分の話を語った。


 少しずつだが身振り手振りで意思を伝えることもできるようになった。頷く、首を振るという動作は最初からできていたが、例えば、もっと内容を知りたいという時には、相手を指さしてから自分の頭を指さすことでその意思を伝えていた。

 その合図をするとウソは「カナリアは好奇心が旺盛で、なんでも覚えてくれます。だから話し甲斐があります」といってカナリアを子供扱いせずに、難しいことでも何でも話してくれていた。


 ウソの話は楽しい。彼はとても博識でカナリアが知らない物事をたくさん知っていた。それを覚えることがミセス・ロビンや仲間を失った、カナリアの心の支えとなっていた。


 ミセス・ロビンが死んだと聞いた時、酷くショックを受けた。あの時もっと早く出口へ向かえば、もしくは彼女の代わりに自分がカワセミや仲間たちを呼びに行っていれば。そう何度も悔やんだ。今でもそのことで心が押しつぶされそうになる。


 忘れたい。ボクには重すぎる。


 だからカナリアは必死に新しい知識を詰め込んで、過去を忘れようとしている。そんな風に自分自身感じていた。




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