“Who killed Cock Robin?” -2-
「にしても、出かけすぎじゃねぇか?」
一番年上のカワセミがそう言った。薪を割っていた最中だった。額には汗が浮かんでいるが、16歳の彼は妙に涼しい顔をしていた。
「あの人はこういう人なの」
ミセス・ロビンは半分呆れたように笑っていた。フットが作った立派な木のベンチに彼女は座る。
「いつものことだからもう慣れたわ」
「ミセスがそう言うならいいけどさ、俺たちもフットがいなければ野垂れ死んでたし」
「カワセミ、そういう事は冗談でも口にしないと何度言ったら」
カワセミは面倒臭そうに返事をして、その様子を木の陰からこっそり覗いていたカナリアを見つけ、そちらへ走った。カナリアは瞬時に嫌な予感がしてカワセミが来る方向とは逆に向かって走り出す。しかし数秒もしないうちに捕まってしまう。
「おらおら、何やってんだカナリア?」
カワセミはやけにカナリアを可愛がっていた。頭をグリグリと撫でられる。カナリアはそれが嫌で嫌で仕方なかった。
「子供扱い、すんな!」
「そういうなって」
ニヤニヤしながらカワセミはカナリアを解放した。
こういうことなら女の子にやってあげればいいのに。カナリアはムッスリとした顔のまま、髪の毛を直した。
癪だがカワセミは格好がいい。フットが男前の格好よさだとすれば、彼は中性的な美しさを持つ格好よさといえばよいのだろうか。透き通る空のような色の目。鼻筋の通った凛とした顔立ち。ほんの何年か前までスラム街に住んでいた孤児だとは信じがたい。
だが性格は悪餓鬼そのものだった。素早い身のこなしと、それ以上に速い頭の回転が彼のその性格をさらに凶悪にしていた。おまけに華奢な見た目に反して力持ちでもあった。今日はジェリービーンズを持ってきたぞ、と得意げにどこかから菓子を盗んできては孤児たちに配っていた過去もある。
「なあ、カナリア。おまえフットと一番仲良いだろ?」
「フットは平等に扱ってくれるから、別に一番ってわけじゃないと思うけど」
「そうだったな、おまえが好奇心たっぷりでいろんなとこに付いていくだけだったな」
どこか子供扱いされている気がしてカナリアは口を尖らせたが、カワセミは少し口角を上げただけだった。
そうれはそうとさ。カワセミは少し声を潜めた。
「フットがどこ行ってるか、おまえ何か知らないか?」
急に何のことだろう、とカナリアは思った。
「いやさ、俺見ちまったんだよ。フットが、その…」
そこまで言って、カワセミは口を閉ざした。
カナリアはなぜか急かしてはいけない気がして、身動きもせずにただ黙っていた。息をすることも危ないことのように思える。
妙な沈黙が2人に降りかかった。ただ木々が風に揺らされていた。
カワセミは目線を下に落とす。カナリアはその目線を追って下を向いた。そこには何もない。ただ雑草が数本生えているだけだった。
「やっぱ、いいや」
「…え」
「うん、おまえはまだ小さいからな、秘密を守れないかもしれないだろ?」
いつもなら言い返したはずだった。自分はもう子供じゃないぞ、そう強がるつもりだった。しかしどこかカワセミの様子が変で、出かかった言葉を飲み込んでしまい、言い返そうと思った時にはもうカワセミはいなかった。