“Who killed Cock Robin?” -1-
痛い。全身が痛い。目を開けるのも、呼吸することさえも億劫だった。耳元では心電図の規則的な音がする。
ああ、生きてたんだ。
カナリアは安堵とも落胆ともいえない気持ちになった。
ミセス・ロビンはどうなったんだろう。あの炎の中、あんな火傷をした彼女は、果たして自分と同じように生きていてくれるのだろうか。
ミセス・ロビンは、明るく優しい女性だった。クリクリとした好奇心旺盛な目に、明るい赤茶けた髪色をしていて、みんなから愛されていた。しかしミセスというからには当然夫がいる。彼はミスター・ロビンと呼ばれていて、またの名をフットといった。彼がミセス・ロビンと結婚したときは、町中の男が悲しみに暮れたという噂が今でも残っている。本当かどうかは知らないが。
そんなフットは、実をいうとかなり階級が低く、貴族階級のミセス・ロビンとは全く立場が違かった。どうやって彼がミセス・ロビンを射止めたのか、それはカナリアにも分からない。ただ彼はとても気の良い人物で、背が高く見目も上々であったから女性には人気があったらしい。
そんなロビン夫妻には子供ができなかった。原因はミセスが子供のできない病気に罹ってしまったからだった。
それを知った時にミセスは自殺未遂を犯したらしい。フットはそんな彼女を励ますために、自分たちで孤児院を作らないかとミセスに提案した。
「君は子供が好きだろう?」
そう言った時のフットの目は、いたずらっ子の目だったと後にミセス・ロビンは語っている。
そうこうして、ロビン夫妻は孤児院を経営することになる。幸い、彼らの家は大きくて(これは結婚祝いにミセス・ロビンの実父であるコック卿が、持て余した町外れの土地に建てた豪邸だった)、2人で暮らすには広すぎた。
そうして彼らに引き取られた孤児は8人。その中の1人がカナリアである。最初はぎこちない様子だった子供たちも、二月が過ぎるころには立派な家族だった。カナリアはとても幸せだった。
しかし、ミセス・ロビンは時々、夜中に1人でどこかへ行くことがあった。カナリアは彼女を追いかけたことがある。彼女は忘れられた屋根裏部屋の小さな椅子に腰を掛けて顔を伏せた。
愛する人の子供が産めない、なんで私はこんな体なの。なんで私は。
そう涙を流すミセスの姿と、彼女を追って彼女の傍に立ち、背中をさすりながらただ「大丈夫だ」と繰り返すフットの姿を、カナリアは何度となく見てきた。そんなときカナリアは、ただ何も言わずにミセスの傍に駆け寄り、そっと冷たいその手を握っていた。そのたびにフットが大きな手で頭を黙って撫でてくれたことを未だ鮮明に覚えている。
フット…、ミスター・ロビン、あなたはどこへ行ったの。
あの忌まわしい炎が孤児院を襲った日、彼は家にはいなかった。ミセス・ロビンと年長の子供たちが彼の代わりに薪を割っていた。ミセス曰く、用事ができたという手紙を残して、もう明け方にはいなくなっていたという。帰る予定の日付は書いていなかった。