“I killed Cock Robin.” -4-
たどり着いたのは、孤児院があった場所の裏手の森の中のそのまた奥。誰にも開拓されていないようなその地に何があるのだろう。カナリアの感情は不安と恐怖と、好奇心が入り乱れていた。
「見てみろ」
カワセミが唐突に指さした。
そこには柵があった。そしてカンテラがあった。明かりがあり、その奥には何軒かの家が建っている。ログハウスのような簡易的なつくりだが、少々のことでは壊れない頑丈さを持っているように見えた。
「俺たちの住まいだ」
カワセミがそう言った。
カナリアには何が何だかさっぱりわからない。が、今は彼を信じてついていくことにした。
ある2階建ての家に入ると、そこは暖かかった。手作りのテーブルに、チェアが並ぶ。この作りはどこかで見覚えがある。そうカナリアが感じた時だった。
「カナリア」
そう声が聞こえた。どうやら2階から人が下りてくるようだった。懐かしい声だ。
「カナリア、悪かった」
見上げると、そこにはフットがいた。
フットは死んでいなかったんだ!生きてたんだ!…もしかしたら、他のみんなも生きているのか?
「生き残ったのは、俺とカワセミとカナリア、お前だけだ」
まるでカナリアの心を読んだかのようにフットはそう言った。
「カワセミも、カナリアも、生き残れたのは偶然だった。カワセミはまあ、最初からイビキをテープレコードに仕込んで俺をつける計画だったらしいから、生き残れて当然だったわけかもしれないが…」
フットのその言葉に、カナリアは驚いてカワセミを見た。
「ああ…あの日、フットが夜中に変な動きしてんの見ちまってさ。だからつけてやろうって…」
ほら、あの日言いかけただろ、とカワセミは追い打ちをかけた。秘密とはこのことだったのかと、カナリアは納得した。
「しかし、カナリアは本当に幸いだった。生き残っていてくれて本当に…本当に…ありがとう」
フットはカナリアへ近づき、彼を抱き上げた。フットの顔は喜びと悲しみが混ざっているように見えた。
彼はそっとカナリアを下ろすと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「君は知っているだろう、俺がよく手作りで椅子やテーブルを作るということを。あれには塗料を使っているんだが、なんの塗料かわかるか、カナリア?」
カナリアは首を振った。確かに塗料のおかげでそれらは水を弾き、汚れを防いでいた。
「闇市の塗料だ。あの中には亜麻仁油を使用した塗料があった。俺はそれを知らずに、塗料の管理を甘く考えていた。あの日、火事が起きた日、普段なら鍵をかけておくはずの物置小屋に、鍵をしなかった。そして、その塗料が含まれていた布も放置されていた。積み重なった状態でな。その塗料はな、運悪く発熱し、自然発火してしまったんだ」
フットは一度、言葉を切った。その代りにカワセミが口を開く。
「違うって、布を積み重ねたのはアイツらで…」
「俺は子供たちを犯人扱いしたくない!」
フットが大声でそう叫ぶ。
そしてカナリアに向き直ると、彼はしっかりとカナリアの目を見据えた。
「俺が、子供たち6人と、そして私の妻を殺した」
そんな、と声を荒げたが、カナリアの口からは空気しか出なかった。
「そして、お前の声を奪ったのも俺だ」
信じない、とそういう意味で、カワセミを見た。するとカワセミは少し目を伏せがちにして言う。
「フットが布を重ねて置いたっていうのは嘘だと俺は思う。けど、大体は事実さ。犯人なんて最初からいなかったってわけだ。で、火事の間はフット義賊として盗みを働いていた。俺はそれを横で見ていた。そういうわけさ」
――義賊?
首をかしげると、カワセミは続けた。
「そう、裕福な家から金を盗んで、貧しい家庭に配る犯罪者さ。フットはずっと、その仕事をやっていたんだと」
「俺の家は元々貧しくてな。盗み癖が治らないんだよ。どうやら俺のせいでカワセミも盗みの道に入りたがっているようだが」
「俺も今じゃあ盗み癖がついちまってんだよ、フット。立派な名前だって手に入れたんだ。リトル・ジョンってな」
あれは違うだろう、とフットが少し呆れた様子を見せた。
とにかく、とフットは立ち上がる。
「カナリア、お前は幸運にも生きていてくれた。俺が言えた義理じゃないが、頼む、妻の分もまっとうな道で生きてくれ。そしていつかまた、忘れた頃に出会おう」
フットはカナリアの頭に手を乗せると、柔らかく撫で、そのままその家を出た。
「俺も、フットと行くからさ。カナリアは立派な家で育ってくれよな」
カワセミがそう言った。
どういうことだよ、ボクもついていくよ。そう言おうとするのに声が出なくてもどかしい。
そのとき、フッとカワセミが笑った。
「だーめーだ。いいな、お前は良い子ちゃんになるんだ。お転婆になるな」
その言葉をカワセミが言い終わるか言い終わらないうちに、彼はカナリアの口元に布を当てた。
「義賊スパロウを今後よろしくな」
暗くなる意識の中で聞いた声は、それだった。




